ウマ娘短編   作:薩摩白熊

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また何か続いたたわけ娘その③


たわけ娘のゲート難(※オリキャラ注意)

──唐突だが、私はゲートが嫌いである。

 

いや、そもそもウマ娘という種族自体がゲートに限らず、基本的に狭い場所を苦手としている。と言った方が正しいか。

 

実際、既にデビューし豊富なレース経験を持つ先輩方の中にも、ゲート入りをごねる者が一定数存在する。

 

『女帝』こと私の母も、苦手というほどではなかったが、好き好んで入るようなものでもないと語っていたくらいだ。

 

ゲートに対し苦手意識を持つのは、程度の差こそあれウマ娘であれば特に珍しいことではない。

 

そしてゲートが苦手なウマ娘というのはえてしてスタートも遅れがちであり、これはレースでは致命的な弱点に為りうる。

 

中にはゲートが嫌い過ぎて逆に抜群のスタートを切れる者もいるが、それはかなり特殊なケースだ。

 

裏を返せば、ゲートが得意になればそれだけ周りと差を着けられるということである。

 

理屈は分かる。それは間違いなく正しい。

 

が、頭で理解しているのと、実行できるかは全くの別問題だ。

 

「まさかこんなに集中力が無いとは…」

 

「面目次第もござらぬ」

 

記念すべき私とトレーナー(仮)とのトレーニング一発目。

 

入念なストレッチとアップを済ませたところで、取り敢えず実戦形式で一回走りを見せてくれと言われた。

 

トレーナー(仮)に誘導されるがまま、グラウンドのコースに設置された一人用の練習用ゲートに入れられる。

 

そのままじっとスタートの合図を待ちながら、何となくグラウンドの端に視線を向けた。

 

お、クラスメートのお嬢が何か不機嫌そうにしてる。まだ担当が決まってないから、あれはかなり焦れて──あっ、やべ。

 

「……もう一度やり直そう。今度は余所見しないでね?」

 

ゲートが開いても棒立ちのままの私を見て、トレーナー(仮)がため息を一つ。今のは私が悪い。

 

再度、ゲートの中で大人しく合図を待つ。…何か体がムズムズする。やっぱりゲート嫌いだわ。

 

お、てんとう虫パイセンいるじゃん。後で花壇に連れて行って──あ"。

 

「…………ひとまずゲートは後回しにしようか?」

 

そんな感じで、ゲートの中の私はどうにも周りに気を取られてスタートに集中することができなかった。

 

選抜レースの出遅れはたまたまだと思っていたが、どうやらあれは当然の結果だったらしい。

 

思えば、入学前の野良レースやクラスメートとの模擬レースではゲートを使っていなかったし、私にとって選抜レースがゲート初体験だったわけだ。

 

教官の組んだメニューには当然ゲートの練習もあったが、無意識のうちに避けていたのでこんな初歩的かつ致命的な弱点に気付けなかったのである。

 

「──ふっ、思っていたよりやるなトレーナー(仮)。この私自身も全く知らなかった弱点を、こんなに早く白日の下に晒すとは」

 

「あ、自覚なかったんだ…」

 

自覚あったら両親か、或いは姉兄の誰かの手を借りて修正しとるわ。

 

取り敢えず今日のところは実戦形式はお預けとなり、ラップタイムや筋力の測定を行うことにした。

 

ゲート練習は明日以降、トレーナー(仮)が何かしら策を考えるらしい。まあそこら辺は任せようと思う。ぶっちゃけゲートのこととか考えるのも不快だし。

 

狭いし、窮屈だし、何となく不安になるし、錆落とすために飽きるほど磨いたし、私の中でゲートに対する印象は最低である。撤廃されろ。

 

「お疲れ様。やっぱり凄いな、とてもデビュー前とは思えない」

 

一通り私のデータを取り終わると、トレーナー(仮)は興味深げに私の体に目を向けた。

 

やだ…そんな全身を舐めるような視線で見つめてくるなんて…まあ偉大な両親からもらった私の体に恥ずべき所など一切無いので、存分にその眼と脳に焼き付けるといい。

 

「やはり罪な女だな、私は。ふっ…我がことながら、自分の美しさが怖い。具体的には饅頭くらい」

 

「? お腹空いたのか?」

 

少し。むう、口の中が餡子を求めている。ちなみに私はこし餡も粒餡もどちらも好きなので、差し入れの際に悩む必要は無いゾ☆

 

餡子に思いを馳せながら、軽食用に買っていたクリームパンを囓る。…いや、練習前まではカスタードな気分だったの。うん、美味いよ?でも餡子…かーちゃんのおはぎとか食いたい。

 

無い物は仕方ないので、大人しくクリームパンをモソモソ食べる。後から鯛焼きでも買おうかな。前から気になってた中身がベーコンチーズのヤツにしよう。餡子?甘いパン食べたら塩気が欲しくなってきたからいいや。

 

「今日のところは終わりにしよう。明日からが本番だから、今夜はしっかり休んで疲れを残さないようにね?」

 

「ラジャー!まあこのくらいならヨユーよ。そんじゃ、私は野暮用あるから。

お前も寄り道せず真っ直ぐ帰れよ?キレイなねーちゃんに『お時間ありますか〜?』って声かけられてもついて行っちゃダメだぞ?それは逆ナンじゃなくて、壺とか絵とか買わせるための鴨を探してるだけだから」

 

「君は俺を何だと思っているんだ…」

 

ゲンナリした様子のトレーナー(仮)を尻目に、私は一旦汗を流すためにシャワー室に行くことにした。屋台はその後にしよう。夕飯前だが舌が鯛焼きを求めているから仕方ない。

 

手早くシャワーを浴びてさっぱりし、冷たい水を飲んで一息つく。

 

ふぅ…何か外出するの面倒になってきたな。さっきのパン一個じゃ物足りないが、夕飯まで我慢できない程でもない。そんな、めっちゃ微妙な空腹感。

 

どうしよっかなー、なんて優柔不断さを発揮しつつ校内をブラついていると、我が家の『たわけ』もとい父とトレーナー(仮)が話をしている場面に遭遇した。

 

──忍び、忍べば、忍ぶ時。影にあっては影に隠れ、闇にあっては闇に潜む。忍の理、此処にあり。

 

ささっ、と物陰に隠れ聞き耳を立てる。これぞニンジャマスター(自称)な芦毛のパイセンに通信教育で習った忍法・隠れ身の術。

 

かつて、兄弟姉妹でかくれんぼした時に最後まで見つからなかった程の、私の修得した2000以上存在する技の一つである。

 

なお隠れた場所で爆睡してた私は本当に全く見つからず、最終的には警察のお世話になった。

 

ようやく見つかった時は辺りがすっかり暗くなっており、本気で心配していた両親に泣きながら抱き締められ、2人からの愛情の深さを感じたものである。

 

その後?『女帝』からの説教で朝まで寝かせてもらえなかったよ…

 

まあそれはいい。対して面白い話じゃないし。それより父とトレーナー(仮)の会話である。ハイ、お耳に集中ー。

 

「まあ、あの娘の相手は大変だと思うけど頑張って。君ならきっと、上手くやれるはずだ」

 

「えっ。いや、彼女は貴方と──」

 

「ハハハ、それじゃよろしく」

 

うーむ、丁度話が終わるところだったようだ。タイミングが悪い。2人が立ち去ったのを確認し、隠れていた物陰から出ることにする。

 

何の話してたんだろ…これじゃ気になって朝も起きられない。あ、違った。昼も寝られない、だな。

 

しかし、トレーナー(仮)もわざわざ私の父に話しを聞きに行くとはご苦労なことである。少しでも私の為になろうという気概を感じる。

 

ハハハ、苦しゅうない。しかし、この関係はあくまでも仮のものだ。私は父のチームに入りたいし、トレーナー(仮)はそれを承知で協力すると言った。

 

だが、私のような才能溢れる有望株かつ超絶美少女なウマ娘と一緒にいて、惚れるなという方が無理な話か。

 

やはり私は罪な女だな…まあ心に秘めた想いをわざわざ否定する程、私は野暮ではない。

 

協力関係が終わるその日まで、仲良く楽しくやっていくとしよう。

 

それはそうとやっぱり餡子が食べたくなってきた。鯛焼き買いに行こ。餡子とベーコンチーズのやつ食べたい。

 

顔見知りの芦毛のパイセンがやってる屋台までダッシュで向かい、お目当ての鯛焼きを購入してパクつきながら帰路に着く。

 

うーん、美味い。また腕を上げたな、あの先輩。おまけもくれたし、話も相変わらず面白い。芦毛だけに、尾も白い…よし、ラインで会長さんに送信、っと。反応早っ。うわっ、めっちゃ駄洒落連投してきた…怖…気付かなかったことにしよ。

 

そんな感じで時間は過ぎる。時間経つの超早い。光陰矢の如しとはよく言ったものだ。私も年を取ったということか。

 

ゲート練習に全体的な体力強化、作戦会議その他諸々。目標に向けた地道な特訓と調整と修整を繰り返し、選抜レースの日に備えて日々是精進。

 

相変わらずゲートは大嫌いでスタートもイマイチ様にならないが、初日に比べたらかなりマシにはなってきている。

 

目隠しを渡された時は、やはり特殊な性癖の不審者だったかと納得しかけたが、実際に視界を塞いでゲート入りすると以前ほど不快感は感じなくなっていた。

 

結構やるなコイツ。中央のトレーナー資格を取ってるくらいだから優秀なんだろうなとは思っていたが、今のところ特に不満が無い程度には有能っぽい。

 

この調子なら、次の選抜レースは期待できそうだ。約束された薔薇色の未来が楽しみで仕方ないな!

 

──この時点で私は父以外と契約する気などさらさら無かったわけだが、後から思い返せばかなりコイツのことを気に入っていたようだ。

 

言動の端々から、真剣にこちらのことを考えているのが見て取れたし、嘘を吐けない誠実な人柄には好感が持てた。

 

具体的には私が父のチームに入ったら、コイツにクラスメートの誰かを紹介するのも吝かではない。と思うくらいには、トレーナー(仮)に心を許していたわけで。

 

そして迎えた選抜レース当日。勝つのは当然。2着以下に対して、どれだけ格の違いを見せるかというレース。

 

それに私は見事に勝利し──当たり前のように、父から声をかけられることはなかった。

 

えっ、何で…?

 

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