Re:escapers   作:闇憑

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修正版です、お騒がせしました。

秋天は次になります。


ウマ娘編……怪盗と殿下といっぱいのつけ麺

「……どうしてこうなった」

 

 常設のガスレンジに加え、追加で予備のカセットコンロを二つも動員し。

 コトコトと煮えていく4つの鍋の番をしながら、バーネットキッドは溜息をついた。

 

「おーい、キッドー、まだかー?」

「もー少しだ、もー少し!」

 

 チーム・アルデバランのミーティングルームに持ち込まれたテーブルには、アルデバラン所属のクアッドと共に、何故か催促するゴールドシップ筆頭にスピカの面々。

 

 更に……

 

「鍋と聞いて!」

 

 やってきたオグリキャップ、そして……

 

「しかし酔狂だね、お嬢様も。この面子と卓を囲みたいなんて」

「それはもう。

 ラーメン以前に、こうやってみんなと一緒に食べる、鍋という日本のスタイルそのものが楽しみです♪」

 

 友人のエアシャカールを連れてやってきた、今回の主役である留学生、ファインモーションの姿があった。

 

 

 

 そもそもの発端は、リンこと、セキトカイゼリンにあった。

 ファインモーションと知り合った時点で、モデルとして写真の中で見せる女帝然とした姿とは全然違う、リンの日常生活での普段の姿とのギャップにシンパシーを感じた生粋のお嬢様は、好奇心からリンのモデルのアルバイトを少し手伝う事になり。

 そのモデルの仕事が(本物の『殿下』が現れた事による混乱で)少しズレこんだために、寮の台所でリンが手製のラーメンを彼女に振舞った事がきっかけであった。

 

「豆乳のラーメンですか!?」

「意外と美味しいしヘルシーなんですよ、姉さんが教えてくれたんです」

 

 豆乳と白だしとごま油を使い、アクセントに『食べるラー油』を散らしたリンお手製の豆乳ラーメンは、思った以上に彼女に好評で。

 

「見た目は豚骨なのに豚骨とは全然違う……なのに、凄く美味しい!」

「でしょ?

 姉さん、時々、こういう変わりラーメン作ってくれるんですよ。

 夏なんか『あご出汁のかき氷』を使った『冷たいラーメン』なんかもよく作ってくれました」

「すいません、そこのところ詳しく!」

 

 もとよりラーメン大好きお嬢様、ファインモーションの好奇心に火がつき。

 ラーメン談義に花が咲いたところで……

 

「ところで、お姉さんが作ったラーメンで一番おいしかったのはなんですか?」

 

 ファインモーションの問いに、リンは暫し考えこみ。

 

「あー……つけ麺、かなぁ?」

「つけ麺?」

「以前、お店のつけ麺より旨味が濃厚な美味しいつけ麺作ってくれたことがあって……アレ未だに材料が謎なんですよ。

 姉さんに頼んでも『材料無いと作れないから頻繁には無理だ』って言われて、偶にしか作ってもらえなくて……しかも毎回微妙に味が変化するんですけど」

 

 変わりラーメンの作り手による『謎のつけ麺』。

 それは、このラーメン大好きお嬢様の好奇心を刺激する十二分な要素だった。

 

 

 

「……はい?」

「ですから『謎のつけ麺』です。リンさんに話を聞いて、作って頂けたらと思いまして」

 

 授業の合間の休憩時間に、廊下で呼び止められ。

 ファインモーションの言葉を聞いたバーネットキッドは、軽く頭を抱えた。

 

「もしかして……昔食わせた『アレ』か?

 いや、リンから何を聞いたか知りませんが、アレは本当に残り物を無駄にしないための家庭料理というか、裏メニュー的な代物なんで、正直、王族のお嬢様にお出しして良い代物じゃないんですけど?」

「裏メニュー!? それは是非……あー、こほん!!

 バーネットさん。

 私は文化交流のために留学してるのです。家庭料理というのでしたら、なお好都合です」

「え、えええええ?

 でも『アレ』を王族に出すって……その……作る事そのものは吝かじゃございませんが……本当に怒らないでくださいよ?」

「はい、構いません」

 

 その言葉に、バーネットキッドは覚悟を決めた。

 

「じゃ、下準備というか……本当は逆なんですけど。

 今晩はリンとクアッド含めて4人で鍋パーティにしましょう。材料は俺が放課後に買い出しに行って揃えますんで」

「鍋パーティ……ですか?」

 

 

 

 そして……

 

「なあ、リン……なんでスピカの面子まで居るのさ」

「いいじゃない姉さん、どうせ材料費は殿下持ちでしょ?

 それより私的にはオグリ先輩が居る事が怖いんだけど」

「一応、『全部飲み干すな』って厳命してあるから大丈夫だ。連絡受けて食材追加して鍋も増設したし……よし、こんなもんか。

 はーい、出来たよー!!」

 

 四つの鍋が運ばれて、食卓に並べられる。

 

「えー、今日の鍋パーティ、材料費はこちらのファインモーション殿下持ちのオゴリです。

 じゃ、殿下に感謝しつつ。いただきまーす」

『いただきまーす』

 

 そして始まる鍋パーティ。

 

「これ、何ですの? コリコリしてます」

「ああ、魚の『スジ』。

 これ使えば、多少頓狂な食材突っ込んでも鍋全体の味は纏まるから」

 

 と、マックイーンに説明するキッド。

 

「へぇ……意外と珍しいな、サメの軟骨入りの魚のスジなんて、扱ってる店も今時少ないだろ」

「ウチはそっち使うんだ。あと一応、普通の牛スジも入ってるから大丈夫。

 それよりそのソーセージ食っちまえ。はよ食わんとそろそろ割れちゃう」

「ん? おう……しかし美味いな、この鍋。キッドが料理できるとは思わなかったぜ」

「ウチは家族多いから年長者は台所に立つんだよ。まあ大雑把なヤツしか作れないけどな」

 

 ゴールドシップに説明しながらも。わいわいと鍋を突ついていく一同。

 キッドの作った鍋は好評で、瞬く間に具が消えていく。

 

「なるほど……日本ではこうやって家族や友人と、卓を囲むのですね」

 

 初めての鍋パーティに感激するファインモーション。

 だが……

 

「ウマ娘の多い大家族だと、こんな風に平和に和気あいあいと突くような感じにはならないですよ」

「私たちの家は、カレーとか肉じゃがとかおでんとか、基本的に一度に大量に出来る料理ばかりで、殆ど奪い合いでした……人気の具は特に」

「焼肉なんかの日は、全員殺気立って、殆ど戦争だったものね」

 

 そう言って、リアル大家族の実情を殿下に説明する妹二人(リンとクアッド)に。

 

「……最終的にクアッドがキレて、全員大人しく鍋やホットプレート突く事になるんだよな」

「姉さん、何か?」

「イイエ、ナンデモゴザイマセン」

 

 ぽそっ、と、実家の暗黒面を漏らすキッドを、にこやかに睨むクアッド。

 

 そして……

 

「はーい、皆さん質問。

 鍋のシメにラーメン出す予定ですけど、今から仕込むから希望者手を上げてー」

 

 頃合いを見計らったキッドの質問に、健啖揃いのウマ娘らしく全員が挙手。

 そして十五分後。茹であがったラーメンの麺が、個別で皿に盛られて用意される。

 

「鍋のシメのラーメン……なるほど、これが『謎のつけ麺』の正体なのですね?」

 

 納得しかけるファインモーションに。

 

「いや、違います。これは純粋に鍋のシメです。

 まあ、味は保証しますが『謎の答え』はまだ少し先ですよ、殿下」

「え? これが『答え』じゃないんですか?」

「はい。リクエストの『答え』は明日になりますね……俺や『あの辺の連中』なら今から作ってもいいけど」

 

 丼鉢に山盛りに盛られた『シメのラーメン』をすするオグリキャップとクアッドターボとスペシャルウィークを見ながら。

 キッドはそう答えた。

 

 

 

 翌日。

 夕方になって学園の授業が終わったところで。

 

「それで……『謎のつけ麺』の正体はいったい何なのでしょう?」

「ああ、単純です。今作っちゃいますね……もう一回沸騰させますから」

 

 寮の台所で、冷蔵庫からタッパーに入っている、少し固形物の混ざった濁った液体……そう『昨日の鍋の残り汁』を鍋に移し、火にかける。

 

「あ、まさか……」

「エビやカニ、貝類、肉製品、魚介の練り物、野菜もきのこもたっぷり……こんな豪華な『ダシ汁』は、採算が合わないから店じゃ作れませんからね。

 だから、毎回毎回、鍋料理の後に捨てるのが勿体ないと思って、時々自分用に作るつけ麺の割り下に使っていたんです。

 まあ、ただ割り下にするには鍋の残り汁って味が濃いんですけど、その辺は普通のつけ麺より、タレのほうから醤油とか塩を差っ引いて、味を調整しながら作ればいいんです」

 

 軽く味見をして微調整しながら『こんなものか』と混ぜた醤油やみりんその他調味料を、軽く煮切ってタレを作り。

 そこに沸騰した昨日の鍋の残り汁を、残った具ごと割り下にして魚粉を加え。

 更に鍋で太麺を茹で、切り分けたチャーシューを炙って、煮卵と一緒に添えてトッピングし……

 

「はい、完成です。具が足りなければ、鯖缶なんかの魚の水煮の缶詰を入れたりもします。

 ……ね? だから殿下にお出しするような料理じゃあ……って、殿下!?」

「おぉぉぉ、これは美味しいです!! リンさんが夢中になったのも頷けます!!」

「あ、良かった『当たり』が出たか。これ鍋の具や種類によっては『ハズレ』が出るんだけど……ベーシックな塩系の鍋にして良かった」

「麺の替え玉、あと炙りチャーシューのおかわりください!!」

「はいはい、ただいま」

 

 もっきゅもっきゅと食を進めるファインモーション。

 そして……

 

「これは……貴重な体験です。確かに家庭料理の裏メニューですね」

「気に入って頂けたのなら何よりです。

 というか、そもそも他人に振舞う事を想定していない、まかない料理でしたから凄い不安でしたが」

「こんなに美味しいのに……妹さんたちに分けなかったのですか?」

「リン以外の妹たちが知ったら、確実にイナゴの群れみたいに食い荒らしに来ますから……というか、一度クアッドにやられたし。

 かといって一度の鍋じゃ家族全員分のダシ汁なんて残らないし……まあ我が家で自分用の料理を作れるのは、台所を預かった者の特権ですから」

「なるほど。……昨日も聞きましたが、大家族も大変なんですね」

「まあ、今、学園に広い二人部屋があるのが本当にありがたいですよ」

 

 と答えるキッドに向かって、にこやかな笑顔のまま。

 

「そんな家庭環境で、家族にどうやって怪盗だって誤魔化していたのでしょうか?」

 

 探偵(ファインモーション)容疑者(バーネットキッド)に切り出した。

 

「はっはっは、私はただの探偵でございますよ、殿下」

「二年前、日本の美術館に文化交流の王室展で貸し出した宝石が、盗まれて一日もせずに犯人から『目当ての代物じゃなかった』と添え書き付きで返ってきたんですが……」

「残念ながら殿下、俺はそんな大それた犯人の心当たりなぞございません。

 それに、日本の警察は優秀ですから、そのうち捕まるんじゃないでしょうかね?」

 

 暫し、落ちる沈黙。

 そして……

 

「……そうですか。ではお代わりお願いしますね♪」

「いや、この鍋汁入りのタッパーもう空で……」

「冷蔵庫の奥にもう一つ、同じ中身で大き目のタッパーがありますよね?」

「……目ざといですね……」

「あ、あと自家製チャーシュー増しで、ついでに煮卵も二つ、お願いしますね♪

 あと鯖缶も追加で、チャーシューは厚めに切って炙りでお願いします」

「へーい。

 しかし、気づかれたかぁ……探偵の素質がおありですね、殿下」

「あら、嬉しい♪ お隣の国の『00ナンバー』さんにも褒められたんです♪」

 

 結局、リクエストに応えて都合6玉も麺を茹で、更に自分用にストックしておいた、特製チャーシューも煮卵も鯖缶も根こそぎ使い切る事になり。

 

「ごちそうさまでした♪」

「……イイエ、ドウイタシマシテ……」

 

 大満足でファインモーションは去っていった。

 

 

 

「くそう……夜食用の『だし汁のストック』ゲットし損ねたどころか、チャーシューも煮卵も根こそぎかよ。

 しかし、おかしいな……ラーメンって食ったら痩せるハズだよな?」

 

 その後、コンディション『太り気味』を獲得して、レースと練習の予定をガタガタにされたファインモーションのトレーナーと、ひと悶着起こす事になるのだが。

 それは別の話である




注)キッド特製つけ麺は、残り汁に使う鍋の種類によっては失敗します。私は4回中3回は成功しましたが、失敗するとかなり微妙な出来になりました。
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