Re:escapers   作:闇憑

6 / 103
第6話

 はーい、キッド君。年が明けて一歳になりましたー♪

 そして……どうやら、お兄ちゃんになるみたいです。

 暫く前から、母ちゃんのレイヴンカレンの腹が膨れてまして……妹か弟ができるみたいです。

 春先になって、進級した生産学科の学生や先生たちが、ものっそい慌ただしくソワソワしてます。

 

 なので、お兄ちゃんたる俺がやる事は、ただ一つ。

 

 おーい、かーちゃーん、アイヌネギ盗ってきたぞー♪

 

「……あのな、キッド。

 気持ちはありがたいけど、毎度毎度どこから盗ってきたんだよ、このアイヌネギ。

 っていうか、馬には毒だから食べちゃダメ、ぺっしなさいぺっ」

「畑の作物や牛豚の飼料は盗らなくなったけど、今度は敷地の原生林に入って色々盗ってくるようになったな……」

 

 ……そらまあ、畑食い荒らして殺気立った百姓一揆……もとい、農業科と追い運動するのは、流石に怖いし。

 その代わり、秘密の群生地暴かれて涙目になった教職員が、睨んで来るんですけどね。……来年も生えるよう根っこはちゃんと残してあるって。

 

 と、いうか、最近になって生徒の一人が。

 

『とりあえず、キッドの行く先探せば、何か見つかるのでは』

 

 と、口取りされながら学校の敷地の原生林を闊歩して、荒らしまわった結果。

 アイヌネギ筆頭にほぼ全て、学校の教職員に代々伝わる秘密の山菜の群生地や、新規で開拓された群生地が暴かれる事となりまして。

 

 ……生徒共々、たいへん美味しぅございました♪

 

「さあ、キッド……追い運動の時間だぞぉ~♪」

 

 にこやかな笑顔のまま、乗馬用の牡馬の上でカンシャク筋を浮かべてる教科担任の先生。

 ……漏れてる漏れてる。殺気が漏れてますよ、先生。

 ちょっと学校中の今年の春のアイヌネギ、生徒と一緒になって全部食い荒らしたくらいで大人げない。

 

「さあ、追いついたら馬刺しにしちゃうからな~♪」

 

 おいおい、冗談だよね……冗談だよね先生!?

 教材! 俺、セリに掛けられるまでは農業高校の教材ですよ、先生!?

 ってか激しい、激しいよ先生!

 

 ……って、ぎゃー、目がマジだー!!

 

「……キッド号、動きいいよなぁ……」

「ああ、トモの張りもがっつりしてきたし……何だかんだ、追い運動真剣にやってるし。

 見ろよ、手本見せてる先生が、マジで追ってねぇ?」

「そりゃ、次、俺たちが実習で馬に乗って追うんだから、多少疲れさせないともう追いつけないもんなぁ……」

「食って、寝て、運動して、か。

 いうのは簡単だけど、そのルーティーンをしっかりこなせる馬ってのは、強いよなぁ」

「っていうか、キッド、ガチ逃げしてねぇ?」

「先生たちの殺気、感じ取ってるのかもな……気の毒に」

 

 へーるーぷーみー!! 馬刺しは嫌あああああああああ!!

 

 

 

 そして数日後……。

 放牧中に、いきなり母ちゃんが産気づきました。

 

 しかも間の悪いことに、母ちゃん、産気づいた途端、馬房に戻らず、藪の中に逃げ込んで物陰で産むつもりらしいです。

 

 ……やべぇ。

 

「おーい、カレン放牧から戻ってきてないけど?」

「緩めに歩かせてただけなのに……ドコいったんだ?」

「って、キッド!? おい、袖を引っ張るな、キッド!!」

「おいおい、落ち着いて、興奮してないで……」

 

 と……

 

「……まさか……おい、キッド、お前カレンの行方知ってるのか?」

『ひひぃーーん!』

 

 そうだよ、と伝えたいけど、とりあえず引っぱっていくしかない。

 

「とりあえずタオルとか、出産に必要な道具、軽トラに積め!

 あと蜂屋、石河! お前ら、一番キッドに懐かれてるんだから、案内してもらえ!」

『はい、先生!!』

 

 で……俺が母ちゃんのトコに案内をし。

 産前産後で殺気立った母ちゃんに、俺や周囲の人間が蹴とばされそうになりながらも。

 

 なんとか生まれました。

 弟です。

 

 母ちゃんと一緒になって、弟をぺろぺろしつつ。

 生徒たちが先生の指導のもと、手際よく産後の処理をしていきます。

 

「よしよし、良くやったな、キッド」

「馬房に戻ってくりゃ良かったのになぁ、カレンも」

「戻れないって判断したからじゃねぇの?

 っつか、予定日よりも早いワリには、結構デカいぜ」

 

 というか……

 

「なあ……これって、子馬が立って歩けるようになるまで、一時間以上この場所で待機、って事?」

「食堂の晩飯……残ってるかなぁ……」

 

 だよねぇ……丁度、飯時だもんねぇ……

 

 寒気の残る、北海道の春の満天の星空のもと。

 生徒先生たちと一緒になって。

『はよ立って歩いてくれねぇかなぁ』と弟に目を向けるのだった。

 

 

 で……

 

 

『キッドにいちゃ』

 

 なんというか。

 基本的に、母ちゃんにくっ付いて回ってる弟なのですが。

 時々、柵をくぐっては、俺のところに遊びに来るようになってしまいました。

 

『あそぼー♪』

『はいはい』

 

 柵の向こうでは、母ちゃんが『変な事教え込むんじゃねぇぞ』と睨んできますが。

 それでも、出産の時に助けられた事は分かっているようで、うるさくは言ってきません。

 弟を舐めてやったり、一緒に軽く走ってやったり。

 

『にいちゃ、はやいー』

『ター坊、お前も速くなれるぞー、いろんな人が、教えてくれるからなー』

『はーい』

 

 と……こんな調子で色々と教えてやると。

 

「ター坊、まだキッドのほうに居たか」

「こらー、母さんとこ帰らないと、ごはんの時間だよー」

 

 弟の世話をしている生徒たちが、集まってきました。

 ……ジャージの色が違うところを見ると、メインで俺の世話をしてる生徒より、一学年下のようです。

 

「兄弟で仲いいのって、ほんと珍しいねぇ」

「あれだろ、ター坊の出産助けたんだろ? アレで放置気味だった母親とも仲を戻してったらしいじゃん」

「ほんとなぁ……でも、あと少しで一歳のセリなんだろう? 先輩たちのキッド号、もうセリに出るんだもんなぁ」

 

 そう。

 俺がこの学校から離れる日は……もうすぐ迫っていたのだった。

 

 そして……まあ、血統的によろしいとは言えないであろう俺は。

 多分……落札されなかったら肥育からお肉なんだろうなぁ……とは、密かに、覚悟を決めていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。