Re:escapers   作:闇憑

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大変長らくお待たせしました。



中山競馬場 第11レース 第57回朝日杯フューチュリティステークス(G1)その2

『さあ、勝利を夢見る2歳馬たちのG1レース、出走する14頭の馬体重と、その増減からご覧いただきましょう。

 

 1番、クアッドターボ、508キロで+4キロ。無敗馬バーネットキッドの全弟。現在2番人気。

 2番、アグネスタキオンの仔、ショウナンタキオン。470キロは+8キロ。

 3番のフェイクフェイスは出走を取り消してます。

 4番、アポロノサトリ440キロで-4キロ。

 5番、スーパーホーネット456キロは-4キロ。

 6番はダノンブリエ。増減ありません486キロです。

 そして7番、ファンタスティックライトの仔で、ジャリスコライト、現在1番人気、482キロで、前走比+6キロ。

 8番、デンシャミチ、+2キロで466キロです。

 9番、ディープエアー、476キロで+6キロ。

 10番、スロクハイネスは出走取り消し。

 11番はレソナル、+10キロ。464キロです。

 そして12番、クロフネの仔、フサイチリシャール、増減ありません、480キロ。

 13番はタニオブゴールド、-2キロで468キロ。

 14番はフィールドカイザー、484キロ。-2キロです。

 15番、エムエスワールド、462キロ、+8キロ。

 最後に16番、コマノルカン、500キロで-4キロとなっております。

 

 吉多さん、この時期パドックはどういう所を見ればいいでしょうかね?』

『そうですね、冬場って事で、だんだん毛艶が悪くなる時期なんですけどね。ただ、牡馬なんで、まだ毛艶のいい馬がそこそこ居ますね。

 あと落ち着きがあって歩いてるのがいいですね。特に1番のクアッドターボ。

 兄が『アレ』なんで、最初どうかと思って居たんですが、新馬戦から今日まで、全てのレースのパドックで凄く落ち着いて歩容も乱れない。粛々としていて兄とはえらい違いですね。トモの肉づきも柔らかそうで、将来性を感じますね』

『そうですね、新馬戦から格上挑戦の札幌2歳Sを制して現在2番人気。単勝3.5倍と、倍率はほぼ一番人気のジャリスコライトと伯仲していますね。その1番人気のジャリスコライトに関してはどうでしょう?』

『馬体の毛艶とバランスがいいですね、さっき小走りになったんですが、すぐ落ち着いて、気持ちも乗って来てますね。前走同様、期待できますね』

『二戦二勝で迎えて、現在一番人気ですが3.4倍というところです。

 そして3番人気には12番、フサイチリシャールです』

『はい、二人で引いてますが、周回ごとにだんだん気持ちが乗っていってる感じですね。いいところは何と言っても足の運びと筋肉の付き方ですね。非常に柔らかそうで、期待が持てますね。おおむねこの3頭が伯仲していると思います』

 

 

 

 『1』の数字が黒く染め抜かれた白いゼッケンを背負い、パドックを黙々と歩くクアッドターボ。

 流石に2歳の若駒とはいえど、G1の朝日杯ともなれば、どの馬も基本的に落ち着いている。

 

 ……そりゃそうだ……ここに集まったのは、まず間違いなく2003年生まれの産駒たちの中でも気鋭の若駒ばかり。落ち着きなく無駄に警戒したり怯えたりするような馬は居ない。

 その中でも、先頭を歩き、人馬共に落ち着いて、整った歩容で周回するクアッドターボの姿は、正に2歳馬とは思えぬ堂に入ったモノであり……去年の同血の兄の朝日杯を思い出し、綱を引く石河賢介は、頭が痛くなってくる。

 

(……キッドもこれくらい落ち着いてくれりゃあなぁ……いや、キッドが落ち着いてるレースって、大概ロクな事になってないか。

 秋天のバッドコンディション、札幌記念の出遅れアルカトラズからの脱獄レース、皐月賞では、危うく沈黙の日曜日になりかけた事を思うと……うん、同血の兄弟でも、やっぱ『ベツモノ』だと思うしかないよね……)

 

 やがて『止まれ』の合図と共に、騎手が集まって来る。

 ここに至って『背中に乗って尻を叩く嫌なヤツが来た』と、騎乗に手間取る馬が何頭か出る中……

 

「よっ、と」

 

 嫌がるそぶりも見せず、むしろ軽くかがんで素直に騎手に背中を許すクアッドターボに、館は感心していた。

 

「分かっては居たけど、本当に二歳とは思えないね。凄い落ち着いてる」

「でしょう? ウチの母校の出来っ子ですよ」

「よくお兄さんとキッドの鞍上で、騎乗前にやり取りしてるけど、僕には何かあるかな?」

「ああ、オーナーから……『この仔に色々と教えてあげてください』だそうです」

「了解」

 

 その言葉の真意に。

 鞍上の『天才』は、意味をかみしめる。

 

 調教で何度も騎乗した。併せ馬で色々試しもした。

 そこで理解した事は、冗談のように脚質の『幅』の広い馬だという事であり、すなわち……。

 

「白紙の原稿用紙……か」

 

 オーナーの語っていた『クリエイターを歓喜と恐怖に陥れる存在』……正に『無色の原石』を体現するような馬であった。

 

 いっそ、前任の石河騎手のように『こうだ!』と決め打ちして一つに賭けた乗り方をするならば、ソレはソレで応えてくれる馬でもあり、一つの回答だ。

 

 だが、この馬の真髄が『そうではない』事を知った以上。

 騎手として、その真の才能を『証明せねばならない』のは、義務であり喜びでもあり恐怖でもあり……そしてそれが叶うのならば、この馬は、もう誰にも止められないだろう。

 

(面白い……やってやる!)

 

 下手な癖馬に騎乗する時よりも、なお深い歓喜と恐怖。

 鞍上の自分の存在に対し、この馬自身から真に『才を問われている』と意識し……『天才』は認識を切り替える。

 

 パドックから地下馬道を抜け、本馬場入場から返し馬へ。

 ウォームアップらしく軽快に、しかし力強さを感じさせるステップをターフに刻んで、クアッドターボは……後に『変幻自在』『新型ターボ』と語られる馬が、走り始めた。

 

 

 

「ほぉ……」

「これは……」

 

 パドックを歩くクアッドの姿に。

 それを見た、自分以外のオーナーの目の色が変わる。

 更に、返し馬に入り、馬主席に戻ると……

 

「いや、蜂屋オーナー。あん破天荒なバーネットキッドの弟とは思えへん優等生ですな」

「は、はぁ、光栄です」

 

 先ほどの意気軒高だった、如何にも『ザ・馬主』といった風情の、オールバックにヒゲのオーナー様に、話しかけられる。

 

 歩容、目線、騎乗時の反応。パドックでのクアッドターボの態度は、100点満点としか言いようのない、正に『優等生』といった面持ちだった。……正直、どこぞの怪盗のよーなくせ馬を扱っている騎手や調教師からすれば『羨ましい』以外の言葉が出て来ない優等生っぷりである。

 

「ええ馬ですわぁ……毛艶もええ、トモもガッシリしとる、それでいて、どの馬よりも緊張を飲み込んで落ち着いとる。

 ……認識改めましたわ。兄の90万もアレやが、これで200万は正直詐欺や」

「ま、まぁ、パドックはパドックですから……兄の方がいつもお騒がせしておりますし、二頭合わせてプラマイ0って事で」

「それや。ほんま同血の兄弟? ……性格がえらい違うで?」

「まあ、人間だって兄弟で才能や性格が全然違うなんて普通ですから……」

 

 ……一瞬、『消してやりたいクズ』の事が脳裏をよぎるが……いや、アイツは俺とは結局『半分だけ』だったか。

 

「というか、多分なんですけど……学生でも偏差値の高い学校だと、頭が良すぎて『傾奇者』になっちゃう人って、結構いますから。

 おそらくキッドはその類なんだと思います」

「なるほど。頭の良さは共通しとるんですな」

 

 あー、怖……この御方、馬主の中でもひと際『濃い』んだもん。まあ、この御方の馬も、未勝利から二歳OP、そして東京スポーツ杯2歳SのG3勝利と、三連勝で波に乗っているからなぁ。

 ……そりゃあ、ライバルの事は気にはなるか。って、あ……倍率0.1倍の僅差でクアッドに一番人気が変わった。

 

「ふむ……まあ、おもろい勝負を期待しましょ」

「で、ですね……」

 

 言外に『勝つのは自分だ』と告げられて、ひきつった返事を返す。

 

 ああ濃いよ……っつーか、俺の周囲に居る御方全員、タ●ラント級だよ……ネメ●ス並みに粘っこいのも居そうだよ。マグナムじゃ足りない、ロケットランチャー持ってこいだよ。カ●コン製でもいいから、逃亡用のヘリとか降りて来ないかな……いやマジで。

 

 そんな現実逃避で軽く空を眺める。

 無論、そんなモンが来る訳もなく……冬の中山の空に響くのは、救助ヘリの羽音ではなく、G1ファンファーレであった。

 

 

 

 

『さあ、G1ファンファーレと歓声が上がって、スタート地点の射藤アナどうでしょう?』

『そんなに驚くような馬はいません、枠入れは残り3頭ほどになります、順調に各馬収まっています』

『はい、2番ショウナンタキオンと田井中勝信騎手、少し嫌がりましたが……はい、なんとか収まります。今年もハイレベルな決着となるのでしょうか朝日杯フューチュリティステークス、今、最後の16番、コマノルカンが収まりまして……』

 

『スタートしました!』

 

『揃った綺麗なスタート、ちょっとショウナンタキオンとアポロノサトリが後ろからで、まずは先行争い、11番のレソナルが好スタート、ぽーんとハナを切っていきます……おっと、ここで注目の1番クアッドターボが位置を下げました、後方からのレースに徹する模様』

 

『は?』

 

 スタート直後。

 馬主席、観客席、テレビで見てるお茶の間のファン、そして各騎手と関係者に発生したのは、予想だにしない展開による認識の空白。

 

 そして……

 

「バカヤロー!!」

「またやりゃあがった!!」

「鞍上ヒゲに戻せー!!」

「金返せー!!」

 

 怒号と共に、気の早い幾多の馬券吹雪が幾つもスタンドに舞い散る中。

 レースそのものも、各騎手が困惑と混乱を抱えながらも態勢を整えていく。

 が……一頭だけ、予想通りというかペースを変えずに先頭を主張した、石河大介騎手の騎乗するレソナルだけが突っ走っていく。

 

(((アテが外れた……!)))

 

 大方の騎手が想定した展開は『クアッドターボとレソナルが競り合いながら、それぞれが一番手と二番手あたりに着け、第四コーナーまで突っ込んで消耗したところを差す』という、定石的なモノだっただけに。

 まさか、クアッドターボが後方からの競馬に徹するなど、全くの考慮外だったのである。

 

(なんだ……何を考えているナユタさん!?)

 

 中でも、フサイチリシャールの鞍上は、なまじ理論派であるだけに予想の外過ぎて困惑していた。

 

(逃げ馬だろう? なんで……いや!?)

 

 先頭を走るレソナルの鞍上を務める同期を思い出す。

 バーネットキッドの鞍上を経て、美浦でも屈指の『逃げ上手』として開花した騎手を『なんでわざわざ逃げ馬のクアッドターボの鞍上交代なんてした!?』

 

 疑問ではあった。不思議ではあった。だが『良くある事』だとも思った。

 

 何と言ってもレジェンド『館ナユタ』である。

 『オーナーサイドの希望で、有力馬に騎乗していた若手や新人と交代して~』などと、枚挙に暇がない普通の話だ。増して、馬主歴の短いオーナーなら有名人を起用したがっても不思議ではない。むしろそんな事を深く探っていたら、キリが無いどころか藪を突いて蛇が出かねない。

 だから、鞍上の交代も『ああ、そういう事があったんだろうな』と流していた。

 

 だが、その意味が『コレ』だとしたら……

 

(((帝王賞の焼き直し覚悟で自爆したか!?)))

 

 多くの騎手が、そんな認識を持ったまま。

 競走相手という意識からクアッドターボを消してレースに専念し……唯一、全てを知りながら先頭を突っ走るレソナルの鞍上、石河大介だけが、必死に鞍下の残り体力を計算して御しながら、逃げ続けていた。

 

 故に。

 向こう正面に入っても。

 先頭を突っ走るレソナルが第三コーナーを回っても。

 

 不気味な程に大人しく後方に控えていたクアッドターボの動きに、疑問を持つ者は人馬共におらず……

 

『さあ、第四コーナーを回って横に広がりながら直線に入る! 各馬一斉に鞭が入る! 中からフサイチリシャールが抜けた! 更に大外からクアッドターボがぐんぐん伸びる、ぐんぐん伸びる!』

 

「はぁ?」

「嘘ぉ!」

「冗談だろ!」

 

 最後の直線。

 第四コーナーを後方から大外に持ち出しながらも一気にまくる末脚に。

 各騎手が鞍上で必死に追いながらも、全員が目を丸くし……それこそ、兄のライバルであるディープインパクトを彷彿とさせるような、大外一気の末脚でクアッドターボがぶち抜く!!

 

(騙された!!)

(何が『逃げ馬』だ!)

(あんな末脚を!?)

(今の今まで逃げに徹して、兄の幻影で隠したか!!)

(石河厩舎と館騎手の奇策に嵌められた!)

 

 騎乗中の騎手を含め、石河厩舎の関係者以外の全員が。

 否、レースを見ていた『アナウンサーや解説者やテレビの前の観客も含めた全員が』欺かれた事を悟った時には、残り200メートルを切っており……全てが後の祭りだった。

 

『先頭のレソナル必死に粘る! 交わした、交わした! フサイチリシャール! クアッドターボ! 二頭が抜けた! 先頭争いはリシャールか、ターボか!? ターボだ、ターボだ! 最後の50メートルでターボエンジン全開差し切ったゴォォォォォルイィィィン!!』

 

 轟!

 と、言葉にならない、人体の発する叫び……それも、多分に意表を突かれた驚愕の叫びが、うねりとなって中山を轟かせる。

 

『豪脚一閃!! 大外一気! 中山の直線を新型ターボエンジンがぶち抜いたぁぁぁ! 鮮やか館ナユタ朝日杯初制覇!! そして同血の兄弟による、初の朝日杯連覇達成!! タイムは1分33秒3! 中山の直線、上がり3Fを33・8秒!! 信じられない末脚を見せつけましたクアッドターボ!! これが新型ターボエンジンの実力か!? 二着にはフサイチリシャール! 三着争いをスーパーホーネットが制しました!!』

 

 

 

「……ぃよし!! やった!!」

 

 まさに、巨体を沈ませて『低く飛ぶような』末脚で、クアッドがゴール板を駆け抜けた瞬間。

 

「なんや……アレ…」

「嘘だぁ…」

「えええええ?」

 

 それまで、スタート直後から一歩退いて、後方からレースをしていたクアッドを生暖かく笑って見ていた他の馬主の方々が、唖然とした表情で……そう、それこそカードゲームの大会で、想定外の地雷デッキを踏み抜いた対戦相手の如き顔で、絶句し。

 

「は、蜂屋オーナー? クアッドターボって、逃げ馬じゃなかったっけ!?」

「別に追い込みで勝てるなら追い込みで勝ちに行くでしょうし……って」

 

(あ……)

 

「蜂屋オーナー」

「撮影後に重要なお話が」

 

 この引きこもりの物書きに対して、どこぞの七●雄(ラスボス)張りに『……逃がさん…… ……お前だけは……』って感じの目つきで、社田井の総帥筆頭に濃すぎる御方たちが、がっつり構えておられまして。……おかしいな……中山(ラストダンジョン)の、どこでポイントオブノーリターンになったんだろう?

 

「か、カプコ●製でいいから、ヘリで助けが来ないかな……」

「ロケットランチャーで墜とされるのがオチです。私も付き添いますから諦めましょう」

「で、デスヨネー……」

 

 もー、全員がタイラ●トからネメシ●にクラスチェンジして、粘っこい目線を色んな御方が向けて来られまして……

 

 ああ、やばい……コレ本気で、キッドもクアッドも、シンジケートとかそんな話になる奴だ……っつーか、無理に個人所有でゴリ押しても、逆に俺が押し切られてキッドが大変な事になったりとか考えたら、むしろ大手に委ねてシンジケートにしないと、逆にトラブルを呼び込んじゃう流れだ。

 

 うわぁ……ホントどうしたもんだろうなぁ。

 

 っつか、冗談抜きで幸運だったのはクアッドが居てくれた事だよな……絶対、コレ種付け希望を分散させないとヤバい奴だ。

 ……マジで種付けを決定した母校の先生に感謝しておこう。

 

 まあ、失敗したら失敗したで、シンジケート解散すればキッドもクアッドも帰って来るんだし、逆に種牡馬の間は『他の誰かの出資金で』『引退後数年間は保護してもらう』って思えば、それも悪くはないかもな……と。

 

 割と現実逃避気味に、そんな甘い事を考えていたのである。……その時は。

 

 

 

「館ナユタ騎手、初の朝日杯制覇、おめでとうございます!」

「ありがとうございます。

 ええ……ようやっと取れなかったG1の一つが取れました」

「そして……あの仰天のレース展開は全て計算でしょうか?

 正直、スタート直後に、母父のツインターボの帝王賞のレースが、みんな頭をよぎったんですが」

「はい。

 美浦でね……石河騎手から引き継ぎを受けて、最初に乗せてもらった時に、乗った時の乗り味から『これ、逃げ馬じゃなくても行けるんじゃ?』って。更に前任の石河騎手が騎乗していたレースや、兄のバーネットキッドが『逃げ馬だ』っていう周囲の思い込みをね……全力で利用させてもらいました」

「そこまで計算ずくですか!?」

「オーナー曰く、『予想を外して期待に応えるのが最高のエンタメだ』っておっしゃっていたので……とりあえず『期待に応えられた事に』満足しています!」

「うわぁ、いい笑顔。

 本当に全部を巻き込んだ驚愕のレースでした! ありがとうございました」

「ありがとうございました♪」

 

 

 

「石河くん……ひょっとしなくても知ってたよね?」

 

 検量後。

 割と半分恨みがましい目で、先輩後輩含め、同じレースに騎乗した、色んな御方に控室で詰め寄られる。

 ちなみに、自分の騎乗したレソナルは5着……辛うじて、掲示板には載ったため、騎手としてギリギリ仕事はしたレベルである。

 

「ノーコメントで。

 っつか所属厩舎から、かん口令が出てるんで、その辺は勘弁してください」

「だよねぇ……うん、まあ、分かるけどさ」

 

 そして……

 

「いやぁ……面白かった♪

 本っ当ーに色々と、スッキリした♪」

 

 インタビューを終えて、満面の笑顔で控室に帰って来た館騎手に。

 

「ナユタさん……石河厩舎に染まってません? 『いたずら大成功させて帰って来たクソガキ』みたいな笑顔してますよ?」

「ん~♪ 何のことかな~♪」

「うわ、いい笑顔……すっげーいい笑顔!?」

「ドッキリ成功させたリュージよりいい笑顔してますよ!」

 

 周囲がわいわい言いながら祝福されつつも、写真撮影の身支度をする館先輩に、複雑な思いを向ける。

 

 ……あぁ……正しいよ。

 オーナーもテキも、俺をクアッドから降ろしたのは、正解だよ。

 

 自分にはまだまだ届かない、遥か高みを征く天才を見て、思い知る。

 

 

 

 ……でも、いつか……きっと……

 

 

 

 そんなシリアスな思いを抱く石河兄の思いなど、文字通り『吹っ飛ばしちゃう』ような。

 一つの修羅場が訪れようとしていたのを、その時、彼はまだ知らなかった。




修羅場の峠はだいぶ前に越していたものの。

……一度でも間隔をあけちゃうと、執筆のペース……というか『再起動』って凄く大変なんだなぁ……と再認識しました。

大筋のプロットも出来てるのに、筆が動かないのなんの……本当にお待たせしました。

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