試験開始から10分、俺は空いている左手で腰の後ろに装備しているMP7を取り出し、地面を走って来ているシュピーゲルを照準して、予測照準が合った瞬間に引き金を引いた。
50発の拡張マガジンを一瞬の内に撃ち切ったにも関わらず、シュピーゲルのHPはまともに減って居なかった。流石はAGI一極型、回避はお手の物と言った感じだ。何故それで育成に困るのかというレベルの話である……。
俺は左手のMP7を腰に仕舞うとビルの壁面に刺さっていたワイヤーアンカーを引き抜き、一瞬で巻き取りまた投げた。今度は只、振り子の運動に任せるだけでなく、ワイヤーに体重を任せ壁面を走った。
俺は右のアンカーを引き抜き、次のビルに投げるのと同時にその反対の方向に左のワイヤーアンカーを投げた。
シュピーゲルが曲がってきたのを確認した時点で、右のアンカーを引き抜き巻き取りつつ、左のアンカーを引き抜かずに巻き取る。俺は仮想の重力に従い後退しながら地面に落ちた。俺は地面に足を着いた瞬間に左のアンカーを引き抜いた。
シュピーゲルは俺を見失ってキョロキョロしている。このままスニーキングするのも良さそうだなぁ……という考えを振り切って黒いコートのフードを目深に被り、足音を立てずに人混みに紛れてシュピーゲルの後ろを追う。シュピーゲルはどうやら発信機という存在を忘れているようだった。
俺はこれを好機と見て右大腿部のM500を右手で引き抜き、シュピーゲルの後頭部を照準する。
そして引き金を引く一瞬前、シュピーゲルが一気に振り返って武器であるアサルトライフルをこちらに向けた。
「残念でしたね」
シュピーゲルは引き金を引く瞬間、勝ち誇ったような顔をしたが……
「俺を誰だと思ってる?有名な弾丸喰らいだぜ?」
弾丸が撃ち出された瞬間に俺は弾丸を避けた。弾丸弾きをしているのだからこれぐらいは余裕で出来る。出来ない筈が無いのだ。
そして俺は弾丸を避ける中、右手のM500をシュピーゲルの眉間に照準して、撃ち出した。
マッハを超える弾丸は眉間に当たり、シュピーゲルのHPを0にした。
因みに今回の試験はデュエルでやっていたが、その設定によってはデスペナルティ(レベルになっていない経験値消失や一部アイテムドロップなど)を付ける付けないが設定出来る。今回は全切りだったが……。
なお、勿論俺のHPは1たりとも減っていない。この試験、俺の勝ちだ。
「あー……めんどくせぇ……」
何が面倒くさいかと言えば、結果を知らせに死に戻りポイントに行かなければならないのが大変に面倒だ。
もう試験官なんか絶対にやらないからな!
※─※─※
総督府近くの死に戻りポイント前で俺、シノン、シュピーゲルの3人は何も言わずに立っていた。
そんな膠着状態を破ったのはシノンだった。
「……結果は不合格って事で良いのよね?」
「ああ、シュピーゲルには悪いがな」
「………………」
そこまで睨むなシュピーゲル。プレイヤースキルが足りてないんだよ……キャラステータスじゃなくてさ。
「でも、まぁ……キャラ育成に困る理由が分かったよ」
シュピーゲルが俯いていた顔をバッと上げた。現金なやつだ……嫌いだが……まぁ、仕方がない……教えるか。
「シュピーゲル、回避能力は流石はAGI特化と言うべきか良いんだが……足りないと思うものはなんだと思う?」
「…………状況判断力ですか?」
「ハズレ」
「えー……分かりません」
これだから最近の若い奴は嫌いだ。分からない事は殆ど考えもせずに答えを聞こうとする。嫌いなんだよ……全くもってさ。
「AGI型の基本戦法は?」
「回避と速射です」
「そう、回避と速射。てな訳で足りてないのは重い高火力武器とそれを持つSTRじゃなくて、扱いやすい軽火器と命中精度を上げるDEXだ。ヘッドショッド喰らわせれば一撃なんだから思い武器を振り回す意味はない。
闇風がもっともな証拠だな。てな訳で、誰が変態ビルドだって?」
「すいませんでした」
「分かればよろしい。
俺とて何も考えずにステータス振ってる訳じゃない……。
兎に角不合格だ。1から出直して来やがれ」
「はい……」
シュピーゲルがトボトボとデュエルアリーナのある方へと歩いていく。
速射上げるならモンスター戦でも良いんだがな……まぁ、良いか。
「ねぇ……」
ここでシノンが俺の袖を引っ張る。
「何?」
「なんでアリスは私をシュピーゲルみたいに試験に受けさせなかったの?」
……いやぁ、痛いところを突いてくるね……。
答えは決まってるけどね。
「シノンがスナイパーでシュピーゲルがアタッカーだから」
「そんな理由で?」
「スナイパーは希少だからね。欲しいだけ欲しいのさ」
「アタッカーは不憫ね」
「スナイパーが優遇されてるだけだ。」
※─※─※
次の日の朝、朝食を食べながらスマホでネットニュースを見ているとこんな記事を見つけた。
『箱庭の人気について』
その記事を見ていくとページの下の方に俺の箱庭の他様々なサイトのURLが載っていた。
「……なんだこりゃ」
俺は自信過剰だと思いながらも見ることはないテレビの電源を入れた。
その局ではニュースをやっていたのだが、丁度なのか『箱庭』について報道されていた。
「……えー…………」
他の局に変えても何故か箱庭が有名になっていた。流石にテレビ局では名前や写真を公開する事は無いようだが、2chの掲示板では盛大に公開されていた。
一体、箱庭のどこに有名になる要素があったんだろうか……。何時の間にか依頼されたVR空間の名称が『箱庭』というのも広がっているし。
そうしている内に家を出なければならない時間になったため俺は朝食に使った食器を水を溜めた流しに入れて、部屋を出た。
「ん…………」
空は雲が幾つか浮かんでは居るが晴天に近い天気であってもそこまで暖かくなく、少しヒンヤリする温度だった。
「おはよう」
そう声を掛けられて横を見れば学生服を着た詩乃が鞄を持って立っていた。
「おはようさん。マフラー、似合ってるよ」
「ありがと」
詩乃は少し顔を朱くしながらそう言った。いや、ホントに似合ってるんだよ、お世辞とか抜きで。
「行かないの?」
「行くよ?ただ、ちょっとね……」
「私を待ってたの?」
そんな詩乃の質問に俺は冗談めかして答えた。
「ま、そんな所」
「じゃ、一緒に行きましょ」
「そうだな」
俺の冗談は理解して貰えなかったらしく、少し朱かった顔を更に朱くしながらそう言われた。残念だ……冗談のセンスが無いのかもしれんな。
※─※─※
学校に着いて、席に座ると少し仲の良くなった男子が声を掛けてきた。
「おはようさん」
「ああ、おはよう」
「なぁ、聞いたか?転校生の噂」
……噂か。学校ってそんな噂だけで騒がしくなるもんだな……もう少し静かな方が好きなんだが。
「転校生?俺が来た次の日にか?いくらなんでも多いだろ……いや、そもそも転校生自体珍しいか」
「いや、このクラスには来ないよ。隣らしい」
「その情報網、信用出来んの?」
「昨日、2組の知り合いが帰りのHRで伝えられたって言ってたから確かだよ」
「そうなのか……どっち?」
男だもの、俺だって。騒ぎこそしないが、気にならない訳ではない。
「お?やっぱり気になるか?」
「まぁ、人並みに」
「今、アンケート取ってるけど優勢なのは女子だな」
「……そのアンケートの対象……」
「男だけだぜ」
やっぱりか……これはあれだ、小説とかに良くある……。
「どうしようもねぇ……これは男子確定だ」
「浪漫が無いな……お前」
「だってそうじゃねぇか。小説とかでは女子が転校して来るけど現実見れば男子だらけじゃねえか」
「確かに……」
「ま、結果は後々伝えてくれ。写真があれば尚良いな」
「了解」
俺はそれから本を出して読み始めた。本の題名は『この世にご都合主義は存在しない』だ。一応ラノベで売上は上々らしい。
中身は曲がり角で美少女にぶつかってパンツが見れるとか、その美少女が実は転校生だったとか、朝ベッドで起きたら美少女がいきなり自分の隣に寝ていただとか、そんなものが一切存在しない世界で暮らすとある少年のお話だ。ご都合が存在しないため、ポロリとか転んで少女の胸を揉むとかそんなものはない。一応ラブコメだ。
で、本を読んでいる内に何時の間にか朝のSHRが始まっていた。転校生はやはりこのクラスではないらしい。隣の2組が何やら騒がしいためやはりあちらだろう。
「――では、朝のSHRを終わる」
「起立、礼!」
SHRが終わると同時に前の席の奴は2組の方に向かった。見つかると良いな。
※─※─※
そして一時間目の休み時間、前の奴が話し掛けてきた。
「汐耶」
「結果は?」
「女子だったぜ。しかもスンゲーカワイイ奴」
前の奴は転校生を撮ったのであろうデジカメの画面を見せてきた。没収されないのか……規則が何気に緩いな。
真っ白い腰の辺りまで伸ばしたロングの白髪に紅い瞳の少女。その顔はまさしく……えっ!?
俺はその顔を見た瞬間に驚いてひっくり返ってしまった。
「おいおい、大丈夫かよ?」
「大丈夫だ、随分と可愛くてひっくり返った」
「そうか……まぁ、そうだよな……こんなに可愛くちゃあな」
なんでアイツがここに居るのか疑問に思いながら、俺はその日の午前中の授業を受けていた。
※─※─※
「起立、礼!ありがとうございました」
汐耶は4時間目終了後直ぐに弁当を持って教室を出た。
それから少し経ってから白髪、紅眼の転校生が一組を訪れた。
「すいません」
隣から訪れた激カワの転校生の訪来に教室が湧く。
その訪来にクラスのモテる男子が聞きに行く。
「どうしたんですか?」
「ん……神那岐って言うのを探してるんだけど」
「神那岐……ああ、あいつなら授業終わった後に直ぐに出てったけど?」
「……そっか……ありがとうございました」
その教室から去ろうとした転校生の腕を男子が掴む。
「……何ですか?」
「あんなの探すより、俺と飯を食わないか?」
「すいません、ボク君みたいな人と食べたくはないので」
転校生は掴まれた腕を振り払った。
「……そんなナンパして引っ掛かる人なんて居るんですか?」
「なっ!」
転校生はそう言って教室から今度こそ、教室から去った。
※─※─※
俺はアイツが教室に来る前に教室を出て、体育館裏で昼食を食べていた。
てか、なんでアイツがここに居るのか……アイツは確か“あの”学校に行ってた筈だろ……。
「汐耶っ!」
だが、逃げるのは無理だったようだ。
「よう、沙耶」
「久し振りだねぇ……」
本名『七乃瀬(しちのせ) 沙耶(さや)』。俺の小さい頃からの幼馴染だ。
先天性白皮症……通称『アルビノ』のため皮膚、髪、瞳の部分のメラニン色素が無いため、肌は白に近く、髪は真っ白、瞳は瞳を通る血の色が透過して紅い。
そして本来ならばコイツはここには居るはずが無いのだ。日本を震撼させたあの『SAO事件』の被害者、SAO生還者(サバイバー)であるため、政府の用意したSAO生還者の通う学校に通っている筈なのだから。
まぁ、それでも、頭脳明晰なコイツには中学の勉強なんて恐らく難しく無かったのだろう。
「汐耶くん」
……どうやら詩乃もここに来たようだった。
まぁ、そこまで姦しくない2人だからどうでも良いか。
……初の生まれつき持病(?)持ちの登場です!!たぶんこの先には関係のない設定かと思われますので生温かい目でお願いします。