Re:escapers   作:闇憑

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中山競馬場 第11レース  第56回朝日杯フューチュリティステークス(GⅠ)

 はーい、中山競馬場からこんにちは、バーネットキッドです。

 

「キッド~」

 

 出走前にパドックに現れた馬主様は……なんか二か月前とは違い、凄くやつれておられた。

 ……何があったんだろうか? 原稿がヤバいのかなぁ?

 軽く舐めて、すりすりして癒してみよう。

 

「相変わらず可愛いなぁ……頑張って無事に帰って来いよ」

 

 おう!頑張ってくるぜ! 馬主席で見ててくれよ!

 カフェ君は一緒の馬運車で来たくらい割と友達だが、レースなんだし遠慮はしないさ。

 さて……

 

「愛想は振りまかなくていいからな……キッド。やるなよ、絶対やるなよ?」

 

 割とキレ気味な厩務員君。

 えええ、じゃあ、ここでアイーンしちゃダメ?

 

「芸も絶対にするな、するなよ……G1だからな、G1レース!!

 別周なんて恥ずかしいの嫌だからな、俺は! 大人しく周回しろよ!?」

 

 ……それはつまり……『君にバレないように芸と愛想を振りまけ』っていう、フリって事でいいんだな?

 

 そして……

 

『5枠9番、バーネッ……ぷっ……し、失礼、バーネットキッド。体重は498キロ。増減は+2キロ。い、いろいろな意味で目立つ馬ですね』

『あれ、完全に理解して遊んでるんじゃないですかね……あれで強いからワケがわかりませんよ』

 

 さざ波のような忍び笑いと、時折首をかしげる厩務員君。

 そして、その視界の死角で変顔を続けたり舌を出したり、ウインクしたりして愛想を振りまく俺。

 パドックでは大声をあげちゃいけない……つまり『笑ってはいけない中山競馬場パドック周回』の始まりである。……誰か大爆笑でアウトにさせられねぇかなぁ?

 

 やがて、止まれの合図と共に、半笑でやってくるジョッキーの兄貴。というか、騎手たちや関係者全員、ほとんど笑ってる。

 ……くそぅ……忍び笑いはあったものの、最後まで大笑いには出来なかったか。

 

「兄貴、頼む……え? どうしたの兄貴?」

「あのな、賢介。

 お前、パドック回ってるとき、キッドに『志室うしろうしろー』されてたの気づいたか?」

「!!!?」

 

 慌ててこっちを見る厩務員君に、変顔で答えてやる。

 

「てっ、てめぇ……後で覚えてろキッド」

「ほら、返し馬行ってくるから」

「ったく……頼んだぜ、兄貴」

 

 

 

「ほんと、おめーはいつも通りだな……なんか初めてのG1で力が抜けちまったよ」

 

 鞍上の兄貴がそんな事を言いながら、返し馬を終えて、誘導馬に続く。

 

『さぁ、スターターが上がりまして中山競馬場にファンファーレが響きます』

 

 観客席の方からGⅠのファンファーレが聞こえてくる。

 

『中山の冬空が歓声と共にゲートインの合図を受け止めました。各馬ゲートに収まっていきます』

 

 いつも通りスッとゲート入り。今までは大体大外だったのだが、今回は9番目。

 なので、残りが全頭収まるのを静かに待つ。

 

「……さあ、カマしに行こうぜ、キッド」

 

 鞍上からそんな呟きが聞こえた。

 

『──マルカジークが収まりまして態勢完了。第56回朝日杯フューチュリティステークス……今スタート!』

 

 おりゃあ!

 開幕ダッシュの先頭切りじゃーい!!

 

『18頭そろった綺麗なスタート、まずは9番バーネットキッドがぐっと前に出て差を広げる、続いて後を追うように8番ストーミーカフェ、更に1番コパノフウジン、3番テイエムヒットベ……………7番マイネルレコルトはこの位置か? 更に……』

 

 おうおう、やっぱりカフェ君が来たか、そりゃそうだ……

 とはいえ、芝と洋芝じゃ、どっちかってと洋芝のほうが好きなんだけどね。

 

 まあ、大した問題じゃないさ!!

 全力全壊、かっ飛ばして行くぜおらぁ!!!

 

『さあ、緩やかなカーブ第三コーナーに入って、バーネットキッドが先頭、後ろからストーミーカフェがついていく、これは鈴がついたか? 完全にバーネットキッドだけを狙って差しに行く態勢だ』

 

 あー……まあ、確かに、全速で爆走しながら前でぶっ飛ばす奴を相手なら、その方法はあるわな。

 ただ、その方法は『俺が潰れたら一緒に後続に飲まれて共倒れになる』超ハイリスク戦法なんだけど……どうも、そんな心配もしていないらしい。

 

 ……そりゃ一緒に散々併せ馬してるからなぁ……タフさは全部知られてるか。

 むしろ、スゲェ信頼感だね、友達として歓迎するぜ。だから……

 

『さあ、最後の直線、ただ一頭入ってきたバーネットキッド! 少し遅れたストーミーカフェも鞭が入る! ここで後方からすごい勢いでマイネルレコルトが抜けてきた! 中山の短い直線のたたき合い、だが先頭はバーネットキッド譲らない!』

 

 その信頼に応えて、全力でぶっ飛ばす!!

 

『後ろからマイネルだ、マイネルだ、物凄い勢いだ、だが届かない、今、ゴール!!』

 

 過ぎていくゴール板。

 そして……俺は、同世代の牡馬の頂点に立った。

 

『一着バーネットキッド!! 1分32秒9! とうとう32秒台が出ました文句なしのレコードタイム!! 2年前のエイシンチャンプの記録を0.6秒も縮めて、32秒台の世界に踏み込んだ!! 二着争いは、僅かにマイネルレコルト。ストーミーカフェは三着に収まりましたが、こちら二頭も本来ならレコードタイム!!」

 

 よっしゃあああああ!! 馬主君、見ててくれたか! 世代の天下、取ったどー!!!

 

『周囲を笑いに巻き込むパドックの芸人が、ターフで見せたその本性。

 まさに三代目大怪盗の名に相応しい、大逃げっぷりを魅せました!!』

 

 さて、勝利のウイニングラン……そしてスタンドに向かって、とびっきりの変顔で。

 

 あい~ん♪

 

「……なあ、他人の振りしたいんだけど、ダメか、キッド?」

 

 なんでやねん、ジョッキーの兄貴!?

 スタンドどっかんどっかんの大爆笑やんけ!?

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