伏黒のヒーローアカデミア   作:アーロニーロ

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今更ですが、バーが真っ赤に染まってることに喜びを隠せない作者です。どうぞこれからもよろしくお願いします。


窮地、そして呪い

 自身の手が落ちていく。それを見た伏黒は痛みに蹲るわけでも叫ぶわけでもなく。この場から離れられる最善の策を考えていた。

 

キンッ

 

 地面に何かが落ちる音がする。次の瞬間、あたりに光が溢れる。異形は咄嗟に目を瞑る。しばらくして目を開けるとそこには大量の血痕しか残っていなかった。それを見た異形はニチャっと嗤うと獲物を再度探し始めた。

 

 

「ぐうぅぅぅぅっっ!!」

 

 伏黒は閃光弾の炸裂と同時に八百万や耳郎、上鳴を引きずりながら岩陰に隠れ大蛇の能力を使用する。脱け殻でカモフラージュして感知されずに隠れられる便利なシェルターを作った後に今更思い出すかのように主張してきた傷の痛みに悶えた。視界が痛みのあまりチカチカと光るそんな錯覚を覚えながらも個性を解除しないように必死に歯を食いしばる。片手を切り飛ばされて自身の戦闘能力のほぼ全てが削られた。もしこれで個性を解除すれば大蛇を除いた全ての影を使用不可能になるからだ。

 

「伏黒!大丈夫かよ!?」

 

「大……丈夫に、見えるかよッ!八百万!包帯と縛るもんくれ!」

 

「作り終わりましたわ!」

 

 心配する上鳴に対して痛みに耐えながらそう答えると、渡されたワイヤーで切断面の周りを縛り、傷口を包帯やガーゼなどで圧迫して固定した。床に転がっていたはずの手はいつのまにか氷が敷き詰められた袋の中に入れられていた。荒くなった息を深呼吸することで息を整える。

 

「悪りぃ。誰でもいいから外の状況確認してくれねぇか?」

 

「わ、わかった!」

 

 大蛇の皮をそっと捲り上げた耳郎は外の状況を確認した。外の奥の岩肌へと行くのを見る。それを報告しようとした瞬間、顔がこちらに向いたことも確認した。それを耳郎は完全に見届ける前に慌てて入り直す。

 

「ごめん。バレたかも」

 

 青い顔をしながらそう告げる耳郎を見て伏黒は顔を上にあげて天を仰ぐ。その様子を見た耳郎は「ごめん」と再度謝るが伏黒は大丈夫だと告げて外に出ようとして告げる。

 

「俺が足止めしてやる。お前らその間に逃げろ」

 

「「「は?」」」

 

 伏黒の口から出た言葉を聞いた3人は一瞬理解できないとでも言いたそうな顔をした。しかし、それも一瞬のこと。すぐに顔色を変えて伏黒の服の裾を掴んで止めようとする。

 

「何を、言ってますの?」

 

「おいおい……。冗談にしてもつまんねぇぞ?伏黒」

 

「う、うちの所為ならいくらでも謝るから!だから全員で逃げよう?それに場所がわかんないからどうしようも「出口なら鵺に見つけさせてある。鵺の案内に従えばお前らだけでも逃げられる」で、でも!」

 

 伏黒の言葉に全力で反対する3人。そんな3人に出入り口の発見は鵺が達成していてそれに着いていけば逃げることが出来ると説明する。しかし、それでも3人は伏黒の服を離さなかった。寧ろ力を強めて決して離さないようにしていた。それを見た伏黒はさらに決意を深めた。ああ、なんて優しい連中なのだろうと。この3人は生き残るべきだ。この3人は報われるべきだ。

 

報われるべき3人を逃さねばならない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 と。だからこそ考えた。思考を巡らせた。この3人の手を振り解くにはどうするべきか。そして思いつく。一瞬、煩悶するが伏黒は口を開いて告げる。

 

「そんな震えた手足でか?」

 

「ッ」

 

「それ……は…」

 

「前の戦闘でも役に立たなかったお前らがあのバケモンと戦う?冗談だろ?」

 

 3人の顔と全身を見ながら伏黒はつまらなさそうにそう呟く。事実、3人の顔色は青く体は震えていた。当たり前だ、ついこの間まで中学生だった彼、彼女らは伏黒のように喧嘩をしたこともヴィランと遭遇して死にかけたこともないのだ。クラスメイトの左手が飛び滴り落ちる大量の血液を見れば誰でも怖がる。寧ろ怖がって当然なのだ。3人の力が緩まるのが感じる。後もう一押しだと理解した伏黒はそのまま言葉を続ける。

 

「逃げて、そして連れてこい。援軍を」

 

「!」

 

「轟でも爆豪でも緑谷でもいい。高火力のやつを。言い方が悪かった。悪いな、今から言い換える。助けてくれ」

 

 振り返り3人にそう告げる。3人は苦虫を噛み潰したような表情をすると今度こそ伏黒の服の裾を離す。伏黒は3人を騙すような結果となった事実に申し訳なさを覚え、3人の恐怖心に漬け込んで誘導する様はヴィランみたいだと自嘲する。そのまま脱皮の殻の外に出て異形のヴィランを探す。するとソイツは10秒ほどで見つかった。退屈してたのか表情に何も浮かべていなかった異形は伏黒を見つけるとまるでおもちゃを見つけたかのように口が裂けそうなほどの笑みを浮かべた。そんな笑みに対して伏黒も苦笑いするようにして答えると互いに拳を握りしめ戦闘が始まった。

 

 

 抜け殻がボロボロと崩れていく。それと同時に3人の目の前に巨大な怪鳥が舞い降りる。伏黒は言っていた。この怪鳥についていけば自身達は逃げることが出来ると。そうすれば無事でいられると。そして助けを呼んでほしいと。しかし、3人は気づいていた。伏黒の言葉が詭弁であることを。だからこそ3人は前を向いた。

 

「逃げる?」

 

あいつ(伏黒)を置いて?」

 

「そんなもの……」

 

「「「こっちから願い下げだ(です)!!」」」

 

 目に心意の炎を灯して。伏黒の言葉は確かに3人の心に響いた。しかし、伏黒は忘れていた。雄英にいる皆が本気でヒーローを目指しているという事実に。そう易々と折れない連中であるという事実に。

 

「皆さん!作戦がありますわ!」

 

「なんだ言ってみろ!」

 

「何をすりゃあいいの!?」

 

「先程の言葉とは矛盾しますが。今の伏黒さんには囮になってもらいますわ」

 

 

 剛速の拳が自身顔目掛けて迫ってくる。それを伏黒は最小限の動きで回避するも少しだけ、かする。かすめた拳が伏黒の頬の皮をうっすらと剥がす。カウンターの要領で相手の勢いを利用した伏黒の拳が異形の顔に直撃する。しかし、「アハ♪」と軽く嗤うだけで異形はさらに攻撃を続けた。それを見た伏黒は攻撃を回避しながら顔を顰めた。

 

 ずっとこれだった。何十回も攻撃を叩き込んでも未だに目の前の怪物の余裕を崩せない。当然ダメージを与えられないと言うわけではない。隙を見て玉犬の牙は浅くはあれども通ってはいる。それは周りに散らばった血痕が証拠として残っている。が、それを一笑にふすようにズチュという音共に肉体が再生していく。普段拳藤と組手をしていたため直撃は避けられているが速度だけはバカにできない拳が伏黒の体にかする度に血が出てくる。このままでは自身のほうが先に倒れることを察した伏黒はどう打開すべきか考える。すると、

 

「あ?なんの真似だ?」

 

 異形がいきなり距離をとった。なんの真似かと相手の挙動に警戒をしていると異形が下半身に手を伸ばし蛹の殻のような部分を掴む。そして、ビリッビリッという音を立てながら引きちぎる。

 

「動きやすくなりました、ってか?」

 

 いくら殴っても玉犬が噛みついても一向に効いた気配を感じられない。でも、今はそれでもいい。3人を出来るだけ遠くに流すためにもーー

 

 ヴンッ

 

 そこまで考えた瞬間、伏黒の体全体に凄まじい勢いで何かがぶつかった。あまりの勢いに伏黒の体は宙を舞い、岩山の頂上部に叩きつけられた。

 

「あっ……がっ………。んだ…今のッ…」

 

 咄嗟に受け身をとったが、あまりの衝撃に一瞬だけ息が出来なくなる伏黒。まるで壁が高速でぶつかってきたかのような衝撃に頭がぐらつきながらも顔を上げると目の前に黄色いオーラらしきものを両手の拳に纏わせて振り被るヴィランがいた。それに気づいた伏黒は咄嗟に腕で顔を庇う。しかし、攻撃の威力を軽く軽減できた程度にしかならずガードを貫き顔に直撃する。ヴィランの一撃は岩山諸共伏黒をぶち抜く。

 

 あまりの衝撃に一瞬意識が飛びかけ目が白目を剥くもすぐに立て直す。体をググッと小さくして体に黄色い光を溜めているヴィランがいた。次の瞬間、バッと両手を広げたヴィランの体から黄色いドーム状のエネルギーが放たれる。

 

「〜〜ッ!防御しろぉ!《大蛇ィィィ》!!

 

 右手で不意打ちのために取っておいた大蛇が影から現れる。伏黒を守るように伏黒の体に巻きつくのと同時に大蛇の体越しから感じられるほどの熱量が伏黒に襲いかかった。

 

「ぐ……ゔぅ……ゔゔゔゔ!!」

 

 ジリジリ、じゅうじゅう、ボロボロと大蛇の体の隙間から吹き込むエネルギーが伏黒の肌を焼く。痛い痛い痛い辛い辛い辛い!!何だって俺はこんなことを俺はしている!今までみたいに妥協して生きてけばいいのに!そうすればこんな痛い目を見ないで済んだかもしれないのに!逃げたい!逃げたい!死にたくない!アイツらを庇わなければこうはならなかったんじゃないか!?頭に後悔がよぎり続ける。逃げたくなる気持ちが浮かぶたびに言葉が浮かぶ。

 

『報われるべき人を助けろ』

 

 浮かんで歯を食いしばる。唯一自身が見つけた自身だけの『本物』を掴んで離さないように「考えるな!」と一言叫んで体を襲う熱量に抗う。熱源が収まると同時に大蛇が防御を解除する。大蛇の全身は強い熱を浴びたためか焼け爛れたようにボロボロだった。大蛇は傷を無視して異形のヴィランに顎門を開いて突貫する。しかし、噛み付く直前で異形のヴィランがエネルギーを纏った手を薙ぎ払う。それと同時に大蛇の上顎が消し飛ぶ。遠くに避難させた玉犬を呼び出して構える。そして悟る。自身が死ぬことを。だからこそ全てを出し切るべく涙で歪む視界を拭い覚悟を決めて前に出る。

 

 瞬間、極大の電撃を纏った鵺(・・・・・・・・・・)が異形のヴィランの延髄に向けて全速力の体当たりをかました。

 

「グ、ギャアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

「は?」

 

 突然与えられた決定打に絶叫するヴィランに信じられないものを見る目で鵺を見る伏黒。だって当たり前だ。鵺にはそんな指示を出してない。仮に戻って来る時があるのは全員避難させたらだ。だからあり得ないのだ鵺の背中の上に黒いメッシュを入れた男がいるなど(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「鵺!……でいいんだよな!?そのまま伏黒を回収しろ!」

 

 呆気に取られる伏黒と悶え苦しむヴィランを無視して伏黒だけを回収すると上鳴はその場から離れた。

 

 

 鵺がある程度飛ぶと伏黒を地面に下ろす。伏黒はうまく着地出来ずにその場で座り込む。前を見るとそこには耳郎と八百万がそこにはいた。伏黒の傷を見た2人は傷ましいものを見る目で見てすぐに傷の処置を行う。八百万も耳郎も前の応急処置の授業を行っていたためか傷の処置が正確だった。あまりの出来事に脳が処理出来ずフリーズしてた伏黒だったがすぐに睨みつけて怒鳴る。

 

「お前ら!何やってんだ……!せっかく俺が時間を!」

 

「言ってる場合か!」

 

「そうだぜ耳郎の言う通りだ!俺が来なきゃ伏黒、お前死んでたろ!」

 

 耳郎が傷を的確に対処して上鳴は周りを気にしながら伏黒の言葉に反論する。新しく消毒液や包帯を精製した八百万が耳郎にそれらを手渡すと伏黒の肩に手を添えて諭し始める。

 

「伏黒さん。落ち着いてください」

 

「大丈夫だ、落ち着いてる。後、怪我ありがとよ。もう少しだけやれそうだ……!」

 

 肩に添えられた手を伏黒は跳ね除けると再度ヴィランと戦うべく立ち上がる。その際、側に座っていた鵺を呼び出す。戦闘準備が整ったことを確認すると歩き始めようとする。しかし、八百万に手を掴まれることで阻まれる。手を握りしめ引き止めようとする八百万に鋭い視線を送る。八百万は伏黒の視線に体をビクッとさせながらも今度は決して離そうとしなかった。

 

「このまま行っても犬死ですわ!死ねばあなたの家族が悲しむに「俺に家族なんていねぇよ」……え」

 

 伏黒の言葉に八百万は固まる。信じられない言葉を聞いたかのように。八百万だけではない上鳴も耳郎も驚いていた。伏黒はそのまま言葉を続けた。

 

「お袋は俺を産んですぐにくたばった。親父に関しては俺が小一の頃に新しい女作って消えた」

 

「で、でも!それでも親だけでなくとも親族の方々が!」

 

「俺が生まれる前に何しでかしたのかわかんねぇけど、俺は誰にも引き取られなかったよ。たらい回しにされ続けて小一の頃からずっと一人暮らしだった。……親父が最後の最後で俺のことを考えてかはわかんねぇけど、置いてった通帳がなけりゃ死んでたかもな」

 

 自身の過去を自嘲しながら話す伏黒を見て絶句する3人。そんな3人を尻目に伏黒は自身の言葉を続ける。

 

「分かるか?俺がお前らを含めたA組の中で1番何も背負ってないんだよ。仮に俺が死んでも誰も悲しまねぇ。だから、手ぇ離せ」

 

 そう言った瞬間、上鳴がこちらの胸ぐらを掴み伏黒にヘッドバットをかました。いきなりの出来事にぐらつく頭を押さえながら上鳴を見る。すると、あまりの勢いでぶつけたためか頭から出血していた。

 

「いきなり「俺は!熱血系とか柄じゃあねぇから、一回しかこういうことやんねぇし、今から言うことも一回しか言わねぇ!俺たちは!悲しみます!」……お前は何を言ってるんだ」

 

 いきなり胸ぐらを掴まれ、ヘッドバットされた後の言葉に流石に呆気に取られる伏黒。出会って間もないと言うのに悲しむほど仲良くなった奴はいない。お前の勘違いであると告げると今度は八百万と耳郎の二人に呆れられた顔をして言ってきた。

 

「はあ……。あのですね伏黒さん。上鳴さんの言う通りわたくし達も悲しみますが、クラスメイトの方々、特に普段から仲良く話していた蛙吹さんと常闇さんも間違いなく悲しむと思いますわ」

 

「それは……」

 

「それにあんたの家族はいないかも知れないけどさぁ。友達とかいるでしょ?」

 

「友達……」

 

 耳郎の言葉で思い出すのは元気はつらつな幼馴染の笑顔。あれは俺が死んだら悲しむだろうかと考えたら確かに悲しみそうだと思えた。反論がないことを見た八百万はそのまま言葉を続ける。

 

「伏黒さん。あなたは信じられないかも知れません。ですが、策があります。あのヴィランを倒す策が。協力していただけませんか?」

 

 手を差し伸ばしながら少し不安気にそう八百万は締めくくった。論は穴だらけ、私情が混じって、伏黒を引き止めるための言葉であるのは丸わかりだ。不安気なのも心配の現れなのだろう。だがそれでも八百万と耳郎、上鳴の言葉は伏黒から冷静さを取り戻させるには十分すぎるほどだった。

 

「……何をすれば良い」

 

 自身の頭を数度ガシガシとかいたあとに伏黒は3人に向き直るとそう告げた。3人の顔がわかりやすいほど明るくなる。そして八百万は自身の策について話し始めた。

 

「はい!でしたらまずは伏黒さんと上鳴さんの2名にはあのヴィランをここまで誘導して欲しいのです」

 

 

 ヴィランは探していた。自身にここまでの醜態を晒させた張本人達を。口から「フーッ、フーッ」という荒い息と体から滲み出るオーラ、そして癇癪を起こしたかの如く倒壊した周りの景色がヴィランの不機嫌さを物語っていた。見つからない。索敵能力の乏しいヴィランは他の場所で憂さ晴らしを行うべく足に力を込める。

 

「おい」

 

 すると後ろから声が聞こえた。力を込めた足を止めて振り返るとそこには先ほどまで自身に無様にやられていた男が立っていた。ああ、憂さ晴らしに丁度いい。そう思いながら口元に笑みをこぼして近づこうとする。すると、

 

「指向性!100万V!ver鵺!」

 

「グ、ギャアアアア!!」

 

 再度、あの時と似たような痛みが自身の体に走った。あの時と同様、背中に何かがぶつかったと同時に信じられないほどの痛みが全身を走る。痛みが収まった頃に顔を上げるとあの時自身にダメージを与えた張本人に出くわす。体に殺意がほとばしる。怒りのあまり食いしばっていた歯にヒビが入るほどだった。

 

「うおおぉぉ!?怖っ!あのヴィランの顔怖っ!!」

 

「ならどうする逃げるか?」

 

「当たり前でしょお!!?」

 

 サンドバッグと憎むべき敵がそう言うと自身の目の前から逃げ出した。両者とも何が何でも殺すべく動き出す。ネズミのようなチョロチョロと不規則に動き回る2人だが絶対に逃がさない。片方は巨大な鳥の上に乗って焦りながら逃げ、もう1人は走りながら逃げ続けていると開けた場所が見える。初めは罠を疑ったが絶対的な力を持っているのだ全てを叩き伏せよう。そう思いそのまま突き進む。二手に別れた2人を追うべく開けた場所にでた。次の瞬間腕に何かが直撃する。ビリビリと痺れる腕を立ち止まって確認した後に前を見る。そこにはあの時殺そうとした女の1人がいた。

 

 主人の命令通り目についたものを殺戮すべく手にエネルギーを溜めて放とうとする。避けようとするが避ける方向も見切れる自身にとって仕留めることは容易だ。しかし、手からエネルギーが放たれると同時に手が蹴り上げられて軌道がそれた。目を見開き驚くとそこには先ほどまでいいように殴られていた男がいた。面倒に思った自身は先にこいつから仕留めようと痺れていない手にエネルギーを溜めて振るおうとする。が、今度は痺れていない手と足に目に見えない何かが直撃する。再度感じた不快な感覚に「アアアアアア゛ア゛ア゛ア゛!!」と叫びながら女の方に駆け寄る。足は痺れていたがこの程度の間合いを潰すのは容易だった。あっさりと女の首を掴む。このまま首をへし折るべく暗い喜びに浸りながら力を込めようとする。すると、

 

「ねぇ……。言葉分かるかわかんないけどさぁ。共振って知ってる?」

 

 何やら話を始めた。絶望でもしたのかと期待してニヤニヤと笑いながら話を聞く。

 

「音とかの振動と振動がかけ合わさって振幅を増大させることで起こる破壊現象らしいのよ。……上鳴も八百万も伏黒もここまでキメたんだ。ここでキメなきゃロックじゃあないでしょ!」

 

 そう言いながら女がプラグらしきものを突き刺してきた。瞬間、比喩表現抜きで自身の体が内側から爆ぜた。絶叫も許さないほどの苦痛はあの時の男から食らった攻撃の比では無かった。

 

「八百万!」

 

「わかりましたわ!上鳴さん!」

 

「わかってる!」

 

 顔を上げると何かが自身に照準を向けている。逃げなければ。そう思い足に力を入れる。が、足に走る痛みがそれを阻止した。後ろを見ると黒い犬が自身の足の腱を噛みちぎっていた。

 

「逃がすわけねぇだろ」

 

 遊んでいた男の言葉に苛立ちが加速すると何かが炸裂する音が複数回聞こえる。前を見た瞬間、返しのついた大量の鏃が自身に迫っていった。腹、胸、脚、首、太もも、おおよそ体の前面には全て直撃した。引き抜きこの場から離れなければ。そう思い体の再生に集中し、治ったと同時に体に力を入れる。が、微動だにしなかった。

 

「その鏃は特殊なものでして。傷を塞げは塞ぐほど関節をより強固に固めていく仕組みですわ。伏黒さんとの戦闘であなたが怪我を負えば再生するのは把握済み。そして、これでトドメですわ!」

 

 目の前でしゃべるもう1人の女の言ってることは理解できなかった。だけども自身がはめられたことはよく理解させられた。体に何かが打ち込まれる。しばらくして体に本格的に力が入らなくなっていくのを感じた。

 

「今あなたに打ち込んだのは筋弛緩剤の一種。念には念をと致死量の倍以上を打ち込みました。これで詰みですわ」

 

 わからない。目の前の女が何を言っているのかわからない。なんだってこんな連中に負けたのかわかない。勝とうと思えば簡単に勝てた相手だと言うのに。無理解が頭をしめながら名もない怪物は眠るように崩れ落ちた。

 

 

 異形のヴィランが沈黙する。念のため伏黒が近づいて確認するとこれ以上動く様子は見られなかった。それを八百万達に伝えると安心したように崩れ落ちた。

 

「よかったぁぁ!」

 

「いやマジでよかった!相手がうちらのこと舐め腐ってたおかげでなんとか上手くいった!」

 

「正直……何度かミスをするのではないかと冷や冷やしてました……。ですが、皆さんありがとうございます。皆さんのおかげで成功できましたわ」

 

 上鳴は仰向けに倒れ込むと絶叫して、耳郎は軽くため息を吐くと相手のおかげで勝てた面もあったと言う。八百万は皆のおかげでなんとかなったと礼を告げた。そんな様子を見た伏黒は申し訳なさそうに顔をしたに向けるながら喋った。

 

「悪りぃ」

 

「ん?」

 

「いや、もっと早くお前らと協力してたらどうにかなったんじゃないかって」

 

 実際、その通りだった。伏黒の頭には皆を逃すことしか頭になかった。故に途中からは完全に自分だけでどうするかとしか考えていなかった。申し訳なさそうに謝る伏黒を見て3人も喋った。

 

「悪りぃはこっちのセリフだよ。ごめんな。あん時びびって動けなくて」

 

「は?」

 

「まぁね。うちらがあん時落ち着くまでの間、あんたが戦ってなかったら全滅してたのは間違いなかったからね」

 

「伏黒さんもあまり気負わないでください。あなたのおかげで今の私達があるんですよ?」

 

 誰一人として伏黒を責めなかった。それどころか誰もが伏黒に感謝した。初めは呆気に取られた伏黒もそんな連中がおかしくて吹き出して笑ってしまった。そして顔を上げて「ありがとう」と笑いながら礼を告げた。すると、ドンッ!と凄まじい音が響く。音の発信源を見ると笑みを浮かべていないオールマイトがそこにはいた。

 

「行くか?」

 

 伏黒がそう言うと3人とも首を縦に振るい立ち上がる。立ち上がった3人を追うべく伏黒も立ち上がり歩もうとした瞬間、前のめりに倒れた。

 

「伏黒?」

 

 上鳴の声が遠くから聞こえるように錯覚する。緊張が抜けたためか体から力が抜けていく。くらむ視界の中、焦った3人の顔が見えて意識が途絶えた。




すみません。オリジナルの戦闘がマジで難しかったため長くなりました。納得いかない場合や誤字脱字はどんどんコメントしてください。

 一応、ヤオモモが最後に致死量の筋弛緩剤を叩き込んだ理由ですが。そこまでしなければならないほど追い込まれていたからだ、とでも考えておいてください。
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