Re:escapers   作:闇憑

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ウマ娘編……『振り向けば、そこに居るのはまぎれもなくヤツさ』

 俺の名前は『ゼブラ』。

 左腕に人参型サイコガンを仕込んだ、宇宙をまたにかける賞金首のシマウマ娘だ。

 

 今日も相棒の『アーマロイド・ターボ』と共に『忍亀号』で宇宙を駆け巡りながら、海賊ギルドの大幹部にして宿敵『クリスタルゴルシ』との死闘を……

 

 

 

「って、何考えてるんですかバカ姉ーっ!!

 オペラはオペラでも誰がスペースオペラを注文しましたか、このおバカー!!」

 

 めぎょす!!

 

「あぎゃあ!

 って………痛ってぇなぁ、わざわざツッコミにネリチャギかましてくるなよ。

 ちょっとした冗談だろうが」

 

 完全キレッキレモードの妹――クアッドの奴に、脳天にカカトを落とされて抗議するも。

 

「冗談になってない時期に冗談言うからこうなるんです!

 オペラオー先輩との勝負まであと少しなんですよ! 食べ放題がかかってるんです!」

 

 額にカンシャク筋を浮かべて、断言して切って捨てられた。

 

「いっそ『シナリオ出来ませんでした』で降参しようぜー……大体俺に振るなよ、もう何年も執筆なんてしてねーんだぞ? とっくに錆びてるよ」

「口火を切ったのは姉さんでしょうがぁ! 学園で噂になってるからもう取り消せませんよ!!」

「言ったっておめぇ……俺が書いてたのはライトノベルで、正統派オぺラのシナリオなんて書いたことねぇんだ。やるならやるでさっきみたいなスペースオペラになっちまうよ?

 ……いっそいつものように笑いを取りに行く方向で考えたほーが無難だぜ?」

「……ちなみに、どんなふうに?」

「いや、だから最悪『出来ませんでした、あっはっは』って」

「姉さん……『笑いを取る』のと『笑いものになる』のとでは、天と地の違いがあるって解ってます?」

「そりゃ解ってるけど……何度も言うが、正統派オペラのシナリオなんて思いつきもしねぇし、そもそもオペラなんて見た事もねーんだよ俺は」

 

 白紙の原稿を前に、俺は予想だにしなかった難題に頭を抱えていた。

 

 

 

 話は少々遡る。

 実家が貧乏時代に、糊口を凌ぐために物書きの真似事をしていたのが、たまたま周囲に居たウマ娘にバレて暫くした後。

 

 何故か食堂で、オペラオー先輩が俺に絡んで来たのである。

 割と身振り手振りに大げさなフリがあったが、要は端的に……

 

「キミと勝負がしたい」

「レースで?」

「ああ」

 

 あの、オペラオー先輩……そちらの同期のドトウ先輩が、すげージットリした目でこっち見てきてるんだけど……

 

「そいつはトレーナーの立てたスケジュール次第……ってヤツなんですが」

「君のウイニングライブは何度か見た。

 歌もそうだが、何よりダンス……とくにあのタップダンスは見事だった。

 ……不覚にも魅了されたよ……このボクが」

「そら気に入って頂けたのは何よりですが……」

 

 解らない。

 オペラオー先輩が何故俺にそこまで絡んでくるというのか。

 

「理解できない、って顔だね?」

「ええ、まあ」

「ありていに言えば……君のダンスに心を奪われたのさ、『怪盗』君」

 

 ……先輩、俺に百合属性は無いんですけどね……

 

「……探偵なんですけどね、俺……」

「君の本質はそっちじゃないだろう?

 あのダンスは太陽の下に正義と真実を明らかにする側のモノじゃない、月の薄闇の中で目と心を奪い謎を残す側のモノだ。

 僕の目は誤魔化せないよ」

 

 やだこの人……変人の割にカンが鋭すぎ。相手したくねー……

 

「左様で……ま、個人的な信条として俺は『探偵』なんで、そこんとこよろしく。

 で……勝負をお望みって事でしたが?」

「あえて光を装うか……まあいい。

 ボクの望みは一つ、君をバックに従えてウイニングライブをしたい。

 ……奪われたままで居るのは、僕の矜持が許さない……そういう事だよ」

 

 うへぇ……

 そりゃ人間道を歩いていたら、突然ムカつくツラした相手に喧嘩を売った売られたなんて話は、ザラにある事でございますが。

 要はそういう事だろうがね……

 

「君が今、何を考えているか当ててみせようか?」

「当ててみせるも何も、ストレートにどう口実つけてバックレてやろうかと考えております」

 

 オペラオー先輩の問いに、直球で返答を投げつける。

 ……正直めんどくさい。しかもこれで学園でも上位にランクする強者だからタチが悪い。

 

「ふふふ、怪盗にスポットライトの下は居心地が悪いのかな?」

「どんな恥ずかしがり屋でもセンターの光を浴びたいのは、学園に通うウマ娘なら当然でしょう?

 ……あいにく、バックにあたるスポットライトの気分が良くない事は、『奴』を相手にした時に良く知ってるんでね」

「奇遇だね……ボクもウイニングライブのステージは、センター以外に興味が無いんだ」

「挑発せんでもらえます?

 これでも喧嘩っ早いほうなんで、勝手にレースの約束なんかすると、またトレーナーの胃に穴が開きかねんのですよ」

 

 何しろ、下手に注目を集めてしまった上に、やらかして何度も釘を刺されてるのである。

 

「と、言うわけで、すんませんがトレーナーを介してください。

 何しろ、あと一度やらかしたらクビだって脅されてるんで」

「キミほどの逸材を、か? それはトレーナーの目が曇ってるとしか言えないな」

「いえ、石河トレーナーが、です。

 いい加減ストレスからくる胃痛が限界に近いので『次なにかやったら、チーム『アルデバラン』解散して、もう俺トレーナー辞める』って泣いてすがられました」

 

 有能で義侠心がありながら人の好いトレーナーではあるのだが……いかんせん、以前フリーダムに少しやり過ぎたせいで、胃痛が少々限界に近付きつつあるのである。

 

 ……ちょっと宇宙に行ってきたダケなのになぁ……

 

「確かに俺個人はドコでも拾ってもらえるかもしれませんが、同じチームのクアッドが確実にキレるし、結局スピカに移籍したリンからも白い目で見られかねんので」

「解せないね……キミならそんな(しがらみ)のオリなんて簡単に抜けられるだろうに」

 

 そらそうですがね……

 

「三食昼寝付きでゲームも走るのもし放題。家族との面会も常時可能で出入り自由の『牢屋』だったら、居心地が良くて住みついちゃう泥棒だって居るでしょうよ?」

「なるほど、道理だ……キミほどの怪盗を捕らえ続けるには、頑丈な鉄格子ではなく快適な自由と食事と寝床が必要というワケか」

「そういう事です。ってわけで、トレーナー同士のやり取りを介してくださいねー♪

 あ、あと探偵ですんで悪しからず」

 

 そういって、その場を切り抜けはした……の、だが。

 

 

 

「正気ですか?」

 

 数日後。

 石河トレーナーに、次の芝2200mレースの出走予定表を見せられ、俺は絶句した。

 

「オペラオー先輩、ドトウ先輩、ロブロイ先輩、タキオン先輩に……げっ!! スイープトウショウの奴まで……俺あいつ苦手なんですけど!?」

 

 どこのG1レースだ……と言いたくなるようなメンツが揃ったレースに、いきなり放り込まれる事になったのである。

 

「回避できません? これ?」

「無理だね。君のローテーションを崩すことになるし、それに先方の強い要望なんだよ……特に、オペラオー君が相当にトレーナーにわがままを言ったそうでね」

 

 あ、あんにゃろう……本気で手段選んでねぇな!?

 

「で、それに対抗したロブロイやタキオンのトレーナーも、ウマ娘との話し合いの結果了承して……」

「も、もういいっす……はい、大体の事情は了解しました……」

 

 うっそだろう? これ、G1じゃないんだぜ……?

 わっ、割に合わねぇぇぇぇぇぇぇ!!

 

「姉さん、大丈夫?」

「お前に朝、鼻フックで起こされた時くらいダメかも……」

「あ、そう。ならまだ余裕ね、安心した」

 

 無駄に頼もしい謎の信頼感で去っていく、妹様。

 

「……一緒にレース出て、助けてくんない?」

「嫌♪」

「デスヨネー……あああ、どうしたものか」

 

 そのまま部屋を出て、食堂でモリモリ昼飯を食べてると、オペラオー先輩が通りがかったが……こちらを一瞥しただけで、食事の乗ったトレーを手に去っていく。

 

(言葉は不要。もはやレースで語るのみ、ってか……)

 

 降りかかった災難ではある。あるのだが……

 

「少し……気に入らないな」

 

 強いウマ娘と走ることそのものは、まだ問題はない。今回のはやり過ぎ気味ではあるが、学園で走るウマ娘としての宿命として何とか受け止めはしよう。

 だが……今のオペラオー先輩は、大切な『視点』を欠いている。それでは『同じレースで走る意味がない』。

 

「まあ、これも……『探偵』としての務め、か」

 

 そう呟くと、俺はドトウ先輩の部屋に、足を向けた。

 

 

 

「さあ、第〇〇回、×◎杯……GⅢとは思えないメンバーが勢ぞろいしました。

 1枠1番、バーネットキッド! 2枠2番アグネスタキオン、3枠3番スイープトウショウ、4枠4番メイショウドトウ、5枠5番ゼンノロブロイ、6枠6番、テイエムオペラオー!

 正直、なんのG1レースだと疑いたくなるウマ娘たちが揃っております!!」

 

 ほんとそーだわ。

 オペラオー先輩は兎も角、なんでタキオン先輩やロブロイ先輩が来たのやら……スイープの奴はある意味俺によく突っかかって絡んでくるから分かりやすいが。

 

「さあ、各ウマ娘ゲートに入り体勢完了……今スタートしました!

 各ウマ娘揃ってスタートして、まずは先頭バーネットキッド! ハイペースを周囲に強いる怪盗の逃げ足は今日も健在か!」

 

 まあ、どんな相手でも俺がターフでやることは単純……ちぎって逃げ切る、それだけではあるのだが、それが一番難しいメンツであることは間違いない。

 

「続いて4番メイショウドトウ、少し空いて5番ゼンノロブロイ、6番テイエムオペラオー、2番アグネスタキオンが一団となって、3番スイープトウショウはこの位置か」

 

 もう既に、俺のスタミナとタフネスは学園中で知られている。

 付き合うと地獄を見る羽目になる事は確定している以上、チームプレイが原則禁止されている学園のレースで、わざわざ鈴になりに来るウマ娘も存在しない。

 だが……

 

「さあ、第4コーナーをただ一人突っ込んでくるバーネットキッドいつもの光景! そして逃げる怪盗を捕らえんと、後続が加速を始める!! スイープトウショウが、ゼンノロブロイが、アグネスタキオンが加速するなか、一歩リードしたのはやはりテイエムオペラオー! 前にいるメイショウドトウを捉えてバーネットキッドにせまる、しかしドトウも負けていないここで加速!!」

 

 第4コーナーを回ってからのヤバさは身に染みている。

 そうさ、彼らとは『独壇場』が違う……こうなるのは、逃げ切りウマ娘の宿命である。

 だが……

 

「ぅああああああ!!」

「ドトウ……邪魔を……するなぁ!!」

「あなたに……あなたに追いつくのは……超えるのは、私です!!」

「!!?」

 

 そして……

 

「なんとなんと!!

 1着はメイショウドトウ!! 2着にバーネットキッド! テイエムオペラオー3着に敗れました!!」

 

 

 

「……なる、ほど……

 ボクはキミを見ていたが……敗因は『ボクを見ている者の存在を忘れていた』って事か」

「そーいう事です」

 

 ウイニングライブで、仲良くドトウ先輩のバックを務め上げた後に。

 俺が『気に入らなかった原因』に思い至ったオペラオー先輩が、楽屋で俺に声をかけてきた。

 

「振り向けば『ヤツ』がいる……必ず手に入れたい勝利(もの)があるなら、まず警戒すべき相手は前になんか居やしませんよ」

「ふふ……逃げウマ娘の君らしい言葉だね……少し高くついたが勉強になったよ。

 ……ああ、そうか、君にとってのドトウは……」

「……まあ、そういう事です……」

 

 苦い。

 とてもとても苦い思い出が、脳裏から口に広がる。

 

「正直、キッツいんですけどね……こんな運命を考えた三女神をタタリたくなりますよ、ホント」

「それは彼女にとっても同じ思いだろうね……だが、同時に感謝もしているのだろう?」

「……それは学園を卒業した後に考えますよ……」

 

 指された図星を誤魔化して。

 俺は溜息をついた。

 

「さ、後ろで『奴』が待ってますよ、オペラオー先輩」

 

 薄く開いた楽屋の扉から、チラチラ覗いてくるドトウ先輩。

 

「解っているさ。

 もう月に惑う事はないだろう……ありがとう、キッド」

「どういたしまして♪」

 

 そう言って、去っていくオペラオー先輩。

 そう、これで話が終わってくれたら……全ての物事はスマートに終わってくれたのだが……

 

 

 

「だから姉さん!

 こういうのはオペラじゃなくて『コント』って言うんです!!

 食堂で絡んで来たオペラオー先輩とドトウ先輩に、聖蹄祭でオペラで対抗するって言いだしたの姉さんですよ!」

「しょうがねーだろー、久々に文章書いてるから全然筆が進まねぇんだよ……想像以上に錆び付いてて、得意ジャンルしかシナリオ書けないんだよ」

「もうゴールドシップさんなんかノリノリで期待してるんですからね! 今更後には引けませんよ。

 締め切りまでカンヅメですからね! 姉さん!!」

「ひいいいいいいい!!!!!」

 担当編集と作家みたいなノリで、妹に詰め寄られる俺。

 

 結局。

 最終的に、割と発狂気味に修正しながら書いた『ゼブラ』を上演する事になり、オペラオー先輩たちとは別方向で大うけした結果、食べ放題の懸かった勝負がドローになったのは……また別の話である。




キッドとクアッドは、オリジナルチームの『アルデバラン』という事にしました。
末妹のリンちゃんは『アルデバラン』から『スピカ』に移籍した、って形に。

なお、公式がアルデバランを作ったら、変更する予定です。
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