「迷子の迷子の子猫ちゃん〜あなたのお家はどこですかぁ?」
「アメリカ製らしいぞ。あと、その調子っ外れな歌をやめろ」
「そりゃ可哀想に、お家がぶっ飛んじまったわけだ」
「ぶっ飛んでないお家の子猫が出回ってたら大問題さ、核をテロリストに売っ払ってる国があるか、最悪テロリストが作ってることになる」
「こちら機長、降下開始までもうすぐ10分だ。お喋りはやめて集中しろ」
「軽く再度作戦確認をしておくぞ。これから朝日を背に日本共和党を名乗るテロリストが核爆弾を隠しているとされる森に隠された建造物を襲撃する。目的地手前5kmほどの草原へ着地を行う。連中は最低でも10機の旧アメリカ製第1世代戦闘義体「ユリシーズ」をここに配備しているのが事前の偵察で確認されているため激しい抵抗に遭う可能性が高い。降下開始したらこちらから呼びかけるか、接敵した際の連絡まで指揮所および輸送機などへの長距離通信は禁止だ」
「了解」
無線が静かになり輸送機の揺れとエンジン音だけが響く。
降下前は何度訓練しても、何度実戦を積んでも緊張をする。してしまう。
正面から見れば底辺が小さな五角形に見える前後に長く尖った胴体には蒲鉾状の爆発反応装甲が取り付けられている、二等辺三角形の三角柱をつなげた様な手足、8面ダイスを伸ばして半分に切り、間に望遠鏡を挟んだような頭*1をした5mの鉄の人形が今の自分の身体だ。
この30t*2の鉄の塊をそれを滑空させるには心許ない翼とエンジンを頼りに敵地に降下するのだ、緊張しない方が不思議な話である。
「降下まで5分」
「4分」「3分」「2分」「100秒、99、98、97、96、95……」
「30、後部ハッチ解放!」
「5、4、3、2、1、降下開始!」
間髪いれずに自らの四肢と心許ない翼を広げ、エンジンをフル回転させ滑空開始。
慣れない浮遊感を感じつつも、視界に気をやる余裕が出れば白む明け方の空と、ターボファンエンジンを四つぶら下げた輸送機からもう1機投げ出され滑空を始めるのが見えた。
左右にも
自ら含め全部で6機問題なく滑空出来ていることにひとまずの安心しを得て、目的地の草原への操縦に集中する。
草原が迫る
脚を地面に向け背部の推力偏向ノズルと腰部のエンジンを爪先へ向け、着地用ロケットを点火、激しいマイナスGに意識を持っていかれそうになりつつもズンと重く低い音を立てて不思議と衝撃で痺れない鉄の脚でしっかりと地面を捉える。
間髪いれずに響く5つの着地音と振動を高感度集音装置と疑似神経システムが伝え、全機の着地が滞りなく完了したことが分かった。
「飼犬1号より、全機の着地を確認機体に異常はあるか?」
「飼犬2号異常なし」「飼犬3号異常なし」「飼犬4号異常なし」「飼犬5号異常なし」「飼犬6号異常なし」
「飼犬1号より、森での戦闘が起きる可能性が高い。よって長物の60mmも100mmも使えん、30mm以外ハンガーに掛けとけ」
「了解」
頼りない翼をパージし、35式30mmガスト式機関砲を背中にハンガーからもぎ取り片手で持つとで持つ隊列を組み目的地への前進を開始する。
森はある程度人の手が入っているようで問題なく進める。
「里山ってヤツですかねえ?山にしちゃ平べったいけど実家の裏山思い出すなー」
「無駄口叩くな飼犬2号。この様子だとユリシーズは目的地周辺の開けた箇所しか満足に動けんだろうから余計な警戒はせずにさっさと目的地に向かった方がいいな。急ぐぞ」
「了解、黙って急ぐとしますかあ」
整備された森が少しずつ開けていくとIRSTが赤外線を捉え視覚へ出力し白いモヤが映る
「こちら飼犬1号、1時方向敵機発見!戦闘開始!」
敵機、第1世代戦闘義体「ユリシーズ」アメリカ製の機体で戦車の砲塔に脚が生えた様な第1世代特有のフォルムと戦車であるなら主砲が付いているはずの場所には半円形に出っ張ったカメラが付いていて、右側面には105mm砲、左側面には35mm機関砲が取り付けられている。
それが1、2、3…
「敵機4機!コッチは35mm相手でもキツいんだ!当たるなよ!」
「了解!」
30mm機関砲のトリガーを引けば*32つの砲身が唸り毎分3,000発の弾丸がユリシーズに襲い掛かるが、装甲車や歩兵相手を想定した30mm徹甲弾と徹甲榴弾ではユリシーズの傾斜の付いた圧延鋼板換算で100mmの胴体正面複合装甲や50mmの傾斜付き装甲の脚部には有効打を狙えない。
しかし未だに木が多く長物が使えない
ならばと突撃して相手と同様の開けた場に出るしかない
「飼犬1号より!距離を詰めて同じ土俵に立つぞ!念のためブレードの準備をしておけ!」
「了解!」
「各小隊2番機が援護を行え!突撃開始!」
距離を詰める
500m、400m
35mm砲弾が脚を滑るのを疑似神経システムが伝える
105mm砲から吐き出されるタングステンのダーツが爆発反応装甲にへし折られる
景色がスローモーションになっていく
300m
200m
100m
50m
10m
左腕小指側から斜めに飛び出したブレードに内臓されたリスペスメライト合金*4にコンデンサから電流が流れ独特の濃い青色の10,000℃にも達するプラズマが吹き出す。
5m
左腕を振り上げれば、青いプラズマがユリシーズの正面複合装甲を鉄もセラミックも、コックピットに居たパイロットも一緒くたに昇華させその急な体積の膨張で爆発音を響かせる
同様の音があと二つ
左腕から煙をあげるリスペスメライト合金の詰まったカードリッジ*5が自動的に吐き出される。*6
素早く反転し、生き残ったユリシーズの背面にありったけ30mm砲弾を喰らわせ沈黙させる。
片付いたようで暫しの静寂が訪れる。
「お見事っすね隊長、一人で2機やっちまうなんて」
「伊達に便利屋の中隊長やってないさ飼犬2号」
「飼犬1号より各機へ、十分開けたから30mmしまって長物で行くぞ」
号令を出せば皆、30mm砲をハンガーに掛け、51式100mm砲を手に取る。
100mm砲のAPFSDSであればユリシーズを正面から撃破可能になり突撃なんて無茶をしなくて済むと一つ安堵
「さっきの戦闘で存在がバレただろうが残敵はおそらく6機、同数だがさっきより楽に排除できる落ち着いていくぞ」
そのまま残敵6機を100mm砲で排除しつつ敵建造物、と言っても大きなプレハブ小屋といった物で、居座っていたテロリストの歩兵を30mm機関砲で排除し核爆弾の確保が成功した。
「こちら飼犬1号より司令部へ、子猫の確保が完了した」
「了解した、回収班がそちらに向かっている。合流まで警備を行え」
「了解、通信終了」
「迷子の子猫ちゃんお迎えですよ〜っと」
「家には帰れんがな」
「全く可哀想にねえ」
戦闘義体
英語圏ではパペットと呼ばれる
搭乗者と神経接続をすることで文字通り搭乗者の体の一部として運用でき大した訓練も要らないのが特徴
疑似神経システム
触覚とほぼ同様の能力があり被弾箇所や不具合箇所が感覚的にわかる
11式戦闘義体
全高5.2m
全幅2.5m
全備重量30t
胴体正面
圧延鋼板換算100mmの傾斜付き複合装甲
胴体背面30mm
腕/脚50mm傾斜付き
リスペスメライト式ジェットエンジン背面1基、腰に1基づつ計3基
装備
51式100mm高射砲(滑腔砲)
35式60mm高射機関砲
35式30mmガスト式機関砲
300mm対戦車ロケット(肩部に載せるが主翼と干渉するため空挺降下の際は装備しない)
プラズマブレード
8式爆発反応装甲(対HEAT400mm、対AP200mm、APFSDSを圧し折るために蒲鉾型の鉄板を飛ばす)
滑空用主翼
第三世代戦闘義体
空挺降下可能な主力戦闘義体で全保有機これにしようという無茶振りから生み出された軽量機、やっぱり装甲薄くて重量機の12式戦闘義体が作られた
そういう経緯からか馬鹿みたいな火力とそれを運用するための馬鹿みたいに過剰な出力重量比と正面戦闘するには足りない装甲は爆発反応装甲で補うという設計
運用コストが高いという哀しみを背負っている
出力重量比が高いため格闘戦に強いがぬるぬる動いてキモい
M4ユリシーズ
全高3.1m
全幅2.5m
重量25t
胴体正面
圧延鋼板換算100mmの傾斜付き複合装甲
胴体側面傾斜付き70mm
胴体背面30mm
脚部傾斜付き70mm
装備
105mm滑腔砲
35mm機関砲
アメリカがぶっ飛ぶ前に開発していた第一世代戦闘義体
第二、第三世代より安く火力も数もあるためテロリストの標準装備
かれこれ70歳近いお爺ちゃんだが未だ新型が出る現役バリバリ
名前はアメリカ最悪の大統領にして最高の軍人と呼ばれるアメリカの第18代大統領 ユリシーズ・S・グラント