Re:escapers   作:闇憑

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連続投稿、二話目です。


中山競馬場 第11レース 第50回有馬記念(G1) その4

『さあ、中山競馬場。スタンド前は立錐の余地も無い凄い事になっております。

 この日のために仮設スタンドの拡張工事をしたものの、既に入場者数は19万人を突破し、オグリキャップのラストランを超えた新記録を達成しました。

 しかし、スタンドも凄い事になっていますが、パドックの中も凄い馬たちが揃いました。

 古馬勢からは、今年の春の天皇賞馬スズカマンボ、G12冠タップダンスシチー、そして前年の秋古馬三冠にして英インターナショナルSを制したゼンノロブロイ。

 しかし、注目はなんといっても二頭の三歳馬。バーネットキッド、そしてディープインパクト。

 これまで10戦無敗、G15勝、3歳にして、秋古馬三冠と年間無敗を賭けて有馬に臨むバーネットキッド。

 対して、7戦6勝。敗れたのはバーネットキッドと走った皐月賞のみ。リベンジ成るかディープインパクト。

 この二頭、個性も脚質も対照的なまでに正反対ですが、長部さん、この有馬記念、どう見ますか?』

『まあ、まずこの二頭がそれぞれ台風の目になる事は間違いないでしょう。

 しかも、二頭共に、性格も脚質も正反対な双方に対処しなければいけないから、他の馬は大変ですよ。

 中でもバーネットキッドは、レースそのものを加速させて、最悪、駆け引きそのものを潰しに来ますからね……だからこそ、確実にハイペースのレースになる事を前提に、他の陣営も構えているでしょうが、そこを踏まえたうえで、果たして、ディープインパクトの館騎手相手に、バーネットキッドと石河騎手のコンビが、どんな奇策を打ってくるか』

『奇策、ですか?』

『ええ。

 今でこそ『ある』と分かっているバーネットキッドの『二の足』ですが、初披露がここ中山での皐月賞なんですよ。逆を言うならば、そこまで『追い詰められた』とも取れるんですね。現に皐月賞ではキッドがレース後に倒れていますし。

 無論、あれから半年経って、双方共に肉体的にも精神的にも成長がみられるワケですが……うーん、やはり難しいですね』

『そうですね。

 何と言っても、二頭の馬連の倍率が1.1倍という……菊花賞だとディープインパクトの単勝が1.0倍でしたから、それよりはマシなものの、圧倒的な支持と倍率ですね』

『無論、他の馬も虎視眈々と隙を狙っていますしね。先ほどもあったスズカマンボ、タップダンスシチー、ゼンノロブロイ。決して油断できる相手ではありません』

 

 

 

『悪いな、お先に』

 

 周囲がワチャワチャと輪乗りしている中、さっさと誘導される前にゲートに入る。

 

 一枠一番。

 距離的に一番優位……だが、同時に、永い待機時間が鬼門となるポジション。

 もっとも……その優位を一番強く使えるのが、俺の強みだ。

 

 だから……

 

「OK、キッド……頑張って行こうぜ」

 

 ぽんぽん、と落ちつかせようと声を掛けてくる鞍上の兄貴に。

 ふと、思いついて、サービスしてやる事にする。

 

「!!?」

 

 ぶるり、と一つ。武者震いして。

 あとは静かに待つ。

 

「……お前……」

 

 一瞬、呆けたような兄貴を、鳴り響くファンファーレが正気に戻す。

 

『さあ、クリスマスに迎える有馬記念。無敗の怪盗か、最強の衝撃か、それとも迎え撃つ古馬勢か!?

 史上初の無敗6冠成るか、今、スタートしました!!』

 

 ゲートが開くと同時に、一気に加速。

 おそらく、今までの生涯で一番のスタートを切って、ぐんぐんと後続を突き放す。

 

『各馬好スタート! 会心のスタートでバーネットキッドが先頭を切る。ディープインパクトはやや下げて後ろから二、いや最後方につけた。先陣を切る怪盗の後ろをタップダンスシチー、オースミハルカが続いて……おっと、四番手にハーツクライ! ゼンノロブロイは馬群の中段に構えました』

 

 え、ハーツ?

 意外なヤツが、意外な所に居て戸惑ったが……いや、俺がレースでやる事は決まっている。関係ない!

 

『一周目の三コーナーに向かって先陣を切るバーネットキッド、ぐーっと二馬身、三馬身と差を広げて、オースミハルカ、タップダンスシチーが後ろに喰らいついて、マイソールサウンド、オペラシチー、リンカーン、ゼンノロブロイは後方グループに居て、最後方にディープインパクト』

 

 多少荒れていても力でねじ伏せて、内側の最短距離の部分をキレイに曲がる。

 の……だが……

 

『各馬四コーナーを回ってスタンド前に来た。

 先頭を走るバーネットキッドの後方二馬身にタップダンスシチー、その後ろを更に三馬身差でオースミハルカとハーツクライ』

 

 先頭の俺から、付かず離れずの距離を保ったまま、不気味についてくるハーツ。

 ……いや、オースミハルカもタップ爺さんも逃げ宣言していた事は知ってるけど……何でハーツ?

 

 まあいいや。

 

 一周目のスタンド前の坂を一気に駆け上がりながら、加速する。

 

 そう……この長丁場、逃げ馬の俺に出来る事は、後続のスタミナを削れるだけ削って、直線勝負の脚をどれだけ鈍らせられるかが肝である。

 ならば……荒らす! 後続の連中が、レース自体を放棄したいと馬たちに思わせるくらいに!

 

『第一コーナーを回って、依然先頭はバーネットキッド! リードを四馬身、五馬身、ぐーっと大きく取って、後続はタップダンスシチー、その後ろからハーツクライが上がって来た』

 

 先頭でコーナーに突っ込む利点として、カーブを利用して後方を大きく俯瞰で見る事ができる。

 更に、高速展開で馬群をバラけさせる事で、大体の仕掛け時が分かってくる……の、だが。

 

 ……意外と馬群が固まってる?

 ……スピード、足りてないのか?

 

「キッド、落ち着いて……」

 

 鞍上の兄貴が、控えるように手綱を通じて指示が出るが……いや、なんでタップ爺さんやハーツまでついて来れてるんだ?

 馬群が一塊のままで……これ、スピード足りてないんじゃないか?

 

『先頭は依然バーネットキッド、リードは四馬身。続いてマイソールサウンドも上がって来た、ゼンノロブロイは中段後方、その後ろにディープインパクト』

 

 もやもやを抱えながら、向こう正面を駆け抜ける。

 ……やっぱりそうだ。後続を突き放し切れてない……

 

「焦るな、焦るなよ、キッド」

 

 そうは言っても……なぁ……

 これ、負けるんじゃね?

 

『さあ、向こう正面に入ってキッドがペースを上げた、後ろからスズカマンボ、デルタブルースが上がって来て追走する』

 

 ……あ、これ……もしかして……

 

 ふと、思い出す。

 競輪や自転車のレースなんかで良くある、前方を風よけの壁にして後続を『引く』戦法。ロケットペンシルのように、先頭を順繰りに集団で交代しながら加速する技。

 そもそも『大逃げが不利』とされる大きな理由の一つに、空気の抵抗がある。人間でも普通のママチャリだって20キロも出せば、些細な向かい風でもペダルが重かったりするわけで……

 

 って、だああああ、そう来たか! 古馬勢+1とその鞍上!!

 あいつら全員結託して、とりあえず『俺から』潰す作戦に出たんか!?

 

 無論、展開任せの即興の協調だろうし、更にこんなハイペースに付いてこれる連中ばかりじゃない。当然ながら脱落していく面々もそれなりに居るが……それでも、14頭もいる一線級の古馬勢の脚は侮れるモノじゃないし、何より、後続が『温存されてしまう』ワケで……

 

 OK……分かったぜ。

 『勝ち続けると全てが敵になる』というのは、こういう事かよ。

 

 ならば……受けて立つ!!

 この景色を……『誰の後塵を拝する事も無く突っ走る』のが、俺のレース(プライド)だ!!

 なあ、相棒(あにき)!!

 

『バーネットキッドが更に加速、リードは六馬身、七馬身……残り千メートルを通過! 大きく開く、大きく開く!! 大怪盗の大逃げに場内の大きなどよめき! とにかく逃げ! とにかく逃げ! そのまま第三コーナーに突っ込んだ!! かなりトバしております!』

 

 半端なリードは、俺一頭分の風除けを後続にくれて不利になるだけ……なら、もう自身の体力に賭けるしかない!!

 

 15対1? 上等だ!!

 

『さあ、バーネットキッドが逃げる、逃げる、バーネットキッドだけがただ一頭、第四コーナーに入ってきました!! 懸命に逃げる、懸命に逃げる!

 しかし後ろが動いた! ハーツクライが来た! ハーツクライが来た! ゼンノロブロイ、ディープインパクトも動いた!! 一気に加速!』

 

『若造ぉぉぉぉぉ!!』

『待てぇぇぇぇぇ!!』

『僕の勝ちだああああ!!』

 

 後ろから突っ込んでくる、ロブロイ、ハーツ、ディープの三頭。

 この期に及んで……なんて連中だ!!!

 

「逃げ切れぇぇぇぇぇ、キッド!!」

「差せぇぇぇぇ!!ロブロイ!!」

「ディープぅぅぅぅぅ!!」

 

 客席からの絶叫が聞こえる。

 ふざけるな……ふざけるな、こんな、こんな……

 

『残り200メートルを通過! 4頭並んだ、並んだ!!』

 

 こんな所で……終われるかあああああああああ!!!!!

 

『バーネットキッド、鞭が入る、鞭が入る! 得意の二の足が出た! 出た! しかし弱いか、並んだ、並んだ! もつれた、もつれた、勝負は首の上げ下げ! 四頭もつれたままゴール!!!!』

 

 ゴール板を駆け抜けると同時に。

 後ろから来た三頭が、コースの最内を走る俺の外側を追い抜いていった。

 

 ……くそっ……レースは、どう、なった? 

 

『タイムは2分29秒4。レコードタイム!! 大混戦となりました第50回有馬記念!!

 5着に三馬身差で4番コスモバルクが入って……ああ、4着にハナ差でゼンノロブロイ!! 惜しくも、昨年の自身のレコードを0.1秒更新するも、他が強かった!!』

 

「館さん、すいません。

 三頭のうち『誰』です? レザードのロブロイは何とかなったと思うんですが」

「ごめん、僕も分からない」

「ワカラナイ……一番、ダレ?」

 

 レースが終わった馬たちが、三々五々それぞれ地下馬道に引き返して行く中。

 残った三頭が鞍上の誘導で集まって、館さんや、ルネール騎手と、鞍上が会話している。

 で、着順が出るまで軽く速足(トロット)で歩く……というか、緩くでも歩きながらじゃないと息が整わない。更に言うなら、止まったらもう動けなくなりそうだ。

 

「まさか三頭同時とか?」

「どうだろうねぇ……」

「サスガニソレハ」

 

 掲示板に順位は表示されず。

 ただ着差の表示が、上から三つまで『ハナ』の文字が並んだまま。

 

 そして、レースよりも長い時間が過ぎた頃に。

 

『あ、今、出ました! 3着にハーツクライ!! 惜しくもジャイアントキリングならず! 僅か6センチの差でハーツクライが3着!』

 

「Oh……」

 

 鞍上の溜息と共に。

 ハーツのヤツが踵を返して、去っていった。

 そして……

 

『今度は勝ったよ』

『あ?』

 

 不意に。ディープのヤツが、俺に声をかけてくる。

 

『半年前とは違う。僕の勝ちだ』

『どうかな?』

『君は最後、ヘロヘロだったじゃないか』

『へっ……どんなヘロヘロだって、そこのゴールを先に駆け抜けたヤツが一番なのさ』

『むう……もう一周、する?』

『止せよ。今、人間が結果を調べてんだ。大人しく待とうぜ』

 

 既に。

 ハーツの結果が出てからも十分以上が経過し。

 トータルだと十五分近い時間が過ぎていた。

 

 やがて……掲示板の着差を表示する一番上にあった『ハナ』の文字が消え……

 

『出ました!! 同着!! 同着です!

 バーネットキッド、ディープインパクト『同着!!』

 日本競馬史上G1レース初の『同着』が、しかも有馬記念で出ました!! 両雄、甲乙つかず! 二頭共にレコードタイムでの同着勝利という凄まじい結果になりました!!』

 

 有馬記念、同着&レコードタイム決着。

 この日、中山で繰り広げられたレースは……伝説となった。




はい、妖怪単勝転がしのフラグ通りの結果になりました。

……一応、言い訳をさせてもらうと、この結果は最初の頃から計画してたプロット通りなんですが、ウッカリと蜂屋君に馬券買わせちゃったら、感想で当てて来た方が多くて……それこそ史実通りハーツにしてみようかな、とか色々弄って考えてたんですが、この結果が4歳時代の予定に色々絡んでくるんで、動かせませんでした。

やっぱり妖怪は府中の馬主席に封印しておくに限りますね。いやホントに。
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