Re:escapers   作:闇憑

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第3話

 いやぁ、学校の敷地に、あんな旨いモンがあるとは思わなんだ。

 畑じゃないし、牛や豚の飼料を漁ってるワケじゃないし。

 これならコッソリ帰れば、誰も怒られんだろう。

 

 てなわけで隙間から馬房に帰って来る事暫し。

 

「キッド……うっ、臭っ!! ニンニク臭っ!」

「うわ、アイヌネギ食ったな! あれ馬が食べちゃダメだって腹壊すぞ!!」

「おいおい、ってことは今度はドコから抜けたんだよ……」

 

 面倒見に来てくれた学生たちが、引きつった顔で世話してくれる。

 ええやん。

 誰のモンでもない。畑にあったワケでもないんだし。

 ちょっと人間の目線だと死角になる場所に、わっさわっさと大量に生えとったんよ。

 トリカブト食べるよりかはええやろ?

 

「……おい、生産学科、また放馬しただろう!?」

「は、はい!? 坂本先生!?」

「って、またキッドが、豚舎や牛舎につまみ食いに!?」

「それより酷い。とりあえずお前ら全員、ちょっと来い!」

 

 ありゃ……何だろう?

 

 馬房の外に、聞き耳を立ててると。

 俺の放馬に関しての雷の内容とは別に、大量の恨み節が混ざっており。

 どうも……俺が今回食い荒らしたのは、代々教職員に受け継がれてる、アイヌネギの穴場だったらしい。

 

 大変美味しゅうございました♪

 

「おい、マジで今度はキッドの奴ドコから……うわ、馬房の壁に穴があいてる」

「まさか、コツコツ蹴とばして、自分で開けて出て行ったんか、こいつ……」

「なんつーか、行動力と知性が全部食い気に逝ってるんじゃねぇか?」

「こんな授業の内容が全然アテにならない馬って、はじめて見た……」

 

 まあ、人間の頭脳がインストールされた馬に、オグリの食欲がついてくるなんて、思わんわなぁ……

 

 で……

 その後、生産学科の教室にて。

 

「とりあえずみんな、聞いてくれ。

 少し早いけど、キッド号を母離れしたあとに、追い運動本格化させよう。

 で、その分食事量も増やそう」

「マジですか、先生! キッド、まだ四か月も無いですよ!?」

「先生も、正直こんな特殊な馬は扱った事無いが、そもそもこの脱走癖だ。母馬と引き離されても、多分大丈夫だろう。

 運動に関しては……というより、そもそもセリに出る前にこんな食い続けたら、牛になっちまう。鍛えるというより、ほぼダイエットのつもりで無理はさせるな。

 ……デビュー前のエルコンドルパサーじゃないんだから」

「ああ……腹毛ぼうぼうで牛みたいだった、って何かで……」

「こいつがあんな名馬になるんですかね……そもそも、オグリの血統って、全然走ってないじゃないですか」

「先生もわからんが……脱走癖以外は、意外と従順だし人懐こい。

 最悪、こいつサーカスでも売れるんじゃないかと思ってる」

「あ、競走馬としては匙投げてるんですね……」

「割とな……正直、こんな頓狂な馬で、実習する事になったお前らには、済まんと思ってるよ」

「だったら、今から芸でも覚えさせましょうかね? お座りとか、お手とか……」

「それはやめろ」

 

 と、こんなやり取りがあったらしく、ずいぶん早く、親別れさせられました。

 が……

 

「キッドーっ! また脱走したなー!!」

 

 よーう、母ちゃん♪

 顔見に柵抜けして来てやったぜー♪

 じゃ、俺は追い運動の最中だから、アディオース♪

 

 乗馬した学生の牡馬(なんでも、馬術部の馬らしい)に追われながら顔見に挨拶に行くと……なんか、母ちゃんがバカ息子に頭抱えてる態度取ってるんですが。

 

 ……まだ若いのに、老けちまうぞ、母ちゃん?

 そいえば、来年に備えて、弟か妹、仕込んだりしてるのかなぁ?

 

 そして……親別れから数日後。

 俺にとって、農業高校生活最大のライバルが、我が前に現れる事になる。

 

「お? 蜂屋? それ、学校の大掃除の時に見つけた捨て犬じゃん?

 拾ってきてどーすんの?」

「いや、こいつ調教して、キッドの見張り番させればいいかな、って。

 どうも授業中とか深夜とか、俺たちが世話できないタイミングで良く逃げてるみたいだし」

「あはは、キッドの見張りなら、さしずめ湖南とでも名付けるか?」

「じゃ、それでいいや。

 っていうか、結構飲み込み早いぞ、こいつ……」

 

 そう、見た目は子犬、頭脳は成犬の雑種なこいつ……湖南号が、我が農業高校生活の最大の障害として、割とダメ血統な由緒正しき純サラブレッドの俺に、立ちはだかりやがったのだった。

 

 何しろ……

 

 ワンワンワンワンワン!!

 

「湖南の合図だ!」

「先生、またキッドが」

「……………いってらっしゃい」

 

 座学の授業中を狙って逃走しようとすると、こいつの鳴き声で直ぐに農高生が集まってきやがる。

 ええい、この犬チクショウめ!

 我が疾走と自由と食事を阻むとはーっ!!

 

「分かった、分かった。飼い葉やるから馬房に戻れ、な!?」

 

 ちぇーっ……アイヌネギまた食いたかったのに。

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