Re:escapers   作:闇憑

41 / 103
阪神競馬場 第11レース  第46回宝塚記念(GⅠ)その2

『阪神競馬場、スタンドは白一色。既に夏競馬の趣です。古豪八歳馬のG1制覇か、それとも年度代表馬の4戦連続G1勝利か、はたまた無敗の皐月賞馬による三歳宝塚制覇か。どの馬が勝っても、史上初の快挙となります。

 第46回宝塚記念スタートが近づいています。

 解説は大塚守男さんです』

『はい』

『まず注目はなんといっても、一枠一番、バーネットキッド。

 無敗で皐月賞と朝日杯のG1を二つ。クラシック戦線の王者として迎え撃つ立場を蹴って、あえて古馬に挑戦者として挑みに来た、まさに大胆不敵な世紀の大怪盗ですが、いかがでしょうか?』

『そうですね、馬体重も502キロと、前走から+4キロ。

 休養明けにガレて体重が落ちるかと思ったらそんな事はなく、むしろ二か月という時間を使ってキッチリ仕上げてきましたね。

 元から大型の馬でしたが、更に体格もガッシリして他馬に引けを取らないモノにはなっていますが……いかんせん、相手は古馬ですからね』

『やはり、厳しいものがあると』

『どう考えても面子がね。

 ゼンノロブロイ、タップダンスシチー、リンカーン……これだけのタレントを相手に、どこまで逃げ切れるのか、むしろそちらのほうを楽しみにしていますよ』

『そういえば、人気の方がどうなるのかな、と気になりましたが一番人気は一倍台でタップダンスシチーになりましたね』

 

 

 

 ゲート入りの直前、解説に言われてふと、気づいたんだけど。

 

 ……考えてみると俺って、一番人気になった事って今まで無いんだよね……

 

 デビュー戦は2桁後半の倍率だったし。

 その後もなんだかんだと倍率1桁台には収まってたけど、結局三番人気とか二番人気ばかりで。

 皐月賞も二番人気でディープのヤツのほうが上だったし、今回も最終的に四番人気……うむ、やはり芸か! パドックのアピールと芸が足りないんだな!?

 よし、レースが終わったら磨きをかけねばなるまい……何かこう、新ネタを考えねば。

 

「キッド……もう三歳なんだからいい加減、パドックで落ち着きとか持ってほしいんだけどなぁ……別周にしようって話も出てるんだぞ?」

 

 なに、それは独演会という事でいいんだな!?

 い、いやしかし、そこまでまだネタが……ピンで独立してやるには、まだ少し早い気も……

 

 

 

『さあ、割れるような歓声です。この歓声で入れ込むような馬が無いか気になるところですが、長江さん』

『はい、大丈夫ですね、今、スイープトウショウがゲート入りを始めました』

『先入れですね?』

『はい、馬場入りの際に少し渋っていたのですが……』

 

 

 

 まあいい、芸の事は後で考えよう。

 初めての一枠一番。逃げ馬にとって最良の枠順のゲートに入る。

 意識が切り替わる。

 さあ……競走馬の時間だ。

 

 

 

『さあ、最後タップダンスシチーが今、ゲート入りしました。

 注目は先行争い……スタートしました!』

 

 うぉりゃーっ!! 1F11秒台の爆速ダッシュじゃーい!!

 

『各馬好スタートを切る中、ポーンと抜け出したのは、やはりと言うべきかバーネットキッド! スタートの良さは古馬に引けを取っていません。続いてタップダンスシチー外から行った、コスモバルク真ん中か、内からビッグゴールドはどうするのか』

 

 調教を受けてる時に、気づいた事がある。

 俺、コーナリングに無駄があったんじゃないのか、って……

 だから……

 

『ゼンノロブロイは中団か。

 さあ、他馬を引き離したバーネットキッドが凄い勢いで坂を駆け上がり、第一コーナーに突っ込んでいく』

 

 さあ、新しい武器を見せてやる!!

 

『第一コーナーから第二コーナーまでのカーブをスルっと抜けたバーネットキッド。このままではマズいと後続がややペースを上げていく。向こう正面に入って前半1000mの通過タイムは57秒9。速い速い、非常に速いペースでバーネットキッド飛ばし続けます。もう10馬身差は超えていると思われます』

 

 よし……我ながら綺麗に急カーブを曲がれたぞ!!

 あとは……

 

『向こう正面から第三コーナー回って加速して、若き怪盗を捕らえんと集団がジリジリと追い上げてきた!』

 

 ここの下り坂を利用して、速度を維持しながら軽く息を入れつつ手前を入れ替えて……

 

『さあ、第四コーナーにただ一頭突っ込んできたバーネットキッド一人旅!

 後続が逃がすわけにはいかないと、最後の直線一斉に動き出した!!

 タップダンスシチー追いすがる、中からリンカーン、リンカーン、外からスイープトウショウ、スイープトウショウ!! ゼンノロブロイも来た、ゼンノロブロイも来た、ハーツクライ、ハーツクライ、後続の古馬集団が一斉に無敗の三歳馬に襲い掛かる!』

 

 うおっ、古馬集団すげぇ末脚のキレ味……なかでも一頭なかなかキレる脚のヤツがいる。

 だから……さあ、皐月でディープ相手に見せた武器の使いどころだ!!

 

『しかし粘る、粘るバーネットキッド! 皐月で見せた二の足が炸裂!!

 追い上げるゼンノロブロイ、ハーツクライ! 一歩抜けたのはスイープトウショウ!! 届くか、届くか、届くか!!』

 

 爺さんたち、キレはすげえよ……多分俺じゃ勝てねぇ……でも、息が限界だろ? だって『ディープ程キレが長持ちしてないぜ?』それじゃもう今の俺には届かねぇよ……

 

『しかしスイープ届かない!! 今、ゴールイン!!』

 

 悪いな……『あいつのためにも』今の俺は、負けてやれねぇんだよ……

 

『なんということだ……なんという事だ! 今、歴史が作られました第46回宝塚記念!! 1960年の開催から実に45年目にして、初めて三歳馬が勝利の栄冠を歴史に刻みました!! タイムは2分10秒5!! ダンツシアトル以来、史上2度目の10秒台!! もはや強さに疑いなし!!』

 

「おっしゃああああああ!!」

 

『三本指を立てて堂々と吠えた騎手石河!! 勝利の雄たけびが阪神競馬場に響きます!

 阪神のお宝を見事頂戴して圧巻の走りを魅せた大怪盗! 正に、競馬の歴史に同年二頭のダービー馬を送り出したに等しい勝利です!! 二着はスイープトウショウ、ハーツクライが三着!!』

 

 やったぜ……有馬で待ってろ、ディープ……って、え?

 

「わっ、こらっ!」

 

 な、なんだ?

 

『おっと、スイープトウショウが……バーネットキッドに近寄っていきますが!?』

 

 ……じーっ……

 

 なんだよおい……って集中してて気づかなかったけど、お前牝馬か、なんでおるん?

 って……うっ……この匂い、これ、もしかして、フェロモンってヤツか?

 

「なあ、射手添くん……スイープ、もしかしなくても発情(フケ)てない?」

「た、多分そうっス……これヤバいかも」

 

 いやいやいやいやいやいや!! ボロや尿ならお目こぼしはもらえるだろうけど、合体はやばいって、何考えてんだねーちゃん!!

 

『私、速い(ひと)好きなの……』

 

 きゃー、待ってー!! 合体は種牡馬と繁殖牝馬になってからー!!

 馬券は確かに二十歳からだけど、ここで始めたら別の意味でR18の世界になっちゃうー!!

 

 退く俺。迫る彼女。

 鞍上は必死に言う事聞かそうとしてるが、彼女はまったく聞いてくれやしない。

 

『待って、待って。俺も君も競走馬! まだ繁殖馬じゃないから、まだ早いから!!

 あああ、助けて馬主君ー!!』

 

 かくして、一着、二着の馬によって、宝塚記念の第二レースが始まる事になった。

 なお、俺と彼女の競走馬としての名誉のため、そして競馬関係者の尽力を証明するため、第二レースも無事、逃げ切った事をここに記しておく。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。