Re:escapers   作:闇憑

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ご心配をおかけしました。

ゆっくりペースになりますが、再開させて逝きます。

あと遅すぎる事を承知で、あけましておめでとうございます。


札幌競馬場 第4レース  2歳新馬戦

 はーい、札幌競馬場からこんにちは、バーネットキッドです。

 

 というか、珍しいことに、自分含めて石河厩舎から三頭も馬運車に乗って札幌まで移動してきまして。

 懐かしいなぁ……去年の、デビューして三戦目……今じゃ友といえるカフェ君と思いっきり張り合いまくってたっけ。

 あの頃が少し懐かしい……って、おや? 競馬場の待機用の馬房で隣に先客が……ってなんだこいつ、本当に馬か?

 

 芦毛ではあるのだろうが体格はゴツイし、それに夏だというのに毛深いというか何というか……正直、毛ぞりした後のアルパカか何かでは?

 

『兄さん……兄さん久しぶり!! 会いたかった!!』

『ふぁっ!? だ、誰!? どちら様!!?』

『覚えてないの? 兄さん? ター坊だよ?』

 

 ………………は? はあああああああああああああああああああああ???

 

『お、お、お前! た、ター坊か!!??』

 

 た、確かにどことなく嗅いだことのある匂い……だが、だが!! 一年でこんなモッサモサのジャイアント馬になるって!?

 い、いや幼駒の頃から少し大きい感じではあったけど、二歳で俺と体格が遜色無いんだけど!?

 俺も今、500キロジャストだから平均よりは大きいけど、こいつは二歳でそれか!?

 三歳になったら、下手したら絞った状態でも、520とか30行くんじゃないか!?

 

『そうだよ、兄さん! 兄さんと一緒に走れるって聞いて、ボク頑張ったよ♪』

『そ、そうか……』

『兄さんも日高でボスやっていたって先輩から聞いたから、ボクもボス馬やってたんだ♪』

『……や、やりたくてやったんじゃねえんだけど……』

 

 グルーミングしながらすりすりと会話してると。

 

「ああ、兄弟だって分かるんだなぁ……」

「珍しいよなぁ……兄弟で仲がいいなんて」

「しかし、外面は驚くほど似てないですよね」

「いや、キッドを毛深くしたら、こんな感じじゃねぇの?」

 

 厩務員君やその同僚、そして何故か先着していた馬主様までもが感心したように眺める。

 ……いや、俺こんなアルパカみたいに毛深くないって。

 

 しかしそうか、今日弟がデビューするのか……って事は、鞍上はやっぱり……

 

「じゃあ、石河騎手、弟もお願いします」

「兄貴、頼むぜ」

「おう、ターボエンジン利かせて突っ走らせてやる」

 

 今や、逃げ&先行専門の職人と化した、石河の兄貴。

 だが……

 

「ああ、それなんだが。

 OPあたりまでは大介に乗ってもらうけど、それ以降は鞍上交代を前提で進める予定だ」

「へ?」

 

 予想外のテキの答えに、俺含めオーナーも首を傾げた。

 

「実はな……」

 

 

 

「や、どうもー♪ こないだのセールぶりです」

「おう、蜂屋」

 

 北海道の短い夏休みを利用して、応援に来てくれた静舞農業高校の面々。

 そのOBとして、今回は馬主席ではなく真っ先に観客席に挨拶に来たのである。

 

「クアッドの調子はどうだ?」

「ああ、まあ、調子はいいほうだと思います。とりあえず、ターボエンジンの利いたレースは見せてやるってテキもジョッキーも言ってました」

「そうか……いや正直あの一億で色々助かって、学校の設備も改修したり新たに作り直したりする予定でな。

 馬房の補修や、育成用の坂路やコースとか、新しく出来る予定なんだ」

「あはは……そりゃ今季以降の生徒たち大変ですね」

 

 何しろ、ほぼ無償で、かつ10代後半のピッチピチな労働力が存在しているのである。

 ああ……原生林を切り開く開墾作業に、男女不問で全校生徒が纏めて駆り出される姿がミエルミエル。

 

「というか、寮の風呂場のあのデカい亀裂とか……あとPC室の常時ブルースクリーンな95のPCとかを新しくしてあげたほうが……」

 

 今でも思い出す……ノートのマイPCが逝って、あのおぞましくも危なっかしい95のPCで原稿作業せざるを得なかった時の恐怖を。

 ……修理名目でPC室に入り浸りながら必死に修理して、逝ってる複数のPCから無事な部品を共食い修理した後に、OS再インストールしてようやっと原稿作業できるようになったもんなぁ……

 

「そっちは道の予算から分捕ってくる予定だから問題ない。一応XPのヤツを入れてもらう予定だ。

 あとPCを使ったIT系の授業も少し追加する予定でな……ただ、ホームページは、暫くはPCを使える有志で運用する形になりそうだ。

 ……主に、あの騒動のお陰でな……」

「なるほど」

 

 と……携帯電話の呼び出し音が鳴り。

 

『先生! 今、ドコに居るんですか!!』

「え? 観客席。静舞農高の面子と一緒に……」

『いいですか先生? 『今!』『すぐ!』『馬主席に!』『来てください!』

 先生が居ないと、話にならないんです!』

「えー、だから馬主席のお付き合いは、どうせ会社と会社のお話になるだろうし、もう担当様に丸投げのお任せすればいいものかと……」

 ブチッ……

『だから来いっつってんだお前が顔出すと出さないとじゃ話の進み方が全然違うんじゃーい!』

「ハイ! タダイマウカガイマス!!

 ……先生すんません。ちょっと編集から召喚魔法が発動しちゃったんで馬主席に行ってきます」

「おう、行ってらっしゃい」

 

 

 

「や、どうも、お待たせしました」

「おお、針生先生、お久しぶりです」

「あ、お久しぶりです、去年の忘年会ぶりですね、社長」

 

 緊急召喚で馬主席に呼び出され、あいさつ回りをしたり『孫や甥っ子に頼まれて』と渡された本にサインしたりを繰り返し。

 ……ああ、去年、キッドが札幌に行った三戦目は、こんな事も無くサササッと影でやり過ごせたというのに……ちくしょう、あの襲撃事件で無駄な注目を集める羽目になった、マスゴミの奴らが全部悪い。

 

 しかし……

 

「なんですか、先生?」

「いえ……」

 

 言えない。

 どう見ても……普段の仕事の時の姿と違い過ぎる、気合の入った化粧した新野女史の姿に、思わず『化けた!と言いそうになった』、などとは。

 

 で、そんな彼女と一緒になって、あいさつ回りをしている内に……

 

「おお、蜂屋君、お久しぶり」

「あ、篠原の会長、お久しぶりです!」

 

 久方ぶりに出会った、篠原のおっさん……もとい、会長に挨拶。

 

「いや、なかなかGⅢ以上に縁が無いから……って、あれ?」

「えっ……篠原のおじ様!?」

「なんで由香里がここに?」

 

 石化する新野女史と、篠原の会長。

 

「え? いや、俺の担当編集者が彼女なんですけど『トラブル避けに秘書代わりに連れていけ』って言われまして。……会長、彼女とお知り合いで?」

「知り合いも何も私の姪っ子なんだが? 妹が新野家に嫁いで、その娘だよ」

 

 はいいいいい?

 

「お、おじ様!? っていうか、なんで先生が篠原のおじ様と知り合いなの!?」

「いや、新人賞を取るずっと以前にカードショップで知り合って、去年の朝日杯で再会して……」

「おじ様!?」

 

 いや、ほんとビックリである。

 世界って狭いね。

 

「というか、新野君も来るぞ、午後の第7レースに馬が出るし」

「え゛。ちょ、ちょ、ちょーっと待ってください! あのポンコツまだ馬やってたんですか!?

 無駄に気張って5千万の馬で派手に火傷して『懲りた』って言ってたくせに!」

「うむ、今度は自信があると言っていたが」

「ありがとうございます。今度こそ来たらぶん殴ってでも止めます!

 家族会議してでも馬主資格はく奪しないと、出ていくばっかりです!」

「まあ……新野さんの所は今大変だからなぁ……」

 

 ……なにこの面白いやり取り……後で何かネタにしよ。

 

「ってか、新野女史、いいとこのお嬢様だったの?」

「おや、知らなかったのかね、蜂屋君。

 家に居ると見合い話が五月蠅いから、必死になって丸川に就職したと聞いたが?」

「え、雷撃ですけど、ウチの編集部」

「出向です。一応、籍は丸川にあります」

 

 ほへー……知らんかった。

 

「いや、しかし、丸川に就職したと聞いたから、会う機会もないと思っていたのだが、意外なところで会ったね」

「ええ、まあ……実家には丸川の社員って事になっているので。

 ただ、ライトノベルの編集に配属されて、今、雷撃に出向しています……なんて知ったら、母さんが『実家に帰って来い』って発狂しかねないかも」

 

 ああ、忘年会で作家仲間が言ってたなぁ……

 努力してイイトコの大学出て、大手の出版社に入社して、さぞ文化的な教養高い事業に携われるかと思いきや、配属先が漫画やライトノベル作家の担当編集者とか放り込まれ。

 ファンタジー量産するポンチ脳な作家共の面倒見なきゃイカン羽目になって『やってられるかぁ!!』と発狂しちゃう、プライド高い高学歴の新人編集様が結構おられるって話。

 

 というか……

 

「おいおい、担当作家を前にそれを言いますか?」

「いえ、冗談抜きに、編集として貴重な経験をさせてもらっていると思っていますよ?

 ……確かに、当時未成年の先生を前に、色々あって少し途方にくれましたが。

 同時に著作を読んで色々と諦めがついたといいますか……『世界は不平等で天才は居る』と同時に『完璧な人間なんてこの世にいない』って理解できましたから」

 

 まあ確かに。

 家庭とか進路とかでも、新野女史含め出版社の大人に色々相談に乗ってもらっちゃったもんなぁ……彼らのアドバイスが無ければ、今でもあのクソ共に搾取され続けていたかもしれんし。

 

 まあ、正直……自分の立場が不相応な事は理解も承知もしているが。

 かといって、あんな家に二度と帰りたいとは思えないしなぁ……

 

「と……そろそろ第4レースだ。新馬戦が始まるよ」

 

 

 

「ほんと、大人しいよなぁ……お前は」

 

 流石に新馬戦だけあって、落ち着きの無い馬も多い中。

 黙々と静かにパドックを引かれて歩くクアッドを見て。

 

「キッドもこれくらい大人しければ、色々楽なんだけどなぁ……」

 

 あの傍若無人な芸馬を思い出し、さめざめと泣けてくる。

 パドックのたびに『笑ってはいけない○○競馬場パドック周回』をするのは、本当に勘弁してほしいと思うのだが、むしろ最近は自ら芸を磨く事に余念が無い有様である。

 

(むしろパドックをステージだと勘違いしとりゃせんか、あのUMA……)

 

 やがて……止まれの号令と共に、騎手たちがそれぞれ各馬に付き。

 

「調教で乗ったから知ってたけど……ほんと大人しいよなぁ、クアッド」

「ああ、本当に新馬戦かってくらい、すげえ落ち着いてる」

 

 石河家の兄弟の会話。そして……

 

『兄貴もこのくらい落ち着いてくれりゃあなぁ……』

 

 偽らざる、石河厩舎の面々全てが抱く感想を兄弟で漏らしながら。

 石河騎手はクアッドに騎乗すると、本馬場へと向かっていった。

 

 

 

『札幌競馬……第4レース。2歳新馬戦。芝の1800メートルで争われます。馬場状態は良』

 

 返し馬を終えて、ゲートに入る。

 14頭1800メートル。しかも洋芝の札幌競馬場。

 だが……それを覆せるだけの素質を持つ馬であることは、同血の兄貴が証明している。

 

「ごめんな、クアッド……俺がへたくそで」

 

 調教の手ごたえや、レース前にオヤジから色々と聞いて『なるほど』と思い。

 正直、今の時点でも俺が鞍上でいいのかと気が引けるが……何はともあれ今の俺の技量では『逃げ』以外の選択肢は無い。

 

「短い間だが、よろしく頼むぜ」

『ひん』

 

 軽く答えるクアッドターボ。

 ああ、本当にいい馬だ……もし、キッドに出会わずに居たならば、正直『俺の理想とする騎乗』が出来ただろう。

 だが、それだけだ。

 クアッドの力を究極的に引き出してやれるのは『俺じゃない』事をテキに指摘され、短期の鞍上を引き受けた。

 だからこそ……

 

「『次』に繋ぐために、勝たせてやるからな……」

 

 そう、決心する。

 

『態勢完了……スタートしました!! まずは14番クアッドターボが先頭。並んで1番ディーププラウド』

 

 ああ、最内から張り合いに来た……いや、掛かったのか?

 ……まあ、どちらでもいい、併せ馬と行こうじゃねぇか。

 

『その少し後ろ並んで10番サンフィーバー、13番マルカタキオン。9番アグネスグレイス、11番フレンドシップ。そこに続いて7番マツリダゴッホ………』

 

 重い洋芝のターフを、軽快に駆けるクアッド。

 順調に第一、第二コーナーを回り、向こう正面で少し緩くラップを刻む。

 

 ……本当にこの兄弟、洋芝を苦にしない……完全にダートでも行けそうなパワー系だな。

 

『向こう正面、クアッドターボがぐんぐんと差を広げていく、完全に逃げ切りの態勢だ。しかし背後からマルカタキオン、マツリダゴッホもジリジリと詰めていく』

 

 直線から第三コーナーへ。

 さあ、正念場だクアッド……突っ込むぞ!!

 

『さあ、第四コーナー回って直線に突っ込んできたクアッドターボ!

 後ろが一斉に動いた! マルカタキオン、マツリダゴッホ! 後ろからサンフィーバーも迫る!!』

 

 最後の直線。

 鞭に応えるクアッド!

 

 行けクアッド! お前が……お前が先頭だ!!

 

『残り200メートル、マツリダゴッホが一歩抜けて飛び出た! ものすごい勢いだ!

 しかしクアッドターボが粘る、粘る! 先頭は譲らない! そのまま今、ゴール!! 二着はマツリダゴッホ!!

 勝った勝ったクアッドターボ! 四発ターボエンジンの轟音が、札幌の空に轟いた!! タイムは1分52秒7!』

 

「ぃよし!! よーく頑張ったクアッド!」

 

 軽くガッツポーズして、クアッドを褒めながらも。

 レースの走りを通じて、感じた違和感は完全に確信に変わった。

 

 ああ、確かにこの子は……この馬は『逃げ馬じゃないな』と。

 

 

 

「やった!!」

 

 兄に続いて、弟も新馬戦を快勝し、俺は軽く拳を握る。

 

「おお、おめでとう!」

「おめでとうございます!」

 

 歓声と拍手に包まれる馬主席。

 

「ありがとうございます!」

 

 それから、テラス席の下の端まで降り、手すり越しに下に集まっている学校の面々に手を振り。

 

「勝ったぞー!」

『うぇーい!!!』

 

 下でノリ良く答えてくれる、後輩たち。

 

「じゃ、出迎えてきます。新野女史、行きましょう」

「え? わ、私もですか!?」

「がっつり関係者じゃん」

 

 そのまま、彼女と牧村先生も一緒に、3人で記念撮影。

 そして……

 

「キッドのレースは……ああ、3時半過ぎからか。結構余裕があるな」

「ああ、馬主席のラウンジで何かつまみながら待とうか」

 

 誘われて、篠原のおっさ……もとい、会長の誘いに乗る。

 

「そいえば、篠原会長の馬は第何レースですか?」

「いや、もう終わったよ。5着と3着。まあ、掲示板に入ったから良しとするさ」

「ああ、それは……」

 

 普通の馬主様たちだと、数百万の馬ならば掲示板に何度か入ればモトが取れるので御の字、みたいな話を聞いた。

 それにプラス、出走を多くして出走手当を稼いでおけば、まあ預託料含め赤字にはならないトントンだと。

 

「そうだ、君に再会したら渡すモノがあったんだ。今、ロッカーから取ってくるから」

「はい?」

 

 そして……暫くして、結び紐で閉じられた大き目の茶封筒が手渡される。

 少しズシッとした、重たい感触。

 

「これ、は?」

「開けてみたまえ」

 

 括られた紐を開け、中を見ると……

 

「!!? こ、これ……これおっさ……いや、会長にあげたモノですよ!」

「いや、これは本来、キミの大事なコレクションじゃないか。」

「いや、だって……!」

 

 あの時……どうにもならないので『せめて』と思い、行きつけの店の常連の皆に配った、俺のコレクションファイル。その一冊だった。

 

「ほら、元『ホワイトロータス』の常連たち。今『スパイラル』って店に居るから、一度足を延ばしてみるといい」

「いや、でも……これは流石に渡したモノですし……」

「うーん……じゃあ、こうしよう」

 

 そう言うと、篠原会長は、ファイルから3枚、カードを抜き。

 

「この三枚を保管料として私が受け取る。だから、君はこのファイルを受け取ってほしい」

「え、……あ、……でも……」

「私もコレクターだからね。割とこの三枚はレアだから欲しかったんだ。

 それに、君の事情は知らないが、何か断腸の思いがあって手放したのだろう?」

「はい、その……捨てられるくらいならば、と……」

「全部じゃないが、スパイラルに移った当時の面々の中には、君のデッキやファイルを保管してくれている子が、何人か居る。

 たまに私も店に顔を出すが、みんなニュースを見てびっくりしてたぞ?」

 

 その言葉に、俺は衝撃を受けた。

 

「久方ぶりに、顔を出してやってもいいんじゃないか?」

「っ……はい……ありがとう、ございます!」

 

 カードファイルを抱きながら。

 俺は『あの時の仲間』が、俺を覚えていてくれたことを知り、涙が出るほど嬉しかった……。




本日の主な被害馬:マツリダゴッホ

正史だと、二年後に有馬記念を取る十二分に強い馬で、この新馬戦で二着に1秒近い大差を付けて勝利しています。
今でも現役の種牡馬として頑張っているそうです。

正直、主なG1レースに合わせて、大体二か月ごとのローテーションでキッドの出走レースは決めているので、それに合わせてクアッドの新馬戦もやっちまおう……という判断だったのですが……狙ったワケでもないのに、なんでこうも後のG1馬に新馬戦でぶち当たるんだろうと、戦々恐々としています。
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