「……姉さん、また……」
「気にすんな。飯を食え」
最近、何か視線を感じ。
『誰だろう?』と思って振り返ると、そこに居るのが決まって文学少女風のウマ娘……ゼンノロブロイ先輩だったりするのである。
そんな事が、ここ数日繰り返されていた。
「あの、何か……?」
「い、いえ、その……」
問いかけても、どうも要領を得ない……そのくせ、視線はロックオンしたままなのである。
と……
「そういえば、姉さん未だに編集部から『アルタイルの世界』とか、色んな小説の続き書いてくれって来るけど書かないの?」
クアッドの言葉に、俺はあっさりと返す。
「言うて『アルタイルの世界』はもう完結させただろ……あれで終わりだよ」
「……編集さんが変わってやる気なくしたのは解るけど、完全に男坂エンドにしちゃうのってどうなのよ?」
「知らんがな……右から左に流すだけの、あんなアホ編集を相棒に創作する気なんてとっくに失せたよ。
くっだらねぇ編集部の派閥争いで、貧乏時代に世話になった俺の担当までアッサリ変わったんだ。いちおー全部完結させたし、もうアソコのレーベルに愛想も義理も、とっくに尽きたしな。
こーしてトレセン学園に合格して、ウマ娘としてターフ走って飯食ってライブして、ってやっていられるんだから、今更作家業なんてもうやらねーよ」
「じゃあ何でファンレター取っておいてあるのさ?」
「…………何でだろうな?
まあ単純にネタも切れ気味だったから、いい頃合いだったんじゃねーの?」
「その割には『ゼブラ』のシナリオ、最後はノリノリで書いてたじゃない?」
「切羽詰まっていただけだっての……いろいろとな」
そんなやり取りをしながら、昼飯をもっしゃもっしゃと食べていると。
「……?」
ロブロイ先輩の耳が、がっつりこっちに向いているのである。
(一体なんなんだかなぁ……)
「……あの、バーネットさん、これを」
翌日。
ロブロイ先輩に呼び出された俺は、一通の手紙を渡された。
「キッドで構いませんて先輩……それよりこれ……え?」
「こ、言葉じゃ上手くまとめ切れないので……読んでください」
「え、いや、俺に百合属性は無いんだけど」
「そういうんじゃないです、とにかく読んでください」
そう言うと、すたすたと去っていった。
「……???
だから俺に百合属性は無いんだけど」
まあ、自分でも口調と勝負服含めて、男装系に近いのでソッチ方面からきゃーきゃ言われるが。
基本的にウマ娘としてごく普通にノーマルなつもりである。
「まあ、何なんだか……え?」
その手紙の内容を見て。
俺は……少し後悔した。
『アルタイルの世界』……昔、貧乏時代に食いつなげればと書いた文章が、そこそこ売れて飯のタネになった事があったのだが。
……まさか、ロブロイ先輩がファンだったとは……
というか、ロブロイ先輩からのファンレター、まだ手紙入れの箱に入ってるよ。
「……………しまった、悪い事したな……………」
確かに、ほぼ引退した身だし、今更だと思って作家バレのカミングアウトはしたものの。
物書きなんて夢売ってナンボなのに、引退したその裏側のエグい内容を、聞き耳立ててたとはいえファンの前で聞かせてしまったワケで。
……そりゃ、たまったもんじゃないわなぁ……
真摯な、それでいて悲痛な内容のファンレターを前に、俺は少々頭を抱える事になった。
「ほう? 生徒会の広報誌に小説を掲載したい、と?」
ロブロイ先輩のファンレターを受け取った足で、生徒会室に赴いた俺は。
とりあえずルドルフ会長に掛け合ってみる事にした。
「ふむ……小説サイトとか、そういった所に投稿するのではだめなのかね?」
「あー、一応俺、元本職だったんで、会社との契約とか結構五月蠅いんです。
もうクソと化したアソコで書く気なんて欠片も失せてるんですけど、学園内の話で生徒会活動の一環って事にすりゃ、まあ営利じゃないしギリ建前としては通るかな、って」
「なるほど。
それは最悪、君が書いていた古巣の出版社と揉めた時、学園や生徒会に尻ぬぐいをしてくれ、って言ってるようなモノなのだが?」
「……バレましたか」
だめかぁ……それなりに権力持ってるし、日陰で細々とやるにはいいかと思ったんだけど。
しゃあない、どっか匿名で落書きみたいに描くかなぁ……二次創作です、みたいなツラして何とか……
「さーせん、お手数をおかけ」
「いいだろう」
「……は?」
「私も続きが気になっていたんだ。『アルタイルの世界』」
……マジですか、会長……
「続きを期待しているが……ああ、その代わりに君には生徒会に入ってもらうぞ」
「はい?」
「当たり前だろう。
生徒会活動の一環で行われる業務を行うのに、一般生徒と生徒会のメンバーとでは建前の強さが段違いだからな。役職は……広報あたり、かな?」
「それでよろしいと思います、会長」
エアグルーヴ先輩が同意する。
「あの、生徒会って掲載が終わったら降りるとか」
「出来ると思うかね?」
「こ、こき使う気満々ですか!?」
「使わない理由がドコにあると思うのかね、学年成績トップの有能問題児君。
幸い、君のライバルも生徒会に所属する予定なのでね……ちょうどよかろう」
「嘘でしょう……マジっすか……」
そして……
「で……生徒会の広報誌に掲載中の小説が終わるまで、期間限定の『広報役員』って事になったの?」
「ああ、利用しようと思ってモノの見事に嵌められたよ……さすが会長だわ……」
カチャカチャとPCの文章アプリに向かってタイピングしながら、クアッドの問いに答えた。
「小説とは別にガチで広報の仕事とか振ってきやがる……ゴルシと一緒にお笑い芸人としてのトークの仕事とか、どーなんよホントにもー……」
「いいじゃない、素で芸人みたいなモンなんだし」
「勘弁してくれよ……まあ……」
会話は続けながらも、タイピングの手は止めない……否、『止まらない』。
数年分、脳内で溜め込んだネタや練ったシナリオを、ただひたすら文章化、言語化していく作業は、作家時代とは比にならないほど自動的なレベルで簡単だった。
「なんだ……ファンレターってのは、ありがたいもんだよな、って改めて思ったわ。
ってわけで、手伝えよ。俺的『初代担当編集』様」
「はいはい、わかったわよバカ姉」
後に……それなりに好評を博した『続・アルタイルの世界』は、生徒会広報の一助となり。
ついでに、あのファンレターを渡された現場を見て、鼻血を吹いて意識を飛ばしたアグネスデジタル先輩が、無意識のうわ言で『腐った掛け算』を連呼した結果。
俺が『ロブロイ先輩と百合方面でデキてる』なんて噂が学園中に流れて、二人揃って大慌てで噂を打ち消すのに奔走する羽目になった事は、言うまでもない話であった。
少し結末を変更しました。