入学三日目の朝。問題なく雄英に到着できた。ただ、ここに来るまで、というか現在進行形で一緒にいる拳藤に道中で「あんた……友達できたんだねぇ…」と母親面された上によよっという泣き真似までされて少し腹が立ったことを除けばいつも通り平凡な日常だ。すると、
「教師としてのオールマイトはどんな感じですか?」
1人のマスメディアが伏黒にマイクを持って声をかけてくる。いきなりの出来事に少し驚かされたが考えてみればあのオールマイトが教師となった事は日本全国を驚かせ、大きな話題となったことは今朝の新聞を読んで把握している。前の方を見ると包囲網と言わんばかりの数のカメラとアナウンサーがいた。逃げ切るのも手間だと思った伏黒は、
「時間ないんで一言だけでいいですか?」
「はい!勿論です!」
「意外と素人臭いところもありますけど、たまに経験談も交えて話してくれるんで良い先生だと思いますよ」
とだけコメントする。しかし、それが悪手であったのはカメラと共に詰め寄りながら話しかけてくるアナウンサーを見て悟る。隣を見るといつの間にか拳藤にもマイクを突きつけており、拳藤の顔は苦笑いを浮かべているが内心イラついているのが長年の付き合い故に手に取るようにわかった。
「どんな感じに!?どんな内容ですか!?」
「あの、一言だけと」
「そこを何とか!」
余りにもしつこすぎてうざったくなった伏黒は拳藤の手を握りしめて走り出す。突然手を握られた拳藤は目を白黒させていたが伏黒はそれに気づかず雄英の門を通過した。手を離して拳藤の顔を見ると少しだけボーっとしていたので顔の前で軽く手を叩いて目を覚まさせる。「うおっ」と驚きながら上体を逸らした拳藤は申し訳なさそうに笑うと礼を告げた。その後、クラスが違うため途中で別れて伏黒は教室に入室する。
「おはよう。伏黒ちゃん」
「昨日ぶりだな。友よ」
「おはよう。伏黒」
ついてすぐに先日連絡先を交換した蛙吹と常闇と障子が話しかけてきたため軽く駄弁る。すると、相澤が教室に入って来た。それぞれが席に戻り着席すると相澤は手元の資料を軽く整えた後に話し始める。
「昨日の戦闘訓練お疲れ。Vと成績見させてもらった。爆豪、お前もうガキみたいなマネするな。緑谷、個性の制御が出来ないから仕方ないじゃ通さねえぞ。俺は同じ事言うのが嫌いだ。個性の制御さえ出来ればやれる事は多い。焦れよ緑谷」
そして、爆豪の行動と緑谷の個性の制御に対して苦言を呈した。指摘された爆豪と緑谷はそれぞれ俯き、焦燥に駆られていたが少なくとも伏黒の目には諦めが一欠片とも確認することはできなかった。2人を確認した後にタフな奴らだと思いながら前を向き、相澤の話を聞く体勢を取る。
「さて、HRの本題に移ろうか。急で悪いが君たちに……」
話し始めた相澤からゴゴゴッという効果音が聞こえて来そうなほどの威圧感を感じる。また、除籍ありきの個性把握テストのようなものを行うのかとクラスメイト全員が身構えていると。
「君らには学級委員長を決めてもらう」
(((学校っぽいの来たー!)))
割と学校ぽいイベントにクラスメイトがホッとしながらも心の中で声を上げる。安心してすぐに皆が一斉に手を挙げて立候補し始めた。本来ならば普通科など通常の学科であれば集団を導く学級委員長という役職は雑務としてみなされ誰も手をあげることはない。しかし、ここはヒーロー科。集団を導くという面においてはトップヒーローとしての素質を問われることがあり、ヒーロー科の生徒からは人気が高いのだ。一人一人、というか伏黒を除く全員が自身をアピールする。一人だけ「女子全員膝上から30cm!」とかいうクソみたいなアピールをする
「静粛にしたまえ!」
皆が我も我もと立候補する中、飯田の声が轟いた。皆が一度アピールを止めるほどハッキリとした声は教室に響いた。彼曰く、やりたいからなれるのでは無く、周囲の信頼があってこその職務とのこと。故に投票式の多数決で臨むべきだと。伏黒は素直に感心した。立派だと思えた。ただし、
「その聳え立つ右手がなければもっと立派だったよ」
「伏黒の言う通りだ!何故発案した!?」
多数決を望みながら学級委員になりたいと言う意思が全く隠せていない飯田に対して伏黒を筆頭に様々なツッコミが突き刺さる。ただ内容としては割と正論だったためか相澤は早く決まれば良いと飯田の意見を採用すると寝袋に入って二度寝を実行した。マジかこの教師、と戦々恐々としつつも配られた紙に名前を書く伏黒。伏黒はこの場をまとめ上げた手腕、咄嗟に意見ができるその姿勢から飯田を選んだ。そして結果は、
「僕、三票ーーー!!?」
まさか自身が選ばれると思っていなかったのか結果を見て驚きの声をあげる緑谷が学級委員長に選ばれた。黒板に記された他の票を見ると。伏黒、麗日、轟、八百万、緑谷を除く全員が一票ずつ綺麗に入っていた。因みに伏黒、轟、麗日が0票で八百万が2票、緑谷は叫んだ通り3票だった。この結果に憤る爆豪を尻目に飯田が黒板を凝視していた。
「い、1票!?一体誰が!すまない、名も知らない誰か!君の期待には応えられなかった!」
「他に入れたのね……」
「お前もやりたがってたのに……何がしたいんだ飯田…」
八百万と砂藤が呆れた様にそう言っていたが伏黒からすると多数決って自身に入れられるのか?と疑問に思っていた。取り敢えずは委員長が緑谷、副委員長が次点で票の多かった八百万ということになった。1人を除いてこの結果に誰も文句を言わずに委員長決めは終了した。
◇
午前の普通科目の授業が終わった昼休み。伏黒は真っ先にランチラッシュの経営する食堂へと向かうとメニューの中でも比較的安い日替わり定食を注文して適当に空いている席に着く。実の所、伏黒は昼食の時間を何よりも楽しみにしている。ランチラッシュの料理はクックヒーローの名に恥ないほどの腕があり、自身が普段作る料理よりも何倍も美味かったりするのだ。今回のメニューは白米、ほうれん草の胡麻あえ、焼き鯖、味噌汁だった。少しにやけそうな衝動を抑えながら手を合わせた後に箸を手に取り食べようとした時、
「ケロ、お隣いいかしら?伏黒ちゃん」
「ならば俺は前を良いか伏黒よ」
食べようとした手を止めて独特な呼び方をする男の声と枕詞にケロとつける声のした方に目をやる。すると予想通りそこには蛙吹と常闇がそれぞれの昼食を持って現れた。因みに蛙吹は自作なのか弁当だった。
「いいぞ」
断る理由もなかったため問題ないことを告げると先程言っていた通り蛙吹は隣に常闇は真正面に座ってきた。誰かと食事するということ自体、幼馴染以外を除けば片手で数える程度しかない伏黒にとって実質誰かと食事は初体験なのだ。話の話題の振り方に難儀していると。
「そういえば伏黒ちゃん。0票だったけど誰かに投票したの?」
蛙吹が話題を振って来た。話題を振ってくれたことに内心感謝しながらも伏黒は答える。
「ああ、飯田に投票した」
「ほう。自身に投票しなかったとは……。何故だ?」
「あいつが委員長らしく思えたからだ」
「ケロ、確かに飯田ちゃんは見た目が完璧に委員長に見えるものね」
伏黒は受け取り方が少しだけ外れた蛙吹の言葉にクスリと笑いながら「そんなとこだ」と答える。すると、2人が伏黒の顔を見て軽く目を見開いていた。そんな2人に戸惑いながらも伏黒は問いかける。
「……なんだよ」
「いや、なんと言うかだな……」
「わたし思ったことなんでも言っちゃうの。だから、気を悪くさせてしまったらごめんなさいね、伏黒ちゃん」
「よっぽどな内容でもない限り気を悪くしねぇよ。なんだ言ってみろ」
「伏黒ちゃんって、そんなに優しく笑えるのね」
蛙吹の言い分に伏黒はキョトンとした顔をすると何度か顔を揉みしだく。そして、そんな様子を見た2人は軽く笑うと「変じゃなかった」とだけ告げた。少しだけ恥ずかしくなった伏黒は軽く目を逸らしながら話の内容を変えた。
「あー、お前らはなんでヒーローを目指したんだ?」
「なんで?また、急なことを聞くのね伏黒ちゃん」
「まあ、だが気になったのであれば言うが単純に憧れたからだ。そんなもんだろう?ヒーローを目指す理由なんて」
常闇は割と普遍的な世間一般が考えることをそのまま口にする。確かにその通りだ。常闇の言う通りそれが当たり前なのだろう。ここにいるほぼ全てが憧れを胸に抱き、夢へと向かっていくのだろう。
「ケロケロ、わたしはね、伏黒ちゃん。ちっちゃい頃にピンクと暗めの青色の髪の毛をした女のヒーローが活動してる姿を見て成りたいと思ったの」
「さぞ立派やヒーローなのだな」
「でもね……そのヒーローは何年も前に捕まっちゃったの……。それがとても悲しかったわ」
「ごめんなさい。少しだけ暗い話をしてしまったわ」と言いながら申し訳なさそうな顔をする蛙吹に伏黒と常闇は軽く笑って「問題ない」とだけ言った。それを見た蛙吹は安心した様にケロケロと笑う。これもまた一つの形なのだろう。誰かに助けられたから。このヒーローになりたいと願ったから。ヒーローになると思えたのだろうと。なりたいにも色々な種類があることに考えさせられていると。
「伏黒ちゃんはどうなの?」
「俺か?」
「確かに気になるな。お前の起源が、オリジンというやつが」
蛙吹は何故伏黒がヒーローになりたいと思う様になったのか聞き始めた。常闇も興味津々なのかこちらを見てそう告げた。そう聞かれて伏黒は一瞬言い淀んだが別に恥ずかしい理由でもないと思い、告げる。しかし、
「俺は……」
ウウーーー
告げようとした瞬間。突如として校内放送用のスピーカーから警報が鳴り響く。突然の出来事に伏黒や蛙吹、常闇だけで無く周りの雄英生全員がざわめく。伏黒も食事を止めて周りを見渡していると、スピーカーから避難指示が告げられた。
『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外に避難して下さい』
「セキュリティ3?すみません、先輩。どう言うことですか?」
「校舎内に誰かが侵入して来たってことだ!こんなの初めてだ!ほら君たちも早く!」
事態を把握するために近くの先輩らしき人に声をかける。するとどうやら少なくとも2年以上いる先輩方にとってもこの事態は始めてのことらしく。少しだけ周りが慌ただしくなって来ていた。すると、
「伏黒ちゃん、常闇ちゃん。侵入者ってあれのことじゃないかしら」
蛙吹の指を指した場所に常闇共々目線を向ける。するとそこには何十人ものカメラやマイクを持ったマスコミ達が雄英の敷地内に殺到していた。これを見た伏黒は顔を顰めて常闇と蛙吹は唖然としていた。
「マスゴミ共が」
「ケロ、口が悪いわよ伏黒ちゃん。それにしてもとんでもないわ……」
「ああ、全くだ。確かに朝の道中で散々質問はされたが、まさかオールマイトのことのためだけに天下の雄英に白昼堂々と乱入するとは……」
蛙吹は伏黒の乱暴な口調を諌めながらも常闇も同じように呆気に取られた様にそう呟いた。実際、今のマスコミのやっていることはヴィラン一歩手前どころか半歩入り込んでいると言ってもおかしくはなかった。食事を邪魔されて苛立ちながらも立ち上がると背後から大量の人が流れ込んできた。
「伏黒ちゃん!」
「伏黒!」
流された影響で蛙吹と常闇に置いていかれたが。
「大丈夫だ。先に行ってろ」
そう告げて伏黒も人の波に流されていった。こういう時は下手に抗わずに流れに従った方が賢い選択であることを知っているため力を抜きながら流される伏黒。途中で幼馴染に壁ドンするとかいうイベントを除けば何の問題も無く流されていった。すると出入り口の様な道が見えたため、人の隙間をすり抜ける様に縫って抜けると出入り口にたどり着いた。
「はぁ…。ここどこだ?」
近くにあった案内図を見てここが職員室に近いところであることを知った伏黒は遠回りをして自身も外に出ることを決意する。コツコツと誰もいないが故に伏黒の足音が廊下に響き渡る。騒がしい雄英に似つかない空気の中歩んでいると。職員室の戸が開く。教師かと思い、丁度いいからこのまま外に連れてって貰おうと声をかけようとする。
が、それはすぐに中断させられた。何故なら職員室から出てきた男の見た目はとてもではないがヒーローらしくなかったからだ。当然、ヴィランらしいヒーローも実在する。だが、目の前に現れたこの男は明らかに一線を画していた。雰囲気も何より見た目が異様では済まされなかった。くすんだ白い髪。そして異彩を放つ
「はぁ……なんだよ。人がいるじゃねぇかよ。人払いは完璧じゃなかったのか?その格好からして生徒か?」
「お前、誰だ。明らかにこの雄英の教師じゃないな」
「オイオイ、ヒーローの卵が見た目で判断すんのか?なってないなぁ」
「舐めんな。初日に全教師の顔を覚えた。何よりお前からは悪意しか感じねぇんだよ」
刺々しくそう告げる伏黒に目の前の男は指の間から見える目を細めながら「へぇ」と感心した様にこちらを品定めしてくる。その間伏黒はどうこの場から切り抜けるかを考えていた。今の伏黒に個性は使えない。というか使ってはいけない。理由は人に向けての許可のない個性の使用は初日の説明でされているからだ。ヒーローの卵がこれを破って仕舞えば慣れが起きて何度も使う様になることを抑えるためとのことだ。何より戦闘せずにこの場から切り抜けて経験豊富な教師を呼ぶのがよっぽど良いと判断したからだ。すると、何かを思い付いたのか目の前の男の顔が隠れているにも関わらず喜悦に歪む。
「なあ、お前今いくつだ?」
「……教える義理は無いだろうが16だ」
「そうかそうか新入生か!それはめでたいなぁ!」
「……何が言いたい」
「いやさ。ゲート壊しただけじゃあさ物足りないなぁって思ってさ。宣戦布告のためにもお前さぁ」
死んでくれよ。殺意と悪意を撒き散らしながら目の前の男、いやヴィランはそう告げる。そこいらのチンピラのぶっ殺すや爆豪のぶっ殺すという言葉が希薄に思えるほど目の前のヴィランの言葉には悪意が乗っていた。そして次の瞬間。目の前にヴィランの手が迫っていた。その動きには予備動作がほぼ無く、淀みなく殺しにくるあたり何人も殺し慣れていることが窺える。が、
「舐めんなって言ったろうが」
その攻撃がたどり着く前に伏黒は鳩尾に向けて全力の前蹴りを叩き込んで距離を取る。
「ケホッ……。お前……本当に新入生か?殺意向けられて動揺せずに対処とか手慣れすぎだろ」
「そりゃどうも。あんたこそ手抜いてくれてありがとよ。お陰で楽に避けられた」
ヴィランの言葉に対して皮肉で返すと不愉快そうに顔を歪めた。そんなヴィランを見ながら伏黒は内心冷や汗をかいていた。ヴィランの個性はおそらく増強系では無く発動系なのだろう。だというのに早過ぎた。手を抜いていたから着弾前に攻撃できたが回避は難しいことを悟る。何発かはカスることを覚悟しながら伏黒は構える。
すると、本気になったのか先程よりも数段早い速度で間合いを詰めるヴィラン。初手で指一本が頬を掠めたが特に効果は見られない。ここまで来て伏黒はヴィランの個性は麗日と同じように五指で触れなければ発動しない類の個性だと予想を立てる。その後も何度かわざと数本分の指が掠める程度には回避を遅らせて避け続ける。膠着状態が続いて内に転機が訪れる。
「ぁ」
伏黒の放ったフックが見事にヴィランの顔面に突き刺さる。顔についていた手が飛んでいく。素顔は横を向いていて完全には見えないが引っ掻き傷なのか傷があった。どういう訳か固まるヴィランの鳩尾に上体を低くして肘鉄を叩き込む。手応えはあった。が、それは掴まれて
「お父さん」
そう呟いた。そう呟いただけで伏黒は怖気が走った。目の前の男はヒーロー殺しとなんら変哲がないほどにヤバいヴィランであると。そう理解した瞬間、伏黒の行動は早かった。除籍を覚悟で個性の使用に踏み切った。手を犬の形に象る。影が揺めき始め伏黒は玉犬を呼び出そうとする。が、虚空に現れた黒いモヤの様なものを見て中断して飛び退く。
「迎えに来ましたよ、死柄木。遅いのでこちらから来ましたよ。何があったんですか?」
「黒霧。ちょっと面倒なのがさぁ。俺の邪魔をして来たんだよ」
死柄木と呼ばれた男は黒霧と呼ばれた男に対して伏黒に指を指してそう告げる。顔と思しき場所を伏黒に向けると目らしきものを細めてこちらを見て来た。
「なるほど……ヒーローの卵ですか。死柄木を相手取って生き残るとはとても有能なのですね」
「おいッ、手を貸せ黒霧。コイツ殺すぞ」
「無理です死柄木。ヒーロー達がこちらに向かっています」
「クソッ、おいお前。絶対に殺すから」
そう告げると死柄木は黒霧の中に溶け込んでいった。すると同時に黒霧は小さく萎んでいき目の前から消えた。空間転移型の個性だろうかと思い気を抜く伏黒。すると、
「おい」
すでに三日目で聴き慣れてしまった声が後ろから聞こえる。恐る恐る振り返ると伏黒の肘をとんでもない形相で見る相澤と戸惑っているプレゼントマイクがそこにはいた。
◇
ことの顛末を余すことなく全て話した。死柄木と呼ばれた男が職員室から出てきて交戦したこともその死柄木は黒霧と呼ばれた空間転移型の個性持ちに回収されたことも全て。話終わった伏黒に相澤は脳天に向けてチョップをかました。いきなりの痛みに伏黒は目を白黒させると前を見る。そこには険しい顔をしている相澤がいた。
「……なんだって戦闘した」
「……逃げることができないほどの相手だったからです」
「……なんかあったら緊急連絡するように言ったろうが」
確かにその選択肢も存在した。確かに硬直していたときは出来たかもしれない。それでも伏黒は自身の行いが間違っていることだと分かっていても取った選択肢に間違いはないと確信できていた。
「お、おい。イレイザー……。いくらなんでもよぉ。伏黒は新入生だぜ?しかもヴィランの方は雄英に侵入出来るだけの腕もあったんだ。除籍とか無しにしようぜ?なぁ……」
普段の明るい調子を消してオロオロとしながら諭してくるプレゼントマイクに軽くため息を吐くと。
「別に伏黒を除籍にするつもりはねぇよ。見た感じ逃げる余地もなかったぽいしな」
「……ならなんでダメなんですか」
「ルール上での問題なんだ。伏黒」
伏黒の言い分も正しい様に相澤の言い分も正しかった。個性を使用していなかったとはいえ、ヒーローの免許はおろか仮免まで持っていない一生徒の独断の戦闘行為など将来が危ぶまれるほどのものなのだ。故に相澤は叫びたい『もっと後先考えろ』と。それでも言えなかった。もしここで校舎内をよく知らない伏黒が誤って生徒達のいる場所に逃げ込もうものなら目も当てられない雄英史上どころか高校史上最悪の大惨事となっていた可能性もあったのだ。
相澤は深く深呼吸をする。目を閉じて落ち着かせる様にそして目の前の生徒である伏黒を見る。伏黒は最初に言っていた。「覚悟ありきでやりました。除籍されても文句は言いません」と。そしてその言葉は目を見て何一つ嘘をついていないこともわかった。もう一度、手を伏黒の頭に持っていく軽く目を細めて受け入れる伏黒と慌てて止めようとする友人に対して「大丈夫だ」と告げて伏黒の頭にそっと手を添える。
「伏黒」
「なんでしょうか」
「取り敢えず。礼を言わせてくれ。ありがとう。お前が足止めしなければ大惨事が起きてたかもしれん」
自身の言葉に目を見開く伏黒を見せた年相応の顔にそんな顔もできるのかと軽く笑うと今度は注意を促す。
「それでもお前のやったことは世間一般から見れば間違っていることだ。除籍にはしないがお前には課題を出す」
「なんですか?」
「人に頼ることを学べ、伏黒」
その言葉を聞いて伏黒は首を傾げた。相澤がこう言ったのには理由がある。伏黒には家族がいない。母親は伏黒が生まれた直後に亡くなり父親は伏黒が小一に上がる前に蒸発したと聞いている。その後も親戚にたらい回しにされ幼い段階で一人暮らしを余儀なくされた伏黒には誰かに頼るという意識が本当に少ない。これは相澤自身が小、中の教師からのデータをもとに判断したことである。
そしてこの予想は当たっている。もし、連絡できていたとしても伏黒は恐らく1人で対処していたであろう。それこそいつものように。故に相澤は注意した。もっと周りを見ろと。ここはお前のヒーローアカデミアなのだと。未だに不思議そうな顔をする伏黒にため息を吐くと、
「今日は覚悟しろよ。夜遅くまで事情聴取だ」
そう告げた。あからさまに嫌そうな顔をする
◇
伏黒はリカバリーガールに崩れた肘を治してもらった後教室に戻った。戻ると外に伏黒が見えなかったことに心配していたのか蛙吹と常闇が「大丈夫か?」と聞いて来た。その後のA組は緑谷が委員長の座を飯田に譲ったことを除けばいつも通りの授業で終わった。そして相澤の言葉通り事情聴取が行われた。と言ってもそんな仰々しいものではなく相手の個性や侵入方法などについてだった。校長や周りの教師に1時間ほど根掘り葉掘り聞かれると今日はもう帰っていいと言われた。聞かれ過ぎて疲れ切って門を潜ると。
「よ」
門のすぐそばに座っていた拳藤に声をかけられた。
「お前なにしてんだ?」
「お前を待ってたんだよ。連絡してもでないからすごい焦ったんだぞ」
そう言われて自身のスマホに目線を移す。すると、正直言って引くレベルの数のLI○Eと通話履歴が記載されていた。ええ、と言った意味合いを込めた視線を拳藤に送ると顔を赤くして弁明して来た。
「いや……普段送ったら数分程度で返ってくるのに全然返ってこなかったからつい……」
「お前……これクラスメイトにやるなよ。絶対引かれるから」
幼馴染が心配してくれたのはよくわかったが幼馴染の重さにドン引きする伏黒。取り敢えずこの場にいるのもなんだと思い拳藤と歩調を合わせて歩き始める。そして、昼頃に2人に聞いた質問を拳藤にもする。
「拳藤、お前はなんでヒーローを目指したんだ?」
「んー、内緒!」
「はぁ?」
割と真剣に聞いていたため拳藤の解答にイラッとしながら拳藤の顔を見る。夕日に照らされて赤く染まる幼馴染の顔を見てため息を吐くと少しだけ歩くスピードを上げる。それに慌てて着いてくる拳藤を見て明日はどうなるのかと軽く呟いた。
とある幼馴染の独白。
「拳藤、お前はなんでヒーローを目指したんだ?」
その言葉に私は言い淀む。思い出すは幼いあいつの顔。いつも独りぼっちで苦しそうに悲しそうにしているあいつ。
幼稚園の頃、粘りに粘った末に友人となった後の私はどうしてやればいいのかわからなかった。友人となってもあいつは何の変化もなかったからだ。だからいつも通り接した。そうすれば皆が幸せだと思ったから。転機が訪れたのは小一の頃。あいつの父親が蒸発した時のことだった。話を聞いた時はあいつが大丈夫かと話しかけに行った。結果はこうだった。
「関係ないだろ」
そう冷たく返されて終わり。はっきり言って腹が立った。助けてやろうとしたのになんて口聞くんだと。もう知らないと。それ以降、あいつと関わるのを一時期やめた。そして話すのをやめて一ヶ月ほどしてあいつを体育館裏で見つけた。何してんだと声をかけて驚いた。目を真っ赤に腫らして涙を流す伏黒の姿に。涙を流すところなんて想像できなかった。だって、私の知ってるコイツは強かった。腕っ節も個性も。だから助ける必要なんてないと勘違いしていた。それに気づいた瞬間わたしは疑問に思った。「誰がコイツを助けるのだろう」と。素直ではない、天邪鬼なコイツを。そう思った時、小さなわたしは考えて思いついた。ああ、わたしがコイツのヒーローになってやろうと。
これがわたしのヒーローとしての
思ったより長くなりました。