ドバイ頑張って欲しいなぁ。
『よう、若ぇの。
俺がイギリス行って留守の間に、ウチの
園長との撮影が終わって少しした後。
丁度、カフェ君との併せ馬のために早起きしたところに、ロブロイ親分と出くわしてしまい。
開口一番、身に覚えのない事を聞かされたのである。
『え? さっぱり身に覚えがございませんが?』
『札幌で暴れたんだって? ダンスインザムードのヤツが、イギリスから帰って来るなり俺に泣きついてきやがったぞ』
『……うわぁ……』
あいつ、親分の厩舎だったんか!?
『レース中に思いっきり囲まれて泥まみれにされたんで、腹立てて怒っただけです』
『それにしちゃあ、えらいビビり方してたぜ? どんなキレ方したんだよ小僧?』
『……別にどーでもいいっちゃどーでもいー事なんで、脅かした詫びに彼女に頭下げましょか?』
『いや、いい。
今のお前に頭下げさせると、お前の厩舎のクアッド坊やがまた苦労する事になるだろうしな』
ああ……そういえばそうか。
あの札幌記念以降、ウチの厩舎のボス馬だったヒゲノバーゲストが6歳で引退したため。
暫定的にというか消去法的に、俺が石河厩舎のボスをやる羽目になったんだが、ボスの仕事なんて基本的にやる気が無いために全部クアッドに丸投げしている状態なのである。
無論、最初は二歳の若さが問題だったのだが……もさもさで体重以上にでかく見える貫禄と、更に『これ以上揉めると兄さんが出て来るよ』の言葉で、実質的に厩舎を仕切ってるのはクアッドだったりするのである。というか、弟に呼び出されて三度ほど顔を出したら、揉めてた連中がその場で震えあがって、以降呼び出される事もなくなった。解せぬ。
……ちなみに、ロブロイ親分に何故かクアッドのヤツは気に入られているらしい。益々解せぬ。
『くっくっく、しかしそうかそうか……お前が馬群で泥まみれになぁ。
一緒のレースだったらさぞ痛快だったろうなぁ』
『……逃げ馬がスタートダッシュ失敗して取っ捕まったのが、そんなに嬉しいっすか?』
『そりゃお前、普段の『駆け引きも序列も関係ない』って態度の、澄ましたツラした生意気な小僧が、泥まみれになる所を見たくないヤツは美浦にゃ居ねぇだろうよ?』
『ヒデェ……秋天で『俺もそうしてやろう』って考えてるでしょ』
『良くわかってんじゃねぇか』
そう言うと、親分は背を向けて。
『英国は厩舎もレースも張り合いの無い連中が多かった。失望させてくれるなよ、若いの』
『そうかい。精々頑張るとするさ、古いの』
と……
「インターナショナルS『獲ってきて』磨きがかかった感じだな」
「どんだけ仕上げて来てるんだ」
「こりゃ秋天、怪盗対策はマジだな……」
人間たちのひそひそ話を耳にして、少し顔が引きつる。
ロブロイ親分との再戦かぁ……また舐めて掛かってくれると嬉しいんだけど……望めねぇだろうなぁ……。
「よしよし、いい仕上がりだぞスイープ」
ワガママ、プライド高い、言う事聞かない、気性難の代名詞みたいなスイープトウショウが、宝塚以降、妙に素直に言う事を聞くようになり。
『ひょっとして』と思い、バーネットキッドの(競走馬モードの)写真や映像を見せたりすると、スンスンと好奇心全開でのぞき見に寄って来るのである。
もともと素質は抜群と言われていた牝馬である。機嫌を直す手段を手に入れた調教師たちは、秋天に向けて一層調教に熱を入れる事になる。
『スイープトウショウが恋をした』
その噂は、栗東には流れたものの、お相手がお相手なために『美浦の連中には黙って居よう』という、暗黙の了解が人馬共に広がり。
「まあ、ウチが気を付ければ済む話だろうし、向こうも宝塚以降気を付けちゃいるだろ」
何しろ、向こうが彼女を嫌っている節があるので、こちらが意図的に近寄らせなければ大きなトラブルにはなるまい、と、スイープトウショウの調教師も主戦騎手も思っていたのだった。
……それが甘い考えだったとも知らずに。
10月1日
札幌競馬場 札幌2歳ステークス(GⅢ)
芝1800m(右) 曇 良
『札幌競馬場、今日のメインレース。第11レースは、札幌2歳ステークス、芝の1800メートル戦。
2歳の北海道の重賞、ここに歩を進めたのは、アキノレッドスター、ディープエアー、ナイトレセプション、ニシノアンサー、モエレジーニアス、トップオブサンデー、ニシノロドリゲス、マイネジャーダ、マイネルブーバリス、マイネルバジリコス、クアッドターボ、フラムドバシオン、アドマイヤムーンの13頭です。
その13頭のゲートインですが、比較的スムーズに進んでいます。スタンドの影が直線コースの大半を覆っていますが4コーナー方向の芝は緑に輝いています。
さあ、秋の日差しを受ける第一コーナーを目指して、スタンド前からのスタート。最後に13番、アドマイヤムーンがゲートに入りました』
『スタートしました! まずは好スタート、クアッドターボとアドマイヤムーン! 外からグングン差を広げていくクアッドターボ、アドマイヤムーンはちょっとつんのめる感じでしたが持ち直したか』
『1コーナーを回って、先頭はクアッドターボ、続いてアキノレッドスター、ニシノアンサー…………アドマイヤムーンは中段に構える形』
『クアッドターボが二馬身、三馬身とリードを広げ、第三コーナー回って、アキノレッドスター下がって、アドマイヤムーンが上がってきた!』
『さあ第四コーナーを回って最後の直線! アドマイヤムーンが仕掛けてきたが、依然先頭はクアッドターボ! 完全に逃げ切る態勢だがアドマイヤムーンも凄い末脚だ、しかしクアッドターボも逃げる、逃げる、エンジン全開で今、ゴールイン!!』
『北の大地の2歳チャンピオンはクアッドターボ! 全血の兄弟による札幌2歳ステークスGⅢ連覇! ターボエンジンの轟音が再び札幌に轟いたぁ!!』
調教を終えて、ブラッシングやら何やらを終えた後。
馬房で友であるカフェ君に別れ際に宣言された事を、俺は思い出す。
『俺も秋天に出る』
同じ大逃げスタイルの同期が秋天に……か。
何でも、クラシック戦線で常時掲示板に入りはするものの、ディープが居るためにG1では蓋をされた状態で『ならばいっそ』と古馬戦線に俺を追って殴り込みに来るらしい。
ロブロイ親分の仕上がり、友の参戦……そして……
『……北の大地の2歳チャンピオンはクアッドターボ……』
ラジオから流れる、格上挑戦に成功した弟の勝利報告に。
最近、背中に乗ったもんがエラく重く感じるようになってきた、今日この頃であった。
本日の被害馬その1:Electrocutionist(エレクトロキューショニスト)
正史では、英インターナショナルステークスで一位を取って来る馬ですが、この時空ではロブロイ親分が勝って美浦に凱旋してきます。
なお、史実でもロブロイ親分、滞在先の英国の厩舎で、一週間で厩舎のボスになっていたとか……
本日の被害馬その2:アドマイヤムーン
正史では、このレースも勝ち残り、同世代のメイショウサムソンとクラシック戦線でシノギを削り合い、最終的に4歳で引退。引退後、同年のJRA賞年度代表馬(2007年)JRA賞最優秀4歳以上牡馬(2007年)に選ばれるという……まあ、有体に言って、普通に化け物です。
正直、ディープの印象が強すぎたせいで、その一世代下の印象が薄かったのですが……重賞に出る馬って、基本化け物揃いだなーと。
今更ながら、適当に出走レースの予定組んでから、史実との乖離や調整に戦々恐々としています。