伊丹が語る柊木のお話。
――ねぇ、伊丹。ちょっと異能力者になってみない?
――……なんだ柊木。オカルトにハマったのか?
――ノンノン! これは素だよ伊丹。で、受けてくれるかい?
――……丁重に断らせてもらう。
――ありゃりゃ、フラれちゃったなぁ。
――そもそもなんだ、異能力者って。新しい同人サークルか? それなら俺は入らないぞ。そういうのは梨紗にでも言ったらどうだ。
――うーん……梨紗さんは多分できそうにないんだよなぁ。僕が欲しいのは君みたいな強い人材なんだよ。
――はぁ? 力仕事でもさせるのか? なら断らせてもらう。俺の座右の銘は「食う寝る遊ぶ、その合間にほんのちょっとの人生」だからな。仕事に関しては断らせてもらう。
――う~ん……結構好待遇なんだけどなぁ。
――……具体的には?
――週休二日の有給あり。給料もそこそこいい。漫画もアニメも読み放題。
――よし受け
――ただし命を懸けてもらう必要がある。
――断らせてもらう。
――う~ん、ダメかぁ……
――ってか、命を懸けるって、どんな危ないことをさせるつもりなんだよ。
――ん? 特殊能力を使って悪党を捕まえたり、魔物を討伐する危険な職だよ?
――なおさら無理だな。俺はただの一般人ですよ~。
――え~入ってくれよ~伊丹~。友達のよしみでさ~。
――それより、冗談はやめろよ。今時厨二病を脱却できていないとか恥ずかしいぞ?
――だから言ってるじゃないか。これは本当のことだって。
――じゃあ、証拠を見せてみろよ。見せてくれたなら受けるかはともかく、信用はしてやる。
――お、言ったね? これを見て度肝を抜かれるなよ?
――は? お前なにを
――『宇宙という
――おい、ちょ
――『稼働率3%を突破、魔術結界構築に必要な魔力充填完了、術式発動対象を僕と伊丹に限定』
――何し……として……お前
――『魔術式発動』
――な……
――『――――――』
――…………嘘……だろ……。
――ふぅ……これで信じてくれるかな伊丹?
――床が……!? 天井が……!?
――これが異能の力だよ。と言っても、僕が規格外だからこんな〝世界〟を創りだせるんだけどね。
――これは夢だよな? 俺、寝ぼけてるんだよな?
――夢じゃないよ伊丹。これは現実……から切り離すようにして創った新しい〝世界〟だよ。
――…………
――で、入ってくれるかい? 伊丹?
――…………
――もしもーし! どうしたの伊丹?
――…………
――聞いてるのかい? いた……!?
――…………
――し……死んでる……!?
――…………
――い、伊丹ー! カムバァック!
とある焼き肉店での出来事
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ここは、〝特地〟と呼ばれる異世界。
排気ガスなどの余計なものがないからか、異世界の空は驚く程に透き通っている。
そんな空の下、世界観に似合わないような車両が、数台の群れを成し、どこかへ向かっていた。
その内の一台ではこんな会話が繰り広げられている。
「そう言えば、伊丹隊長って異能力者達の組織、えーっと……」
「神祇省か?」
「そうそう、その神祇省っていう組織の総司令である柊木真さんでしたっけ? と友達なんすよね?」
「あぁ、そうだが。それがどうかしたか?」
運転席に座る男――
それに対し、伊丹は景色を眺めつつ答えていく。
「どんな人何すかね? 一応テレビとあの宣言の時……あと模擬戦の記録映像でしか見たことは無いんですけど、友人から見てみればどんな人だったのかなぁ……って思いまして……」
そう、頬をかきながら質問する倉田の眼には好奇の色が見えていた。
そんな目を向けられている伊丹は何とも言えないような表情で話し始める。
「まぁ……簡単に言えば、完璧超人。悪く言えば、理不尽の権化、だな」
「……な、なんすか、その反応に困るような言葉は……」
「そのまんまだよ。アイツはガキの頃から何でもできた」
そう話す伊丹は、過去のことを思い返すように遠い目をする。
「アイツは小学生の時から何でもできた。勉強や運動、工作に料理。更には部活でしか学ばないような技術も覚えていた」
「ぐ、具体的には……?」
「……空手、柔道などの武術全般。野球やサッカーなどの球技全般。陸上だってできた。他にもダンス、書道、絵描き、機械操作等々……あいつのできないことを探す方が難しいんじゃないのか? 大会に出れば必ず一番、チーム戦の時なんか、敵チームがアイツを徹底マークするほどだったからな。家庭科の時なんて、アレンジにアレンジを重ねて一流シェフレベルの料理を作っちまって、先生の腰を抜かせてたんだよ」
「そんなにですか!?」
伊丹が語っていく柊木の凄まじさに、驚いたような声を上げる倉田。
その際、車が大きく揺れてしまうが些細な問題だ。
「そ、そこまでやれる人が、今は異能力者のトップっすか……」
「ま、あいつはガキの頃から不思議なやつで、暇な時があれば、いつも歴史書とかみたいな難しい本を読んでいるような奴だよ。俺達がマンガの話で盛り上がっている横で、アイツはただひたすらに知識を集めていた。それこそ、先生に怒られるギリギリまでな」
「へぇ~……」
もう驚きすぎてただ車を運転するだけの機械と化した倉田が呆けたような声を出す。
それほどまでに、柊木のやってきたことは凄まじいのだ。
だがこれで終わらない。
「今まで話したのは、小学生と中学生時代までの話だ。義務教育じゃなくなったアイツは更にヤバくなっていく」
「ま、まさか……! 不良に……!?」
非行の道へと進んだのかと生唾を飲み込む倉田。
「いや、三年間ずっと生徒会長になり続けた」
「優等生の極み!?」
が、予想とは違い、むしろ正反対の道を歩み始めた柊木の行動に、思わずハンドルへと頭をぶつける。
「アイツのおかげで、学校側の環境がよくなりすぎてさ。○○高校って知ってるだろ? あれが俺等の母校」
「超有名校じゃないですか!? え!? 一生徒がそこまで変えたんっすか!?」
「元は普通の高校だったんだけどなぁ……アイツが一年生でありながら生徒会長に選ばれた時は、「なにがあった!?」って思ったよ。まぁ、俺には関係ないって切り替えたんだけどな。その日から学校の環境が変わるわ変わるわ。退屈とは無縁の高校生活だったけど、面倒ではあったな」
「えぇ……」
ちょっと引き気味の倉田を尻目に、少し楽しそうに話していく伊丹。
「町内行事には真っ先に参加し、同級生の子には勉強を教えていた。いじめっ子もいじめられっ子も手を取り合って学校に登校し、先生方もいい人だと思えるような人ばっかりだった」
「え? 先生にも何かあったんすか?」
「もちろん。アイツが授業の仕方を教えたり、新人の先生にはこうすればいいんだってのを教えに行っていた」
「生徒っすよね? その時の柊木さん。まかり間違っても派遣された超エリートな新人教師じゃないんですよね?」
伝説を作り過ぎて、もはや、映画の二、三本は出来そうな出来事の数々に疑い始めてしまう倉田。
「そんな柊木だがな、将来の夢は一貫して変わらなかったんだよ」
「気になるんですけど……聞いてもいいっすか?」
そんな倉田の反応に、自身ではないが友人を自慢するように言葉を続けた。
「『誰かの上に立ち、そして引っ張っていけるようなそんな人間になりたい』ってさ」
「……まんま今の柊木さんの立ち位置になってますね……」
「だろ? アイツが自分のことを異能力者だとばらした時はビックリしたぜ? なんせ、組織の頂点に立っていて、有言実行してたんだから」
そう笑顔で語っていく伊丹。
しかし、次第に笑顔が消えたかと思えば、心底疲れたような顔になっていく。
「だ、大丈夫っすか? 伊丹隊長?」
「あぁ、大丈夫だ。めっちゃ疲れてるだけでな……」
「確か……伊丹隊長って、めっちゃ取材されたんですよね? 柊木さんのことも色々と……」
そう言う倉田はある事を思い出す。
自分達がここに派遣される理由となった出来事を。
「『銀座事件』の時に、伊丹隊長も人命救助に動いたんっすから、ここまで有名になるのも仕方ないんじゃないんっすかねぇ」
「俺は有名になりたくなかったんだけどな……柊木のことだけじゃねぇ。俺のことも根掘り葉掘り聞かれたし……ハァ……本人いるから直接聞けよ。友人としてどう見てたのかって聞かれてもよぉ……ただスゲェ奴だとしか見てなかったよ……」
ため息交じりに愚痴を吐いていく伊丹。
「しかも、アイツが異能力者ってことをばらした時、異能のことを疑っていた俺に向かって能力を使ったんだよ」
「? どんな能力っすか?」
疑問に思う倉田に、伊丹は衝撃の事実を告げる。
「型月的に言えば〝固有結界〟。呪術廻戦的に言えば〝領域展開〟。アイツが言うには〝魔術結界〟だっけか? を焼肉屋の個室で発動した」
「ちょ!? 〝固有結界〟とか〝領域展開〟って、高難易度の技じゃないっすか!? そんなのを焼肉屋の個室で!?」
「前見ろ倉田」
「あ、す、すいません……」
道を逸れかけていた倉田を制し、伊丹は続ける。
「アイツにとっては、それぐらいの魔術は簡単らしい。むしろ、永久機関を作りだす方が難しいって言ってたな」
「永久機関も作りだせるんっすか!?」
「できるそうだ。……って言うか、模擬戦の映像で発動してたって言ってたぞ? 聞いてないのか?」
「あ、いや、その時はアニメみたいな撮影技術と映像に気を取られて、詳しいところは……」
話に出てきた模擬戦の映像とは、柊木や異能力者の中でも幹部に値する者達の議論の末、「自分達を戦力の一つに数えてもらうのなら、具体的な戦力は提示しておかなければ、後々面倒なことになる」ということが決まり、過去に柊木対〝特級〟の面々で模擬戦を行った際に記録した映像を公開することにしたのだ。
ちなみに〝特級〟とは、異能力者の階級を示すものの最高位を表すもので、その戦力は、たった一人で軍勢と戦えるという規格外なものである。
残念ながら、大勢の特級が相手であっても、柊木には傷一つつけることができなかったのだが……
その際の映像は、今回の自衛隊メンバー全員が見ているし、某有名な動画配信サイトなどでも公開されている。
あまりの戦闘の熾烈さに、某動画サイトでは赤文字で画面が埋まるという事態が発生し、ある掲示板ではあまりの書き込みの多さに、サーバーが落ちるなどといった事態も発生した。
ちなみに、その動画サイトでは柊木が出ると、必ずと言っていいほど赤文字で画面が埋まり、更には「日本が核を持たない理由」「ラスボス」「最強」「無理ゲー」「死ぬがよい」「生まれる世界を間違えた」「負ける気がしない」「勝てる気がしない」「BLACK RX」「お前ら人間じゃねぇ!」等々そうそうたるタグがつけられるのがお決まりになった。
「ま、柊木はそんだけすごいんだぞってことを覚えておけばいいさ」
「いや、すごすぎて実感がわかなくなってきたんですが……」
そんな会話が続きながらも、彼等は進んでいく。
このあと、ドラゴンを目撃し、現地民を一人保護することになるのは、今の彼等に走る由もなかった。
感想を……ください……!(切実)