「しかしまぁ……」
母ちゃん含めて、初々しくも実に甲斐甲斐しく世話をしてくれる農高生たち。
それに居心地の良さを感じつつも……俺は知っている。
彼らとの付き合いは、一年と半年そこそこ。
それ以降は競りに出され、馬主と調教師、そして騎手たちとの関係となる。
馬主の目に留まって活躍し続ければ、たまに牧場や競馬場に顔を見せに来てくれるとは思うが、そうでなければ……
「よーしよし、こうしていれば、お前イケメンで綺麗なんだけどなぁ……キッド」
はい。
幼名が決まりました。
キッド君、生後3か月くらいでーす。
どこぞの怪盗よろしく、白に近い芦毛の馬体からついたんでしょうねぇ……多分。
「おい、生産学科……」
と、恨み節の籠った地獄の底から響くような声が、馬房の入り口から轟く。
「は、はい、またキッドが何か!?」
「今日という今日は犯人引き渡してもらうぞ、そこの白いゴキブリがっ!」
殺気立った農業科の農高生が、百姓一揆よろしく、手に鎌だの鍬だの包丁だのを構えてズラリ。
「待て待て待て!! だから証拠は!」
「くっきり0歳馬の蹄の痕が畑に残ってんだよ、こいつの!!」
「だからって、どうやって柵抜けていくんだよ! 入口の閂もキッチリ閉めてるし!」
「食い散らかした痕もあるんだ、どう考えたってこいつだろう!!」
いや……まあ、なんというか……この体、えらい腹が減るんよ。
というか、当初、母ちゃんの母乳だけじゃ足らんっちゅーか。
吸いすぎて『痛い痛い、母ちゃんミイラにする気か』って怒られて、もう母ちゃんが授乳嫌がるようになって。
で、飼い葉食えるようになったはいいんだけど、平均値しかくれんのねん……全然足らんのねん。
だから……だから、目撃者が居ないタイミングで、ちょっと馬房を抜けて、目の前の畑から胃袋に拝借したダケなのねん。ちゃんとボロとして肥料で返すからええやろ? な?
「それなんだがな、生産学科。
そこの畑の前の柵の上下の隙間にな……こんなのが引っかかってたぞ」
ぎくっ……
『は?』
「これ完っ全に芦毛だよな、こいつの……」
「待て! 待て待て待て! すると何か!? こいつ、本当に柵の隙間から抜けてんのか!?」
「だから前からそう言ってるだろうが!」
「おいいいいい、キッドぉぉぉぉぉ!!」
わしゃ知らーん♪
そこから、人間の農高生同士の、殺気立った悶着がある事暫し。
「と、とりあえず林科から廃材貰って、柵の隙間埋めよう!
あと、キッド君の飼い葉足りないんじゃないかな? もう少し増やしてあげよ?」
「だな……農業科の連中、マジで殺気立ってるから、これ以上脱走して畑を食い散らかしたら、キッドの奴を馬刺しにしかねん」
「しかし、マジでいつ抜けてんだろうな……俺らの前じゃそんな素振り、ぜんぜん見せてないのに」
そりゃまあ、皆さん学生さんですから、座学の授業中とか狙い目はいくらでもありますな。
しかし、畑はダメかぁ……と、なると……
「おーい、生産学科ぁー……お前ン所の芦毛ちゃん、
「はい? 今、母馬と一緒に放牧に出して……って、いつの間に居ないぃ!!」
「っつか、柵も補強して、閂かかってんのに、どうやって……」
ぷはー、食った食った……牛さん、豚さん、悪いね、ご馳走様。
さて、閂を外した後、母ちゃんたちが出ないように柵に入ったら閂を元に戻して……って、え……今の時間、君ら座学の授業中じゃなかったっけ?
『キッドぉぉぉぉぉ!!』
チっ……これもバレてしまったか……
そのまま、殺気立った農高生たちと、『追い運動』すること暫し。
「お前、無駄に頭いいなぁ」
「閂開けちゃう馬がいるとは聞いた事があるが、こいつ0歳馬だろ……ある意味すげえなぁ」
「とりあえず、閂に南京錠か何か掛けないとダメだね」
「ホント食い意地張ってるなこいつ……流石、オグリの孫だわ」
ほわい?
マジ? 俺の爺ちゃんオグリキャップなの?
道理で腹が減るわけだわ。きっと血統だコレ!
「そういえば畜産科の、誰だったか……上級生で、ヤギとか豚とか使った、蹄耕法とかって研究してたよな?」
「ん? ああ、塩屋先輩?」
「あのさ、豚とかヤギとかに、こいつ、混ぜてもらってみようか?」
で……
冗談半分で、敷地内にある原生林っぽい場所に連れてこられまして。
豚やヤギと並んで、雑草という名の多種多様な食べ放題バイキングの真っ最中。
うむ、クマザサもバリバリしてるがいけるいける。
あとこの草とかもいけるいける……おい、ヤギさんや、それ俺の。俺のだって。
「食欲っつーか『除草力』が、ヤギに引けを取ってない……」
「こいつ本当に0歳のサラブレッドか? 道産子だって、こんなに雑草喰わんぞ」
「チャックの中身ヤギなんじゃねぇの?」
「いや、ヤギはこんな頭良くないだろう」
「馬っつーか、もうUMAじゃねえか……完全に……」
ドン引きする、俺やママンの面倒見てくれてる、生産学科の生徒たち。
失礼な。
ちゃんと0歳のサラブレッドでございますよ。
頭の中身はともかく、この食い気は、ほぼ
「っつーか、気づいたんだけどさ。
キッドのボロ、繊維質は残ってはいるんだけど、燕麦とか消化しにくいのも、がっつり消化してんのよ……
フツー、ああいうのって未消化で結構出ちゃうのにさぁ……ボロで出てくるとき、完全に繊維しか残ってねぇんだよ。
多分、今食ってるクマザサだって消化しちゃうんじゃねぇか、コレ?」
「母離れしてない0歳馬のくせに、どーいう内臓してんだよ……健啖通り越して火力発電所じゃねえか」
「競走馬としてセリに出す前に、マジで北大あたりのえらい先生に診てもらったほうがいいんじゃぁ……牛みたいに胃袋3個くらい増設してんじゃない?」
「肉やったら食うんじゃねぇか?」
あんな面白気性難と一緒にしないでくれ。
「蜂屋……アレ、本当に0歳のサラか? 半端じゃねぇ食いっぷりだな」
「塩屋先輩……残念ながら、血統的には純サラブレッドです」
「確認するが、本当はアレ2歳くらいの道産子じゃねえの? そーとしか思えない食い方してんだけど?」
「それだったらどんだけ良かったか……多分、父父の血が隔世遺伝でもしたんじゃないですかね?」
「ああ、オグリキャップだって聞いたけど……オグリでもこんな食ったのかなぁ?」
だから、すべては転生させた神様と