申し訳ございません。
(品の良い料亭の一室。何台か並べられたカメラと照明)
(運ばれて並べられる料理)
スタッフ 「では、本番入りまーす」
(合図と共に、ハンドサインでのカウントダウン開始……3、2、1、0)
館 「はい、本日の天才TVのゲスト、スペシャルなお二方に来て頂けました。
バーネットキッドのオーナー、蜂屋源一氏と、担当厩務員の石河賢介氏です」
蜂 「どうも、バーネットキッドのオーナーの蜂屋源一です」
石 「バーネットキッドの担当厩務員の、石河賢介です」
館 「いや、本日はお越し頂き、ありがとうございます」
蜂 「いえ、こちらこそ、いつも楽しく拝見させていただいてます」
館 「じゃあ、まずは乾杯から入りましょうか」
蜂 「あ、すいません……お酒ダメなんで、オレンジジュース下さい」
館 「あ、お酒ダメ? 未成年でしたっけ?」
蜂 「いえ、二十歳は超えてるんですけど、体質でダメなんです」
石 「完全に下戸なんです。コップ半分のビールで寝ますから」
館 「ああ、そうなんだ……石河君は」
石 「あ、私は大丈夫です」
蜂 「石河家ってみんなお酒強いもんなぁ……羨ましい」
(注がれるビール&ジュース)
館 「では『かんぱーい』」
石 「というか、今更なんですが……この番組って騎手や調教師や馬主の方がお呼ばれる事って多々ありましたけど、ただの新人厩務員が呼ばれるって前代未聞な気がするんですけど? 普通、調教師の親父とか騎手の兄貴のほう呼びません?」
蜂 「いや、キッドの事をトークのネタに聞きたいって話だったから俺が推薦した。あとお兄さんは新年の放送のほうで呼ぶつもりみたい」
石 「犯人お前か!?」
蜂 「当たり前だろ、キッドの起こす騒ぎで、いつも馬主席やカメラの前で矢面に立ってるの俺だぞ。たまには
石 「あの芸馬引いて、パドックで毎回恥晒す羽目になってんの俺なんだけど?」
館 「あ、やっぱりキッドの奇行って、石河
蜂 「いや、そんなハズは、多分……ないとは思うんですけど……まあ、幼駒の頃は兎も角、育成に入ってからは全体の調教計画とか育成方針は、全部石河
石 「さらっと親父に責任なすりつけたな……」
蜂 「えへ♪ ……まあ、冗談はさておき、確かに癖馬ではあるので、担当の厩務員がキッドの育ての親の一人って事で、安心して任せられるのは事実ですね」
館 「おお……信頼してるんですね」
蜂 「です」
石 「信頼っていうか……確かにキッドを一番わかってる厩務員て言ったら、多分俺になりますけど……そもそもが、ヤツともこいつとも農高時代からの腐れ縁みたいな感じの関係ですからね」
館 「腐れ縁……というか、お二人とも同級生なんですよね? そもそも、なんで静舞農業高校に行こうって思ったんですか?」
蜂 「えーと……ちょっと家庭でトラブルがあって実家から離れる必要があって。その時に寮があって実家から離れていて、進学できる学校が限られていて『じゃあそこ行くか』みたいに」
石 「あー……その……俺はもともと兄貴と一緒で、騎手学校に入って騎手になるつもりだったんですけど、よくある成長にダイエットが追いつかなくなって、中3で栄養失調からのドクターストップが掛かって『諦めろ』って言われて。それでも馬に関わる仕事がしたいな、って思って……あとウチの厩舎キッドが来るまではじり貧だったんで、最悪、他の仕事に進める高卒資格を取りつつ、馬と関わる選択肢を残したいなって考えた時、千葉か北海道かの二択で北海道を選びました」
館 「あー……じゃあ、石河君はもしかしたら僕の後輩になっていたかもしれないんだ?」
石 「です。っていうか競馬学校入った『知り合い』が、今騎手になって走ってますから……時々、美浦でも調教中に顔を合わせたりして、少し『羨ましいな』って思ったりもしています」
蜂 「こいつと一緒に農高の馬術部にも入ったけど、地元の馬産者の子たちより数段上手かったですからね。馬術部の顧問の先生が舌を巻いて『何者だ』って。経歴聞いて、そりゃそうだよって呆れましたけど」
石 「むしろ『お前が教えてやってくれ』って言われたもんな……授業で育成調教するのに追い運動とかで馬に乗る必要があったりするから、クラスの初心者とか見るのに殆ど助教扱いでした」
館 「はー……なるほど。え、じゃあ接点が出来たのは入学後?」
蜂 「です。っていうか、寮の同室でした」
石 「同じ二段ベッドの上と下で俺が上で。あとは坂本と峰岸が隣の二段ベッドで。その二人も同じ道外からの人間だったから、打ち解けられた感じだったよな?」
蜂 「静舞農業高校って、ほとんど地元の農家とかの地域の子が集まってくる場所なんで、道外からの人間が少ないんですよ。学年全部で俺たち含めてトータル8人前後じゃなかったっけ?」
石 「そんなもんだったな」
館 「なるほど……じゃあ、石河君、その中で三年間過ごしてて、蜂屋オーナーが作家だって知ったのは何時?」
石 「いや、それが三年生になってキッドがセールに出る時に、いきなりJRAの馬主資格証持ってきて『ちょっと落札してくる』って軽く言われて。『どうやってそんなモン取ったんだおめぇは!?』ってクラス全員に詰め寄られた時に。あん時『ペンネームで書いてるから黙っていてくれ』ってクラスに言ったんだよね」
蜂 「結局、キッドがデビューして一年そこらしか持たなかったけどね……正体隠すの。最終的に編集部にラジオ番組で『隠し通すの無理だから、もうある程度覚悟決めろ』って言われて、こうして多少なりは顔出す事を覚悟しました」
石 「まあ、『今にして思えば』っていうのは幾つかあって……こいつ自前でノートPCを寮に持ち込んでたんですけど、それがオシャカになった時に、真っ青な顔で寮のPCにしがみついて作業をしてた事があったりとか……あと、学校のPC室のパソコン直して、そこに入り浸っていた事とか。最初は『自力でパソコン直せるとか凄いなー』って思ってたけど、今思うと原稿作業に必死だったんだろうなって」
蜂 「あん時ホントヤバかったからな……自分用のPCに保存したデータがOSごと全トビして、保存してあったバックアップ引っ張り出して来たはいいけど、五年以上前の寿命寸前なポンコツ95を、必死になだめすかして動かしながら、何とか原稿書き上げてフロッピー複数枚に保存して編集部に郵送という」
館 「ふ、フロッピーですか?」
蜂 「いや、最近は都市部はADSLや光回線が一般的ですけど、在学中はISDNが学校に入ったばかりで、下手すると地域によってはテレホーダイの時代ですから、下手したら原稿がメール爆弾になっちゃうんで。
だから、当時は、小説の文章の容量をデータとして確実に渡せるならフロッピーに入れて郵送が一番という……それでもうっかり2DDのフロッピーに文章突っ込んじゃって、編集部から『読めねぇよ!!』って怒られたりしました」
館 「え、ちょっと待って、作家しながら学生もしていたんだよね? 農業高校って朝が早いよね? あと作業が色々あるって聞いたけど?」
蜂 「ええ、ただ農高自体はネタの宝庫だったんで、授業の合間を縫ってストーリー考えたりして、分からない事があったら図書室で調べたり他の科の生徒や先生に聞いたりして。で、就寝点呼の終わった後にノートPCをベッドで開けて、コッソリだーっと」
石 「最初『なんかコッソリやってんなー』って思ってたけど、そのうち気にならなくなりましたね……何より日々労働で疲れてたし」
蜂 「俺も最初は体が慣れるまでは大変だったけど、慣れたら何とかなりました。ただ、作家仲間に農高時代の執筆環境を話したら、みんな『無理だ』って言ってました。多分、高校生の一番体力がある頃だから出来た荒業だったんだと思います。今だと……多分一か月以上になると、書く事は出来てもクオリティ的に厳しいモノになりそうだなぁ……」
館 「うわぁ……改めて聞いたけど、凄い経歴だなぁ」
館 「で、バーネットキッドを育ててるうちに、『馬主になろう』って思ったんだ?」
蜂 「まあ、それもあるんですけど……その、ここで語っていいのかなぁ? 農高に入って生産者として競走馬の闇に触れて来たからこそ、馬主の道を覚悟したんですけど……」
石 「え、闇って?」
蜂 「ほら、一年の時、先輩たちの燻製のアレとか、二年生の時に同級生や先輩たちが学校辞めた話とか……」
石 「あれか……確かに闇だな」
館 「闇!? え、何があったの?」
蜂 「これ生放送じゃないですよね? ヤバかったらピー音でもカットでもしてくださいね?
えっとですね、一年の時、同学年で牛豚のほうに進んだ生産学科の面子の一人が、学校で育てた豚を使ってベーコンやソーセージを作ろうって話になったんですよ。
で、燻製を作るのに俺たちも乗って色々手伝ったりしたんですけど、その話を聞いた先輩たちが『丁度いいから混ぜてくれ』って、結構な量のお肉を燻製用に持って来たんです。最初、何の気なしに食べて旨い旨いってみんな言ってたんですけど……何のお肉かって先輩たちに聞いたら、その年のセールに出して売れ残った馬のお肉で、どこも引き取り手が居なくて肥育から食肉処理されたヤツを、先輩たちが金出し合って買って食おうって話になって……」
館 「ぶっ!!」
石 「俺も最初、うっ、ってなったんですけど、結局のとこ、牛も豚も、家畜って経済動物じゃないですか? その範囲の中で『馬だけが例外って事は無いんだ』って。
貰われていく場所も飼い続けられる場所も無いし、じゃあ競走馬や乗馬になれなかった馬の末路って『こういう事だよな』って」
蜂 「その辺は嫌って程叩き込まれたよね? こう、夢の裏側というか現実というかリアルというか……『こいつらはお前らに馬ってモノを教えるために育てられているんだ』『馬を育てる人間を育てるための馬なんだ』って。だからこそ『真剣に向き合い続けろ』って先生に授業で物凄く詰められたっけ」
館 「うわ、エグいなぁ……それを15から農家じゃなくて一般の子供に教え込む世界か」
蜂 「ご存じでしょうけどエグい事ばかりですよ農業関係なんて。
動物植物問わず、人間の都合でお金稼ぐためにナマの生き物相手にしてるワケですから、色んな意味で情け容赦ありませんからね。農家って仕事は、否応なく自分他人問わず、人の業と生物の命に、同時に向き合う仕事ですから」
石 「俺も、小さい頃から馬に乗って色々知っているつもりではいましたけど、いざその現実を直で目の当たりにして、悩みましたね」
館 「うわぁ……あと、同級生が学校を辞めたって、やっぱりその……地元の子の実家の農場が倒産しちゃったとかそういった事?」
蜂 「そうです。中でも悲惨だった子が何人か居て、あれは強烈でしたね……実家が生産牧場とかの馬に関わる生徒たちだったんですけど、二年生の二学期の時に『(ピ―――――――――――)ラムタラ騒動まっ只中の最中に、早●牧場の大型倒産に巻き込まれて、冬休み終わった三学期に何人も生徒が学校から消えt』」
館 「ストップストップストォォォォォップ!! アブナイアブナイアブナイ!! ……うん、ごめん、興味本位で聞いた僕が悪かった」
石 「確かあの野郎、最近『(ピ―――――)ニュース見たら横領でパクらr』」
館 「だからストップ!! ……ああ、そうかぁ……そういう所を見てきたから蜂屋オーナーは馬主になるって覚悟を決めたのか」
蜂 「まあ、そういう事です。自分の小ささとか無力さとかを学生時代にモノ凄く思い知らされて、どう頑張っても目の前の一頭すら救う力も無いし、そもそも馬の世界って物凄いシビアで、勝てない馬の末路を知ったからこそ『この子は走って勝てるのに見殺しにするのか』って思って。
で、思い悩んだ末に『じゃあ俺が馬主になってやる』っておっかなびっくりで覚悟を決めて、キッドを買ったんです」
石 「最初、こいつが馬主やるって聞いた時に『マジか』と思ったんですけど……まあ、約束は約束だったし、オヤジを紹介してキッドを預かって……『なんじゃこりゃ』ってなって、後はあれよあれよ、と、皆さんご存じの通りに」
館 「はぁ……え、育成牧場での調教は君は参加してないよね?」
石 「はい。農高を卒業して厩務員の資格を速攻で取って、キッドのデビュー戦ぎりぎりに競馬学校の卒業を間に合わせた感じです」
館 「そんなシビアな世界なのに……失礼ですがどうしてあのヒゲダンスに?」
蜂 「忘れてください」
石 「記憶から消して……アレ俺たち二人の黒歴史」
館 「いや、あんな強烈なの忘れようが無いよ。JRAのホースショーの調教師の方が『あれは真似できない』ってハードルが上がって泣いてましたよ」
蜂 「は、ははははは……まあ、悪乗りが8割で、あとは冗談抜きにホースショーやサーカスの人の目に留まったら馬肉コースは避けられるかもな、って思惑はありました」
石 「あ、お前そんな事考えてたんだ?」
蜂 「まあ、あの後ご存じの通り、先生に滅茶苦茶怒られるわ、お茶の間に流れて黒歴史になるわ、本家様にまで知られる事になるわ、ホントやるんじゃなかったと……」
館 「ああ、じゃあ、あの頃はまだ馬主になるって事は迷っていたんだ?」
蜂 「それもありますが、そもそも資格は満たしていたとしても未成年だったので馬主資格が取れるかどうかも怪しかったし……生産学科の授業って、どうしても『他の人に認められる馬を作る』事が眼目になるんで、迷うというかその時は『どうしたら買ってもらえるか』に目がいってて」
石 「あの時にオヤジも学園祭に来てて『面白い馬だな、もし売れたら馬主に営業かけといて』って言ってたんです。まさか生徒が馬主になって持ち込んでくるとは夢にも思わなくて、ビックリしてました」
館 「あ、じゃあ石河
石 「『素質はあるかもなぁ』みたいには言っていました。まあ、ヤツのお陰でじり貧だったウチの厩舎は助かりましたが、同時に、もともと薄くなり始めてたオヤジの毛根のほうが、ここ一年のストレスでじり貧通り越して大ピンチに」
蜂 「ごめんなさい、石河
館 「あ、あはは、その辺は触れないであげようね……」
蜂 「まあ、キッドたちを預かってもらっているという以外にも、本当に感謝してる事が石河
館 「え、どんな?」
蜂 「心得を教えてもらって。俺が馬主になってキッドが二勝したあたりからかな? 真剣に『馬が分からなくなったら馬主を辞めなさい』って警告してくれて」
館 「え、調教師の先生が!?」
蜂 「です。静舞に居て、さっきも話した通り、散々家畜っていう経済動物としての側面の闇は見てきたわけですけど『そんなもんじゃないよ』って。だから、真剣に『何時でも馬主という立場から逃げられるようにしなさい』って。『馬を分からない人ほど、馬の魅せる夢に簡単に惑わされちゃう。だから分からなくなったら絶対撤退しなさい』って。
本当に大人として、商売上の立場もかなぐり捨てて忠告してくれた言葉で。
だから、馬主としては常に逃げ道を考えて行動するような感じ、ですかね? それでもやらかしちゃう事とか失敗とか一杯あるんですけど」
館 「ああ、そうか! だから、皐月賞以降の行動は」
蜂 「まあ、そういう感じですね。
負けてる側が逃げるのって大変ですけど、勝った側が逃げるのって、実はその気になれば簡単ですから……瀕死でも何でも、とりあえず勝ちは勝ちですから『これ以上ヤバくなる前にとっとと撤退だー』と」
館 「酷い勝ち逃げだなぁ……あ、じゃあさっき言った『やっちゃった』ほうってのは?」
蜂 「(やや目を逸らしながら)やっぱり今年のセレクトセールですね。
リンちゃん買うための見通しが甘すぎて、最終的にキッドの賞金から1億も突っ込んじゃって。『1億』って差し値を叫んだ直後に『やっちまった』って後悔して、その後ある意味もっと後悔する羽目に……」
館 「あれ凄かったよね……そういえば長部先輩がセキトカイゼリンのセールを見て『騎手免許取りなおしたい』って言って、家族に止められたそうだよ?」
石 「……へ、マジですか?」
館 「うん」
石 「やべぇ……じゃあもしかしてあれ、本物の長部さんからだったのかな? あれだけ盛大な引退式したハズなのに、なんの前置きもなく直で厩舎に掛けてきたんで、騙りかなんかだと思って電話ガチャ切りしちゃった!」
蜂 「おいいいいいいいい!! 初耳だぞ何やってんのぉぉぉぉぉ!?」
石 「後で確認して本物なら謝っとかなきゃ!」
館 「いや、もう来てるよ? どうぞー」
石&蜂『ぎゃああああああああ!!!』
石&蜂『(フライング土下座で)申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁ!!』
長 「いや、確かに良く考えないで私も電話で突っ込んじゃったし……にしても、君たち本当に仲がいいし面白いね」
館 「来年の栗東の騎手たちの新年会で、宴会芸に隆二と一緒に舞台に上がってもらえないかなぁ、とか考えちゃうな」
蜂 「いや、芸人はキッドだけですから!」
石 「何なら美浦から兄貴を生贄に差し上げますので……あれ? 栗東って騎手たちで集まって新年会とかあるんですか?」
館 「うん、あるよ? 美浦は無いの?」
石 「兄貴がそーいうのに顔出したって話は聞いた事が無いので……多分無いんじゃないかな? その辺は詳しくは兄貴に聞いてください」
長 「そういえば、お兄さんなんだけど、昔、調整室で会った時はピリピリして焦ってる若手って感じだったけど、僕が引退してヒゲ生やしてから少し柔らかくなったって聞いたね」
石 「あー、はい。皐月賞でキッドを死なせかけて、それで色々あって。その辺は館さんが詳しいんじゃないかな?」
館 「うん、まあ……皐月賞の後ね、ちょっとお兄さんが調整室で首を吊りそうな顔してて、僕としても色々思い出して放っておけなくて……で、ちょっと二人で深酒し過ぎて潰れちゃって、警察のお世話になっちゃって」
蜂 「ああ、あの警察署に石河
あの時、警察から連絡が厩舎に来た丁度その時に、キッドのクラシック戦線離脱の話を、石河
館 「あ、そうだったんだ……え、って事は、本当にレース終わった直後に、もう蜂屋オーナーは撤退の判断下してたんだ? 確かに早いとは思ったけど」
蜂 「です。一応、同窓会兼祝勝会の席があったので、それが終わった後に『うん、撤退しよう』て考えて。で、厩舎に一報だけ入れて、翌日、直接厩舎に顔を出して細かい相談をしていたら、ほんとにもうタイムリーに警察から電話がかかってきて」
石 「あん時そんな事になってたんだ……まあ、お前が一番最初に目を付けた馬だもんな、ディープ……っつーかウィンドインハーヘアの2002って」
館 「え? ちょ、どういうこと」
石 「いや、農高の2年生の時に、0歳のセレクトセールの映像見せて、冗談で『どの馬の馬主になりたい?』って聞いたら『これ』ってウインドインハーヘアの2002を躊躇なく選んで」
長 「え、本当!?」
館 「冗談……ですよね?」
蜂 「まあ、一応……本当ですけど……言っても信じてもらえないだろうし、確たる証拠も証明も出来ないので、ホラだと思ってください。
それに、当時7千万なんて大金確保できなかったし、馬主資格も持ってなかったし、何より当時の俺が仮に馬主としてすべての条件を満たして落札できたとしても、井出江
石 「だから決断がすげー早かったし、ディープへの警戒もオーナーが一番していましたよ。『絶対皐月賞までは当たらないようにスケジュール組んでくれ』って」
館 「えええ、そっちはそこまでディープ警戒してたの!? 当時、他にも有力馬居たじゃない? ジャパンカップにも来たアドマイヤジャパンとか」
石 「『それらよりも、とにかくディープがやばい。なるべく当たらないように、当たった時には奇襲でも一発芸でもいいから勝てるようにしてくれ』って……な?」
蜂 「まあ、そうです」
館 「それであの皐月賞で二の足が出たわけかぁ!?
あれは本当に面食らったというか……『もらった』って思った瞬間に前で粘られて、冗談のように距離が縮まらなくなって……あー、そうかぁ……勝てなかったワケだ。馬も騎手も厩舎もオーナーも完全に一体で総がかりの奇襲かぁ……さっきも話したけど、酷い勝ち逃げだなぁ……」
蜂「勝ち逃げって言っても、逃げた先が地獄でしたけど?
宝塚でしょ? 札幌記念でしょ? 秋天でしょ? で、ジャパンカップ?
正直、ジャパンカップにディープが出て来なかったのは幸運でした。
出たら回避するつもりでいましたし」
館 「流石に、菊花賞で3000Mの後に、中一か月でJCの2400Mってのは今のディープには厳しいからね……有馬もあるし。そうか、最初からソコまで警戒されていたのか……」
蜂 「まあ、新馬戦や若駒Sを見て『ヤバい』と思って、皐月賞を見て『ヤバすぎる』と。
相性が悪いというか……多分、『お互いにかみ合い過ぎてぶっ壊れた』感じかな?
ディープもこう、気質は逃げというか……見た感じなんですけど、多分、走るのが凄い好きな馬なんだと思うんです。で、キッドも飄々としてるようで『走る事は負けない』みたいな感じだから……レースになったらお互い『ああなるまで』張り合ってやっちゃうんでしょうね」
館 「なるほどなぁ……パドックは悪ふざけするけど、確かにレースじゃ本当に負けん気強いしね、キッド」
蜂 「というか、館さんも、割と別の鞍上でキッドとレースしていて『ディープならば……』って考えちゃった事ありません?」
館 「ははは……そこはノーコメントで」
館 「そういえば、長部先輩、セキトカイゼリンに乗せてもらえたんでしたっけ?」
長 「そう、育成中のカイゼリンにね。そちらのオーナー様のご厚意で」
蜂 「はは、リンちゃんには落札直後からいろいろと振り回されていますけど、ある意味、現時点での究極がコレでしたね……最初本当に何事かと思いましたよ」
石 「なに、そっちには話が通ってたの!? 連絡まわしてよぉ~」
長 「いや、厩舎に突っ込んじゃったのが先で、伝手を使ってオーナー様から石河
蜂 「ええ、ちょっと懇意にしている会長様から『話がある』って言われて、そこに長部さんがおられて。で、リンの調教というか、ちょっと乗ってもらって」
長 「凄いよね……ほら、スイープトウショウといい、最近、全体的に牝馬が凄く強くなってきてるじゃない? 僕が現役の頃はああいう牝馬はエアグルーヴとかヒシアマゾンくらいで、他は殆ど考えられなかったもん」
蜂 「あ、じゃあリンちゃんも、その素質があると思います?」
長 「ありますよ。背中っていうか、乗り心地が凄く柔らかくてテイオーを思い起こさせる。正直、テイオーの後継者がようやっと現れたか、って感じだった」
石 「いや、牝馬ですから」
蜂 「後継者って、種牡馬にはなれないと思いますが」
長 「そうなんだよねぇ……まあ、よくあるけど『この子が牡馬だったら』って思った。牡馬ならダービーどころか三冠だって狙える逸材だよ。こんな事なら、正直あと何年か騎手免許の返納を待つべきだったなぁ」
館 「凄いねぇ、長部先輩のお墨付きが出ちゃった……冗談抜きにキッドの時もそうだけど『本当に農業高校の素人の生徒たちが育てた馬なのか!?』って思ったよ」
蜂 「そういえば、母校に最近、ちょっと講演でお呼ばれしたんですけど、たった2年で学校がだいぶ様変わりしていましたね」
石 「え、どんなんなってた?」
蜂 「あのひび割れだらけの風呂場とか、滅茶苦茶になってた馬房の傍の使ってない納屋とか、色んな所がすげーキレイにされて、あとパソコン周りに光回線が入って。んで、原生林を開拓して育成用の坂路とか馬場とかが新しく出来始めてました」
館 「原生林を開拓!?」
蜂 「開拓です。学校の中に森とか川が以前はかなりあったんですよ。で、生徒先生総出で敷地内の原生林を重機使ってだいぶ切り開いたみたいで。昔は森の中にあった丘が、今、育成用の新しい坂路に化けてる最中です」
石 「元々、敷地だけは無駄に広かったからな……学校一周で20キロくらいあるんじゃなかったっけ?」
館&長『20キロ!?』
石 「大体、美浦や栗東のトレセンがすっぽり入るくらいじゃないですかね? もうちょっと広いかな?」
館 「信じられないくらい広い高校だね……え、森があるって事はクマとか出ない?」
蜂 「出ますよ。警戒して寄ってこないけど」
長 「ずいぶんとワイルドな環境だねぇ……」
蜂 「一度、昼飯にクマ鍋が出た事ありますよ。結構危ないラインまで近寄って来たんで、ゴミの味を覚える前に、ライフル使える狩猟免許持ってる先生が、学校の敷地内に湧いたヤツをズドンと……で、翌日、死体を軽トラに乗せて、朝礼の時に『駆除されましたー』ってアナウンスが」
石 「あんまり美味しい肉じゃなかったよな、あのクマ。時々獲ってきてくれる鹿肉のほうが美味しかった」
蜂 「ああ、鹿は害獣なんで駆除対象なんです。で、たまに授業の無い休日に猟期だとズドンとやって先生が獲ってきてくれて、一部の生徒たちのご飯になったりするんです。あと畜産でも食肉関係の授業は、それを教材に食肉処理場に持ち込んで解体とかやるみたいです」
館 「想像以上にワイルドな学校だなぁ……」
蜂 「北海道って大体ワイルドでしょ? というか北海道のイメージって、正直、静舞の農高のアレしか思いつかないんですけど」
石 「うん、畑と牧草と森と家畜と鹿と時々熊? で、海岸沿いに張り付くような小っちゃい町?」
蜂 「他にはなーんも無かったもんな? ローカル線の駅前までバスで1時間くらいかかったし」
石 「っつーか、駅前そのものが何も無かったよね?」
蜂 「正直、あんな環境で、95でもISDNでもパソコンが存在してインターネットにつながっていた事そのものが、驚愕だったな……」
館 「さて、年末の有馬に向けて……の前に、報告があるんですよね?」
蜂 「はい。今年の朝日杯FS……有馬の二週間前、ですよね? そこにバーネットキッドの全弟であるクアッドターボが出場するのですが、そこの鞍上を、こちらの館騎手に務めてもらう事になりました」
館 「はい、もう一頭のほうのオグリの孫に乗せてもらえる話になりました。実は、何度か美浦まで調教に行ってますが……うん、ここではあまり語れないけど彼も凄い馬だね」
石 「最初、親父が話を振った時は『本当に受けてもらえるのか』と思ったけど、乗ってもらった時は、ホント凄かったもんなぁ」
蜂 「クアッドに関して親父さん……石河
館 「いや、こちらこそ乗ってみたいとは前々から思っては居ましたが、まさか美浦からオファーが来るとは……ただ、調教でもキッドのほうに乗せてもらえなかったのはちょっと残念でしたが」
石 「だめですよ。対ディープで今、色々仕込んでいる真っ最中なんですから。全部バレちゃうもん」
蜂 「ちゃんとバレないように調教時間ずらしてもらってます」
館 「しっかり警戒されてるんだもんなぁ……」
蜂 「むしろ、農高産で落札価格90万の馬なんだから、7千万の馬が油断して欲しいくらいです」
館 「3歳でG1五勝した無敗馬に対して何を油断しろと!? 美浦はどうか知らないけど、栗東の有力厩舎のほとんどが、してやられっぱなしでドコも目の色変えてるからね?」
石 「はは、美浦は……栗東の精鋭を蹴散らしているから、一応、応援はしてくれてるけど、眼の底は笑ってない感じかなぁ……」
館 「では、番組もそろそろ後半なのです……が。ゲストのお二方に、お手紙からの質問を」
蜂 「はい、なんでしょう?」
館 「『蜂屋オーナーや石河厩務員にとって、バーネットキッドが特別な馬だというのは分かるのですが、具体的に、自分自身の中で、彼をどういう存在として見ておられますか?』」
蜂 「そうですね……変な話なんですけど……悪友……が一番近い感覚かもしれません。こう、一緒に居てバカをやるのが楽しい関係、かな?」
石 「正直、厩務員として本当はいけないんですけど……やっぱり俺も同じ、ですね。というか農高で俺らの世代は、先生生徒全員キッドに散々振り回されましたから。だから、周囲が騒ぐG1五冠の無敗馬というよりも、時々学生時代の悪童ぶりを思い出しちゃう感じで。レースや調教で自分や兄貴を乗せて走ってる時は『G1馬だ』って思えるんですけど、厩舎でくつろいでいる時とか放牧されてる時の姿は本当に……うん、あの頃のまんまですね」
館 「うーん、惚気られたなぁ……じゃあ、次に……『蜂屋オーナーにとって馬主という立場に立って、変わった事は何かありますか?』」
蜂 「変わった事……まずペンネームで書いていたのがキッドが活躍し過ぎて、顔ばれする羽目になったのと……あと、館騎手含め、恐れ多い御方に沢山声を掛けられて、目を白黒させるような目にも沢山遭いましたけど……それも含めてこう、馬主って立場に『置かせてもらった』みたいな。最初の頃は、オープン戦まで勝てれば万々歳くらいに思ってて、適当に稼いで引退したら、まあ最後まで面倒見てやろうかな、って思っていたのがこう……今では稼ぎが逆転されちゃってます」
館 「え、でも今年アニメ映画にもなってたじゃないですか」
蜂 「いや、そりゃ動くお金は大きいし、お陰様でヒットは飛ばせましたけど、結局その動いたお金が全部原作者の懐に入るワケじゃないですし、アレは本当にアニメーターさんや声優さん含め、大勢の人が関わった大規模な『プロジェクト』の結果ですから、正直規模が違い過ぎて……原作者として物語が広がるのは嬉しいですけど、あそこまで大きな話になると、もう『大プロジェクトの原作者っていうパーツ』だと思うしか無いんですよ」
館 「なるほど」
蜂 「あと、なんというかこう……他の馬主様含めホースマンの方々全部からは怒られそうな言い方になるんですけど……『競走馬』って人類が生み出した、古今東西あらゆる趣味の中でも『究極形の一つ』だと思うんです。だってその『趣味』のために、サラブレッドっていう馬の『種』を、人類がン百年かけて創っちゃったんですから」
館 「あー……なるほど」
長 「そういう見方もあるのか……」
蜂 「だから馬主二年生の俺の知る限りでも、その楽しむ幅も懐も業も物凄く深くて……その分出ていくお金も半端じゃないですけど……本気で楽しもうと思ったら、本当にいくらお金があっても足りない趣味だなぁ、って。本当に底なし沼ですね。
だからダビスタやウイポの家庭用ゲームとか、精々、ゲームセンターのメダルゲームで楽しんでいる人たちのほうが、ある意味健全だと思いました。ほんと自分からすると、信じられないほどお金が出て行って入って来る、ワケの分からない世界だなぁ……と」
石 「あー、こんな事言うのもアレですけど、大体出ていくほうが普通ですからね? 持ってる馬の数より、重賞どころかG1の数が多いなんて馬主は彼くらいです」
館 「うん、確かに」
長 「居ないね……確かにそんな馬主は居ない」
蜂 「ちょっ! ビギナーズラックが当たっている最中なダケだから! 持ってる馬3頭しか居ない零細個人馬主ですよ俺!? キッドが凄すぎたダケだってば!」
館 「いや、クアッドも凄い馬だったよ」
長 「さっきも言ったけど、セキトカイゼリンが来ることを知っていたら、無理にでも二年は引退を延ばすべきだったかもと少し後悔してますよ」
石 「だって。伝説の名ジョッキー二人からお墨付きが出たぞ、オーナー」
蜂 「うわああああ、勘弁してください、また馬主席の目線が怖い事になるんだから。『馬の見方を教えてくれ』って言われたって、俺自身『走ってくれそうだな』って思った馬を買っているダケなんですから。ホント自分でもワケわかんないですよ」
石 「おいおい、お前プロの文章書きなんだから、自分の才能を言語化する努力はしようぜ」
蜂 「え? えぇぇぇぇ……えーと、ぐぁーっときてぐーっときたかんじのをきゅーっと」
石 「長嶋語で誤魔化すなよ!」
蜂 「だから本人もワケわかんない事になっているんだって。皆さん『こんな馬主は居ない』って言ってたけど、俺だってそんな馬主になれるなんて思ってもいなかったんですから。そもそも、新馬戦含めて二歳の頃にウィナーズサークルに顔出ししてたのも『まあ新馬戦や2歳のOP戦なんかは、みんないちいちチェックしてないだろう』っていう雑な思惑があってですし」
石 「もうあの段階で出自が面白いから、注目はされてたじゃん。……園長の動物番組にだけど」
蜂 「まあそうだけど……究極はやっぱ、皐月賞終わった後の会見が致命的だったかも。『俺が決断したんだから俺が顔出して説明しなきゃ』って使命感に駆られてやったけど、あれが決定打で身元バレに繋がったのかな……ホント、本業は庭石の裏のダンゴムシみたいに、物陰でペンネームでコソコソと好き放題にポンチ文を書き散らすのが仕事だと思っているから、こんなカメラの前でトークするなんて戸惑う事ばかりですよ……だからとりあえず友人を生贄の盾に連れて来たんですけど」
石 「タダの新人厩務員を盾にするなよ!」
館 「そうそう、その生贄の盾にも話を聞きたかったの。
お兄さんが言ってたけど『もし体重の問題が無かったら、騎乗センスは弟のほうが上だったかもしれない』って……あとほら、新人の眉園騎手だっけ? 確か元カノだったとか聞いたけど、彼女も初心者で子供の頃、色々アドバイス貰ったとかって……」
石 「ぶーっ!! や、やめっ、かんべんしてください!! もう3年以上前に終わってるの! とっくに終わってますから!!」
蜂 「ああ、確か幼駒の頃のキッドが、携帯電話しゃぶってポイして壊したせいで、別れる事になった彼女が居たって……今、騎手やってんだ?」
石 「かんべんして……っつか、何で今さらそんな事を」
館 「いや、キッドを調べていたら、眉園君含めて栗東の新人の子の内、何人かから君の名前が出て来たんだよ……『キッドに付いてるのアイツか』って」
石 「もうとっくにダメですよ。今でも調教厩務員としてだって体重ギリギリですもん……これ以上落とすと栄養失調でやばいって医者に言われてるし、将来的に調教助手の資格取って調教師目指すつもりでいますから」
館 「じゃあ本当に騎手としての未練はない?」
石 「迷いが全く無いと言えばウソになりますけど、現実的に不可能ですし、そこは割り切ってます。まあ、馬に関われるだけでも幸せかな、と……年取ると体重は嫌でも増えるんで、乗れなくなるまでは馬に乗りながら、将来的には調教師を目指そうかな、と……って言っても、親父の後を最初に継ぐのはダケさん……ああ、ウチの調教助手の人だと思いますけど」
館 「えー、そこは頑張ろうよ。僕の同級生は30代で厩舎開業したよ?」
石 「超名門の御曹司じゃないですか、あの御方。……それに、試験や営業とかもそうだけど、馬の見方とかは、まだ色々教わって勉強しないといけないですし……主に蜂屋から」
蜂 「お、俺ぇ!?」
石 「だって、調教師になったら、勝てる馬見つけて営業しないといけないんだから……」
蜂 「え? ……馬を見つけて連れて来るのは馬主の仕事じゃね?」
石 「そんなのは、お前と金戸オーナーと、あとメジロやシンボリなんかのオーナーブリーダーやってる牧場くらいだよ?」
蜂 「えぇ? そうなの!?」
(暫し、沈黙が落ちる)
館 「……ああ、そうか……そうだよね」
長 「本当に『新時代』のオーナーだなぁ」
石 「『新時代』というより、ある意味、正当な『馬主』なんですけど……正統過ぎて今どき普通居ないですよね」
蜂 「な、何か変な事言ってます? 俺?」
長 「あのね、普通の馬主は、懇意にしてる調教師の先生と一緒に、勝てそうな馬を探しに牧場やセールを回ったりして『こんな馬いかがでしょうか』って二人で相談して馬を買うの」
館 「金戸オーナーも確か、最初に馬主を始めたての頃は調教師の先生と回った、って聞いたよ。蜂屋オーナーは、その過程もすっ飛ばしちゃってるんだよ」
蜂 「はー……いや、馬主になった経緯が経緯なんで、良く知らなかった……そっか、石河の親父さんが出張とか多いのって、そういう経緯があったんだ」
石 「思うに、こいつの場合、順序が逆なんだと思います。
普通の馬主の方ってその……言うのもアレなんですけど『馬主』っていう『ステータスが欲しい』って言うのが最初にあって、走らせる馬は後から考える感覚なのかもしれないけど、こいつの場合『走らせたい馬がいる』から全てが始まっているから、馬主っていうステータスのほうが後から付いてきた感じなんでしょうね……だから色々自覚が無いんだと思います」
館 「さて、番組も最後ですが、ここで最後のドッキリとして、蜂屋オーナーになじみの深い、ある御方をお呼びしております」
蜂 「……え? まさか農高の先生とか?」
館 「さあ……誰だと思います?」
蜂 「えー? 俺になじみ深い……? 誰?」
館 「お呼びしましょう、どうぞ」
(襖を開けて入って来る新野女史)
新 「どうも皆さんはじめまして。雷撃文庫で先生の担当編集の新野由香里と申します」
蜂 「うわぁ!! え、え、聞いてないー!?」
館 「なんでも、作家としての担当編集だけではなく、馬主としてのフォローも色々しておられるとか」
新 「ええ、最初は傍観していたんですが、先生が馬主としても有名になるに連れて、本業の作家業にも影響が大きくなって、いい加減放置しておけなくなりまして……今年のセレクトセールとか、何かとトラブルに巻き込まれるので、もういい加減、レースの日には秘書代わりに付いていく事になりまして」
蜂 「あー、はい……なんというか、名刺も持たない社会不適格者の面倒を色々見てもらって、本当に助かってます……って、え、新野女史が来るって事は、あの時のラジオみたいに、また何かバラされるの!?」
新 「はい、もう色々と覚悟を決めてもらおうかと思いまして。
というか、この番組のオファーを『受けた後に事後報告』とかされて、少し途方に暮れたので、色々釘を刺して、暫くアキバを徘徊したり虎やメロンで買い物出来なくしたほうがいいかなと」
蜂 「かんべんしてー!! あとエロだけじゃなくてPCのパーツとかも買い漁ってるんだから!」
新 「普通に買えばいいじゃないですか、パソコン」
蜂 「嫌だよ既製品なんて。パソコンは『自分で作るモノ』でしょ!?」
長 「ぇ……パソコンを『作る』?」
蜂 「いや、メーカーの既製品って、どうしても要らない機能とかソフトがくっついてきたり、スペックに満足出来なかったりするんで、ノートみたいな面倒くさい奴以外は、パーツ買って自分で作るんですよ」
長 「はぁ…凄いな……これが新時代の若者か」
蜂 「いや、そんなすごくないですよ……最初は河原に捨ててあったエロ漫画雑誌のコラムに載ってたエッチなゲームを18歳未満でプレイしたい一心で、貰ったガラクタから必死に組み上げようとしたのが始まりですから」
長 「わははは、いや、十分凄いよ!」
館 「行動力も凄いけど、そこで『自分でパソコンを作ろう』って発想が凄いな」
石 「さっきも話しましたけど、農高の壊れたパソコンをニコイチやサンコイチして、何台も修理してましたからね……凄いですよ、パソコン知識とかは」
蜂 「お陰様で、中坊の頃から立派なオタクのエロガキでした」
新 「まあ、こんな感じで元から行動力のあるオタクな先生なので、馬主としても行動力があり過ぎて色々やらかしてるので、いい加減、公開処刑をして釘を刺しておかないとと思いまして」
蜂 「なに……何をバラす気なの!?」
新 「何からバラして欲しいですか、先生?」
蜂 「やめて……心当たりが多すぎて、どれもクリティカルなんですけど」
新 「とりあえず、最近、府中の馬主専用駐車場に、自転車留めたお話をしましょうか?」
蜂 「うわ……アレか……え、アレをどこまで?」
新 「単勝馬券を千円買って150万にしたあたりまでです」
蜂 「うへぇ……」
館 「え……なんかすごいパワーワードが一杯出て来てるんだけど? なに、自転車で府中まで来て、馬主専用駐車場に自転車を留めて、千円で150万当てて自転車で帰ったって事!?」
蜂 「あー……はい、まあ、そうなります。住んでる所が府中と近くて、自転車で運動がてらに行ける範囲なんですけど、秋天まで府中に行った事って今年の共同通信杯の一度しか無かったんですよ。で……秋天が終わって、それに気が付いて。仕事で二週間近く自宅にカンヅメしてたんで、気分転換にも丁度いいやと自転車で思い立って散歩がてら取材に行ったら、駐輪場が分からなくて……で『あ、俺馬主だから、馬主専用駐車場に留めればいいじゃん』と」
長 「(爆笑中)馬主専用駐車場に自転車留めたって……高級車を留めた人ならいくらでも居るけど自転車を留めたって……」
蜂 「後で新野女史含めて『馬主権限をそんな事に使うな』と色んな人に怒られました。今度からは普通に駐輪場に留めます」
館 「えー、で、千円で万馬券当てて帰ったんだ……凄いなぁ」
蜂 「いえ、単勝しか買ってません」
館 「は? ……いや、単勝で千円で万馬券? 出てない……よね?」
蜂 「いや、単勝で勝ったお金を、全額次のレースで単勝に突っ込んで、その日の第8レースから5回くらい連続で勝ったら、150万に……」
館 「え? え、え、ええっと……?」
蜂 「つまり、1000円×5.4×7.2×1.3×7.1×4.1倍で、おおよそ150万当てまして」
石 「あの時か!? って事は、150万の大金、自転車の前かごに入れて漕いで帰ったんか!?」
蜂 「流石に前かごに直はアブナイから、封筒をビニール袋に包んで、体にガムテープで張り付けて帰ったよ」
館 「なんだろう……うん……馬を見るのに調教師の先生を付けない理由がよく分かった」
長 「ああ、噂になってた『妖怪単勝転がし』の伝説の正体はあなただったのか」
蜂 「なんか噂になったらしいですね……正体がただの枯れ尾花で申し訳ありませんが」
新 「本当はもっと凄いのも色々あるんですけど」
館 「あ、それは知りたい……そろそろお開きの時間なんですけど、ちょっと番組延長しましょうか?」
蜂 「やめて、これ以上かんべんして、お願い! 反省してますから許して!」
新 「本当に注意してくださいね、先生……馬関係はちゃんと私を通すように!」
蜂 「はい……反省しております」