「本当にいいのか、蜂屋? オークションの時の口取り、お前じゃなくて?
キッドの面倒、一番見てたの、お前だろう?」
キッドが出品されるオークション当日。
セリが始まる少し前に、石河の奴に俺は尋ねられた。
「いいんだ。俺はむしろ石河に頼みたいんだよ」
「なら、いいんだけど……」
生産学科……二年生の進級時に振り分けられた進路から、仔馬を一頭、出産から教材として育てる道を選んだ生徒たちにとって、この
ほぼ、一年半の日々の成果が、この場に現れた参加者たちによって、決定されるのだから。
故に、同じ道を選んだ生徒たち全員、二年生も三年生も、この会場にいた。
「じゃあ……席に着いて」
引率している、担当教科の先生が、ちらり、と俺を見てくる。
……予め、事情は、先生にも話してある。
みんなが席に座る中、俺は一人立ち上がったまま……。
「みんな、ちょっと、いってくる」
そう告げた。
「は?」
「何言ってんだよ、蜂屋」
「トイレか? ……っておい、蜂屋。そっちはオークションの参加者の席」
「みんな、黙っていてごめん。一週間前に、ようやっと間に合ったんだ」
そう言うと。
俺は、つい一週間前、寮に届いたプラスチックカードを見せる。
馬を象ったマークの入ったソレは……『JRA 馬主登録証』。
『は……はああああああ?』
ぎょっとなって目を剥く、クラスの皆。
……まあ、無理もない。俺だって、こんなものを取る事になるとは、この高校に来た時には夢にも思わなかったのだ。
「お、おい……蜂屋。お前、そんなモンどうやって取ったんだ!?」
「まあ、不幸と幸運と、いろんなもんが重なった結果……ちょっとね」
そもそも。
俺は望んで、この高校に来たワケではなく。
……逃げてきたのだ。家族から。
「『テンプレート・ガンブレイド』ってラノベ……知ってる?」
「ああ、少し前に、アニメ化とかしてたよな?」
「うん、あれ……作者、俺」
『……はい?』
完全に、目が点になるクラスメイトたち。
「ここ二年分の印税やアニメの使用料とかの収入と、二年前に死んだ爺ちゃんの遺産と、いろいろ併せたら、JRAの馬主資格、ギリギリ審査通ったんだ。
……だから……ちょっとキッド、落札してくる」
そう言って、俺はオークションに参加する席へと向かった。
「よーしよし、キッド。お前、黙って大人しくしてれば、イケメンホースなんだからな」
おうよ、生徒君。
でも、俺ってそんな血統的には、良い馬じゃないんだろ?
落札されなかったら……肥育に回ってお肉とコードバンかなぁ……まあ、本能全壊で走り回ったり、脱走したりするのは楽しかったけど。
「はい、では次にまいります。レイヴンカレン2002牡、父、ノーザンキャップ、母、レイヴンカレン、母父はツインターボ」
……は? 母ちゃんのほうの爺さんってツインターボなの!?
マジか……母ちゃん若いと思ってたけど、確かターボ爺さん引退後に心不全起こして早々に死んだんじゃなかったっけ?
でも、ツインターボの産駒って、種付け期間の短さと少なさ故に、血統途絶えたって聞いたけど!?
もしかして、母ちゃんって産駒唯一の生き残り!?
……ち、珍品扱いで買ってもらえんかなぁ……って!?
「は? は、蜂屋!?」
はい?
更に、びっくりな事に。
俺の面倒をよく見てもらってた生徒の一人が、競売参加者の席に学生服のまま座っていまして。
口取りしてくれてる生徒と一緒になって、ビックリだよ!
「はい、では始めます。50まーん、50まーん、はい50万」
50万で真っ先に手を挙げる、件の生徒……いや、馬主候補様。
そこからパラパラと、ターボ爺ちゃんの効果があったのか、ご祝儀入札が入り……
「他にありませんか? はい、では90万円で落札です」
カーン、と木槌が打ち鳴らされ。
俺は、お肉にこそならなかったものの、3桁万円行くこともない超格安で落札されました。