Re:escapers   作:闇憑

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第4話

「おお、よしよし♪

 しっかり見張り番してたな、湖南♪」

 

 今日も今日とて、馬房の脇に建てられた犬小屋から、あの忌々しい犬畜生が可愛がられてやがる。

 

「お座り」

「ワン♪」

「お手」

「ワン♪」

「ちんちん」

「ワン♪」

「よーしよし、いい子だいい子だ、キッドの見張りご苦労様♪

 ごはんたっぷりあげようねー♪」

 

 しっかりと芸まで躾けられた上に、がっつりとドッグフード貰ってやがる。

 よーし……今から目にモノ見せてやる、犬畜生め。

 こちらが上だという事を証明してくれるわ。

 

「じゃあ、キッドを追い運動に……おい、キッド!?」

 

 そのまま、尻をつくようにお座りする。

 

「……え?」

「ひ、ひょっとして……湖南に躾けてたのを、見てて覚えたのか!?」

「う、嘘だろう!?」

 

 と、一人の生徒が、意を決しておずおずと前に出て……。

 

「お、お手」

 

 ほい、と差し出してきた手に、前脚をぽん、と乗せる。

 

「ちんちん……は、流石に無理があるな」

 

 ほう、やってみせようではないか……せぇのっ!!

 

『うわぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 そりゃまあ、0歳の子馬とはいえ、200キロ超えた馬体が棹立ちになったらデカいわなぁ。

 よっ……これ、バランス難しいな……でも、何とか……ん、よし!!

 一歩、一歩……ああ、二歩が限度だ。

 

「あ、歩いた……」

「う、嘘!?」

「こ、こやつ、ついに二足歩行への進化を!!」

 

 さあ、芸は見せたぞ。食物を寄こすのだ。

 出来たら甘味な果物なんぞ所望じゃ。献上いたせ。

 と……

 

「おーい、お前たち、何やってんだー?

 キッドの追い運動だろう?」

 

 追い運動のために乗って来た馬の上から、担任の先生が声をかけてきた。

 

「せ、先生、キッドが、キッドが!」

「どうした?」

「お座りとお手とちんちん覚えちゃいました!」

「はぁ?」

 

 

 

「いよいよサーカスが視野に入って来たな、この馬……」

 

 農業科から分けてもらった砂糖大根を、もっしゃもっしゃと飼い葉桶から食べて、馬房でのんびりしてる時に、外からそんな声が聞こえてきた。

 

「一応聞くが。

 本当にお前ら何もしてないんだな?」

「してません!」

「確かに湖南号に躾けの一環で芸を教えてましたけど、まさかキッドが真似して覚えちゃうなんて……」

 

 と……

 

「もしかして……なあ、石河?

 お前、湖南にお座りとかお手とかさせた後、ごはんあげてるよな?」

「そりゃあ勿論……まさか……」

「ああ、『芸をすれば飯が貰える』って、横で見て変な学習しちゃったんじゃないか!?」

 

 その言葉に、一同、絶句。

 

「なんて頭のいい馬科(バカ)なんだ……」

「おかしいな、俺たち育ててるのって、競走馬だよね?」

「く、食い意地のためにそこまでやるか……信じらんねぇ馬だ」

 

 おののく学生たちを尻目に。

 対抗意識を向けてきた犬を、馬房からせせら笑う。

 ふはははは、同じ芸でも、犬とは違うのだよ、犬とは。

 

「とりあえず、これ以上変な芸教えないように。

 もしセリの最中に芸を始めたら、いよいよこいつ、競走馬じゃなくてサーカスに直行しちまうぞ。いいな?」

『はい』

 

 

 

 

 ……数日後。

 

 この日、初めて頭絡とかつけさせられる事となり。

 

「つ、着いたな……」

「着いちゃったね……」

 

 そら、中身は人間がインストールされとりますからねぇ。

 

 で、人間と一緒に歩いたりする調教も、それはそれはもう簡単に終わり。

 

「これじゃ実習にならんな……」

 

 ぼやく担任の先生。

 どうも、頭絡やら何やらを装備させて、馴致させるための授業だったようだが。

 あまりにも簡単に終わり過ぎて、採点に苦慮しているようである。

 

「あー、とりあえずな、キッド号が、かなり特殊だと思え。

 普通は、嫌がって振り払おうとするのを、なだめたりしてコミュニケーションとりながら言う事聞かせていくんだからな?」

『先生……そりゃもう、みんなわかってますって』

 

 生徒たちの視線の向こうに。

 犬と一緒になって、お座りとお手をキメて餌をねだる、芦毛の馬体が、そこにあった。

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