はーい、キッド君。年が明けて一歳になりましたー♪
そして……どうやら、お兄ちゃんになるみたいです。
暫く前から、母ちゃんのレイヴンカレンの腹が膨れてまして……妹か弟ができるみたいです。
春先になって、進級した生産学科の学生や先生たちが、ものっそい慌ただしくソワソワしてます。
なので、お兄ちゃんたる俺がやる事は、ただ一つ。
おーい、かーちゃーん、アイヌネギ盗ってきたぞー♪
「……あのな、キッド。
気持ちはありがたいけど、毎度毎度どこから盗ってきたんだよ、このアイヌネギ。
っていうか、馬には毒だから食べちゃダメ、ぺっしなさいぺっ」
「畑の作物や牛豚の飼料は盗らなくなったけど、今度は敷地の原生林に入って色々盗ってくるようになったな……」
……そらまあ、畑食い荒らして殺気立った百姓一揆……もとい、農業科と追い運動するのは、流石に怖いし。
その代わり、秘密の群生地暴かれて涙目になった教職員が、睨んで来るんですけどね。……来年も生えるよう根っこはちゃんと残してあるって。
と、いうか、最近になって生徒の一人が。
『とりあえず、キッドの行く先探せば、何か見つかるのでは』
と、口取りされながら学校の敷地の原生林を闊歩して、荒らしまわった結果。
アイヌネギ筆頭にほぼ全て、学校の教職員に代々伝わる秘密の山菜の群生地や、新規で開拓された群生地が暴かれる事となりまして。
……生徒共々、たいへん美味しぅございました♪
「さあ、キッド……追い運動の時間だぞぉ~♪」
にこやかな笑顔のまま、乗馬用の牡馬の上でカンシャク筋を浮かべてる教科担任の先生。
……漏れてる漏れてる。殺気が漏れてますよ、先生。
ちょっと学校中の今年の春のアイヌネギ、生徒と一緒になって全部食い荒らしたくらいで大人げない。
「さあ、追いついたら馬刺しにしちゃうからな~♪」
おいおい、冗談だよね……冗談だよね先生!?
教材! 俺、セリに掛けられるまでは農業高校の教材ですよ、先生!?
ってか激しい、激しいよ先生!
……って、ぎゃー、目がマジだー!!
「……キッド号、動きいいよなぁ……」
「ああ、トモの張りもがっつりしてきたし……何だかんだ、追い運動真剣にやってるし。
見ろよ、手本見せてる先生が、マジで追ってねぇ?」
「そりゃ、次、俺たちが実習で馬に乗って追うんだから、多少疲れさせないともう追いつけないもんなぁ……」
「食って、寝て、運動して、か。
いうのは簡単だけど、そのルーティーンをしっかりこなせる馬ってのは、強いよなぁ」
「っていうか、キッド、ガチ逃げしてねぇ?」
「先生たちの殺気、感じ取ってるのかもな……気の毒に」
へーるーぷーみー!! 馬刺しは嫌あああああああああ!!
そして数日後……。
放牧中に、いきなり母ちゃんが産気づきました。
しかも間の悪いことに、母ちゃん、産気づいた途端、馬房に戻らず、藪の中に逃げ込んで物陰で産むつもりらしいです。
……やべぇ。
「おーい、カレン放牧から戻ってきてないけど?」
「緩めに歩かせてただけなのに……ドコいったんだ?」
「って、キッド!? おい、袖を引っ張るな、キッド!!」
「おいおい、落ち着いて、興奮してないで……」
と……
「……まさか……おい、キッド、お前カレンの行方知ってるのか?」
『ひひぃーーん!』
そうだよ、と伝えたいけど、とりあえず引っぱっていくしかない。
「とりあえずタオルとか、出産に必要な道具、軽トラに積め!
あと蜂屋、石河! お前ら、一番キッドに懐かれてるんだから、案内してもらえ!」
『はい、先生!!』
で……俺が母ちゃんのトコに案内をし。
産前産後で殺気立った母ちゃんに、俺や周囲の人間が蹴とばされそうになりながらも。
なんとか生まれました。
弟です。
母ちゃんと一緒になって、弟をぺろぺろしつつ。
生徒たちが先生の指導のもと、手際よく産後の処理をしていきます。
「よしよし、良くやったな、キッド」
「馬房に戻ってくりゃ良かったのになぁ、カレンも」
「戻れないって判断したからじゃねぇの?
っつか、予定日よりも早いワリには、結構デカいぜ」
というか……
「なあ……これって、子馬が立って歩けるようになるまで、一時間以上この場所で待機、って事?」
「食堂の晩飯……残ってるかなぁ……」
だよねぇ……丁度、飯時だもんねぇ……
寒気の残る、北海道の春の満天の星空のもと。
生徒先生たちと一緒になって。
『はよ立って歩いてくれねぇかなぁ』と弟に目を向けるのだった。
で……
『キッドにいちゃ』
なんというか。
基本的に、母ちゃんにくっ付いて回ってる弟なのですが。
時々、柵をくぐっては、俺のところに遊びに来るようになってしまいました。
『あそぼー♪』
『はいはい』
柵の向こうでは、母ちゃんが『変な事教え込むんじゃねぇぞ』と睨んできますが。
それでも、出産の時に助けられた事は分かっているようで、うるさくは言ってきません。
弟を舐めてやったり、一緒に軽く走ってやったり。
『にいちゃ、はやいー』
『ター坊、お前も速くなれるぞー、いろんな人が、教えてくれるからなー』
『はーい』
と……こんな調子で色々と教えてやると。
「ター坊、まだキッドのほうに居たか」
「こらー、母さんとこ帰らないと、ごはんの時間だよー」
弟の世話をしている生徒たちが、集まってきました。
……ジャージの色が違うところを見ると、メインで俺の世話をしてる生徒より、一学年下のようです。
「兄弟で仲いいのって、ほんと珍しいねぇ」
「あれだろ、ター坊の出産助けたんだろ? アレで放置気味だった母親とも仲を戻してったらしいじゃん」
「ほんとなぁ……でも、あと少しで一歳のセリなんだろう? 先輩たちのキッド号、もうセリに出るんだもんなぁ」
そう。
俺がこの学校から離れる日は……もうすぐ迫っていたのだった。
そして……まあ、血統的によろしいとは言えないであろう俺は。
多分……落札されなかったら肥育からお肉なんだろうなぁ……とは、密かに、覚悟を決めていた。