Re:escapers   作:闇憑

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お笑いの神様は突然に。

「取材?」

 

 夏のクソ暑い最中。

 自宅のボロアパートの一室で、大学のレポートや課題をこなし終えた後、次巻の執筆とアニメ二期の脚本の原作者チェックしていた時に。

 石河厩舎から、石河……賢介からの連絡を受けて、俺は首を傾げた。(『石河さん』が三人に増えちまったから、もう賢介で通す事にした)

 

『ほら、俺とお前で以前、学園祭でキッドと一緒にショーをやったろ?』

「ああ、先生に後で滅茶苦茶怒られたヤツ?」

『うん。

 あの時の映像、ギャラリーが撮影してたやつが、去年の年末の特番で流れたじゃん。面白動物の番組で。

 で、あんとき『来年競走馬としてデビューの予定です』みたいな事言ってたろ?

 そんでキッドが無茶苦茶強い勝ち方しちゃったもんだから、10月の改変期の特番用に追跡取材とかしたい、みたいな事をテレビ局が言ってきたんだよ』

「へー……で、受けるの?」

『だから、その辺の最終判断をどうするか、なんだよ。

 おめーの馬なんだし、本来おめーがOKしたらダメでも俺らどーこー言う立場じゃねーの』

「あー、じゃあ、オヤジさんの判断に任せるって伝えといて。

 あくまでキッドの具合を見て、受けられそうならOKしてもいい、って。

 っていうか、調教とかどうなん? キッドの具合とか?」

『相変わらず、滅茶苦茶喰ってる。俺らが静舞に居た頃と変わんねぇ……と言いたいが、少し変わった事はある』

「どんな?」

『美浦トレセンの中の、馬用プールに入り浸ってる。

 なんか気に入ったらしくて、競走馬というより、競泳馬になっちまってるよ』

 

 相変わらずフリーダムな奴だなー……と思いつつ。

 

 ふと思いなおすと、馬主と厩務員がこんな近い関係ってのも、割とフリーダムに周囲には受け取られるのかもなぁ……と、俺も人の事……もとい、馬の事言えねぇな、と気づく。

 

 つい先日、よーやっと二頭目……キッドの全弟を落札し、更にキッドが新馬戦とOP戦の二つのレースに勝って辛うじて黒字が出たので、正式に馬主業を雑所得ではなく事業所得として申告できるようになったばかり。

 

 今どき滅多に居ない個人馬主とはいえど、一頭億単位の馬を何十頭も抱えてG1重賞以外のレースに顔出す事も無いような、雲の上の超馬主様たちとは雲泥の差の零細馬主なのだし。

 

 ちなみに、弟の落札価格は200万なり。

 キッドが勝ってくれた事によって、少し評価は上がったみたいだが、それでもまぁ……静舞農高産の価格だよね、というお値段だった。

 

『あとさ、キッドの弟の名前、まだ聞いてないってオヤジが言ってたんだけど。

 名前が無いと手続きや書類が面倒になるから、早めに出してくれって』

「ああ、それな……明日、講義休みだから、編集との打ち合わせや買い物のついでに、都内まで直接提出しに行く」

『なんて名前にすんの?』

「それなんだが、学校でター坊ター坊言われてたから、そのまま素直に母父にあやかろうと思ってな……クアッド。『クアッドターボ』だ」

 

 そう、2+2で4だから、クアドルプル……クアッド。

 実に単純な発想と名前である。

 

 キッドの場合『ターボ』が名前になかったから、パッと気づいた人が少なかったのを思い出し。

 ならば、新馬戦で名前見た観客に笑って受け入れてもらえると嬉しいなーと思い、幼名も加味してこうなった。

 

『4発ターボって……マジか』

「2発のターボエンジンより出力アップして長持ちしそうだろ?」

『逆噴射が二倍になりそうな予感しかしねーんだけど……』

「逆噴射する前にゴールしちまえばいいんだよ。キッドだって出来たんだから、全血の弟だって出来るんじゃないの?」

『ありゃキッドのスタミナありきの、超ごり押しの荒業だぞ?

 そもそも逃げ馬なんてそんなもんなんだから』

「弟は無理そう?」

『んー……なんつーか、まあ、調教で叩いてみなけりゃ分からねぇけど、お前の見立てどおり、光るものはあるけど、外面以外ごく平凡な感じだったな。少なくともキッドみたいなUMAじゃないから、ある意味安心した。

 ただ、従順で人懐こいのは、キッドと変わらねぇ。ハミや鞍の装着も、キッドが異常なだけで、割とペースが速いって助手のダケさんが言ってたぜ?』

「そっかぁ……うん、わかった。ありがとうな」

 

 そして翌日。

 都内の窓口に、直でクアッドの名前関係の書類を持ち込み(受付の窓口でビックリされた。普通は郵送やネットらしい)名前の審査の返事は一週間後に郵送で、との話を受け。

 ついでにアポを取ってた編集部に寄って担当の人とあれやこれやの打ち合わせをし、秋葉原で買い物をして、家に帰ると。

 

 石河厩舎から、連絡が再度入ってきた。

 

『なあ、蜂屋……おめーテレビどうする?』

「は? だからオヤジさんに任せるって」

『いや、そうじゃねーんだ』

 

 一瞬、賢介の言葉が、意味不明だったのだが。

 

 なんでも、学生が馬主というのは相当に珍しいらしい。

 

 超ブルジョワな家の馬とか、子供が馬主で持ってたりしないのかとは思ったが……考えてみると、そういう場合は『家(会社)』や『親』の馬だったりして、子供が直接の馬主ってワケがないもんな。

 

 ……まあ、そりゃそうか、小説の新人賞取った時も最年少だったし、未成年のラノベ作家ってのは俺以外にもそれなりに居たけど、『それで稼いだ金で馬主やってます』なんて、確かに俺くらいかもしれん。

 

『TV局のほうが、えらい勢いでおめーとキッドを一緒に出したがってんだよ。

 もーすぐオファーの話、そっちにも行くと思って、早めに連絡したほうがいいかと思ってさ。

 おめーペンネームで書いてるから、顔出しとかマズいんじゃねーか?』

「別に、キッドの馬主として出るのは今更だし構わないんだけど、キッドの馬主の俺がペンネームとイコールされちゃうのはマズいなぁ……とりあえず『その辺の話題は避けるって条件なら』OKしといて。

 って、あれ? ってことは、普通に取材とかOKできるコンディションなんだ、キッド。レース後だからアレなのかと思ったけど」

『アレが1400ぽっち全力で走った程度で、ヘバる馬だと思うか?』

「……愚問だったな、了解」

 

 と。

 石河厩舎とこんなやり取りがあった更に一週間後。

 

「よっ、お待たせー」

 

 アパートの前に付けられる軽トラ一台。

 

「って、迎え寄こすって言ってたけど、お前かよ」

「なんだ、キッドに乗ってタンデムで美浦まで行く方が良かったか?」

「やるかよ、野郎同士で気持ち悪ぃ」

 

 迎えに来た賢介の奴が運転する軽トラに揺られて冗談を飛ばしあいながら、霞ケ浦の反対側……美浦トレセンの門を潜った。

 

 考えてみると、新馬戦からこっち、美浦のトレセンに顔出したことって殆ど無かったな……キッドの調教の邪魔になるかもしれないと思ったし。

 何より一度寄った時に、近所の厩舎で調教師から騎手まで雁首揃えてスゲェ殺気立ってて怖かったのを見たし。

 

 とはいえ、今日はただの取材である。軽い受け答えだけして、当たり障りのないトークで終わらせればいいという話だ。

 特に問題は……はい?

 

「あ、馬主の蜂屋様ですか? 志室と申します。

 本日の取材、よろしくお願いします」

「え、え? ちょっ、えっ!? えええええ!?」

 

 取材陣の先頭に立って挨拶に来られたのは……お笑いに詳しくない人間でも日本人なら誰もが知ってる、キング・オブ・コメディアン様だった。




申し訳ありません。PCがトンで続きのストックが纏めてオシャカになったので、更新ペースがかなり遅くなります……

一応、シナリオは頭の中にあるのですが、文章化するのが難しいというか、再文章化ってのがこんな苦しいとは思いませんでした。
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