……タイトルに張ってた伏線忘れてた。
(OPのBGMとCGや映像が流れ、スタジオの拍手と共に番組が始まる)
『はい、天才志室動物園、始まりました』
「って、あれ、今日、園長は?」
「はい、なんと、園長は馬主として、本日、中山競馬場に、直接向かっておりまして。
しかも、園長の愛馬が未勝利戦を勝ち抜きました! こちらの映像をどうぞ」
(園長の出た第3RのVTRが流れる)
「うわぁ……あれですよね、中央で未勝利を勝ちぬくだけでも大変なんですよね」
「そう。
ですから『重賞に出る』というだけで、本来はエリート中のエリートなんです。
こちらをご覧ください(中央競馬のピラミッド構造を示すパネル)このように、未勝利だけで5割近く、一勝で25%前後……園長の愛馬が今、ここですね。
で、オープン級と呼ばれる『重賞に出られる資格を得た』馬となると、全体の7%前後で、更にその中から選ばれた馬……0.1%の馬がGⅠホースと言われる存在なんです」
「うわぁ……大変だなぁ……」
「ある意味芸能人よりも過酷やな……」
(以下、ひな壇芸人のトーク&キッドのレースや面白映像のVTRが小一時間ほど続いて。
CM開けのタイミングで)
「はい、今、中山に中継が繋がりました。
園長、園長、繋がってますか?」
園「はい、今、中山競馬場の特設スタジオです。
では、改めて紹介していきましょう。
まず、バーネットキッドの馬主である、蜂屋源一オーナー、
そして、育ての親こと、静舞農業高校の生産学科の教科主任である牧村紀臣先生。
で……えー出演を予定していた石河吾郎調教師が『体調不良』のため、急遽、バーネットキッドを直接担当する、石河賢介厩務員に、代打で来てもらいました」
三人『よろしくお願いします』
園「じゃあ、まずは育ての親の牧村先生から、一言」
牧「いや、本当に……あの
そういう意味でも、石河調教師も『本っっっ当に、ご苦労なさったのだろうな』と」
蜂「あの時、畑荒らししてガチギレした農業科の連中に、危うく馬肉にされる所だったもんね」
石「農業科からは完全に害獣扱いだったからな……全員、目が据わってたし」
園「あははははは、それが名前の由来なんですよね」
蜂「はい、幼名が『キッド』で英語だったんで、フランス語の『アルセーヌ』とかの名前と噛み合わないので、ルパンが変装してイギリス人探偵をしてる『ジム・バーネット』から頂戴しました。
それより、園長も未勝利戦の勝ち抜け、おめでとうございます」
園「いえいえ、本当に中央で初めて勝てて、中山のウイナーズサークルって『こうなってるんだ』って。あれはクセになるねぇ……」
蜂「なりますよねぇ……ただ、当事者としてはアレなんですけど。
なんか去年のキッドの朝日杯とか皐月賞あたりは『行くとこ行っちゃったなぁ』って気分だったんですけど、宝塚とか超えたあたりから『どこまで行くんだろう』って、我が馬ながら遥か彼方を眺めてる気分になっています」
園「はは、もう現実感のほうが追いつかなくなってきちゃったんだ?
まあ、GⅠ含めた11連勝だもんね……」
蜂「はい。
ただ個人的には『11戦連勝』というよりも『11戦して負けなかった』が正しいかな、と。
こう『結果的に負けなかった』って感じで……今日の有馬も含めて、紙一重な結果だったレース、沢山ありましたから」
園「あー、なるほど」
蜂「そういう意味で、クラシック戦線を離脱して宝塚からの古馬戦線ルートとか、石河
園「は、ははは、そ、そうだね」
石「うん、まあ、キッドは色々とヤンチャだからね」
園「ああ、その辺、直接面倒見てる厩務員として、どう?」
石「いやぁ……蹴ったり噛んだりは基本無いから安心できるんですけど、その分色々とイタズラとか脱走とかが油断ならないですね。油断するとウチの
蜂「おまえ、所属決定した時、教室で『誰か厩務員資格取ってウチの厩舎で一緒にキッドの面倒見てくれ』って絶叫してたくらいだもんな」
石「だから正直、厩舎に来てもあの頃のまんま大きくなった感じだけど……正直『アレでも丸くなった方だな』と。
勿論、育成を経て競走馬としての自覚にも目覚めてるけど、その分、競走馬としてのスイッチがオンの時とオフの時のギャップが凄い事になっちゃって……芸馬と競走馬とどっちが本業なのか、面倒見てて少し戸惑う事ありますね」
園「いや、ねえ……俺も去年『弟子入り』して来た時もビックリしたけど、まさか有馬記念で『弟子の前座』になるとは思わなかったよ」
蜂「いや、秋天の撮影の時もそうですが、キッドも園長が来てくれて凄く嬉しかったと思いますよ」
園「えー、そう?」
蜂「そりゃそうですよ。
見ての通り『変なお馬さん』なんだから『変なおじさん』が大好きに決まってるじゃないですか」
園「はっはっはっはっは、うわぁ、一本取られたなぁ」
石「いや、園長。
冗談抜きに、あの秋天の前の撮影、本当に感謝してるんですよ。
あの撮影の前に走った札幌記念の泥仕合で、ご機嫌斜めだったキッドが、園長と撮影した翌日から物凄く機嫌が良くなってくれて」
園「ああ、アレねぇ……正直、動物と絡んだ撮影で、あんなにスムーズに気持ちよく撮影できるとは思わなかった」
蜂「凄かったですよねぇ……山手線の主要駅のコンコースにバーンって広告が載って。
そういった面白要素も込みで現実感が無いんですよ……多分、自宅に帰って予約録画した番組見たり、トロフィーが家に郵送されて来たあたりから、少しずつ現実感とか出て来るの、かな?」
園「え? あれ、確かセレモニーで金戸オーナーとトロフィー掲げてなかった?」
蜂「いや、なんか『GⅠで同着』なんて想定していなかったそうで、同じ物を今、頑張って作ってる最中だそうです。……流石にあのトロフィーを真っ二つにして分けるワケには行きませんし」
石「それはそれで見てみたい気もするけど」
園「確かに。
それじゃあ、最後に……蜂屋オーナー、来年以降、クアッドターボはクラシック路線だとして、バーネットキッドにはどんな予定を?」
蜂「いやぁ……石河
「じゃ、そういう事で、俺は祝勝会に行ってくるから、例によってキッドと
あの後。
19万人の観客&中山の職員全員大爆笑(含む、金戸オーナーや館騎手以下、ディープ陣営全員)に精神的に耐えきれず、卒倒しちゃった
急遽、キッドの面倒を一時的に戸竹調教助手に預け、またしてもインタビューに呼ばれた賢介の奴が、カメラに映る事になったのである。
で、どうにかこうにか園長の番組のインタビューが無事(?)に終わり……
「冗談じゃねぇぞ、蜂屋!
キッドは兎も角、ぶっ倒れた親父に関しては、お前だって大爆笑してただろうが!」
全てを丸投げして祝勝会にバックレようとした所を、ツレにとっ捕まってしまった。
……(・д・)チッ
「お前だって笑ってただろうが!
っつか、それ言い出したら、中山に居た観客も職員も騎手も、全員共犯だよ!」
「つか、引綱持ってたんだから止めろよ」
「お前だって綱持っていただろうが!」
何しろ。
オーナーである自分も、戸竹さん含め石河厩舎の人間も、農高の先生や同期たちも。
全員揃って大爆笑で、誰一人として『引綱を引いてキッドを止める』という事をしなかった……というより、出来なかったのである。
で、そのまま醜い悶着を続ける事暫し。
「OK、ちょっと待て。状況を整理するぞ?
精神的に逝っちゃった
「そりゃオーナーのお前が」
「ほう、預託馬の管理を一瞬でも放り出した厩務員に落ち度はない、と?」
「ぐ……」
「農高の面子は『生産者』だから責任は無いが、少なくとも石河厩舎の人間は割とあるだろ?
無論、感極まった
「まあ……確かに、そうだな」
二人で相談しながら、冷静に状況を詰めていく。
で、結論は……
『後日、意識を取り戻したら、誠意を見せる意味で『全員恥を掻いて謝りに行こう』』
という方向で話が纏まりまして。
「じゃあ、時間が押してるから、俺は新野女史と祝勝会に行ってくる。
……いつもキッドの祝勝会呼べなくて、済まねぇな」
「何言ってんだ。
今日に限っては『現場の特権』を使って、『特等席』で一杯ひっかけさせて貰うツモリだよ」
と。
キッドと馬房で『サシ飲み』する宣言をする賢介の奴に。
「飲み過ぎるなよ」
と、釘を刺して、その場を別れた。
「それじゃあ、バーネットキッドの勝利を祝って……カンパーイ!!」
『カンパーイ!』
農高の同期や牧村先生、更に、石河騎手も招待しての、有馬記念の祝勝会。
……本当は
ちなみに、新野女史は『ウチに嫁に来ませんか?』などと、同期の独身者共に口説かれていたりする。
……つか、もう同期の四分の一くらい結婚しているからな……はえーよ、農家。
「石河騎手、本当にお疲れさまでした」
「いやあ、ホントに……なんか凄いね」
で、同期の連中がバカ騒ぎや余興をする中、飲めない俺は片付けやお酌に回っていたり。
……まあ、俺だけだもんな、この面子の中で、未だにジュース飲んでるのって。
「そうだね、なんか懐かしいな……こんな学生ノリの集まりなんて、何年ぶりだろう」
などと、何処か懐かしい目で、宴席のみんなを見る石河の兄貴。
「元、ですけどね。一応、休学中とはいえ、現役で学生なのは俺だけかな。
ほとぼり冷めたら、ちゃんと大学に通い直さないと」
「真面目だなぁ、蜂屋オーナー」
ふと、見ると。
視界の隅っこで、新野女史が口説いてた同期の連中と、飲み比べをしていまして……うーん、ビールの大瓶、十本くらい空けてね?
ま、いいや。
「そういえば、牧村先生。
今年のセイウンスカイ産駒のクモちゃん、ホームページのブログ見ましたけど、大丈夫ですか?」
「正直、あまり芳しくないなぁ……」
そう。『レイヴンカレンの2005』こと『クモちゃん』の育成状況だったのだが……病弱な体質なのか、後輩たち全員、キッドの時とは別の方向で手を焼いているらしい。
食欲自体はあるものの、内臓が少し弱いらしく、度々疝痛を起こしては獣医の世話になり、療養と馴致を繰り返しているような状態が、ブログの文章で綴られており。
そのために食事のフォローにも、好物と療養食の狭間で色々と四苦八苦しているとか。
「今年はいつものセールに出す事も、難しいかもしれん。
元々『農高の教育の一環』って事で、主催者の好意で、下駄を履かせてもらって格が高めのセールに出せていたが……いくら何でもあんな状態じゃあ、主催者にも申し訳ないからなぁ」
「そうですか。セールに出せない場合は、庭先とか出来ますか?」
「やっぱり蜂屋。買う気か?」
「注目はしていますよ。キッドの弟ですもん」
「そうなんだよなぁ……だから各方面からプレッシャーが掛かっててなぁ……」
などと、やり取りをしてると。
視界の隅っこで、新野女史に飲み潰されたと思しき、同期の面々が大量にひっくり返っていた……ってか、焼酎の一升瓶、3本くらい空いてね?
……ま、まあ……なんか見かねてくれたのか、石河騎手が相手しているし大丈夫か。あの
なんでも、緊急時には『レッドゾーン・ダイエット』なる『大量のアルコール摂取による脱水で、体重を短時間で軽減する』という、狂気の沙汰の減量法を行う事も、稀にあるそうなので……そういう意味でも『プロ』が相手なんだから大丈夫だろう。
「まあ、兎も角……年間無敗に、有馬か。
この仕事に就いて、本当に達成できるとは思わなかったよ、蜂屋。
っつか、石河の奴も、本当に厩務員になっちまったんだもんなぁ」
「はは、アイツ、今頃、厩舎の馬房でキッドとサシ飲みしてますよ」
「そりゃ凄いな……幼駒から育てたG1馬と有馬を取って、その晩にサシ飲みか。
考えてみると、アイツの経験って、どんな馬産関係者でも不可能に近い贅沢だな。
ああ、ところで蜂屋……無視しているが『後ろの惨状』の後始末は任せたからな」
……ふと、視界を後ろに向けると。
適当に溶けた氷が入った
「
「か、かんぱーい……」
そしてキッチリ10分後。
自称『美浦トレセン一の酒豪』が轟沈し……
「あひゃひゃひゃ、カワイイモン飲んでんなぁ♪」
カルピスの入ったグラスを手にした俺の目の前に、俺と牧村先生以外の全員を飲み潰して『やまたのおろち』と化した、新野女史が現れまして。
……っていうか『ラーの鏡』あたりで照らす前から、本性現れちゃってません?
っていうか、す、スサノオは!?
「に、新野女史、の、飲みすぎでは!?
ってか、その飲み方は女性
「一度やってみたかったんですよー♪ せんせーのオゴリだし、もーちょっと飲みましょうよぉ~♪」
などと言いながら、げっふぅぅぅ~、と『やけつくいき』を吐き散らす新野女史。
っつか、着火したらマジで『ほのおのいき』になるんじゃねぇかオイ?
「蜂屋。
とりあえず今日の会費の徴収と、飲み潰れた面々の介抱は俺がしておくから、彼女は任せた!」
「せ、先生!?」
「全員全滅したら、この店の会計すら出来ないぞ!?」
「そ、そうですね!」
で。
祝勝会は予定していた二次会の分まで、完全にお開きとなり。
蜂屋源一は逃げ出した。
しかし、回り込まれてしまった……
「まーだー、飲ーみーまーしょーうーよー♪」
「はいはい、タクシー乗り場まで行きましょうね」
会場からくすねたウイスキーのボトルを手にしながら、隙を見るとハシゴ酒に走りかねない彼女を支えつつ誘導しつつ、タクシー乗り場に向かう途中……
「……せんせー」
「はい?」
「お見合いするかもしれません、私」
「そりゃ良かった、クリスマス超えて三十路に突っ込んだら、女性は大変ですから」
何しろ、新卒の新人の頃から、周囲の編集者のサポート込みだとしても、この『問題作家』のフォローを、メインで5年近く続けてくれたのである。
結婚できない現実逃避に女性雑誌を読みふける新野女史とか、中学の頃のあのクソ教師みたいに最悪な方向に進化しかねない。
「助けてくれません?」
「今、現在進行形で助けてますよ。……ほら、あと少しですから」
「いやー、仕事辞めたくないー! このお仕事好きなのー! 活字の最前線で仕事したいのー!」
「はいはい、お見合い相手が理解のある旦那さんだといいですね」
「一年中図書館とかで本読んで過ごしたいー!」
どうやら酒が回り過ぎて、駄々っ子のように幼児退行を起こし始めた新野女史。
ったく……本性現しすぎて、化けの皮被り直せなくなっても知らんぞ……
「っていうかぁ……ああ、そうか……」
「何ですか?」
「いえ、自分でも今、酷い惨状だなって自覚はあるんですよー、止められないだけで。
で、その割にはせんせー『引いてない』じゃないですか」
「酒飲んで酔えば、老若男女身分問わず、誰だって皆『酔っ払い』ですよ」
「それって、せんせー自身の『元から女性への見方が根本的に壊滅してるから、どんな醜態サラしても今更だ』って事ですよねー?」
そりゃあ、周囲の環境が『ああ』だったし。
そもそも『あんな親に育てられたら』……ねえ。
「はいはい、そりゃそうですけどね……同時にちゃんと、作家として編集者であるあなたに感謝もしていますよ。
そもそも『作家と編集者』って『馬と騎手』の関係なんだから。
どっちが欠いたって『商業作品』ってレースには出られないでしょ?」
名騎手と名馬がタッグを組んでも、100%勝てるワケではないのが競馬であるが。
有名作家と名編集が手を組んでも、100%売れるとは限らないのが出版業界である。
作家や編集者が
お互いの『相性』という
と……
「せんせー」
「はい?」
「おんぶー」
……幼児退行、ここに極まったか。
まあ、肩を貸すより、背負っちまったほうが早いか。
「きゃはははは、はいよー、シルバー♪」
「俺が馬なら、軽車両の飲酒運転で(2005年時点で)イッパツ免停ですね」
「名ジョッキーのお通りだー♪」
「はいはいはい、GⅠレースの『帰宅記念』に行きましょうね」
と、まあ……そんな塩梅でタクシー乗り場に辿り着き。
「で、何処まで送ればいいの?」
「大田区の田園調布までお願いしまーす!!」
「……だ、そうです」
予想以上に
……まあ、元気にブン回ってる料金メーターは気にしない事にしつつ。
予想以上にデカい家の門前で呼び鈴を鳴らした時には、既に深夜の1時を超えていた。
「たーだいま帰りました~♪ おかーさまー!!」
「由香里! 一体、何事よ!?
こんな時間に、連絡も寄こさないで!?」
……って、実家かよ、オイ……
「じゃ、お嬢さんは送り届けたので、私はこれで失礼します」
「あ、ちょっと……」
引き留める手を振り払って。
待たせていたタクシーに再び乗って、今度こそ俺は我が家に帰宅するのだった。
『知らなかったのか?
ちなみに、2023年現在だと厳罰化が進んだ結果『35点減点で『免許取り消し3年』&5年以下の懲役又は100万円以下の罰金』になります。
飲酒運転、ダメ、絶対。