はーい、札幌からこんにちは、バーネットキッドです。
前回ダリア賞を勝ち抜いて、晴れてオープン馬となりトレセン内でゼッケンの色も変わって名前もつきましたー。いえーい♪
そして今日の舞台は札幌2歳ステークス。G3の試合ですが……1800mって、俺の年齢にしては長くね?
まあ、1400でも余裕過ぎて体力持て余してたのは事実だけどさ……前回からいきなり追加で400、しかも洋芝の札幌ですか。走るつもりだし多分余裕だけど。
でもまぁ、嬉しいことに……
「キッドー!!」
「頑張れー!!!」
札幌競馬場の一隅に、静舞農高の生徒や先生たちが陣取り、横断幕張っておもいっきり応援してくれてるわけで。
……まあ、大概の競走馬の地元は北海道ですが、雰囲気は完全にホームですよ。これは負けられませんなぁ……よし、芸をしてアピールしつつ挨拶しとこう。
「だからキッド! 挨拶はいいの! パドック! ここはパドックだから大人しく周回してくれよ! 主催者に怒られてるんだから!!」
えー……挨拶くらいいいじゃないか、厩務員君。
……しょうがない、とびっきりの怪盗スマイルで我慢するか。
「あはははは」
「先輩たちのキッドだなぁ……」
「あ、先生、これもしかしてキッドが勝ったら、生産者の代表って事でサークル呼んでもらえるの?」
「ん? ああ……蜂屋に呼ばれてるから、勝ったら行く予定だ」
お? 先生来るのか!?
競馬場のウイナーズサークルで一緒に写真撮りたいから、こりゃ頑張らなきゃな。
「よっ、石河、久しぶり」
「おう」
出走前の調整ルームで、同期の出世頭に声をかけられた。
戸田隆二……数年前、時代を席捲した馬に乗って、若手ながらG1レースを暴れまわった男であり……今日も5レースも鞍上のある男だ。
「お前、最近調子いいな……バーネットキッドだっけ?」
「ああ、弟が農高で育てた馬だよ……馬主は弟の同期。馬主がオヤジに頼み込んで、中央入りした」
「はぁ……すげーな。最近の農高生は、あんな馬を育てたりするのか」
「かなり突然変異的な馬らしいがな……弟や馬主も農高で手を焼いてたって聞く。
二人曰く『馬じゃなくてUMAだ』って言ってたよ」
「UMAかよ……まあ、パドックの様子とか見てると分かる気もするわ」
もう、がちゃがちゃと五月蠅いほどに観客に愛想を振りまいている姿を披露しているわけで。
そりゃ注目の的ではあるだろうな……と、同時に。
「なんだ、狙ってるのか?」
「当たり前だ……デビュー戦以降、レコード2連発の有力馬だぞ。
俺だけじゃなくて館山さんや仲楯さんあたりなんか、もう目をキラッキラさせてるぜ?
まして仲楯さんは2レースとも一緒に走ってる上に『母父』にも乗ってるんだ……『ぜひ乗りたい』って隠してもいないよ」
隆二の語った人物は、何れも、逃げや大逃げの騎乗に定評のある大先輩だ。
まあ、だよなぁ……だからこそ。
「お前が
けどな……俺だってこのままくすぶってる気はねぇんだよ……」
「だろーよ、おめーの負けん気は知ってる。
でもな……半端じゃねーぞ……G1の空気ってのは……」
その言葉に意外性を感じ、俺は驚いた。
「なんだよ? やけに親切だな?」
「あ? 決まってんだろう。
今まで、散々G1勝ってるオッサンや俺みたいな奴をやっかんできた、同期で一番生意気な奴にさ……今度は『やっかまれる側に立った時どうなるか』って苦悩を味わってもらいたいんだよ。
キッツいぜ……でも、降りられねぇんだ……降りたら『自分が自分じゃなくなっちまう』……そっちのほうがよっぽど怖い」
「……」
「最近、なんとなく戸原先輩の気持ちがわかって来ちまってさ……そりゃクスリに逃げたくもなるわ……あんな天才でも」
そう言いながら、プレッシャーをかけてくる隆二の奴に。
俺は一言。
「そっか……じゃあ、とりあえずその辺は、勝った後に考える事にするわ」
「ありゃ……まあ、そうだよな。お前はそういう奴だったっけ。
ま、G1勝ったら思い出せよ♪」
そう言って、隆二の奴は去っていった。
そうとも……俺はまだこの世界で、G1の舞台にすら上っていない。
だから……
「……消えて……たまるか」
口の中で呟いた言葉を飲み込み、俺は勝負服に身を包んで検量へと向かった。
『札幌競馬場、本日のメインレース第39回札幌2歳ステークス、GⅢ。芝の1800m右回り、14頭で争われます。
1番人気は3番ダンツキッチョウ 。そして話題の静舞農高出身、大外14番バーネットキッドは4番人気。
……今、ゲート入りが始まりました』
なんだろうね……さっきから、止まれの合図で乗り込んだ鞍上の兄貴が、ものすげー入れ込んでおられるんだけど?
軽くスキップとか変顔とかして緊張をほぐしてやりたいが……どうもなんか雰囲気的に、そんな余裕のある状態じゃなさそうだ。
……馬よりも騎手が『掛かってる』って、どーいう事よ……まったく……
「よし、よし……キッド……今日もキメてやろうぜ?」
大外にサクッとゲートイン。
ま、言われるまでもございませんがな……やることはただ一つ、ぶっ飛ばして先頭を張り通して帰ってくるだけ。
『各馬収まりまして、第39回札幌2歳ステークス』
さあ、覚悟はいいな……行くぜ……
『……スタートしました!
まず絶好のスタートを切ったのは、6番ストーミーカフェと、大外14番バーネットキッド、二頭の先手争いだ』
げっ……俺と同じ先行、逃げタイプ。しかもこっちは大外だからスタートは勝てても内のほうが有利って……よーし、とことんやってやろうじゃねぇか!!
『少し空いて4番ジェダイト、11番モエレフェニックスと続き、7番コマノハイ、2番セイウンビバーチェ1番グランプリペガサス8番マイネルアドホック、一番人気3番ダンツキッチョウはこの位置か……』
後続はところどころ団子になりながらも、縦長の陣形。
まあいいや……今は後ろは関係ない。
そして、逃げ馬と逃げ馬が、同じレースでかち合った時どうなるかって?
……それはね……
『さあ、バーネットキッドとストーミーカフェ、互いにハナを主張して一歩も譲らない! いや、僅かにバーネットキッドが前に出てるか!? 1000mのタイムは57秒9、かなりの高速ペースだ!』
「くっ……このまま」
「行くしかない!!」
双方の鞍上がハイペースを維持したまま、最後まで突っ込む覚悟を決める。
OKOK、石河の兄貴安心せい、こちとらスタミナには自信あるんじゃ! 伊達に美浦のカッパ馬と呼ばれちゃおらんわ!!
『さあ、第四コーナー回って二頭もつれて突っ込んできた! 先頭はバーネットキッド、ストーミーカフェが追いすがる!! さらに後続がスパートをかけるがバーネットキッドが先頭、ストーミーカフェ離されながらも必死に追いすがる!!』
んだっしゃらおらぁぁぁぁあ!! 先頭は譲らんのじゃあああああ!!
『後ろからダンツキッチョウ追い上げてきた、追い上げてきたがこれはどうか、間に合うのか、いや間に合わない! 今、バーネットキッドゴール!! 二着争いは僅差でストーミーカフェ! ダンツキッチョウ三着!!』
よーっしゃー!! 俺の勝ちじゃーい!!
『騎手石河、高々と拳を上げた!! タイムは1分47秒5! 怪盗の鮮やかな逃亡劇は、またしてもレースレコードを刻んでいった! 2着のストーミーカフェも1分48秒3と本来ならレコードタイム! 2頭の逃げ馬による激しいレースになりました!!』
「キッド、良くやったな!! 学校始まって以来の中央重賞勝利だぞ!!」
ウイナーズサークルで、先生や厩務員君や馬主様に囲まれての第一声に、首をかしげる。
ほえ? 前にお役御免になった牝馬の産駒とかって、地方とかでなんか取ってないの? ……ないのか……うわー、マジかー……
「だってさ、キッド……良くやった、良くやってくれたよ」
「ああ、快挙だよ……それに、札幌の洋芝であのタイムって相当だぞ」
ふっふーん♪ 褒めて褒めて~♪ って……
「よし……いける、勝てるぞ……」
おーい、兄貴ー、帰って来いよー。もう今日はレース無いだろ?
「うわっち……おう、悪かったよ……ご苦労様♪」
……心配だな……なんか目が野心に燃え過ぎて怖いぜ……兄貴。
本日の主な被害馬、ストーミーカフェ。
この馬も、逃げ、先行タイプの馬で、結構強い勝ち方してたんですよね……3歳で骨折するまでは。
例によって史実チート様が出てくるまでの天下だったワケですが、割と盛り上げてくれただけに……なので、同じ逃げ馬としてバチバチのレースをしてもらいました。