Re:escapers   作:闇憑

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注意)この話の舞台背景、及びネタ元は2005年当時の、今から約17年くらい前と、それ以前の時代の情報と状況を元にしています。

2022年の現在とはだいぶ違う状況……だと思うので、お間違いの無きよう。


ちょっぴり垣間見えちゃった闇のお話

「……さあ、どうしよう……」

 

 自室にて。

 額装された10枚近い優勝レイを前に、俺は腕を組んで頭を悩ませていた。

 他にも、トロフィーやら盾やらが諸々と……無論、キッドとクアッドの獲得してきた代物である。

 

「……リビングも……うーん、もう無理があるなぁ」

 

 まあ、最初のウチは良かったんだ……去年の朝日杯とか、札幌の2歳Sとか、キッドが二歳だった頃の奴は。

 トロフィーやら盾やら額装した優勝レイやら、そーいった記念品を眺めて、優勝した瞬間をゲヘゲヘ思い出し笑いしながらご飯三杯食べるのは、まあ馬主の特権って奴だと思うし、そうして来たのよ。

 

 だけどね……

 

「……増えすぎた」

 

 最初のうちは本棚の空きスペースに置いてたんだけど、まあ色々付いてくるのよ景品が。

 特にG1に勝つと、ごつい盾とか含めて、沢山沢山……資料なんかの本棚を考えると、もうスペースが限界である。

 それに……まず無いだろうけど、泥棒に入られるのも困るしなぁ……モノ自体はただの記念品だとしても、それに価値を見出す人は見出すだろうし。

 

 ……うん、なんかとんでもなく贅沢な悩みを口にしてる自覚はあるんだよ。『優勝トロフィーや盾の置き場がありません』なんて他の馬主様が聞いたら、頷いてくれる人なんて、ごくごく少数派だろう。

 

「貸倉庫……は、もったいないし……ああ、そうだ!!」

 

 丁度いい場所があったじゃねぇか!!

 広ーいスペースがあって、置き場に困らず、これらの記念品を有効活用してくれそうなイイ感じの場所!!

 

 思い立った瞬間、俺は携帯電話のアドレス帳を開き、通話ボタンを押していた。

 

 

 

『お届けモノでーす!!』

「来た……」

 

 静舞農業高校の現校長である、塩森校長はいそいそとダンボール複数に分けられた荷物を受け取った。

 

「いやぁ……最初は何事かと思ったが、実に母校愛溢れるOBじゃないか」

「はぁ……」

 

 額装された優勝レイやら、トロフィーやら、盾やら。

 そういった記念品を『寄贈』された校長先生は、そりゃあもうご機嫌だった。馬産地の農高としてはこれ以上のハクが付く代物なんて無い。

 無論、元担任の牧村先生は、東京出身なだけに、裏事情については容易に推察がつくのであったが……

 

「まったく……まあ、現役生徒たちの励みにはなる、か」

 

 そう言って、撮影に使われる事なく終わった、額装されたキッドの皐月賞の優勝レイを手に苦笑するのであった。

 

 

 

「ごめんくださーい、書類ぶん投げに来ました」

 

 かさばる記念品を母校にぶん投げ、あとは金銭面の書類だけ……となり。

 外で打ち合わせがあるのと、運動も兼ねて、直接税理士さんの事務所に書類を持って行くと。

 

「ああ、針生先生、お待ちしてました」

「おや、どうも、ご無沙汰しております、先代……え?」

 

 丁度、その事務所の所長の先代……70近いご老人が、おいでだった。

 俺が作家業を始めて最初にお世話になった御方で、知り合いの作家たちも何人か世話になっていた人物である。

 つい二年前、俺が馬主業を始めた頃に病気を患って入院し、それを機会に事務所で助手をしていた息子……といっても40代後半だが……に所長の座を譲り、今は体調と向き合ってセーブしながら仕事をしてる御方なのだが…

 

「針生先生、ちょっとお時間よろしいでしょうか?

 いえ、針生先生でしたら、多分そんな事は無いと思うのですが……一言、忠告といいますか注意して頂きたい事が」

「はい? なんでしょうか?」

 

 そう言うと、老税理士の先生が、言いにくそうに一言。

 

「その、ですね……先生、馬主業もされておられますよね? その事に、税理士として、私も息子も非常に危機感を持っていましてね」

「はい?」

 

 なにか問題があっただろうか?

 明朗会計をデフォにしているから、後ろ暗い金なんて無い人間なのだが?

 

「無論、私たち老人世代の杞憂やもしれません。近況を聞く限り、馬産の状況も変わってきている。

 ですが……その……今から語る事は、我々や今の所長である息子たちの世代には、常識だった話でしてね。

 先生、何故日本の馬産において、庭先取引が盛んなのかはご存じですか?」

「? ……それは、元々日本がそういう文化だったからでは?」

「では、何故社田井があそこまで大きくなったか、ご存じですか?」

「そりゃあ、あのお亡くなりになった総帥の馬を見る目が凄かったから……?」

 

 かの大正義サンデーサイレンスが日本で巻き起こした旋風は、死後となった今もディープインパクトとして結実しているくらいである。

 だが、先代の老税理士の先生は、軽く首を横に振った。

 

「伝統は利益なしに続くものではありませんし、革命は最初の引き金は兎も角、一つの原因だけで起こるものではありませんよ」

「ま、まあ、確かに……」

 

 かつて、10年くらい前……プレ○テ、サター○、64の次世代ハード戦争で何故プレス〇が勝てたか、そしてスーファ〇時代の任○堂『帝国』への反逆と革命が何故成功したか。上っ面で語られる事の多い大手サードパーティのスクウ○アの造反だが、アレは『トドメ』であり、そこに至るまでの、もっと深い原因が存在するのだが、まず一番大きな理由は。

 

「流通の変革とか、色々ありますもんね」

「そう、社田井は馬産でそれを成したから成功者になれたのですよ」

「……は?」

 

 一瞬、意味が解らず首を傾げる。

 

「セレクトセール、ご存じですよね?

 ひと昔前はね……欲しい馬があってもセールで買えなかったんですよ」

「え、え、え? でも確か、昔から日高でセールとかやってましたよね、農協や協会が?」

「針生先生、税理士の世界ではね……『馬産に関わるな、関わりたくない』って人が、一定数おるんですよ。何故だと思います?」

「えー……何で、でしょう?」

「庭先取引がブラックボックスになって、脱税やマネーロンダリングの温床になりやすいからです」

「あー!」

 

 そっか……馬の値段なんて時価だし、大金持ってる馬主と生産側の牧場が裏でツルめば、幾らでもどうにでもなっちゃうよなぁ?

 それに一口に庭先と言っても、取引の形態もすげー複雑だし、しかも、古くからの口約束の言った言わないが契約の前提とか……うわぁ……

 

「いくら実入りが良くても、犯罪の片棒担がされちゃたまらない、と?」

「更にね、セール……オークションで買えないんですよ、馬が。

 もう落札者は決まっていてセリ自体が完全に出来レースって事が、ね……」

「なんでわざわざ面倒な……あ、マル市付けるためか!」

 

 農業高校で習った、市場のシステムを思い出す。

 確か、市場の公平性を図るために、競り市に出せば補助金がつくんだった! ……ってコレ公にバレたら、下手すりゃポリスメン召喚モノじゃん!?

 

「針生先生……いや、蜂屋オーナー、あなたは本当に幸運だったのですよ。

 農高産だからこそ、何処かの大手馬主の『お抱え』の背景が無く、更にノーマークで落札し、G1を獲った……今頃、他のオーナーや馬産者は歯ぎしりしているでしょうなぁ」

「まあ、それは、馬主席で痛いほど理解してますけど。ン千万や億の馬とかG1で負かしてるわけですから」

「それが額面通りの金額なら、まだ良かったのですがねぇ」

 

 ……はい?

 

「いいですか、生産者の側としては、どんな名牝と種牡馬で頑張っても、地方レベルかそれ以下だったりする馬が出る一方で、中央クラスの馬も出来るわけですよね?」

「はあ、そりゃ馬産の授業を受けたんで知ってますけど」

「で、大金を持った馬主が、その中央レベルの馬が欲しいとなった場合、その牧場の地方レベルの馬まで『抱き合わせで買ってくれんと売りません』となるわけですよ」

「だ、抱き合わせ販売が前提っスか!?」

 

 はるか古のファ〇コン時代、行政から盛大に怒られて小売りから駆逐され、それでも問屋から小売りへの卸売りレベルで横行していた悪習である。

 ……っつーか、そんな事すっから子供の頃ゲームショップで、新品のワゴン売りが多発して中古市場が勃興する一因にもなったし、ジー○に『ひ○み』が上書きされて売り捌かれたんだよ……

 

「先生は以前、ラムタラ騒動で同級生が学校から消えた事に心を痛めておられましたが……確かに巻き込まれた末端の真面目な零細馬産者は兎も角、日高で黒い事してて潰れた牧場に関しては、正直、私は馬頭観音様の天罰が下ったんじゃないかと思っていますよ。そもそもラムタラにしても、帳簿と現役成績ばっか見て、ロクに馬そのものを見なかったからそうなったんじゃありません? 素人の馬主なら兎も角、本職の馬産者がソレではねぇ……」

「うわ、キッツいお言葉………そんな裏話聞きたくなかったなぁ……」

 

 そんな事情があったら、表向きの庭先取引価格7千万の馬が『実は諸々の『付属品』コミコミで1億超えていました』なんてザラだろう……

 額面が時価の世界ほど怖いモンが無いのは、子供の頃ショップで中古ソフトの乱高下を見て思い知っているし、その延長上でトレカ屋の相場を見たりしてるが……『表示価格すら信用できないン千万の世界』なんて本気で恐ろしすぎるわ!!

 

「だから、昭和のバブル以前の日高を知っている馬主の中には『絶対日高で買うもんか』ってなった馬主が大勢おられるんですよ。中にはわざわざ海外に買い付けに行かれた方も、相当おられたそうで」

「うっわぁ……あ、だから、マル外の緩和と社田井の隆盛の時期は!」

「左様。一千万の馬を『ちゃんと表示価格通りの一千万で売る』『馬を見に来た新規の馬主を客としてもてなす』当たり前とも言えるシステムをきちんと整えたからこそ、真面目な新規の馬主たちから歓迎されたんです。現にディープインパクトも7千万でちゃんと落札されたでしょう?」

「あー、だから金戸オーナーのような相馬眼の化け物のような御方が、馬主として出て来れるようになったんだ?」

 

 まだ小さな幼稚園の頃。

 誕生日に欲しがったドラ〇エの新作を抱き合わせ販売を喰らい、父さんが店頭で頭を悩ませていた事を思い出す。……た〇しの挑戦状と、バンゲ〇ングベイが付いてきて、どうしようかと思ったよ、本当に……

 

「だから正直私は、個々の真面目な牧場は兎も角、今の日高全体の惨状には同情が出来んのです。自業自得の巨大ブーメランが、急所に突き刺さっとるようにしか……」

「なるほど……私も中学生の頃に目の当たりにした任○堂『帝国』の没落は、ゲーマーとして正直ざまぁな部分は多少ありましたが」

 

 だって……大昔のカセット時代は、新作ソフトが一本1万円近かった理由が、技術的制約もさることながら、詰まるところ初心会のクソ流通システムを支え続けるためだったと知って、殺意しか湧かなかったし。

 たとえソレが、TVゲーム黎明期のアタリショックによる市場崩壊を目の当たりにした任○堂の危機感と、当初のTVゲーム市場の勃興に必要な統制だったとしても、それに胡坐をかいた商売を長年続けてりゃサードパーティから反発を受けて当然で、皆、プレス〇に船を乗り換えるわなぁ?

 

 ……あー、だんだん分かって来たぞ。

 

 要するに大昔のゲーム業界と一緒で、今まで徹底的に大手生産者側の都合を中心に商売していたもんだから、景気が良くて好調だった頃は兎も角、今になってユーザーたる馬主たちにソッポ向かれて苦境に陥ってると!?

 

 正直……

 

「……マジで一昔前(1996~2000年あたり)の任〇堂と一緒じゃねぇか……」

 

 農業もエンタメ産業も、結局は栽培や育成や開発などの年単位の長期的な『投資』ありきで成り立つ産業でありながら、成功率を上げる努力は出来ても結果は運任せな部分が多分にあり。更に馬産なんてものは『農業でエンタメ』という、どう考えたってギャンブル極まりない代物なワケで。

 だからこそ、生産者を保護し生業として継続的にやっていくための組織としての農協や協会が存在して業界を支えないとどうしようもなく、彼らが必要な統制を取って来た事情と歴史はあるのだろうが。

 

 だからってソコが中心になって最終的な消費者である馬主……特に業界の未来を支える新規の馬主を軽視してやりたい放題したら、そりゃソッポ向かれちゃうよ。

 

 格ゲーだってトレカだって、対人ゲームってのは基本的に、初心者がついて行けない状況が前提になったら誰も近寄らなくなって、ゲームジャンル自体が過疎って最終的に先細るしか無い。

 ましてやRPGの初期イベントの如く、初心者潰しを喰らって『這い上がって来い』なんてセリフ吐かれたら、普通は逃げるし、仮に生き残って這い上がって来れた奴が居ても、ソイツは確実に歪んでるよ、俺みたいに! ……ホントに這い上がって、あのデッキで暴れまわって対戦相手の愕然とした顔を見るのは、心底面白かったのぉ、げひゃひゃひゃひゃ……!

 

 ……ごほん、それは兎も角。

 

「なるほど、税理士としてのご懸念、ごもっともでございます」

「いえいえ、正直、私も一ファンとして、バーネットキッドの活躍は嬉しくは思っております。

 ただ、馬と関わる事の闇の深さを、生産現場の側でしかご存じが無いようなので」

「ですよねぇ……正直、漠然とした印象しか無かったんですが、何人かの馬主の方が日高を嫌っていた理由にようやっと得心が行きましたよ」

 

 正直、俺は今まで生産者の……それも生産現場に近い立場から日高の苦境を見てきたのだが。

 視点を変えれば、こういう風に日高が見られて居たんだ、という事実を知る。

 

 ……ああ、石河の親父さんが何も知らん俺に『やばくなったら絶対撤退しろ!』って言うわけだよ……

 

「ん、ちょっと待ってください? 『新しいイイ旦那衆が居ない』とかいう日高の悲鳴って……」

「反社会的な『闇の紳士』たちがバブル崩壊や暴対法で軒並み没落して、新興のITあたりに新しい『旦那』がおらんかな、って探している状態だと思いますよ」

「うっわぁ……」

 

 昭和の時代じゃあるまいし、この平成も17年以上経ってインターネットが普及したご時世にか?

 そもそも、まだそんな輩がいるかも怪しいし、居たとしても新規の人間が、そんな事してた馬産者に興味をもってもらえると思っているんだろうか?

 

「だからこそね、先生。個人的に、同時に種牡馬としてのキッドの行先に心配もしておるのですよ。

 正直もう日高は、あのラムタラ騒動で後が無いどころか崖っぷちです。

 だからこそ日高出身のキッドが、仮に日高で種牡馬入りしたら、どういう事になるか……おそらく日高の馬産者たちは『トウショウボーイの夢よ再び』と願っているでしょうが……」

「うーん……不安しかねぇなぁ……」

 

 件の『お助けボーイ』が当時の日高の馬産者を多数救った事は事実だが、だからこそ今現在において崖っぷちの状況下の日高で、キッドがどんな無茶やらされるか知れたモンじゃないし……まあ、社田井がマトモかといえば、一頭につき年間種付け数150とか200とか凄まじい事を普通にやらせてるし……それに応え続けたサンデーサイレンスも化け物だと思うけど。

 

「や、やべぇ……冗談抜きに種牡馬とか考えないで、巻き込まれないように乗馬としての余生を考えたほうがいいかも」

「それはもう不可能でしょう!? というか、幾ら馬主でも、やったら馬産者どころか一般のファンからも石投げられますし、むしろ海外含めた全方位の馬産者から刺客が送られてきますよ」

「ですよねぇ……ああ、正直、今まで『種牡馬になる』って事を舐めてました」

 

 あああああ……こないだの馬券騒ぎといい、リンちゃんの時といい、この臆病ウサギが危機を認識した時点で既にヤバいって、どーいう事やら。……思えば、パソコンの師匠がブラックメンにアブダクションされた時もギリギリで助かったけど、俺ってそーいう星の下に生まれてるのかなぁ?

 い、いや、これをちゃんと警告と受け取ろう。真剣にキッドの種牡馬生活を考えて……多分4、5年で終わるモノだろうけど、そこを手抜きせず、無事五体満足に終えられる預託先を真剣に考えねば……って、そうだ本来の目的があったんだっけ。

 

「あ、そうだ……これ、ぶん投げに来た、この間のジャパンカップの賞金と、当たった馬券の収入の書類です」

「はいはい、拝見します……はい?」

 

 二度見する税理士の先生。

 ……なんだろう。言われた通りに必要な書類はきっちり纏めておいたハズなんだけど?

 

「……蜂屋オーナー? この8億7千万は、一体何をなさったんですか?」

「いや、8回連続で単勝馬券を買って当てたダケでございます」

「……この数字を頭から信じろと?」

「それが正直な数字なんですけど」

 

 この後。いろんな場所に確認の連絡を取り、やましい裏が無いかとか、数字が真実だと理解してもらうために時間がかかり……編集部との打ち合わせに1時間ほど遅れる羽目になりました。




裏百〇貴族『伝え聞いた話です!!』
裏ゲーム制作日誌『伝え聞いた話です!!』

大昔の任〇堂帝国の没落の過程と、日高の没落の話に妙にシンクロニティを感じてしまいまして。
というか、過去の日高に関して、調べりゃ調べるほど(俺が知る限りの)ゲーム業界以上にダークネスな世界だったんで……これでもマイルドにするのに、相当苦悩しました。

……なお、ソフトの抱き合わせ販売と、そのエグさについては実体験談な模様……

……昔のぉ…ドンキーコ〇グの新作が派手に売られる脇で、ロマ〇ガ3が明らかに問屋からの抱き合わせ品としてワゴン売りでな……そのロマ〇ガ3も発売当初は鳴り物入りで、作者はなけなしの小遣い握りしめて朝一で池袋のビッグカメラの先頭に並んで(以下略
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