オギャー、オギャー!
手術室内に一方的にフルボリュームで泣き喚かれ、コミュニケーションが一切通じない赤子の鳴き声が響き渡る。それはその場に居合わせた誰もが新しい命の誕生を告げる声であることを理解させられる。
「赤ん坊の泣き方ってすごいね」
医者に抱き抱えられた赤子を見て分娩台に乗せられた女性———赤子の母は息も絶え絶えになりながら微笑み、そう呟く。だが、
「しっかりしてください!気をしっかりと持って!」
すぐそばにいた主治医は微笑む女性に必死に声をかける。まるで怒鳴りつけるような声はどこか引き止めようとするようにも聞こえた。実際、引き止めようとしていた。出産時に大量に血を流したことが災いし、この世から去ろうとする彼女を。
「先……生。もし、私が……死んだら」
「死なせない!!」
「伏黒さん!しっかりとして下さい!普段の溌剌さはどこに行ったんですか!?」
術台にいる彼女を除いて主治医が看護師が皆、顔に焦燥を浮かべながら何としてでも意識を保たせ命をこの世に繋ぎ止めようと奔走する。そんな様子を見た彼女はふと微笑むと再度言葉を紡ぐ。
「赤ちゃんのこと……あの人に…頼みます」
「そんなこと後で旦那さんと話し合えばいい!貴方は生きるのです!」
「自分の……体です…よ?自分がよく……理解して…います。だから…どうか」
「そんなこと聞きたくありませんよ!伏黒さん!もう喋らないで!」
言葉を紡ぐたびに機材に表示される心拍数が緩やかに下がり続ける。いよいよもって余裕のなくなった医者たちの顔に影が差し始める。
「最期に……顔を…見せてください」
「ッ、わかりました!ほら、よく見てください!貴方の産んだ命です!だから、最期なんて言わないでください!独り立ちするその日まで何百何千回と見続ける顔なんですから!」
「無事に……生まれて…よかったぁ。貴方の……名前は『恵』。あの人が……珍しく自主的に…考えた名前…だから」
大切にしてね?その一言を告げた瞬間、彼女の体から力が抜けた。目に生気が感じられなくなり。鼓動を図る機材からピーという音が鳴り響く。
この日、一つの命が生まれた。そして同時に一つの命が終わった。
◇
〜14年後〜
あれから少年は成長した。
「ギャッ」
…すくすくと成長した。
「グェェェェェ!」
……そう元気いっぱいに。
「も、もう勘弁してくださいぃぃい!」
…………死んだ母の分もしっかりと。ただし、
「全員、土下座」
割と間違った方向に。
◇
植蘭中学校。地元では割と有名な中学校であり、文武両道を謳い文句にしている中学校。しかし、近年内部での虐めや不良などの発現によって知名度が悪い意味でアップしている。一応それでも傑物高校など多少名の知れた高校に行っているものいるために未だに名門校として名のある中学として見られている。
桜の舞い散る今日この日、
「なぁ」
「ヒィッ!」
「ビビんなよ。単純にクイズをするだけだ」
「「「「「へ?」」」」」
そう言い放った少年——伏黒恵の言葉に呆気に取られる不良たち。そんな様子を尻目に話は進んでいく。
「じゃじゃん。ここで問題です。何でこうなったでしょーか?はい、そこの」
「へ?」
「数の子みてぇな髪型した最前列のお前」
「え、俺ェ!?」
土下座の状態から顔を上げて突然の質問に声を強張らせながら戸惑う金髪リーゼントという現代に中々見ないような髪型をした不良少年。そんな彼は恐る恐る顔色を伺うように発言する。
「え、えっと、俺たちが登校に待ち伏せして。攻撃したから?」
「はい、大正解」
「ぶ、ぎゃあァァァァ!」
「「「「「「よ、横山ァァァァ!!!!」」」」」
正解とともに顔面を蹴飛ばされて向かい側の壁まで飛んでいく金髪リーゼントを見てその場にいた不良は1人残らず絶叫した。
「叫ぶな、近所迷惑だろうが鬱陶しい」
「「「「「いや!今の光景見て叫ばない方が無理だと思うんですが!!??」」」」」
「叫ぶなって言ってんだろ。つーか、俺に喧嘩ふっかけた段階でお前らの自己責任だろうが。しかも、お前らは『個性』を使ってたしな」
『個性』それはこの世界のほぼ全ての人類が手にする固有の能力のことである。
ことの始まりは中国・軽慶市から発信された『発光する赤児』が生まれたというニュース。以後各地で『超常』が発見され、原因も判然としないまま時は流れる。
世界総人口の八割が何らかの特異体質である超人社会となった現在。生まれ持った超常的な力である『個性』を悪用するが増加の一途をたどる中、同じく『個性』を持つ者たちが“ヒーロー”として
そして、個性を使うにはそれなりの資格がいる。それこそ、下手な弁護士の免許を取った方が楽とも言われるほどの努力の果てに得られる資格が。これが無い状態で『個性』を使えば———正当防衛や人助けなどの場合を除き———人生の設計図にそれなりの傷がつく。ましてや、人に向かって意図的に放つなどの事をすれば問答無用で
「これに懲りたら二度と俺の前に面出すんじゃねぇよ」
「……けんな」
「あ゛?」
「ふざけんなって言ってんだぁ!!」
側に置いてあったバックを持って立ち去ろうとする伏黒に向けて茶髪の男が声を荒げて唾を飛ばしながら引き止める。その様子を見た伏黒は明らかにめんどくさそうにため息を吐くと気怠げに尋ねる。
「なんなんだよ、お前?お前らの馬鹿騒ぎに付き合わされてとっくの昔に登校時間を過ぎさせられている身としては殺意しかわかねぇよ?」
「おい!馬鹿やめろって!」
「うるせぇ、腰抜けども!舐められっぱなしで終われるわけねぇんだよ!俺は間違ってもお前らとは違うんだ!」
伏黒の態度が苛立ちを増長させたのか目を血走らせながら怒りに燃えている男は周りの静止を無視して突き進む。拳を振り上げると同時に拳が黒く染まる。どうやらこの男の『個性』は硬化系の個性らしい。直情的で真っ直ぐに向かってきた攻撃に対して伏黒は上半身だけを晒すことで回避して相手の勢いを利用したカウンターで顔面を殴り飛ばした。当たりどころが悪かったのか不良は一瞬で気絶し膝から崩れ落ちた。それを見届けた伏黒は告げる。
「他人と関わる上での最低限のルール。分かるか?」
その質問に不良達は戸惑いながらも答える。
「……分かりません」
その返答に伏黒はため息を吐きながらも解答を告げる。
「『私はあなたを殺しません。だから、私を殺さないでください』だ。"殺し"を何に置き換えてもいい。要は相手の尊厳を脅かさない線引き。互いの実在を成す過程のことをルールって言うんだ。それをまぁ、破ったことを威張り散らして腫れ物扱いされて、さぞかし居心地良かったろうな」
そう告げると今度こそ言うことを言ったと言わんばかりの態度でその場を去ろうとする伏黒。すると、不良の1人が尋ねる。
「……俺たちはお前の周りで確かに騒いだ。だけど、お前に実害が及んだ覚えが全くない」
「……」
「俺らはお前になんかしたか?」
その質問に伏黒は振り返らずに返答する。
「
そう告げると今度こそ伏黒は校門を潜り登校する。目の前に「コラー!」と言いながら叱りつけようとする校務員を見て億劫になりそうな気分を抑えてルーティンじみた1日が今日も始まりを告げた。
とりあえずここまで学校が始まって中々感覚が掴めませんが緩やかにそれでいて早めに投稿できるように頑張っていこうと思います。