伏黒のヒーローアカデミア   作:アーロニーロ

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すみません遅くなりました。長くはなりましたのでどうかご容赦ください。


遭遇、そして窮地

 

 

 次の日、再びヒーロー基礎学の時間がやって来た。教壇に立った相澤が『RESCUE』と書かれたプレートを生徒に見せて説明を始める。

 

「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイト、そしてもう1人の3人体制で見る事になった。内容は災害水難なんでもござれの人命救助レスキュー訓練だ」

 

 それを聞いたクラスメイトの反応は様々だ。今回も大変そうだと呟く上鳴と芦田やそれこそヒーローの本業だと気合を入れる切島、水中なら自身の独壇場だと言う蛙吹。いずれも浮き足立つクラスメイトに相澤は話の途中だと一睨みして鎮めると、コスチュームの着用は各自で判断して訓練場まではバスで移動すると言い放ち、すぐに準備を始めろと生徒たちに告げた。

 

 あの後伏黒は帰り道に襲撃される様な特殊なイベントもなく、いつも通りの生活を過ごして今に至る。昨日の相澤の発言通りどうやらスケジュールを変更することはないらしい。伏黒は渡されたコスチュームを片手に前回侵入して来たヴィランに対して思考を巡らせた。クラスメイト全員が制服からコスチュームに着替える。緑谷は前回の戦闘訓練でコスチュームが壊れてしまったため、体操服を着ていた。それを見た伏黒はそのままバスの下へ向かう。

 

「バスの席順でスムーズにいくよう番号順に二列で並ぼう!」

 

 準備を済ませてバスが待機している場所へ行くと、飯田がキビキビとした動きでクラスメイトを並ばせていた。だが、乗り込んでみると。

 

「こういうタイプだった、くそう!!!」

 

「意味なかったなー」

 

 バスの席は対面型で飯田の予想していた席とは違っていた。それを見た飯田はあからさまに悔しがり、その隣に座っていた芦戸は慰めなのかダメ出しなのかよくわからない言葉をかける。クラスメイト全員が着席したことを確認するとバスが動き出した。バスが目的地に到達するまでの間、バス内で雑談が始まった。

 

「私、思ったことをなんでも言っちゃうの緑谷ちゃん」

 

「あ!?ハイ!蛙吹さん!」

 

「梅雨ちゃんと呼んで。あなたの個性、オールマイトに似ている」

 

「えっ!?そうかな?僕はえっと、その……」

 

 蛙吹の指摘にあからさまに動揺しながら否定する緑谷。それを聞いた伏黒は確かに似ていると思えた。それと同時にある種の疑問が浮かんだ。仮に緑谷の個性がオールマイトの様なゴリッゴリの増強系だとするならば扱いが下手くそすぎるからだ。まるで個性が最近発現したかのように(・・・・・・・・・・・・・・)。個性の発現したては個性の力は弱く体の成長、または純粋な鍛錬に合わせて成長していくものだ。故に危険だから使えなかったとは、なり難い。それにあのいじめられっ子の様な緑谷が隠せる度量も意味も無いとしか思えない。それに爆豪の個性把握テストでの物言い。気になり多少不躾だが聞いてみようとすると。

 

「待てよ梅雨ちゃん。オールマイトは怪我しねえぞ。似て非なる個性だぜ」

 

「はぁ……」

 

 切島が蛙吹の指摘を否定する。ホッとする緑谷を尻目に伏黒は話しかけるタイミングを見失った。そんな2人を尻目に切島は腕を硬化させながら続けた。

 

「しっかし、増強型のシンプルな個性はいいな。派手で出来ることが多い!俺の硬化は対人じゃ強ぇけどいかんせん地味なんだよなぁ」

 

「僕はすごいかっこいいと思うよ!プロにも十分通用する個性だよ」

 

 少し自虐気味に自身の個性を説明する切島を緑谷は目を輝かせながら否定する。緑谷の言葉に「お!そうか!?」と少し喜んでいる様に見える切島を皮切りにそれぞれが個性の話に移行する。

 

「プロな~。しかしやっぱヒーローも人気商売みてぇなところあるぜ?」

 

「派手で強いって言ったらやっぱり轟と爆豪。多彩さで言ったら伏黒だよねー」

 

 派手で強いと言われた爆豪は「ケッ」とだけ答えて、轟に関しては無反応だった。多彩と言われた伏黒も「多彩っつっても課題が多いの間違いだからな?」とだけ答えた。すると、その言葉に爆豪が反応する。

 

「ただの器用貧乏野郎だろうが」

 

「伏黒ちゃんはともかく爆豪ちゃんキレてばっかで人気でなさそう」

 

「んだとコラ!出すわ!」

 

「ホラ」

 

 爆豪の言葉を聞いた蛙吹が人気でなさそうと言う。爆豪はキレながら否定するが返す言葉すらキレているあたり説得力が皆無だった。そんな様子を見ながら伏黒は何度か頷くと口を開く。

 

「会って間もないうえに会話も片手で数える程度しかないねぇのに、既に性格が肥溜めみてぇな奴って認定されてる辺りヤベェなお前」

 

「影野郎!なんだテメェのボキャブラリーはコラ!ぶっ殺すぞ!」

 

 伏黒の言葉に全力で噛み付く爆豪。伏黒の言葉に何名かが「確かに」と頷くと今度は周りに睨みを効かせていた。そんな様子を見た緑谷はどういう訳か戦々恐々としていた。すると、流石に騒ぎすぎたのか寝ていたはずの相澤が低い声で注意するようになった。大きなドーム状の建物の前でバスが止まる。相澤に引率されて中に入る。それと同時に前もって相澤に言われた通り伏黒は玉犬を影から呼び出す。何故出したのかと言う問いに対して相澤自身が出す様指示したと相澤本人の口から告げられた。皆が疑問に思いながらもそこにはテーマパークを思わせるほどの広さと様々な施設が存在していた。

 

「水難事故、土砂災害、火事、etc.……あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です。その名も、ウソの災害や事故ルーム(USJ)!」

 

 著作権的な意味合いで心配になるネーミングセンスに伏黒はやりたい放題だな、と内心苦笑いを浮かべる。この施設の名前を言いながら現れたのは雄英教師であるスペースヒーロー「13号」。宇宙服に似たコスチュームを着ていて素顔は見えないが、災害救助の場でめざましい活躍をしていることで有名で紳士的なヒーローとしても人気が高い人物である。

 

「わー!私好きなの13号!」

 

 ファンだったのか歓声をあげる麗日を筆頭に13号を見たクラスメイト達は大いに盛り上がった。13号が静かにする様なポーズを取ると同時に委員長の飯田が鎮まるよう皆に告げると鎮まりかえる。静かになっことを確認した13号は説明を開始した。

 

「えー、訓練を始める前に、お小言を一つ二つ…三つ……四つ……」

 

 13号の増えていく小言の数に困惑しつつも生徒たちは彼の話に耳を傾ける。13号の個性はブラックホール。瓦礫だろうが光だろうがなんでもかんでも吸い込みチリにしてしまう個性。そして、その個性で災害から人を救い上げている。

 

 だが、それは同時に簡単に人を殺せる力でもあると彼は言う。実際、13号の言う通りだった。伏黒の玉犬も爆豪の爆破も緑谷の超パワーもやろうとも思えば簡単に人を殺せるのだ。故にそれを自覚させるために先に行われた相澤の個性把握テストで自身の秘められた能力を知り、オールマイトの授業で人に向ける危険性を知らしめさせた。そしてこの授業ではその(個性)を人命のために使っていくことを覚えて欲しいと締めくくり13号は話を終えた。伏黒は今までのイロモノとは違い、手放しに尊敬できる教師の到来に「おぉ……」と言いながら拍手を送る。伏黒だけでなく周りの生徒達も。

 

「素敵ー!」

 

「ブラボーブラボー!」

 

 など喝采や拍手をもって13号の演説を誉めた堪える。

 

「そんじゃあ、『ガウ!ガウガウガウガウッ!!ガルルルルルルッッ!!』

 

 13号の演説が終わり相澤がクラスメイト達を牽引しようとした瞬間、玉犬が二匹とも相澤の後ろ目掛けて牙を剥いて吠え始めた。突然の出来事と玉犬の代わり様に目を白黒させるクラスメイト達。吠える玉犬を見た爆豪は伏黒に食ってかかった。

 

「おい、影野郎!自分の飼い犬くらい「先生来ました」無視すんなゴラァァ!!」

 

 食ってかった爆豪を完全にスルーした伏黒にさらに爆豪の形相がさらに悪化した。しかし、伏黒はそれも無視して相澤の言葉を待つ。振り返る相澤の視線の先には広場の噴水の前に黒いモヤが漂っていた。見えた何人かが首を傾げるが伏黒は見覚えがあった。

 

「伏黒。あいつか?」

 

「はい。間違いないです」

 

「ったく。昨日の今日で来るとはな……」

 

 相澤が憤ると同時に数十cmほどの黒いモヤが数m以上に拡大する。すると人が1人現れる。悪意をその目に宿した1人の人間(昨日のヴィラン)が。それを確認した瞬間、相澤は叫んだ。

 

「一固まりになって動くな!13号、生徒を守れ!」

 

 急激に増大した黒いモヤからは手だらけの男を筆頭に脳みそを剥き出しにした大男など悪趣味な格好をした人間が次々に姿を見せる。突然の出来事にまたいきなり始まってるパターンの授業かと何名の生徒達は疑う。しかし、その空気を引き締めるかの様に相澤は再度叫ぶ。

 

「動くな!あれは……敵だ!」

 

 その言葉を聞いた伏黒は皮肉だと思わされた。命を救うという訓練を受けられる授業に現れたプロ達が相対し、向き合い続けている途方もない悪意を見てそう思わざるを得なかった。

 

「ヴィランンン!?馬鹿だろ!?ヒーローの学校に入り込むとかアホすぎんだろ!」

 

「上鳴。馬鹿なのは大いに認めるがここまで頭数揃えて白昼堂々と侵入できるあたりアホじゃねぇよ」

 

「伏黒の言う通りだ。しかも、確かこの施設にはセンサーもあるって話だ。これは何らかの目的があって用意周到に画策された奇襲だ」

 

 絶叫する上鳴に対して伏黒と轟が冷静に判断してつっこむ。思っていた以上に考えて侵入してくるヴィランを見て周りの空気がひりつく。すると相澤は生徒と13号に向けて的確な指示を飛ばす。

 

「13号、避難開始。学校に電話試せ。センサーの対策も頭にある敵なんだ、電波系のヤツが妨害している可能性がある。上鳴!お前も個性で連絡試せ」

 

「ッス!」

 

「先生。真ん中の脳みそ剥き出しのヴィランに気をつけてください。玉犬の毛が逆立ってます。こんなの見たことがない」

 

「分かった。お前は下がってろ伏黒」

 

 指示を出された上鳴は手からバチバチと放電して連絡できないかをためし始める。行こうとする相澤に真ん中のヴィランの危険性を伏黒が説くと相澤は礼を言ってゴーグルを着けて首元に巻いている捕縛武器を構えることで戦闘準備を開始する。

 

「先生は!?1人で戦うんですか!?」

 

 臨戦態勢をとっている相澤にヒーローに関して人一倍詳しい緑谷は個性などから相澤が集団戦に向かないことも知っていた。故に引き留めようとする。すると、

 

「ヒーローは一芸だけでは務まらん」

 

 そう言いながら相澤はヴィランの群れへと跳躍して突っ込んだ。撃ち落とそうとするも個性が発動しないことに困惑するヴィランに対して相澤は体術と縛術を一方的な戦闘を開始した。

 

「すごい……!相澤先生は多対一こそが専門だったのか…」

 

「言ってる場合か!早く逃げるぞ!」

 

 伏黒は冷静に分析している緑谷の胸ぐらを掴むと引きずる様にその場から遠ざける。目の前に出入り口の門が届く寸前で。

 

「させませんよ」

 

 黒いモヤの様なヴィランが行手を阻んだ。突然目の前に現れたヴィランに対してクラスメイト達は咄嗟に距離を取った。すると目の前の黒いモヤは紳士的にそれでいて丁寧に自己紹介を開始した。

 

「初めまして。我々はヴィラン連合。僭越ながらこの度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは平和の象徴、オールマイトに息絶えて頂きたいと思っての事でして」

 

 そのヴィランの言葉に生徒の多くが息を呑んだ。当たり前だ。オールマイトをあの平和の象徴を殺すと目の前のヴィランは言ったのだ。絶対的なパワーと親しみ深いキャラクターによって、長年不動のNo.1の座に君臨し続け、存在そのものが犯罪の抑止力足り得ている伝説的ヒーローを。

 

「殺すって。殺す算段でもあんのか?あの筋肉ダルマを」

 

 ヴィランに話しかける伏黒に対して13号を筆頭に一部を除いたクラスメイトはギョッとする。伏黒は13号に軽く目配せをすると察してくれたのか軽く頷く。すると、顔と思しき場所を動かしてヴィランはこちらを見ると目を細める。

 

「あなたは昨日の……。優秀だと思ってはいましたが、ヒーロー科でしたか。なるほど納得です。……取り敢えずあなたの問いに対して言えるのはYESとだけですよ」

 

 ヴィランが肯定の意を示すと周りがざわめく。薄々察していたものもいただろう。しかし、それ程の戦力で襲撃しに来ているというのにここにはオールマイトが居ないという事実が生徒たちに重くのしかかっていた。その様子を見た伏黒は軽く笑うと再度13号に向けて目配せを行う。すると13号のコスチュームの指先が開く。それを見た伏黒はちゃんと相手が自身の意を汲んでくれたことに安堵する。気体相手でも吸い込めば勝ちが確定するか身動きの封じれる不意打ちが決まる。次の瞬間、爆豪と切島がモヤヴィランに向けて強襲をかました。

 

「その前に俺たちにやられる算段は考えて「切島、爆豪!そこどけ!13号先生の射線上だ!」……へ?」

 

「危ない危ない。それにしても、なるほど……。情報を吐き出させるために話しかけているのかと思いましたが。その実、自身に注意を向けることで13号に不意打ちし易くさせるためとは……。どうやら貴方は卵は卵でも金の卵らしい……」

 

 爆破と打撃によって散っていったモヤ状の身体を再構築するヴィランに自身の考えた策がバレたことに苦虫を噛み潰したような顔をする伏黒。せめて弱点はないかと玉犬を呼び寄せて弱点を探る伏黒。すると、

 

「散らして、嬲り、殺す」

 

 モヤヴィランの体から黒いモヤがクラスメイト達を包み込む様に溢れだす。包み込まれる寸前で匂いが強い部分を探り当てた玉犬が伏黒に場所を伝える。理解した伏黒は遠目の場所にいる麗日に「胴体、首元」とだけ告げると伏黒の視界は完全にモヤに包まれると気づけば岩場にいた。咄嗟に着地すると周りから3回ほどドサという音が聞こえる。構えるとそこには八百万と上鳴、耳たぶがプラグで出来ている耳郎がいた。飛ばされた人員の関連性に疑問を覚えていると。

 

「お!来た来た!死柄木さんの言ってた餓鬼どもだ!」

 

「可哀想だなぁ、哀れだなぁ」

 

「男の方も片方は軽薄でなよっちそうだなぁ。もう片方は……ハハ、イケメンかよ。殺そ」

 

「待て待て、女は殺すなよ?後で輪姦すんだから。発育いいなぁ、オイ」

 

 岩場のゾーンで待ち構えていたヴィランはニヤニヤとしながら口々に囃し立てる。その言葉を聞いた3人が顔を顰めている間、伏黒は人数を数えていた。そして数え終わると玉犬を呼び出し臨戦態勢を整える。すると、

 

「ピャアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 

 ガチの絶叫が岩場のゾーンに響き渡る。ギョッとしながら目線を悲鳴の上がった方に向ける。そこには数の子のような髪型をした男がいた。伏黒は身に覚えのある髪型に気がつくと目を細めて絶対零度の如き視線を送る。

 

「ふ、ふふふ、伏黒さぁん!?」

 

「お前、なんでここにいる?」

 

「いや、あの」

 

「まあ、いい…そこで馬鹿みたいに突っ立ってろ」

 

「ヒイィィィィィィィィィィ!!」

 

 怯えまくるヴィランに相手側も味方側も揃って困惑する中、伏黒は数の子頭とつるんでる段階で戦力の平均がその程度しかないことを悟る。それを理解した伏黒は後ろを振り向くと指示を出す。

 

「八百万、縛るもん出せ。耳郎と上鳴は索敵兼撃ち漏らしの迎撃を頼む」

 

「ふ、伏黒は?」

 

「コイツらは俺1人で充分」

 

 指を鳴らしながらそう告げると一瞬だけ場が静まり返る。次の瞬間、敵側から爆笑が巻き上がる。味方からも「無茶だ」などと声が聞こえてくる。

 

「イ、イキリすぎだろぉ!?優等生さんよぉ!どのタイミングでお仲間に泣きつくか」

 

 楽しみだ。そう言い切ろうとしたのか誰にもわからない。なぜならそう言い切る前に伏黒の拳がヴィランもどきのチンピラの顔面に突き刺さったから。そのままヴィランを地面に叩きつけて拳を引き抜く。ヴィランは気絶し、鼻が凹んでいるのを敵側は確認できた。場が再度静まり返る。それを見た伏黒は首を傾げながらヴィランに告げる。

 

「来ないのか?」

 

 そう言った瞬間、怒鳴り声が辺り一面に響き渡る。若干一名を除いて顔を真っ赤に染めたヴィラン達は伏黒目掛けて殺到した。

 

 

〜10分後〜

 

「ガァッ!ま、待ってくれ…も、もう俺は戦えない……ゲェ!」

 

 命乞いをするヴィランの鳩尾に拳を打ち込み、前屈みになったタイミングで延髄に目掛けて肘打ちを叩き込む。

 

「やってられるか、チクショウ!大体、計画と違ぇぞ!何やってんだ、あの黒霧って野郎は!?」

 

 逃げようとするヴィラン目掛けて玉犬を飛ばして捕らえるよう命じる。玉犬達は命じられるがままヴィランの足に噛み付いて倒す。仰向けになり痛みに叫ぶヴィランの顔目掛けて数回踏み付けを決めて気絶させる。

 

「取り敢えずはこれでラストっぽいな……」

 

 踏みつけたヴィランの顔面から足を退けて八百万と上鳴、耳郎の元へと向かう。3人の反応はさまざまで八百万は気絶したヴィランを伏黒の指示通り縛り上げる。上鳴は「無双ゲーかよ……」と呆然とした様子でつぶやく。耳郎は軽く引いていた。伏黒が耳郎の元へと着くと質問した。

 

「他に敵はいるか?」

 

「え?あーっと多分」

 

「地面とかは確認したか?」

 

「じ、地面?」

 

 伏黒の言葉を聞いて耳郎は耳たぶのプラグを地面に突き刺す。すると、目を見開いて右側を指さして叫ぶ。

 

「あそこ!ヴィランがいる!」

 

「チィッ!」

 

 耳郎が叫ぶと同時に地面の中から1人のヴィランが飛び出してきた。動きなどからすぐに先程までのチンピラのような輩とは違うことがわからされた。ヴィランは手から電気を迸らせると人質にするためかチンピラを縛っている八百万の元へと向かう。接近に近づいた八百万が体から何かを作製しようとした瞬間、巨大な蛇がヴィランを咥えて地面に叩きつけた。

 

「ガァッッ!?」

 

「《大蛇》。そのまま絞め落とせ」

 

 伏黒がそう言うと大蛇はヴィランに巻きつく。あまりの大きさにヴィランの姿が見えなくなる。何度かバチバチと音が響くが大蛇は意に返さずに締め続ける。10秒もしないうちに音が止むと大蛇は締め付けを解除してその場から消える。首を耳郎に向けると耳郎は首を横に振った。人数を数えて撃ち漏らしがないことを確認すると伏黒はフゥと軽く息を吐いて突っ立っている数の子頭の元へと向かう。

 

「よぉ」

 

「お、お久しぶりです。伏黒さぁん!?」

 

 伏黒は自身の名前を言おうとする数の子頭の腹に拳を叩き込む。そして終わったことを報告しにきた八百万に対して伏黒は目の前で悶え苦しむ男も縛るよう指示を出す。縛り終わる頃には息を整え終えた男と目線を合わせる。

 

「俺が知りたいことわかるよな?」

 

「も、もちろんですよぉ、伏黒さん。えっと、首魁が手だらけ男で「そこは知ってんだよ。知りたいのは切り札」……あの黒い脳みそ剥き出しの奴が対オールマイト兵器だそうです」

 

 ボスが誰なのかを言おうとする男に対して伏黒は知ってると一蹴し、切り札がなんなのかを聞き出す。すると、予想通りの回答が飛び出してきた。他に知ってることはないかと聞くと涙目になりながら首を縦に振るう。それを見た伏黒はため息を吐くと立ち上がり3人の元へと足を運び3人がそれぞれ伏黒に感想を告げる。

 

「お疲れさん、伏黒。いやぁ、チートすぎんだろぉ、お前……」

 

「それに関しては同感。途中で他のヴィラン達逃げてたもん」

 

「あれは壮絶でしたわね……。まさか本当に縛るだけで終わるとは……。念のためいくつか作ろうとしていた準備は無駄になりましたわね」

 

 半ば呆れが混じった目線でこちらを見てくる味方に気まずそうに目線を逸らすと話題を切り替える。

 

「それで?この後どうする?」

 

「とにかく皆と合流する事が先決だよね」

 

 伏黒の質問に耳郎は合流すべきだと提案した。伏黒もその提案には賛成だったため耳郎の提案に賛成する。八百万も賛成だったようで耳郎の提案にさらに付け加えた。

 

「ですが、私たちはUSJのどこに飛ばされたのかわかりません。ヴィランとの遭遇を極力避けながら出入り口を見つけましょう」

 

「OK!了解!」

 

 八百万の考えに上鳴はテンション高めにそう答える。全員の意見が満場一致で決まりその場から去ろうとする。すると、

 

「ちょっと待ってくれ!」

 

 後ろから声をかけられる。声の主は先程縛った数の子の頭だった。何事かと振り返ると焦ったように喋り始めた。

 

「思い出した!一体だけ黒モヤと手野郎と脳みそ野郎以外にヤベェ奴がいるんだ!気をつけてくれ!」

 

「ヤベェ奴?」

 

「ああ!なんつーか。虫みてぇな奴だった!手野郎の奴がよぉ使役してるっぽくて。逆らってきた同胞をそいつに殺させてた!」

 

 虫みたいな奴と言われて一瞬、異形型の個性が頭にパッと浮かんだが、使役という単語を聞いて脳みそヴィランのような奴を頭に浮かべる。伏黒は礼に近づいてチョークスリーパーを決めて絞め落とすとドン引きする3人と共に出入り口を発見すべく歩き始めた。

 

 

「いやー!伏黒、マジでチートだわ!中距離は影の動物で対応して近距離なら近接戦でボコすとか!」

 

「確かに隙が全然なかったもん。手助けしようとしても邪魔になるってすぐにわからされたなぁ、あれ……」

 

「お二人とも緊張感をお持ちになってください。ですが、確かに戦闘面では伏黒さんは頼りになりますわ。この調子で伏黒さん中心で陣形を組むのもありですわね」

 

 玉犬を伏黒の前に1匹、3人の後ろに1匹と展開しながら歩き続ける。戦闘が終わった後からか4人の空気は少しだけ緩んでいた。実際、伏黒もだいぶ気を緩めていた。オールマイトを殺すと言われた時は流石に警戒したが蓋を開ければチンピラの集まり。まともなのは最後の電気個性くらいだったからだ。

 

「伏黒さん、次は私達も参加させていただきますわ」

 

「あーうちも同じく。流石にあんたに頼りっぱなしわ」

 

「ヒーローとして……なぁ?」

 

 3人の言い分を聞いて思ったのはやはり皆はヒーローの卵なのだという感想だった。誰一人として楽をしようなどと思わずに負担を少しでも減らそうとする姿勢に少しだけ感心して礼を言おうと振り返る。

 

「は?」

 

 口から出た言葉は疑問だった。信じられなかった、あり得なかった。だって八百万、耳郎、上鳴のすぐ後ろに6つの目を持ち下半身を蛹のような膜で覆われた虫の幼虫と人を混ぜたかのような異形がそこにはいたから。3人は伏黒の反応に疑問に思ったのか顔を顰める。

 

「あー、別にお前の実力を疑ってるわけじゃあねぇよ?」

 

 上鳴が先ほどから何かを喋っているが何一つ言葉が頭に入ってこない。玉犬はどうしたと視界を巡らせる。危機が迫ったり悪意があれば反応するはずの玉犬を探す。するとそこには首がもがれた玉犬の死体が転がっていた。目を見開く、それと同時に異形は手を振り上げると手にエネルギーらしきものを収束させる。

 

 それを見た伏黒の行動は迅速だった。鵺を呼び出し八百万の服を掴ませて手前に引き寄せる、残った玉犬が耳郎の服に噛み付いて引き寄せる、上鳴は引き寄せては遅いと判断した伏黒が殴り飛ばすように突き飛ばした。そして、異形の手が振り下ろされた。瞬間、何かがくるくると宙を舞う。

 

「ちょっ」

 

「きゃっ!」

 

「痛ってぇ!何すんだよ伏ぐ…ろ……」

 

 引き寄せられた二人は軽く叫んだ。突き飛ばされた上鳴は文句を言うべく顔を上げて口を止めた。そして自身の股の間に滴る血に(・・・・・・・・・・・)「ウッ」と軽く慄いた。伏黒は顔を顰める。手首から先のない感覚に、焼けた鉄を押し付けられたかのような激痛に、ボタボタと止めどなく溢れ出る血液に。

 

 ベチャ。何かが落ちる音がした。水気のある音のする方に目線を向ける。そこには伏黒の消失したはずの手首から先があった。皆の目が見開かれる。それを見た異形は手を広げてケタケタと笑う。無邪気に楽しそうに子供のように3人の様を嗤う。

 

 伏黒達は勘違いしていた。自身の"力"が今の今まで通用していたのだと錯覚していた。敵、プロの世界。それら全てを何も見えてはいなかったのだと。


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