異世界の魂が反映されているというウマ娘たちは、出会った時に運命を感じることがあるという。
「あの……」
「……!?」
だが……
「ハヤヒデ先輩! 髪の毛のお手入れに何を使っているのか、教えてください!!」
「ああ、君も同じ悩みを抱えているのだな……うむ、先達として力になろう」
縋るような眼差しで、青い瞳でもさもさ芦毛頭のウマ娘の少女……クアッドターボの懇願に、ビワハヤヒデは強烈なシンパシーを感じ、快くその問いに応えた。
……どうも、現世の外面だけで運命を感じてしまうケースも、割とあるようである。
「確かに、姉として尊敬はしてるんです。ウマ娘として強いのは解ってるんです。
ですが……ですが、あのフリーダムな性格に振り回される周囲の身にもなって欲しいんですよ」
健啖で知られるウマ娘御用達の、『米出コーヒー』で。サンドイッチセット三人前とパフェをもりもりと食べながら、クアッドは愚痴る。
二人でヘアケア用品を買い込んだ後に、軽く食事でも……と立ち寄ったのだが。
なんだかんだと世間話から、次第に会話の内容が『双方の身内への愚痴』へと変わっていくのに、そう時間はかからなかった。
「ああ、わかる。私も妹がな……君の姉ほどにフリーダムではないが、ぶっきらぼうで周囲に誤解されやすいくせに、語彙が少ないものだから心配でな。
つい先日も、母から『ブライアンは無事か』と私に連絡があって、せっついてようやっと電話かけさせたんだが、まあ本当に『電話を掛けただけ』って感じでなぁ……」
「いいお母さんじゃないですか。
それに、ブライアン先輩の場合、まだ母さんが心配してくれるだけマシですよ……こっちは真実手に負えないから、母さんも姉さんに関しては匙投げちゃって、連絡すらしませんよ?」
「それは相当だな……ブライアンの数倍手のかかる『姉』か……想像するしかないが、私が君の立場だったらキレていたかもしれん」
「ははは……むしろ何度キレてもひらひら躱してくるから手に負えないんですよ……逃げウマ娘としては、天下一品過ぎて本当に困ってます」
「お互い、苦労するな……」
と……
「ウチの妹なんか、外面が大人しいだけで、割とあぶねーから怖いですよ。
理屈っぽくてグチグチ言ってくる割に、溜め込んで爆発するプッツン系だから、地雷踏んだ瞬間ぶっ飛ぶならまだしも、デッドライン超えた瞬間、周囲巻き込んで大爆発ですよ?」
「何言ってんだ、こっちはその理屈っぽいのに、いつも姉貴面のでかい顔されてんだぞ?
確かに尊敬はするが、いーかげんにしてくれよって躱して避けても、的確に逃げ道塞いで来るんだから。優等生で通してるから、こちらも強く出にくいってのもあるんだが、少しは放っておいてほしいもんだ」
「わかります。心配性で神経質すぎるんですよ、あいつも。
別に成績満点取ってんだから、多少遅刻したっていいだろうに……朝、寮で寝てると水を張った洗面台に顔面突っ込んで起こされるんですよ?
腹立ったんで、夜中に髪の毛でいろいろ遊んで写真撮ってやりましたけど……こんな風に昇天ペガサスMAX盛りとか……」
「どんな……ぷっ、あはははは、面白いなこれ。今度姉貴が寝てる時にでもやってみようかな?」
その話題のハヤヒデの『妹』とクアッドの『姉』の二人が、何故かすぐ近くのテーブルでケラケラ笑って談笑してたわけで。
「…………………」
「……………」
一瞬のアイコンタクトで、こっそりと移動し始める、ハヤヒデとクアッド。
「ほら、他にも、これとか、これとか……」
「ぶっ……お、おまえ……ひどいな……二つ上にお前みたいな姉が居たら、姉貴泣いてたかもしれんな」
「むしろこっちが朝は泣かされてますからね……反撃くらいしないと、姉の立場がありませんし」
「あはは、そう考えると、姉貴って立場も大変なのかもな……」
「まー、そういうのはありますねー。
ウチの妹も神経質な奴だから『もうちょっとおおらかに構えねぇと胃に穴が開いちまうぞ』って忠告はしてるんですけど」
「その割には彼女もよく食うじゃないか。オグリと三人で一緒にいつも食堂で食べてただろう?」
「あいつ繊細過ぎて、食事量が安定しないんですよ。
食う時は食うけど、食えない時は食えませんからね……俺やオグリ先輩と一緒に居るから、安心感で食えてる感じで……放っておくと餓死しちゃいそうで怖いんですよ」
「ほう……意外とお姉さんしてるじゃないかキッド。
そういえば、お前の妹の髪の毛って、思ったのだがストレートパーマとかかけたりしないのか? 姉貴を見てたからわかるんだが、ああいうのって結構なコンプレックスだと思うんだが」
「三日で爆発して元通りになっちゃいました。調子に乗って短くカットしたのが速攻で天パになっちまって、ギャン泣きしてるのを慰めるのに数日かかりましたよ」
「ウチと一緒か……お前の妹も大変……!!??」
「? どうしました、ブライアンせん……ぱ……い!?」
ぽむ、と。
ブライアンとキッドの肩に、それぞれ背後から身内の手が乗っかり。
「ブライアン先輩、はじめまして。姉がお世話になってます」
「やあ、キッド君、はじめまして。妹がお世話になったようだね」
みしみしと音を立てて、手が肩に食い込んでいく。
「あ、トレーナーに呼ばれてるんだった」
「そう、俺もちょっとゴート札の秘密を暴きにカリオストロ行かなきゃ」
「「いいから座れ」」
「「はい……」」
どんな逃げウマ娘だって逃げようもねぇ状況下に置かれてしまい。
そこから数時間にわたり、こってりと芦毛の姉と妹に搾り上げられる、『怪盗』と『シャドーロールの怪物』の二人だった。
「ねえ、リン、あの説教大会になってるウマ娘たちって……」
「確か、リンの……」
「……知らない人。さっさと行こう、二人とも」