「……マジか?」
背中合わせになった格闘ゲームの筐体。
対戦相手が座るべき場所に……河童が座っていた
そう、俺は、京都競馬場で行われる、今年の春天に顔を出す……その前に。
京都市内のゲームセンターで行われている闘〇の予選に出場するため、取材も兼ねて早い段階から京都入りを果たしたのだ。
だが……
『さあ、東京の中野から、修羅狩りの『シャケ』がトキで参戦!!
対するは、地元の古豪『皿回し』レイ!』
「…………」
ノリノリの実況アナウンス。ジャカジャカと鳴り響く数多の筐体から流れ満ちるゲームセンターの環境音。……台車は流石に通らないけれど……そう、俺が足を踏み入れたのは『ゲームセンター』なハズなんだよ。
なのに……店内の9割くらいをしめる人間の客に交ざって、なんで一つ目小僧だの河童だの、明らかに異界の住人がチラチラ交ざってるんですかねぇ?
い、いや……筐体に向かってコインを投入し、コンパネに指を置いた以上、相手が『誰』だろうが『何』であろうが関係ない!
『それ』は『対戦相手』だ!
そう覚悟をキメて、ジョインジョイン、とカーソルを動かし……行きつけのゲーセンで鍛え上げた指捌きで、対戦相手をKOするのに、そう時間はかからず。
『トウケイから天翔決まって、コレはバスケルート入ったぁ! 無情にも弾み続けるが、決して緩めない! 間違えない! ゲージはどんどん溜まって行くが無情にも死んだー! さあ、ゲージマックス、星も取って第二ラウンドが始まって、圧倒的トキ有利の攻防で、はい、一撃入って座禅に繋いで死んだー!! 勝ったのは『シャケ』!』
で。
そんな風にポンポンと、人妖問わず、対戦相手を叩きのめし続けた俺は、決勝戦を制し……
「格闘ゲームのイベントのために、二週間旅行ですか……」
「いや、京都市内の取材コミだよ? それに勝ったし、ほら?」
そう言って、春天の数日前。
ホテルに合流した新野女史に、予選突破の証明たる赤切符を見せる。
「で、そのゲームセンターで?
河童や一つ目小僧なんかの妖怪と、世紀末な格闘ゲームした……って、誰が信じるんですか、そんな与太話?」
「いや、こんなの誰にも話せないからさ……っつか、一応、地図には店の名前が、載ってるんだけど、翌日から何回か訪ねても、店、締めっぱなしなのよ?
『あの店とその出来事は本当にあったのか』って考えちゃうんだけど、この赤切符だけは本物でさ……流石は京都だぜ、怪異の類が日常に溶け込んでシームレスな生活しているだけはあるわ」
そう、全ての対戦相手を降して勝利の快哉を挙げ。
優勝を証明する赤切符を、実況を兼ねてた店長から受け取った後。
ゲーセンの中の自販機でジュースを買って、外のベンチに座って一服して……ふと、音が消えたのに気が付いて振り向くと、シャッターが降りるガラガラ音も無く、店が閉まっていたのである。
多分、何らかの怪異に巻き込まれたのかもしれんけど……一体、どういう事なのだろうか?
これが狐か狸に化かされたのなら、俺は葉っぱを握りしめてベンチに座ってなきゃイケナイハズなのだが……繰り返すが、ゲームセンターが押印した日付と店名に、『シャケ』のリングネームが書かれた赤切符だけは、本物なのである。
「近畿『オカルト部門』代表で、出場してくれって事なのかね、コレ……?」
まあ……あそこで行われたトーナメントで、俺は確実に全勝して勝ち抜いたのだから、技量にも文句も無かろう。
多少は釈然としないながらも、そう納得させて。
俺は赤切符をクリアファイルに入れてカバンに仕舞い……。
「ああ、そうそう。
先生、申し訳ありませんが、こちらにサインをお願いします」
そう言うと、テーブルの上に婚姻届けが差し出される。
「……これは一体、何事でせうか?」
「見ての通りの婚姻届けです」
「いえ、それは見れば理解が出来るのですが。
一体全体、何故にこげな呪物を、私が突きつけられる事になっているのでしょうか?」
つい先日体験したゲーセンの闘〇予選なんぞ、足元にも及ばない怪異現象が発生してしまった。
……いくらシームレスに日常に怪異が混ざってる京都市内にしても、ちょーっとコレは度が過ぎないか?
まさか、このホテルそのものが異界化したとか、そんな奴かっ!?
「つい先日、皐月賞の時に『責任取ってくれる』との言質を頂いたので」
「いや、いや、いやいやいやいや!?
責任の方向性が明後日の方向にすっ飛んでるっつーか、レートが根本的にオカシイですって!」
「あれだけ行き遅れだの何だの切羽詰まってる女性に対してネタにしておいて、プレミアモノのウイスキーや焼酎で済むと思ってるのですか?」
「元々そーいう関係でしょうが、作家と編集なんて!
……大体、俺みたいな『復讐鬼』が、結婚なんて出来るワケが無いじゃないですか!?」
正直。
馬主活動にしてもゲーマーにしても、独身で背負うべき『家庭』が無いからこそ、趣味全開で色々とバカをやれているワケで。
何よりも。
『俺の復讐は俺だけのモノ』だからこそ、妻や未来の子供なんか、絶対巻き込むワケには行かない。
だが……
「あ、ソッチは存分にやって下さって結構ですよ」
「はい?」
「いえ、先生の『復讐』は止めません。
要は、籍を入れて夫婦の外面を繕って欲しいって話です」
「あー、はいはい、そーいう事ですか……ビックリしたなぁ……」
仮面夫婦……ねぇ。
うーん……でもなぁ……
「書類提出して、籍を入れるダケですよね? 『式を挙げろ』とか、そんな話は無いですよね?」
「あ……いや、仮面だからこそ、外面的に簡単にでも式は挙げて欲しいなと」
その言葉に、俺は真っ青になる。
「いや、無理でしょ? どう考えたって?
未成年の頃に保証人になってくれた叔父は兎も角、『アレ』とか『アレ』とか『アレ』とか、式に呼ぶんですか!?」
たとえ、仮初だろうとしても。
俺の? 結婚式に? 『奴ら』が? ツラを出す?
殺すか死ぬかの二択をせよと?
「つか、
父さんは死んでるから叔父に代理してもらうとしても……『アレ』が母親ヅラして席に座るのを許せ、と?」
「……」
その言葉に、沈黙する新野女史。
「申し訳ありませんが……書類上で仮面夫婦をやるのならば兎も角、どう頑張っても式が乗り切れないです。
つか『イイトコのお嬢様』だからこそ『結婚式が必要』な意味も意義も理解はしてますが」
葬式や結婚式に代表される『冠婚葬祭』というモノは、決して虚飾だけの代物ではない。
主役である、新郎新婦、あるいは故人や喪主等を中心に、交友関係を開示する事で『どういう人物(だった)か』という人物像を関係者に周知する場でもあり。
また、ご祝儀や香典、祝いや弔意に伴う飲食などの、冠婚葬祭に伴う人間関係のやり取りを、一括して一日で済ませることで、時間の節約を図る意味も大きいのである。
「というか。
察するに、新野女史にとって重要なのって、外面を誤魔化すための『式』のほうだったりしません?」
「う……はい」
その言葉に、俺は確信する。
『嗚呼、俺は恩人たる彼女を、最後まで助けてやれない』と。
だから……
「分かりました、要は『家族に追い詰められてる』んですよね?」
「?」
俺の言葉に、彼女が首を傾げる。
「つまり……イイトコのお嬢様の婚前のお見合いの席で、俺がバカの一つもしでかせば、破談間違いなしですよね?
なら、俺が幾らでも怒られますし、土下座でも何でもしますし、汚れ役だってやりますから。
……こういう形で『責任』って事でいいですか?」
どう頑張っても、個人的な事情で『最後まで』責任を取ってやれない俺の。
これが、彼女に対して答えられる、限界ギリギリのラインの回答だった。
観光地化が進んで、外人が跋扈してる現在とは違って。
こう……一昔前の京都って妖魔夜行的な、オカルトとシームレスに地続きな一般人の日常がありそうな町のイメージが……(京都在住の方々ごめんなさい)