Re:escapers   作:闇憑

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宝塚記念を終えて。

勝利者インタビューにて

 

「石河騎手、三歳馬初の宝塚制覇ですが、如何でしたでしょう?」

「もう、なんというか……感無量ですね」

「終わってみれば、まさに圧勝といったレース展開でしたが?」

「いや、最後の直線は本当に怖かったですよ……ただね、もう馬を信じるしかないというか。パドックのおふざけとは裏腹に、キッドの勝負根性は普通じゃないですから」

「では、最後に一言」

「そうですね……『有馬が楽しみです』と言いたいですが、まず次の秋天、そして……テキやオーナーの判断ですが、あるならばその前のレースを着実に取りに行きたいと思います」

「本日は、ありがとうございました」

 

 

 

(おっ……キッド、コーナリング上手くなった?)

 

 馬主席から俯瞰して見ていて気付いたのだが。

 以前は、こう……力任せに加減速しながら強引な曲がり方をしていたように思えるのだが。

 今回は坂を上り切った勢いのまま、急な第一、第二コーナーをキレイに曲がっていたのである。

 

 やがて向こう正面から第三コーナーを回って下り坂、そして第四コーナーに入り……

 

「いけっ!」

「そこだっ!!」

 

 とか、出走されてるオーナー様方の声が響く中……

 

「頑張れ……キッド」

 

 小さく呟いた俺の小さな祈りは……届いた。

 

『うわああああああああああああ!!』

 

 馬主席に、客席のどよめきは届かない。

 何故なら……

 

「嘘だろう」

「ばかな……」

「凄いなぁ……」

 

 馬主席そのものが、オーナーたちの大きなどよめきに包まれていたからである。

 

「おめでとうございます! 蜂屋オーナー!!」

「あ、ありがとうございます……」

 

 やがて……大きな拍手が馬主席全体を包む。

 だが……

 

(か、金戸社長も吉沢社長も……っつか、その場の全員、眼の底が笑ってねぇぇぇぇぇぇぇ)

 

 胃がキリキリと痛む感覚に襲われながら。

 ……ああ、昔行きつけてたカードショップでも、割とそんなノリで切磋琢磨してたな、と思い出す。

 と……

 

「え……?」

 

 なんだろう、二位になった馬が……え、なんか追いかけっこが始まってるんだけど。

 

「宝塚って第二レースがあったの!?」

「いや、違う。ここからじゃわからないけど、明らかに何かトラブってるよ」

 

 園長の言葉に『ですよねー』と納得するも。

 下に降りて表彰式に出るまで、原因が全くわからなかった。

 

 

 

「おーおーよしよし……いきなり知らない牝馬に発情して迫られたら、そりゃビックリするわなぁ……」

 

 珍しく、ひんひんと泣いて甘えてくるキッドの奴の頭を撫でながら慰めてやる。

 

「考えてみると、ウチの厩舎にも牝馬は今いないですし、未成熟な2歳の新馬戦から札幌あたりまでしか、キッドは牝馬と一緒にレースすらしていないんですよ」

「ああそうか、大体G1って言ったら牡馬と牝馬は別だもんね……男子校の高校生がいきなり年上お姉さんに迫られたようなものか……そりゃビックリして逃げ出すわ」

「大丈夫ですかね……繁殖の時にトラウマにならないといいんですが。

 人間に育てられた事といい、少しスペシャルウィークみたいな傾向がありません?」

「えーと……繁殖まで行けるんですかね? 血統的にかなり怪しすぎる自覚はあるんですが」

「いや、アウトブリードとして重宝されると思いますよ?

 今、キングカメハメハが凄いですから」

「ああ、あの……そうか、彼が現役ならこのレースでキッドとかち合ってましたね」

 

 そして……半泣きのキッドと一緒に、ウィナーズサークルで写真を撮ったのだが。

 その後……

 

「は? 馬運車がパンク? え、マジ!?」

「はい、今、代わりの馬運車を手配していますがドコも手一杯なようで」

「うーん……阪神競馬場に事情を話して、馬房でもう一泊させてもらうしか無いかも。

 無理に動かすよりは、そのほうがいいでしょ。レースは来週まで無いんだし」

「そうですね、帯同馬のブラウネーベルも息子が勝ってくれましたし……」

 

 と、石河のオヤジサンと話をしたところ。

 ゼンノロブロイの調教師が、一緒に美浦まで帰らないか、と申し出てくれたのである。

 

「え? ロブロイと一緒に美浦まで、ですか?」

「はい、実は帯同馬が故障してしまいまして今病院に……幸いケガは大したことは無いようなのですが」

「ああ、それは……え、でもウチ、帯同馬含めて二頭だから……ロブロイ含めて三頭運べますかね?」

「大丈夫ですよ。大型のヤツですし四頭までなら行けます。

 ロブロイのオーナー様からも許可は取っていますので」

「そうですね、じゃあお願いします」

 

 

 

『…………………』

『………………』

 

 気まずい。

 馬運車の中は、本当に沈黙に包まれていた。

 奥に押し込まれて背中しか見えないはずのブラウネーベル先輩なんて、ロブロイ親分の威圧感に怯えてるよ。っていうか、多分、俺が居なかったら暴れて逃げ出そうとしてただろう……

 

『おい、若いの?』

『なんだい、古いの?』

『……パドックで俺に喧嘩売ったのも演技か?』

『舐めて掛かってくれるほうがやりやすいだろ?』

 

 あっさり認めると、親分の殺気が少し緩む。

 

『ったく……阪神の坂から第二コーナーまで、あんな走り方した馬は初めて見たぜ』

『そうかい……まあ、俺みたいな逃げタイプは特殊だって自覚があるよ。っていうか、あんた美浦だったんだな』

『おめぇ美浦で俺を知らねぇって……ああ、そうか。

 やたら寝坊してくるくせに滅茶苦茶強い馬ってお前か。ストームのヤツとたまに併せ馬やってる小僧がいるって』

『まあ、馬同士の覇権争いに興味が無ェだけだよ……つまらねぇ』

『牝馬にもか?』

『は?』

 

 親分の言葉に思いっきり虚を突かれて、俺は戸惑った。

 

『おめー、あれだけわかりやすく迫られて、障害も無いのに、なんでやらなかったんだよ』

『ば、バカヤロウ! 時と場合と場所ってもんがあるだろうが』

『んなの関係ねぇだろうが、やる事やっちまえば良かったじゃねぇか』

『うるへー!! 俺はまだ競走馬なの!』

『そんなん人間の都合だろうが』

『その人間に恩があるんだよ。

 馬として返せないほどの恩が、な……』

『そうかい……しかし、お前みてぇな若けぇのが俺たちみたいな古馬に交ざって来るなんて珍しいな』

『まあ……俺は逃げて来たんだよ。オーナーが逃がしてくれたんだ』

 

 その言葉に、ロブロイ親分が首をかしげる。

 

『おいおい、古馬に逃げてくるってなぁ、どういう事だ? ふつう逆だろ?』

『言葉通りの意味だよ。

 そいつと競り合ってな……倒れて死にかけた』

『……なんの冗談だ?』

『冗談じゃねぇよ。

 同期にバケモンみたいな奴が栗東に居てな。最後、必死に逃げたんだが……』

『負けたのか?』

『レースには勝った。

 でも実質負けかもな……何しろレースが終わった直後に俺は倒れちまって、あいつも疲労で大ダメージ。

 このままじゃヤツも俺も両方潰れる。だからオーナーに、同期より早く俺は古馬を相手に走れって言われたんだ』

『……そいつの名は?』

『ディープインパクト。

 多分……年末、やり合うことになる』

『そうかい……お前と五分以上に戦えるヤツが栗東に居る、か……』

 

 その後、沈黙の落ちた馬運車の中で、ロブロイ親分は『ケガが無くて、あと少し若けりゃ……』などと言いながら、遠い目をしていた。

 

 

 

「すっかり遅くなっちまったな……」

 

 キッドを送り出した後。

 スイープトウショウのオーナー様にこちらが恐縮するほど謝罪され、少し足止めを食らった後に。

 俺は園長や石河のオヤジサンたちと別れて、新幹線に乗って関東に帰る事にした。

 なんやかんやあって、結局最終的に阪神競馬場を出る頃には、もう5時を回っていた。

 

 はぁ……何とか無事に終わったか……駅弁買って新幹線で食うか。

 

 初めての古馬戦線だったが、キッドはそれに応えて大きく成長している。

 また、クアッドの調教ペースも良好で、遅くとも八月にはデビュー出来そうだという話だった。

 このまま行けば、有馬までになんとかディープと勝負できる体はできるだろう。少なくとも皐月賞のような悲劇は避けられる。

 

『夏の甲子園特集、今日は予選で活躍した神奈川代表灯影学園の三年生。

 プロ注目の蜂屋博之投手の……』

「……………あ、まだ生きてやがった」

 

 街頭テレビから流れる『知ってるバカ』の不快なニュースを無視して、幕の内弁当を買い求めると、俺は東京行きの新幹線に乗り込んだ。




空想。

ウマ娘ルームマッチ『バーネットキッド実装記念。『シン・46回宝塚記念第二レース』』

1番  スイープトウショウ
2番  スイープトウショウ
3番  バーネットキッド
4番  スイープトウショウ
5番  スイープトウショウ
6番  スイープトウショウ
7番  スイープトウショウ
8番  スイープトウショウ
9番  スイープトウショウ
10番 スイープトウショウ
11番 スイープトウショウ
12番 スイープトウショウ
13番 スイープトウショウ
14番 スイープトウショウ
15番 スイープトウショウ
16番 スイープトウショウ
17番 スイープトウショウ
18番 スイープトウショウ


こういう、地獄絵図みたいなレース、絶対やるヤツが出てくるだろうなぁ……
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