詩乃の部屋に上がり、リビングに入るとそこには俺よりも先に先客が居た。
彼は顔には幼さが残っているものの、両目に宿る濃い陰影だけはそれを裏切っている若干幼げな少年だった。
俺は詩乃のあの噂……ではなく、過去が広まって尚、詩乃との関係を持っている少年に興味を持って話し掛けた。
「こんばんは」
彼は少しおどおどしながら返事をする。
「あ、こんばんは……えっと、あなたは……?」
「本日、1年1組に転校してきた神那岐 汐耶と申します。長い付き合いになるかは分かりませんが……まぁ、宜しく」
「あ……同じクラスの新川(しんかわ) 恭二(きょうじ)です。宜しく」
そのあと、殆ど同時に右手を出して握手をする。何やら握られた手が少し痛かったのは気のせいだろう。きっと彼は緊張していたんだ……そう思いたい自分がここにいる。
俺の中には恐らく詩乃を自分のものにしたいという自分が居る……だが、詩乃の隣に居るべきなのは俺ではないと思う自分もそこには居る。
詩乃のことを理解するのはあの場に居た自分ならば簡単だ。だが、それではいけないのだ。詩乃の過去を一切知らない者がそれを受け入れる、認められることが無ければ詩乃は周りから追い詰められ、自分を守る為に作ってしまった籠から抜け出すことは出来ないから。
だから、詩乃の隣に居るのは俺ではいけないのだ。
「私は必要無いみたいね……」
詩乃はそう言ってキッチンに入っていった。
そこからは詩乃が来るまで終始無言だった。そもそも俺はコミュニケーション能力不足なのだ。所謂、コミュニケーション障害……と言うものではない(と思う)。話す事が無ければ話さない主義なのだ、無駄な事にはエネルギーを使わないのだ。
更に言えば、家族が居る家に居たとしても俺は必要なとき以外部屋に籠もって居るほど独りが好きなのだ。
「何も話さないの?」
気付けば詩乃がキッチンから料理を運んで来ていた。
「趣味とか知らないし」
「話すの面倒くさい……」
上から新川くん、俺だ。これを聞いた詩乃は溜め息を一つ吐いて運んできた料理をテーブルに置くと言った。
「新川くん、こちらGGO中規模対人専門スコードロン『パンドラ』リーダー『アリス』」
詩乃が新川くんにGGO俺を紹介する。
「ぱ、パンドラ!?リーダー!?……って事は『弾丸喰らい(ブザービーター)』で有名な!?
しかも、かの有名なソロプレイヤー『西方の魔女(ウェスタンウィッチ)』を引き入れた!?」
……あいつソロだったのか……知らなかった。レールガンに関してはあいつから貰った設計書から改良改造したのをあいつに渡したんだよな。
「で、汐耶くん。こちら『シュピーゲル』」
詩乃がのGGOの新川くんを紹介する。
「シュピーゲルね……」
ドイツ語か何かだったかな?よく覚えてないな……ロシア語の方なら分かるんだが……。
「ま、とにかくご飯にしましょう。座って」
俺はテーブルの折り畳み式の椅子に座る。
「あ……私が座ろうと思ったんだけど」
「気にするな。詩乃は主人だ」
俺は食器類などを詩乃の所のと自分のを交換する。理由は言わなくても分かるよね。
「じゃ、頂きます」
「頂きます」
「……頂きます」
順番に俺、詩乃、新川くんだ。
料理のメニューは白飯、豚の生姜焼き、ワカメと豆腐の味噌汁だ。一汁一菜の節約メニューか……GGOの接続料が圧迫しているのだろう?
まぁ、何かあった場合にそれは考えれば良いとして、俺は豚の生姜焼きを一口口に入れる。
「……旨いな」
感想を小さく口の中で呟く。焼き加減、味付け共に丁度良い。
次に味噌汁……味噌の加減が丁度良い。濃すぎず、薄すぎずで飲みやすい。
白飯、かなり綺麗にとがれているが、強くやり過ぎたのか割れていたりするが……味は申し分なく、とても美味しい。
米は炊くときにしっかりとぐのが大切だ。それだけやれば、白飯だけでも食べられる。
「美味しいよ」
今度は詩乃にも聞こえるように言った。
「ありがとう」
少し顔を朱くしながら答える詩乃。
「…………」
新川くんが何やら妬ましいようなそんな視線をこちらに向ける。言うなれば『自分も言おうとしてたのに』だろうか?
男の嫉妬は醜いって言葉を知っているかい?過去に見たことあるけど本当に醜いぞ?
俺の幼馴染を取り合ってたけど見事に玉砕……正しくは自滅だった。
どうもそいつら友人だったようでお互いにお互いの悪口を言い始め、爆発(発言)を投げ合い、最終的にお互いを終末に導く核爆弾(発言)を投げて、幼馴染に嫌われそれは収束した。
遠目から見てたけどかなり醜く、そして壮絶だった。
どうでも良いので閑話休題。
突然に気になった事があるので新川くんに聞いてみる
「ところで、新川くんはGGOでどんなステ振りなんだい?」
「あ……いや……」
もう何か分かった気がする。流行に乗ってやっちゃったって人じゃ無いか?
「……AGI一極です……」
「あぁ……やっぱり……」
「じゃあ、そう言う神那岐さんは何なんですか?」
ま、答えますか。こっちから聞いたんだし、答えるのが常識だろう。
「DEX―AGI型だよ」
「……何ですか?その謎ステ振りは?」
「変態ステータスで悪かったな!!行き詰まりでどん詰まりのAGI一極型!」
俺は最後に少し残っていた味噌汁を飲み干した。案外、お気に入りのステ振りなんだが……。
俺はここで新川くんに意地悪をしてみる。
「……AGI型一極でキャラ育成に困っているんだろ?」
「うっ……」
「何で必要な時にAGI以外に振らなかったのかねぇ~……後先考えてやろうよ」
「……そう言うあなたはどうなんですか?」
意趣返しとばかりにそんな事を言う新川くん。意趣返しとか意味ないよ?
「ん?俺は別に困っちゃ居ないよ?確かにさっきDEX―AGI型とは言ったものの、俺はそこまで重いアサルトライフルやら重機関銃やらバトルライフルやら使い気は無いからね。
必要なのは馬鹿デカい反動を片手で抑えられるSTR値だけだよ。あのじゃじゃ馬を使いこなすにゃもうちょいSTR欲しいけど……」
「……あの、マナー違反だとは思いますが……メインアームは何を?」
なら聞くなよと言いたくなるのを抑えて答える。
「んー……ファイブセブン二丁、P90、MP7二丁、M500二丁……だな」
「……メインアームですよ?」
「だから、メインアームを言った」
「全部?」
「あ……」
「なんですか?」
「サブアームでOSV―96を……」
「なんでサブアームの方が重いんですか!?」
いや、だって……ねぇ……?
「俺のメイン、サブってのは戦闘中の武器切替じゃなくて使用頻度だよ。
君の知っている『弾丸喰らい(ブザービーター)』こと弾丸に弾丸を当てる技術だけど……あれはお遊びでしかない。本当にロールプレイングだよ。使えるか分からない『自弾道予測線表示』なんてつけるぐらいだしね。
……で、人を基本的に仕留めるのはM500の役目。勿論、他のやつでもある部位に一定のダメージ与えられれば一撃死ではあるけど……確実性が安心出来るという観点で言えば、M500がメインアームかもね」
「あの重いM500を片手で……規格外にも程がある……」
早速AGI型一極の人にまで規格外宣言された……悲しくなってきた……。他に規格外って言ったやつ?ストラトミットスに他のスコードロンメンバー多数だな。あれは泣けた。
「汐耶くん」
詩乃に話し掛けられ、俺は返事をする。
「……何?」
「自分の出身とかって言わなくて良いの?」
「寧ろ言うな。嫌な予感しかしないから」
「わ、分かった……」
少し強い口調でごめん、でも今は必要ないよ。必要なときに使うものだよ、情報っていうのはね。
その後は新川くんが話のメインになったのだが……彼の目を見ていたらある隠している感情が見えた。
恋情と言うか好きと言う感情は照れ隠しのようにして隠しているが、その裏にある感情が見えてしまった。
隠している感情、それは……
――狂愛――
ものの見事に狂ってしまった恋心。
これも同じく、幼馴染が俺の友人の餌食になったが……俺の幼馴染ってそこまで柔じゃ無かったんだよね。物の見事にそいつの心を粉末状になるまで折ってたよ……
まぁ、その後は何とか日常生活遅れる程度には回復したらしかった。言葉責めが癖になったとかってのは聞かなかった事にした。
このおかげで幼馴染が心的外傷を与える事が出来る話術を身に付けてしまったのはご愛嬌でも何でもなく、正に彼の狂気の産物(意味不明)であろう。
おっと、閑話休題。どうでも良いので終わるとしよう。
そのあと、俺は早々に帰らず、新川くんが帰るまで詩乃の部屋に居た。
その理由は勿論、新川くんの狂愛が出て来ないようにするためだ。狂愛は俺の経験上自分と対象の2人きりでなければ、出て来ない……経験上では……。(幼馴染のを2回見て、1回被害に遭った)
まぁ、狂愛が露わになった後は対象の親しい人が来れば、その人物の所為で自分に愛が向かないとか言い出すけどね。大変にウザイ……運命だとか好きになるべきだとか、君は彼女に相応しくないだとか……いや、お前が言うことじゃないと言い返さなかった俺を褒めて欲しかったね。結局、幼馴染に心をズタズタにされたようですが……可哀想に言葉責めが癖になって戻ってきましたよ。
で、今回は俺が居たからか片鱗を見せる程度に留まった。酷いとき誰が居ようと狂愛って起こすからな……。ああ、恐ろしい恐ろしい……恐ろしい(重要なので3回言いました)。
で、詩乃(正しくはシノン)がパンドラに入っていると新川くんに伝えると何故か凄い形相でシュピーゲルを『パンドラ』に入れさせてくれって言われたが……即座に断ったんだけど粘られて、仕方無く入団試験をやる羽目になった。
入団試験の条件は『圏内デュエル』。勝利条件は2時間以内に俺にダメージを入れること。敗北条件はタイムアップ、もしくはあちらの死。禁止事項として俺の『弾丸弾き』が禁止された……詰まらぬ。
会場はグロッケン圏内。こっちは発信機を付けて逃げる。あっちは俺を追う。天を突く摩天楼を利用したワイヤーアクションは禁止されなかったから遊べるよ。バイクは禁止されたけど。
※─※─※
「……86計逃げるに如かず」
試験開始されてから5分俺はシュピーゲルに見つかりはしたものの、まだ銃を撃たれていない……銃を構えた瞬間に準備済みのワイヤーを巻き取り、上に飛ぶ……。
相対距離が200を切った瞬間にシュピーゲルが両手で持っているアサルトライフルで照準し引き金を引く一瞬前、俺はワイヤーを巻き取って宙を舞う。
宙を舞った瞬間、俺の居た場所に3発の弾丸が通り過ぎる。
狙いは正確……条件を満たしたら入団出来るレベルの照準速度と精度だ。だが、もう100近くても良いかな……?まぁ、それだと普通の評価しかしないがな。
シュピーゲルが俺を照準し射撃するが……もっと正確に予測しなければ当たるものも当たらない。
俺は巻き取りを止めて振り子の運動で斜め上に移動するのをやめて移動を始める。
シュピーゲルは俺を見るなりステータス補正と『疾走』、軽業派生スキル『壁走り(ウォールラン)』で人に邪魔されずに追いかけてくる。
スキル構成は自慢のAGIを生かす構成にしているようだ。
ここで10分が経過したため、使用を禁止されていた俺の武器の使用が解禁された。
さあ、楽しもうか?