伏黒のヒーローアカデミア   作:アーロニーロ

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11月28日のアンケートを見たのですが、ifストーリーを組み込もうと思います。


休息、そして一回戦

 

《続きましてはこいつらだ!優秀!優秀なのに拭いきれないその地味さは何だ!?ヒーロー科、瀬呂範太!VS予選3位2位と推薦入学者の名に恥じぬ成績とはまさにこのこと!甘い(マスク)に騙されるなぁ!ヒーロー科、轟焦凍!!それでは最終種目第二試合レディースタート!》

 

 第一回戦の第二試合がプレゼントマイクの声と共に始まる。伏黒の予想としてはこの戦いは拮抗すると予想していた。それはひとえに瀬呂の実力の高さにある。個性が派手かつ高威力な轟は言うに及ばずだが、瀬呂の実力や個性は派手さこそないにせよ汎用性が尋常じゃない。

 

 縛るもよし、投げるもよし、先端に石なり何なりを括り付けて鈍器にするもよしとなんでもござれだ。おまけに個性抜きにしても瀬呂の判断能力などは騎馬戦で爆豪の動きについていったことから高いものだと容易に想像できる。

 

 だが、ここで伏黒はとあることを忘れていた。轟の全力を決してみたことがないということだ。勝負は一瞬だった。

 

 開始の合図が鳴った直後に速攻で瀬呂がテープを射出し、轟の身体に巻き付け、そしてそのまま場外に引っ張り出そうとする。このまま轟が引きずり出され、瀬呂の勝利かと思われたその時、

 

 パキ、ピキピキピキピキピキピキッッッッッッッ!!

 

 空気がひび割れる音を立てながら地面が急速に凍っていく。そして次の瞬間、

 

 ドゴォォォォォォォォォン!!!!

 

 会場を揺らすほどの地鳴りのような音が会場中に響き渡る。それと同時にフィールドには巨大な氷塊が出現していた。それはあまりにも大きくこの会場には収まることなくもし天井があれば食い破って外に突き抜けてしまう程だった。誰も彼もが唖然としてその光景を見る。口数の多いプレゼントマイクですら解説と実況を忘れて言葉を失うほどに。

 

「瀬呂くん……動ける?」

 

「動ける訳ないでしょ…痛ぇよぉ…」

 

「瀬呂くん行動不能!」

 

 左半身を氷漬けにされながらミッドナイトは念の為続行するか瀬呂に問うも瀬呂はセロハンテープを射出する器官を含めた胸から下を全て凍らされて動けずギブアップを宣言。轟の勝利が告げられると同時に自然と辺りからドンマイコールが流れる。クラスメイト全員が言葉を失くす中で氷を溶かしていく轟の背中は伏黒から見てひどく悲しげに映った。

 

 

《会場が乾いて第二試合!見た目は普通でも繰り出される第3の腕である尻尾を尋常じゃない!ヒーロー科、尾白猿夫!vsスパーキングエレクトリカルボーイ!上鳴電気!》

 

「同じクラスだからって容赦はしないぞ」

 

「こっちの心配してる場合か?」

 

「あ?」

 

「俺とお前、相性最悪だろッ!」

 

 開始直後、上鳴の体の表面からバチバチという音が鳴り始める。そして大きく上半身を振りかぶり振り下ろすと尾白の視界を覆うほどの雷光が包み込み、そして――――!

 

〜10秒後〜

 

《瞬殺!!!敢えてもう一度言おう瞬・殺!!!》

 

《あの馬鹿…》

 

「ウェ……イ…」

 

「二回戦進出は尾白くん!」

 

「うっし!」

 

 間抜けヅラを晒しながら地に伏して気絶する上鳴の姿とガッツポーズを決めながら喜ぶ尾白がそこにはいた。

 

 尾白のやったことは単純、上鳴が初手で最大火力かそれに準ずるほどの威力で放電することを予想して騎馬戦で把握した攻撃の範囲外まで移動。鳩尾に前蹴りを放ち悶絶させて動きを封じると半歩下がって距離を取ると尻尾を用いた鉤打ちが上鳴のこめかみに炸裂。結果、上鳴の意識はあっさりと沈んでいった。

 

 尾白は元々地味なことが災いして目立たないが近接格闘能力は伏黒並みで個性も混じればそれ以上に高い。故に油断した相手から勝利をもぎ取ることなど容易い。伏黒が尾白の戦闘が終わり次の次が自分の番だと思い出し、控え室に向かった。

 

 

 初めて見た時は顔はいいが退屈そうな男、それが私の彼に対する評価でした。教室でいつも退屈そうにしていた。それが例えオールマイトが受け持ち、評価してくれる授業でさえも表情ひとつ変えずに淡々と受け答えする彼を動かす材料足り得なかった。しかし、その評価はとある事件をきっかけに一変することになりました。

 

 そう、死柄木なる男が主犯のヴィラン達によるUSJ襲撃事件でのことでした。

 

 その時に私を含めた耳郎さん、上鳴さん、彼の4人は山岳エリアへと飛ばされました。初めて見る生で見るヴィラン達。その時に突き刺してくるヴィラン達の視線のなんと卑しいことか。すぐに道具を生成して迎撃しようとしたが、それよりも前に彼が全滅させてしまった。私たちが出来たことなど彼が倒していったヴィランを捕縛し続けるという残飯処理のような役割のみだった。そして全てのヴィランを倒し終えた時に浮かべた彼の顔はやはり無表情でした。一体全体何をすれば彼の感情は動くのだろうか。そう思わせるほどに彼からは何も感じられない。少し早歩きになりながら相澤先生の元へと向かおうとする。

 

 そんな時でした。先ほどのヴィラン達が霞んでしまうほどの存在に出会ったのは。

 

 6つの目を持ち下半身を蛹のような膜で覆われた虫の幼虫と人を混ぜたかのような異形はあっという間に圧倒的であった彼の腕をもいだ。彼が咄嗟の判断でサポートアイテムを使っていなければ私達も同じ目にあっていたかも知れない。それほどの強敵。初めは皆で逃げようと提案した。だってそうでしょう?プロでもない私たちが叶うはずもない相手ですもの。

 

 しかし、そんな状況で彼が提案したのは私達のみが脱出し、彼だけが残って応戦するというものでした。

 

 初め聞いた時は耳を疑いました。個性の起点でもある手を奪われてやれることなんて一つもないくせに何を言っているだと。私達の言葉に対してそんな彼の口から出てくるのはいずれも突っぱねるような酷い言葉のみ。どれもこれもが私が浴びせられたことない言葉ばかりでした。それでも私たちは反論できませんでした。恐怖で体が動かなかったから。それを見た彼は掴まれていた裾を払ってヴィランへと足を運んで行った。その時に私は見てしまったのです。初めて見る慈愛と非愛に満ちた彼の顔を。おそらくこれがきっかけ。胸が僅かに高鳴りました。

 

 去っていく彼を見てボロボロになりながらも戦う彼を見て私から恐怖が消え失せました。どうやら2人も同じらしく、作戦を聞き入ってくれました。そうして作戦通り彼を救出しましたが、彼からで出来たのは怒りだけ。手当した傷を確認するとすぐに行ってしまいそうになりました。家族のことを話題に引き止めようとした瞬間、彼の口からはとんでもないことがわかりました。

 

 それは彼には家族と言える存在がないということでした。

 

 あり得ない、そう思いました。孤児という存在があることくらいは私も知り申しておりました。それでも会うのはもっと先だと少なくともクラスメイトに存在する筈がないと思っていました。そうして語られる彼の凄惨な過去には絶句することしか出来ませんでした。そして思わされるました。嗚呼、彼はなんと『孤独』なのだろうと。愛を知らずに『孤独』を引きずって尚、戦おうとする彼はなんと強いのだろうと。それに気づいた私の胸はもう一度、そして先ほど以上に強く高鳴りました。呆然とする中で上鳴さんが引き止めてくれなければきっと彼を逃してしまっていたかも知れません。

 

 引き止まってくれた彼に作戦を言い渡し、見事私達は6つの目を持ち下半身を蛹のような膜で覆われた虫の幼虫と人を混ぜたかのような異形を倒すことに成功しました。そしてオールマイトが来てくださったのと彼が倒れるのは同時でした。皆で慌てて顔を覗くと彼の顔は険しさが消え失せ、可愛らしい寝顔を浮かべていました。それを見た上鳴さんや耳郎さんは安堵していましたが、私だけは違いました。

 

 

 

ほしい

 

 

 

 

 そんな浅ましい感情が私の中で入り乱れていく。嗚呼、ダメです。万人を愛して救うべきヒーローが傷つき進んでいく人間を諌めずに愛してしまうなど。それでも感情は抑えられません。見れば見るほど、処置をすればするほど(◾️黒)の顔が愛おしく思えてくる。欲しい、欲しい、欲しい、彼のことが。彼の『孤独』が愛おしい。それを理解(わかって)してしまってばもうダメでした。嗚呼、

 

彼の『孤独』を独り占めにしたい!

 

 こうして八百万 百()伏黒恵()に恋をしました。

 

 

《さてさて気を取り直して第五試合!立てば芍薬!戦えば上位陣!創る姿はまさに万能!ヒーロー科、八百万百!vs入試実技では2位と40点以上突き放し、第二種目では逆転を見せてくれたが次は何を魅せる!?ヒーロー科、伏黒恵!》

 

 第五試合にて八百万と伏黒が向き合い、両者がフィールドに入場して準備を整える。

 

《レディー、スタートォ!》

 

「ねぇ、伏黒さん」

 

 プレゼントマイクの号令と同時に八百万は何もすることはなく伏黒に問いかけてくる。これには伏黒どこらか観客すらも困惑している。嵌める為の行動ならいざ知らず、今の八百万には戦いに挑む気迫はおろか、むしろ友愛すら感じるのだから。伏黒は八百万ご奸計を張り巡らせるタイプの人間ではないのはこの短い期間でもわかっているつもりだった為、構えを解く。

 

「私が勝ったら何かいたたげませんか?」

 

「それ、今言う必要あるのか?」

 

 八百万の口から飛び出して来たことに伏黒は思わず突っ込む。こんな性格だったかと思いながら伏黒はミッドナイトを見る。八百万に戦闘の意欲があるのか否かを確認する為である。ミッドナイトも困惑して何も言ってこないあたり、失格でもなんでもないらしい。それに対して伏黒は大きくため息を吐く。

 

「やる気がないなら出てってもらうぞ。【玉犬】」

 

 そう言いながら伏黒は【玉犬】を呼び出すと八百万目掛けてけしかける。少なくとも伏黒は八百万との戦闘では勝ちを確信していた。何故ならこのような『よーい、ドン』という場面ではものを構造を思考して作り出すというモーションがいる八百万の個性ではどうしても後手に回るからだ。しかし、どういうわけか体から創り出した道具が攻守走共に優れている【玉犬】を弾いている。伏黒も突っ込もうと思ったのだが、流石に何が飛び出してくるかわからない以上は不用意に突っ込みにくい。そうして八百万が複雑な機材を作り上げると【玉犬】を吹き飛ばす。ここまで動ける奴だったかと疑問に思っていると道具を下げて再度問いかける。

 

「もう一度、お聞きしますわ。―――私が勝ったら何かいたたげませんか?」

 

「……言わなきゃダメか?」

 

「恩返し、とでも思っていただければ」

 

 伏黒は八百万に問い返すとUSJでの応急処置を引っ張り出してくる。それを聞いた伏黒は痛いところを突かれたと思いながら、少し考え込む。周りのどよめきをBGM代わりにして考え込んだ果てに結論を出す。

 

「何でもいいぞ」

 

「――――なんでも?」

 

「叶えられる範囲、っていう枕詞がつくがな」

 

 伏黒は向き合って八百万にそう言うと驚いたように固まった。固まった八百万を見て伏黒は流石に叶えるにしても上限がある為、言葉を付け加える。すると、

 

「でしたら、でしたら。おおおおおお付き合い、なんてことも…」

 

《は?》

 

《おい、マジでどうした》

 

 伏黒の内心を代弁するかのように解説であるプレゼントマイクと相澤が困惑したような表情と声を見せる。告白された伏黒も流石に聞き違いかと思った。しかし、八百万を見るが上気した顔に上擦った声と描くように忙しなく空を切る指先が嘘偽りでも無ければ聞き違いでもないことを告げる。それに気づいたのはどうやら伏黒だけではなかったらしく、A組のほうから興奮と喜悦を込めた悲鳴が漏れ出て、B組の方から恐怖を込めた悲鳴が漏れ始める。人生初の告白を前に伏黒は困惑しながら耳年増と思われるミッドナイトに助けを求める。が、

 

「ミッド」

 

 ナイト先生と言い切ることが出来なかった。それほどまでに表情もR-18だった。八百万の方を向き直ると答えを今か今かと待っていた。流石に告白なんて思い切ったことをしてくる相手を無碍にすることが出来ず、大きくため息を吐くと応える。

 

「まあ、叶えられる範囲って言ったからな。いいぞ」

 

「言質とったりぃぃぃ!!!」

 

 伏黒の言葉を聞き届けた八百万はガッツポーズを取りながら声高々に叫ぶ。突然のことに伏黒がビクっとなっているのを無視して八百万は言葉を続ける。

 

「私が正妻です!浮気は許しませんわ!!お付き合いしたあかつきには私の家でパーティを開きましょう!!家に父と母の親戚も招いて盛り上がりますわ!!料理は私と貴方の2人の好物はマストですので!!テンション上がってきたぁぁぁぁぁ!!!!

 

 最後には普段のお嬢様口調を崩しながら、乙女にあるまじき表情を浮かべて叫ぶ八百万。これには伏黒も観客もドン引き。唯一、盛り上がっているのはミッドナイトのみとなった。

 

「勝てたら、の話だがな」

 

 こんな茶番をさっさと終わらせるべく、隙だらけとなった八百万目掛けて詰め寄ると蹴りを放つ伏黒。位置は(ジョー)。当たれば一撃で脳震盪を起こして倒れる。それがどんな超人であれど例外では無い。今この瞬間は八百万の手元から数多の道具が離れている。防ぐにしても生成は間に合わないだろうし、間に合っても後ろで控えている【蝦蟇】が第二の矢となって待ち構えている。防ぐ手立ても潰した攻撃を前に八百万はなす術もなく倒れ伏す。

 

 ガキンッッッッッッッッッッ!!!

 

 筈だった。

 

「何だ、それは」

 

 足が痺れるのを無視して伏黒は思わずと言った様子で八百万に問いかける。それは黒い盾だった。それだけならまだ理解はできた。しかし、それ以上に不可解なのは伏黒が死角になって捕えられるはずのない【蝦蟇】の舌を防いでいる盾が同じ性質を帯びているからだ。確かに八百万は優秀だ。頭も回れば、それに見合った万能に近い個性を持っている。しかし、考える以上は必ずラグが生じるはずだ。にも関わらず、八百万は同時に道具を生成できている。伏黒の質問に対して八百万は優しく笑う。

 

「液体金属ですわ伏黒さん」

 

 瞬間、八百万の腰あたりから黒く光る液体が放出される。そしてそれは鋭い槍の形を模ると伏黒目掛けて殺到し始める。それに対して伏黒は【蝦蟇】の舌を自身の体を巻き付かせると無理矢理元いた場所に戻させる。そして間をおかずに黒い槍が降り注ぐと容易くセメントを叩き割った。

 

《おおっとぉーー!!八百万の攻撃がセメントスの補修したフィールドを容易く叩き割ったぁ!!》

 

 プレゼントマイクの言葉に先程の困惑はどこへやら。観客が一斉に湧き出すのと八百万の一撃の重さに戦慄する伏黒。セメントスの操るセメントは硬い。それもその筈、爆破に超パワー、氷結や熱などの個性を用いての戦闘に耐えることを想定して作られているのだから。しかし、八百万の一撃は違った。黒い槍は深々と地面に突き刺さっている。形が貫きやすいのを加味してもおかしい威力だ。

 

「やるな」

 

「フフ、ありがとうございます伏黒さん」

 

「随分と早いな。あの時に使わなかったのが気になるレベルだ」

 

「意地の悪いことを言わないでくださいまし…」

 

 伏黒の言葉に対して気まずそうに目を逸らす八百万。その反応からどうやらUSJ以降に考えついた能力と判断できる。恐らくだが、八百万がいつものように生成するのではなく、液体金属に絞ったのは液体であれば様々な形を有することが出来るからだと考えられる。そうすれば『考える→創る』のモーションから『考える』のみに絞れて創るというラグを解消できるからだろう。おまけに八百万の個性で作られたものは半永久的に残り続ける。カロリーの消耗も抑えることが可能なのだ。よく考えられていると思わされるが、それ以上にもう少し情報が欲しい。伏黒がそう思っていると、

 

「考える暇があるとお思いで?」

 

 伏黒が考え込んでいると八百万は両手を間に出す。すると、それに連動するかのように液体金属が四つに分かれると先端を鋭くさせて槍のような形となって伏黒に向かってくる。しかし、液体金属は伏黒を素通り。操作ミスかと思いきや、

 

 ド ド ド ド ドッッッッッ!!!

 

 液体金属の形状が変化すると伏黒目掛けて覆い隠すかのように殺到する。伏黒の敗北を誰もが思いながら液体金属が解除されると何処にもいないことに気がつく。困惑が頭に浮かぶのと伏黒が影から飛び出すのは同時だった。そして【大蛇】を継承したことで大きくなり、形状が変化した【鵺】を呼び出した伏黒は空を飛ぶ。それを追い縋る液体金属を回避しながら八百万目掛けて飛び出す際に回収した拾っていた石ころを投擲。しかし、これを八百万はもう一度作り上げた液体金属によって弾く。

 

《ま・さ・に、攻防一体ィィ!!八百万の新技を前に伏黒なすすべも無しかぁぁ!!??》

 

《これは中々に厄介だな》

 

《おおっとここでミイラマンからの解説もくるぞぉ!》

 

《誰がミイラマンだ。八百万の弱点はまだ日も浅いから断言することは出来なかったが、選択の多さにあった。個性が個性だけに選択肢が多い。それ故に悩んで一手遅れる可能性すらあった》

 

《Ho Ho、でも見た感じ》

 

《完全に克服してるな。形状も不安定だから攻撃の予想もしずらいと来た。これは攻略法を見つけなきゃ伏黒の負けが確定するぞ》

 

 解説である相澤の言葉に笑みを深める八百万。飛んでいた伏黒も地面に着地する。そして理解する。液体金属の射程距離はだいたいこのフィールド全域。火力はそこを見せていない以上は確定できないが、【玉犬】以上。速度も【鵺】には劣るが走っている伏黒に追いつくくらいなら分けない。しかし、電動率はかなり高いらしく【鵺】の電撃を放って液体金属に通した際に切り離していることからわかっている。しかし、同じ手が通じるとは限らないので確実とは言えない。攻防一体の上に変幻自在かつ速度もそこそこな液体金属。はっきり言って厄介極まりない代物だ。しかも八百万の思考の速さも考慮すれば厄介さが際立つ。そんな相手に対して伏黒が出した結論は、

 

全て問題無し(・・・・・・)

 

 【鵺】と寄り添う伏黒はそう言った。それに反応したのはやはりというか八百万だった。

 

「強がるのはよした方がよろしいかと。現に貴方は私の攻撃に手も足も出ていないではありませんか」

 

「それはどうかな?」

 

 伏黒はそう言うと手影絵は両手を反対に向かせて人差し指で頭、下のほうの手で足、上のほうの手で中指と人差し指を立てて耳を見立てる。殺到する液体金属を呼び出した【鵺】に対処させて新たなる式神を呼び出す。その名も、

 

「【脱兎】」

 

 その言葉と共に伏黒の影がゆらめく。それを見た八百万は身構えていると、

 

「は?」

 

 思わず呆気に取られた声を出す。そこにいた動物は白い毛皮に覆われ、長い一対の耳を持つ。そして赤いくりくりとした目と小さな鼻は敵の動向から決して晒さない。八百万の目線の先には抱える程度の大きさでもフンスと鼻息を荒くする――――1匹の白兎がそこにはいた。それを見た八百万は

 

「これはまた珍妙な……」

 

《可愛EEEEEEEEEEEEEEE!!》

 

 思わぬ式神の登場に困惑する八百万をよそに【脱兎】の可愛さに叫ぶプレゼントマイク。

 

《こ・れ・は、完全に予想外!伏黒から送られてきた使者はまさかまさかの可愛い子兎だぁ!》

 

 これには周りも予想外だったのか、「えぇ…」や「超可愛い!」や「何考えてんだアイツ」と十人十色といった反応だった。しかし、それでも八百万は違った。

 

「警戒すんだな」

 

「ええ、当たり前ですわ。貴方程の人物が何の策も無しに呼び出すとは思えませんもの」

 

「その判断は正しいよ。俺の影から生み出された動物は誰もが固有の能力を持ってる。鵺だったら電気とかな。とりわけ脱兎は俺の手持ちの中でも最も弱いが能力は間違いなく最強だ」

 

 その言葉と同時に伏黒の影からもう1匹の【脱兎】が飛び出してくる。

 

「なるほど、そういう能力ですか」

 

「わかったっぽいからいい加減ネタバレといこうか。脱兎の能力はいわゆる増殖。その最大増殖数は」

 

 大体五千羽以上だ。その言葉と共に脱兎の影が爆発したかのように広がる。そして広がった影一つ一つが兎となり、伏黒の周りにドームと見間違うほどの規模となった。そして伏黒が手を振り下ろすと八百万目掛けて殺到する。しかし、それを見た八百万は冷静に対処し、脅威でないと判断すると伏黒目掛けて液体金属を向ける。しかしそれは、

 

 【脱兎】が八百万の顔面目掛けてドロップキックをかましたことで中断させられた。

 

「なぁ!?」

 

 まさかの非力と思っていた兎が見せる綺麗なドロップキックに驚いた八百万は咄嗟に液体金属を盾に変換して防ぐ。

 

 ガギィンッッッッッ!!!!

 

 すると、先程の伏黒の一撃以上の音が鳴り響く。まさかの威力に驚いていると伏黒の作戦に見当をつける。

 

「まさか!?物量で押し潰す気ですの!?」

 

「そういうことだ」

 

「甘いのではなくて?私の液体金属は「全自動じゃないんだろ?」……何故、そう思ったので?」

 

 伏黒が八百万の言葉を遮ってそう聞くと伏黒は自身の頭をトントンと叩いた後に八百万を指差す。そのモーションに八百万は不思議そうな顔をして触れると頭にひりついた痛みが走る。驚いているあたりハイになって気が付かなかったようだ。先ほど投げた石に隠すように伏黒は【鵺】の羽も添えていた。殺傷能力はゼロだし、害すほどの威力もない。しかし、相手に当てることはできる。そして伏黒は液体金属が防がなかったことを見て八百万の液体金属は八百万の手動によって動かしているのだと判断する。

 

「それに八百万(お前)自身は生身以上、増強系には及ばないにせよ常人の攻撃よりも威力のある【脱兎】の一撃を防がないという手立てはない。さて、5,000近くいる【脱兎】の攻撃をどの程度防げるんだ?」

 

 その言葉と共に【脱兎】の群れが八百万目掛けて殺到する。咄嗟に八百万がドーム状に展開することで防ごうとするが、電撃を帯びた【鵺】が容易く破壊する。そうして襲いかかる【鵺】を何度か弾くと八百万はドーム状とまではいかないが、上蓋を外した円錐状にして防いでいく。上から降り注いでくる【脱兎】を弾いたり、時たま液体金属の結界を破壊する【鵺】によって開けられた風穴から飛び出してくる【脱兎】を弾いたりなどしていると

 

「クゥ…ッ」

 

 八百万の顔から汗が流れ始める。何せ全自動ではない以上、動かすにはそれ相応に頭を使う必要がある。全方向から襲いかかってくる【脱兎】を弾けば頭が追いつかなくなるのは当然である。ジリジリと攻撃が当たっていく中、地面がボコッと音が鳴る。八百万が音の発生源に目線を向けると地面から伏黒が飛び出し、八百万の顎をかちあげた。不意打ちということもあり、脳みそを揺らされた八百万は液体金属の制御を手放してしまう。その結果、液体に戻ってしまう金属。それを見た伏黒は【脱兎】を足場に八百万の背後に移動すると首に腕を回して緩めだが、チョークスリーパーをかける。

 

「詰みだ、八百万」

 

「八百万さん行動不能とみなし、二回戦進出は伏黒くん!」

 

 伏黒の言葉と共にこれ以上は戦闘できないと判断したミッドナイトは伏黒の勝利を告げる。すると、湧く観客。それを聞き届けた伏黒はチョークスリーパーを解除しようとするが、八百万に手を添えられて引き止められる。

 

「どうやって、セメントを掘り進めて…」

 

「気づいてなかったっぽいが、俺は【鵺】を引っ込めて【玉犬】を呼び出してた。で、そいつに頼んで穴を掘ってお前のところまで辿り着いた。あのまま攻め立てるにしても液体金属は厄介極まりないからな。下を行かせてもらった。セメントはともかくその下は土だからな、掘り進めるのは楽だったよ」

 

 伏黒が指差す場所に目線を向けると伏黒が出てきた穴からひょっこりと顔を出す【玉犬】。それを見た八百万は首の力を抜いて伏黒の顔に頭をつける。伏黒はそれを避けて起き上がるとその場から去っていく。すると、

 

「私、諦めませんわ」

 

 後ろから八百万の声が聞こえてくる。後ろを振り返ると八百万の目には未だに力強いものが宿っているのがわかる。恋する乙女は何とやら。厄介な奴に目をつけられたと思いながら伏黒はフィールドを後にした。

 

 

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