Re:escapers   作:闇憑

13 / 103
福島競馬場 第5レース  2歳新馬戦

 さて、レースが始まる前、俺は美浦にあるトレセン……ではなく。

 

 育成牧場から、直接福島の競馬場まで行くことになりました。

 

 正直、苫小牧から仙台あたりまで船で直行でもいいんじゃねぇかと思ったのですが、どうも船での移動中は、法的に船内の車が置いてあるスペースに人が立ち入る事ができないために、俺の面倒を見られないらしく。

 航送距離の短い、函館から青森の青函航路を利用して、延々と高速を移動するという、割とかったるい移動をする事になりました。

 

 ……いっそ、新幹線を馬運車仕様に編成して運べるよーになりゃいいのになぁ……大体、小倉から青森まで、北海道以外は、新幹線の駅から少し離れたトコに競馬場あるんだし。

 

 そして、福島競馬場、新馬戦。芝1200m。

 ……正直、育成の調教を受けてて、もうちょっと距離長くてもいいんじゃねぇかなー、と思いつつ。

 まあ、新馬戦が6月から始まる事を考えると、早熟な馬たちの戦うレースだから、そう長距離ってワケにも行かないのか。

 スタミナ持て余すほど短い距離だから、何も考えず全壊でぶっ飛ばして行けばいいだろ、と……思っていたんだけど。

 

 俺含めて、本日デビューの出走頭数12頭って……今の時期にしては、多くね?

 敵の少ない今のうちに新馬戦を突破して、レースの経験値を積みたいとは思ってはいたんだけど。

 

「……こんな事なら、阪神行けば良かったのかなぁ……」

 

 などとぼやきながら俺の口取りしてる、生徒君改め厩務員の賢介君。俺が育成に行ってる間に、最短で厩務員の資格を取って来たらしく。最近、俺の世話をしてくれてる。

 そして……どうも同日に開催されてる阪神の新馬戦は5頭立てらしい。そっちのほうが楽に勝てそうだな……その代わり、少し距離が長いようだけど。

 

 そういえば、馬になって気にした事なかったんだけど。

 今って、西暦何年なんだろ……それとも、パラレルワールドなのかな?

 まあ、俺という異物が存在してる時点で、パラレルなんだろうけど。同期に有名な馬とか居たりするのかね?

 ……なるたけそういうのとは当たらないよう願いたいなぁ……

 

 そして、パドックに入った時。

 

「がんばれー♪」

「キッドー!!」

 

 おお。

 数こそ数人だが、高校の時の元生徒君たちがちらほらと。

 とりあえず、手……というか、前脚を挙げて顔向けて……おいーっす♪

 

「わっ、おい……止まるな、止まるなって、キッド」

 

 はいはい、わかってますよ……お、なんかカメラ向けてるおっちゃん、おいっす♪

 

「だから止まるなって。

 あああ……一年以上前だってのに、しっかりカメラに挨拶するの覚えてやがる。

 調子に乗って、蜂屋と一緒にこいつと学祭でショーなんてするんじゃなかった……」

 

 わはははは、そういうのを文字通り『後の祭り』と言うのだよ。

 なんなら、パドックでお座りとお手をキメてやろうかね?

 

「なんだ、あの馬」

「カメラ目線で挨拶したぞ」

 

 とザワつく観客と。

 

「あっはっは」

「キッド変わってねぇ~なぁ」

 

 と笑いながら応援してくれる元生徒君たち。

 

 ちなみに、掲示板をチラ見すると、オッズは……74.3倍。圧倒的不人気。

 ……まあ、そんなもんかね。だけど少なくとも日高の育成牧場で、俺より速い馬は居なかった。

 そして、コンスタントにその実力を発揮できる、人間の脳みそがインストールされている俺に、死角なしだ。

 

 やがて。

 間延びした、独特な『止まれ』の合図と共に。

 騎手がやってきて俺も含めた各馬に跨る。

 

「じゃあ、兄貴……頼むぜ」

「おう」

 

 背中に跨る、50キロちょい。

 さて、一緒に頑張ったろうかね……相棒。

 

「賢介から聞いてたけど、本当ににぎやかな馬だな、お前……」

 

 怪盗バーネットキッドの、初陣と行こうじゃないか。

 

『福島競馬場で行われます第2回2日目第5レース2歳新馬戦。芝の1200m。まもなく発走時刻となります』

 

 自分のゲート入りは大外枠。

 だから一番最後にゲートに入る。

 

「!? ……なんだ、急に落ち着いた……?」

 

『返しを終えた各馬、順調に収まっていきまして……最後に大外、バーネットキッド収まりました』

 

 オグリ爺さん。そして天国のターボ爺さん。……ついでに、ヒシミラクル叔父さん。

 一丁、びっくりさせてやりますか!!

 

『……スタートしました。先ずは好スタート12番バーネットキッド、一気に先頭に立ち後続との距離をドンドン広げていく、物凄い勢いだ、これは掛かって……いや、押してます。騎手石河、全力で逃げを打ちました。続いて1番ミラクルポイント、8番……』

 

 さあ、1200。息をつく間も必要も無い!

 一気に飛ばすぞ!!

 

「おおお、何だこりゃ!?」

 

 まだだぜ、ジョッキーの兄貴。

 全力全壊!! 落馬すんなよ相棒!!

 

 スタートから一気に加速し、その勢いを利用して緩い上り坂を駆けあがる。

 軽い軽い……自分でも信じられないくらいに軽く走れる!

 

「3F32.9、これは短距離にしても、新馬戦では非常に速い!

 さあ第四コーナー回って直線に入った! バーネットキッド先頭、後ろからミラクルポイント、更にマイネルレコルトが追い込んできた!」

 

 Rのキツいコーナーを、大外からラチいっぱいの最内、そして少し内を空けながら遠心力を逃がすように曲がり、最高速を維持し続けながら最後の直線へ!

 

「さあ後続が迫る! 迫るがもう届かない!! 完全に持ったままのセーフティーリード! バーネットキッド、ゴール!! 1分7秒9! 二着はマイネルレコルト!!

 新馬戦、大逃げレコード更新!! 二着のマイネルレコルトも本来ならレコードタイム! なんという馬だ! なんという馬たちだ! 新馬戦とは思えない勝負になりました!!」

 

 最後の直線、エライ勢いで一頭迫って来たが、それを振り切ってゴールに飛び込む。

 ……悪いな。福島で負けるとこは見せたくないんだよ……いろんな人や馬に、な。

 

「すげぇな、キッド……お前ホンモノだよ!」

 

 たった一度の騎乗で、息が上がり始めてるジョッキーの兄貴。

 思えば初っ端からイケイケでブッ飛ばした結果、かなり乱暴な走り方をしてしまったかもしれん。

 

「気にするな……下手くそな俺が悪い。ごめんな、キッド」

 

 そのまま、ウイニングラン……とも呼べないような緩い足取りで、元農高生たちの集まってる前で止まり。

 

「あ、挨拶した」

「おいおい」

「多分、学祭のショーの続きだと思ってるぞ、アイツ……」

 

 前脚あげて挨拶する俺を見て。

 なんだ、と動揺するほかの観客たちとは裏腹に。

 ケラケラ笑ってる、生徒たち。

 

 その姿を見て……ああ、なんだ……母さんや弟たちや、オグリ爺さんや天国のターボ爺さんよりも。

 彼らの期待に応えられたことに、俺は満足していた。

 

 

 

騎手インタビュー

 

「ええ、強いレースが出来たと思ってます。もうね、殆どキッドがイケイケでいってくれちゃって、本当に跨ってたダケって感じでした。

 パドックとウイニングランのアレですか?

 ああ、どうも賢介……ああ、幼駒から面倒みてた弟が言うには、農高に居た頃に、近くで犬を調教してたら見様見真似で変な事覚えちゃったとか……すごく頭のいい馬だって聞いてます。

 ただね、こう……見ての通り、パドックから返し馬まではガチャガチャ煩いんですけど、ゲートに入る直前から、スイッチが入ったみたいにスっと大人しくなって、それであのスタートですよ。

 本当にびっくりするくらいテンが良くて……多分、頭がいい分、やる事が全部解っているんでしょうね。

 テキ……というか、馬主様からも、これからも乗せてもらえるみたいで、次のレースが楽しみです」




参考:Netkeiba様


本日の主な被害馬、マイネルレコルト。

この馬も、割と非主流のダンジグ系の血統でありながら、当時の二歳戦線で強い勝ち方してたんですよ……おかげで、ディープ世代を舞台にした架空馬話だと、真っ先に凹られるヤムチャのようなポジションに。
なので、もう居直って新馬戦から3歳までドトウポジに着いてもらう予定です。

……自分で描いていて何ですが、割と『救いはないんですか』という状態なので、そろそろ何処かのひねくれモノが、憑依転生でこの馬に憑いて無双する話を描いてくれるんじゃなかろうかと考えてます。

リアルだと、馬事公苑で乗馬になった後に、競走馬の研究所に行って、そのあと牧場に貰われて乗馬になっています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。