伏黒のヒーローアカデミア   作:アーロニーロ

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決勝、そして閉幕

 

 

「今年度雄英体育祭一年の全日程が終了!それではこれより表彰式に移ります!」

 

 ミッドナイトの言葉と共に白いスチームと花吹雪を舞わせながら表彰台が下から現れる。一位~三位までの生徒である伏黒、轟、爆豪がその台の上には立っており、観客や生徒達から拍手で迎えられた。伏黒が爆豪と同率で3位だった飯田がいない事に疑問を持つと、

 

「三位には爆豪くんと飯田君がいるんだけどちょっとおうちの都合で早退になっちゃったのでご了承くださいな♡」

 

  質問するよりも前にミッドナイトは飯田が表彰台にいないわけをメディアを意識しながら手短に話す。その答えに伏黒は納得する。

 

「それではメダル授与よ!!今回特別にメダルを贈呈するのはこの人!」

 

「ハーッハッハッハッ!!」

 

 ミッドナイトが手をバッと広がると突然空から高らかな笑い声が聞こえてきた。その声に目線を向けると何者か―――というか1人しか該当しないが―――空から舞い降りる。

 

「私がぁぁぁ!メダルを「我らがオールマイトォ!!」持ってきたぁー!!」

 

 メダルを持って登場したオールマイトとミッドナイトのセリフがダダ被りになって凄まじいぐだぐだ感が生まれる。これにはオールマイトも無言で圧力をかけながらミッドナイトを見つめ、ミッドナイトは「カブッた…」と言いながら手を合わせて謝る。

 

「そ、それでは!三位からメダルの授与を行います!」

 

 若干気まずそうになりながらも立て直して舞台の進行を続けていくミッドナイト。オールマイトもそれに従うように3位からメダルを渡していく。

 

「さて爆豪少年、3位おめでとう!と、行っても全然納得できてなさそうだね」

 

「……」

 

「凹む気持ちはわからないでもない。ぶっちゃけその年でそこまでやれる人間はまずいないそう言えるほど君の戦闘センスは本物だ。しかも間違いなく入学時から成長しているときた!故に挫折は初めてなんだろう。だからこそこれを傷と受け止めてバネにして活かしていこう!」

 

 オールマイトの言葉に反応すること無く、普段とはうって変わって終始下を向き無言を貫く爆豪。そんな爆豪にオールマイトはいくつか言葉をかけるとそっとメダルをかけてハグをする。そして次に轟の下へ向かう。

 

「さて次に轟少年。最後のアレ、ベタ踏みだったが中々やるじゃないか!しかし、()を使うとは何か心境の変化でもあったのかな?」

 

「緑谷戦できっかけをもらって……分からなくなってしまいました。だけど最後にあいつ(緑谷)の声援と伏黒の言葉でもしかしたらと思って使いました。オールマイト、あなたがヤツを気にかけるのも少し分かった気がします。俺はアンタみたいなヒーローになりたかった。……だからここから始めます。今まで目を背けてこと親父(エンデヴァー)に全てを押し付けていたことを全部見つめ直します」

 

「……顔つきが体育祭前後とまるで違うな。君の過去に何があったのかは知らないがそうやって向き合おうとするだけでも相応の勇気がいる。それを乗り越えたら君はきっと今日の君よりも強くなれる。私が保証しよう」

 

 轟の言葉を最後まで聞き終えるとどこか眩しそうな顔で黙りこむ。少ししてからオールマイトが喋ると先と同様メダルを首にかけ、ハグをして次に進むオールマイト。そして一段登って伏黒と向き合う。

 

「そして最後に伏黒少年!伏線回収おめでとう!」

 

「伏線回収?……って、ああ」

 

 オールマイトの言葉に伏黒は一瞬怪訝な顔をしてそんなことを言ったかと考えるも開幕の挨拶でそれっぽいことを言っていたのを思い出す。

 

「いやぁ〜それにしても君強すぎるぜぇ!爆豪少年からもらった1発を除けば怪我らしい怪我を負ってないじゃあないか!」

 

「そうですが、どの試合も最高に苦戦させられましたよ」

 

「くぅ〜!オマケに謙虚ときた!ヒーローの鏡かな!?」

 

「そう言っていただけてなによりですよ」

 

 ヘラっと笑う伏黒にオールマイトはメダルをかけハグをする。そして何より伏黒はハグしてきたオールマイトにハグし返すと。

 

「あんたの緑谷(後継者)は恐ろしいほどヒーローしてるな」

 

 と、オールマイトにしか聞こえないほど小さな声で囁く。その言葉にオールマイトの体が伏黒からガバッと離れると信じられないといった顔でこちらを見てくる。それ見た伏黒はあの時の不明瞭であった仮説がほぼ間違いないものであると確信する。

 

 少し呆然とするオールマイトをミッドナイトが声をかけると我に返り「HAHAHAHA、すまないね!」とアメリカンに笑いながら謝ると周りに向かって振り返る。

 

「さあ!今回の勝者は彼らだった!しかし皆さん!この場の誰にもここに立つ可能性はあった!競い、高め合い、さらに先へ登っていくその姿!次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている!てな感じで最後に一言!皆さんご唱和ください!せーのっ!」

 

「お疲「「「Plus れUltra!さ!!ま」」」でしたー!!」

 

 オールマイトとそれ以外の全員の言葉がまるで合わず周りからBOOOOOOOOO!!!というブーイングが湧きそれをオドオドしながら対応するNo.1ヒーロー。そんな最後まで締まらない状況の中で雄英体育祭は終わりを告げた。

 

 

 体育祭終了後、A組のクラスに戻り相澤から今後の予定について口頭で説明が終わると伏黒は荷物をまとめて帰ろうとする。

 

「伏黒少年、緑谷少年!少しだけ時間をくれるかい?」

 

 するとオールマイトもに引き止められる。伏黒はこうなることを予想していたため問題ないと告げる。

 

「大丈夫です」

 

「え、えっと僕も大丈夫です」

 

 あらかじめ拳藤が来た時は先に帰ってくるよう言って欲しいと常闇に頼むと緑谷と共にオールマイトに着いていく。仮眠室に案内されるとオールマイトは伏黒と緑谷を置いてあった大きめのソファーに座るように促す。

 

「あ、あの!オールマイト!一体呼び出してどうしたんですか!?」

 

「要件は「俺がアンタに体育祭で言ったことの詳細についてですよね」……頼めるかい?」

 

「はい、分かりました」

 

 首を傾げる緑谷をよそに伏黒は体育祭で建てた仮説の全てを明かす。それを話していくうちに緑谷はみるみると顔を青くしていき、オールマイトは眉間を抑えていかにも頭が痛いと言いたげな顔をする。

 

「な、なんで、そんな…」

 

「きっかけは心操戦での出来事だった。洗脳を解けたお前を見て疑問を抱いた」

 

「でもあれは伏黒君が洗脳の掛が甘かったからって」

 

「そんなわけ無い。俺もガッツリかかってたさ。解けたのは単純な話、お前と同様に個性に介入する何者かが関わったからだ」

 

 そこまで伏黒が話すと緑谷は「えっ」と言って固まりオールマイトも目を見開き驚愕していた。

 

「それってどういうこと?」

 

「さぁな。だが少なくとも俺の個性の中にいる何かが介入したっていうのは事実だ。まあ、後はオールマイトと緑谷が個性だけでなく距離感も近しいことや緑谷の個性が最近発現したことを考えた結果、この考察に至ったってわけだ」

 

 追加で違うなら違うで否定してもらっても構わないと伏黒が言うと静観を決め込んでいたオールマイトの体から不自然に白い煙が漏れ出し始める。咄嗟に身構えるも慌てふためく緑谷に疑問を抱き構えを解く。

 

 そこにはトレードマークの二本の角のような髪が力なく垂れ下がり、画風もがらりと変わってまるで子供の落書きのような骨ばった姿に落ち窪んだ頬を曝け出したオールマイトがいた。

 

「」

 

 絶句、もはや声も出ないとはまさにこのこと。あまりの事態に思考が追いつかず頬をひくつかせながら言葉がまるで出てこない状態となった伏黒。

 

「この姿で話すのは初めてだね」

 

「」

 

「全くすごいぜ君は。君が初めてだよ情報なしでOFA(ワン・フォー・オール)にたどり着いた人間は」

 

「」

 

「さて、今から話すことは全て真実だ。それでも疑わずに聞いてほしい」

 

「」

 

「あの、オールマイト」

 

「ん?なんだ、緑谷少年」

 

「伏黒君がフリーズしてます」

 

〜20分後〜

 

 あの後、2人が慌てながら伏黒の意識を取り戻し、目覚めた伏黒にこうなった経緯と個性についての詳細を語る。全てを語った伏黒は情報過多で頭を抱えていた。

 

「つまりオールマイトの個性は代々引き継がれてきた凄い個性で今代の継承者に緑谷が選ばれたと」

 

「その通り」

 

「代々引き継がれてきた云々は知らなかったですが、まさかここまで予想通りとは思いませんでしたよ」

 

「いや実際、僕もすごい驚いたよ」

 

 緑谷が伏黒に感心している間にあまりにも重すぎる事実に伏黒は今の現代社会が思っていた以上に深刻であることを嫌でも理解させられた。

 

 オールマイト。それは長年不動のNo.1の座に君臨し続ける伝説的ヒーローにして正義の味方の代名詞とも言える存在。総理大臣や大統領の名前は知らずともオールマイトの名前は知っているなんて話があるくらい有名だ。

 

 そして何よりただ有名なだけでは無い。さらに特筆すべきなのはその力。腕力は腕っぷし一本で天候を変え、走って跳べば空を突くビル群をたった一歩で飛び越えるほど。

 

 その力と名声はカリスマ性を産み。超人社会は今とは比べ物にならないほど混乱しており、個性を悪用する犯罪が当たり前のように横行し、人々は犯罪者の影にいつも怯えながら暮らしていた昔日。彼はそんな世の中で誰よりも多くの人々を救い出し、凶悪なヴィランを次々と打ち倒すことで犯罪への抑止力となり混迷の最中にあった社会の在り方を一変させた。

 

 言うなればたった1人の人間が時代を作ったのだ。しかもオールマイトの名に影響されてヒーローを目指すものも少なくなく新しい時代を作るきっかけにもなりつつある存在。まさに英雄、まさに超人。

 

 そんな存在が消えればどうなる。それはかつての個性黎明期であり、まだ個性が異能と呼ばれていた頃の超常社会の到来を意味する。オールマイトという名前に堰き止められていた連中が一斉に動き出し、目も当てられない事態となる。仮にエンデヴァーやホークス、ミルコなどのヒーローたちが力を合わせてもオールマイトの影響力には及ばない。それほどまでに濃く、強い存在なのだ。

 

「割と余裕がなかったと」

 

「そう言うことさ。故に後継者が必要だった。皆を煌々と照らす太陽のような平和の象徴が」

 

「そこまで行けば信仰の対象になりそうですね」

 

 伏黒がそうつっこむと「ハハ、太陽は言いすぎたかな!?」といつものように惚けると聞いていた通り口から血反吐を吐き出す。いざそれを目の当たりにすると引退が秒読みの段階にあることをまざまざと実感させられる。伏黒はハァァァァァァァと長い長いため息が口から漏れ出ると同時に現実を受け止める。

 

「すまないが誰にも言わないでくれないかい?」

 

「言うわけないでしょ、というか言えるわけがない」

 

 もっとも言ったところで信じるものはまず皆無だろうと伏黒は思いながらオールマイトの頼み事を受け入れる。すると今度は黙っていた緑谷がおずおずと手をあげる。

 

「あの、伏黒くんは事情を説明するために呼んだのはわかるんですが僕はなんのために呼ばれたんですか?」

 

 その言葉に伏黒も気になった。確かにその通りだった。仮に伏黒に自身のことを説明するだけであれば緑谷の存在は必要ない。むしろわかりやすい緑谷は事実を隠すにはいささか不適格がすぎる。その疑問にオールマイトは顔を引き締め真剣な顔をして説明する。

 

「聞く限り伏黒少年の個性は特殊だが、OFAはその上をいく特殊な個性だ」

 

「まあ、でしょうね。継承型の個性なんて聞いたこともない」

 

「そんなOFAはとある一つの個性から生まれた存在なんだ。―――名をAFO(オール・フォー・ワン)。個性を奪い、与える個性だ」

 

 枯れ枝のように細い拳からギチッという音が聞こえるほど拳を力強く握りしめるオールマイトを見て只事ではないと過去であると確信する伏黒。

 

「皆は…1人のために……」

 

「名は体を表すとはまさにこのことだな」

 

「これは超常黎明期。人の枠組みの悉くが壊され法すらも意味をなくし混沌と破滅が織りなす世界で最も混乱した時代の話だ」

 

 オールマイトの言葉になんら嘘偽りはない。現代でも田舎町では異形系の個性が穢れだからと言われて迫害されている事実が存在している。個性というものが世界人口の8割を占めるこの世界でだ。それが微塵も超常に馴染んでいない約100年前の世界であればどうであろうか。個性が発現された初期の頃はヨーロッパ諸国でかつて行われていたとされる魔女狩りが再発し、数えきれないほどの血が流れたとされている。それは当然、日本でも似たようなことは起こっていた。

 

「そんな時代にいち早くまとめ上げた人間がいた。都市伝説でもいい。君たちも聞いたことがあるんじゃないか?彼は敵対した人物の個性を奪い自身に信奉する人間に与えることで着実に勢力を広げていき、瞬く間に"悪"の支配者として君臨した」

 

「まるで信仰宗教の教祖様だな。聞いたことないはずだ。そんな過去を歴史の教科書に載せられない」

 

「…その話がどうワンフォーオールと繋がるんですか?」

 

「さっきも言ったが奪い与える個性だが与えることなど心に甘く寄り添いシンパを増やしていったんだが、当然欠点もあった。与えられた者の中には力に耐えきれず自我が崩壊し物言わぬ人形に成り果てたそうだ。丁度、脳無のようにね」

 

 息を飲み込む緑谷に伏黒は虫に似た異形のヴィランを思い出す。そして他にも切島あたりから聞いた黒く脳をむき出しにしたヴィランがこちらに襲撃をしてきたことを。

 

「しかし中には個性と個性が複合し合う事例もあった。―――そして彼には弟がいた。病弱だが正義感の強い男だった…!そんな彼に善意からか悪意からか何を思ったか知らないが個性を与えた。しかし無個性と思われていた彼には個性があったんだ!個性を与えるという何の意味をなさない個性が!」

 

「なるほど与えるとストックするという個性が混ざり合い生まれたのが」

 

「そう!OFA(ワン・フォー・オール)さ!」

 

 オールマイトは手を大きく広げて力強く説明する。さっきから理解に及ばないほどの話をされて驚きの連続だが、それが事実だとするとそれは何ともまあ、

 

「皮肉な話だな」

 

「ま、正義は悪の中に生まれると言うこともあるさ」

 

「……成り立ちはわかりました。でも、何だってそんな大昔の人の話なんかをしようと思ったんですか?」

 

「個性を奪う個性だ。不老の個性があってもおかしくないさ。それを手に入れたAFOは当時の社会情勢もあって手に負えなくなった。結果、初代は託すことにしたんだ。今は勝てずともいずれ覆すことのできるように、とね。そして私の代で討ち取った!!…筈だった。だが奴は生きていた。君たちはいずれその巨悪と戦う日が来る…かも知れない」

 

 オールマイトは、というかヒーローはヴィランを極力殺さない。それは世界の共通でありヒーローとヴィランの最大の違いとも言える。それほど殺しはヒーローにとって最終手段、ましてやオールマイトほどの実力ともなれば捕まえられなかったヴィランはいない。そう思われていた。

 

「酷な話をしている自覚は「頑張ります」

 

 オールマイトが言葉を続けようとすると緑谷は力強くそう答え遮る。

 

「オールマイトの頼み…何がなんでも応えます!貴方がいれば僕は何でも出来る……出来そうな感じですから!」

 

「――――」

 

 自信なさ気にそう答える緑谷に伏黒は緑谷らしいと思う反面、その言葉を聞いたオールマイトの深刻そうな顔に疑問を覚える。普段であれば笑って応えるオールマイトがまるでその頃には自身がいないと確信しているかのように。それを誤魔化すように伏黒は話題を逸らす。

 

「これを俺に話した理由は何で何ですか?明らかに無関係なことこの上ないですが」

 

「ああ、ここから先は私の我儘になる。予め言っておくが断ってくれても構わない。伏黒少年、良ければ何だが。―――緑谷少年の手助けをしてやってくれないか?」

 

 話を晒した瞬間、目の前で平和の象徴が頭を下げて緑谷のアシストをしてほしいと頼まれる伏黒。これなら大人しく帰ったほうが良かったかと内心思わされる。

 

「ちょ、ちょっとオールマイト!いきなり何を!」

 

「……何で俺なんですか?」

 

「ひとえに君は優秀だ。それこそ過去の私を凌ぐほどに。長くヒーローとして生きてきたが、塚内くんという友達を得て気づいたんだ。人は1人では生きていけない。それがどれだけ強くなろうともだ」

 

「要領を得ません。それに緑谷には充分周りに恵まれてる。俺が加わったところで変わりありませんよ」

 

「緑谷少年は酷く無茶をする。それを今日の体育祭で嫌と言うほど思い知らされた。そんな時に隣にいるべきなのは私のような老兵ではなくヒーローの新しい種である君たちなのだ。それに何より事情を知っている者が隣にいるという事実はひどく安心できるものなんだ。無茶を承知で言ってるのはわかってる。断ってくれても構わない。どうかお願いできないか」

 

 そう言いながらオールマイトはさらに深く頭を下げる。伏黒はこの目の前の平和の象徴は本当に緑谷に全幅の期待と信頼を置いているのだと理解すると軽く頭を掻いてオールマイトの顔を上げさせる。

 

「あんまり期待はしないでくださいよ」

 

「え、じゃあ」

 

「できる範囲で良ければ」

 

「―――ありがとう!伏黒少年!」

 

 伏黒が了承するとオールマイトは再度深く頭を下げる。人に物を教えられるほどの力はないし教え切れる自信もないが一からやだてみようと思いながら伏黒は緑谷と向き合う。

 

「明日は空いてるか?」

 

「え?まあ、一応は」

 

「ギプスは?」

 

「明日取れる、筈」

 

「じゃあ明日訓練場で集合な。予約はそっちで取っといてくれ」

 

「え、う、うん!伏黒君!ありがとう!」

 

 底抜けに明るく礼を言う緑谷にバツが悪そうにしながらバックを取った伏黒は仮眠室からその場を後にした。

 

 

「えっらい、話になったもんだな」

 

 電車の乗り換えを2度行う際に何度か「体育祭の子だ!」と言われて詰め寄られることが多々ある中、伏黒はようやく歩いて帰れる範囲の駅に着くとホームを降りて家路を歩く。オールマイトに聞かされたコミックじみた話は今なお伏黒を驚かせていた。

 

「それにしても……ハッ」

 

 植蘭中始まって以来の問題児と謳われていた自分が随分と偉くなったもんだと自嘲する。そうこうしている間に伏黒は自身の住まいであるアパートに到着する。するとそこには

 

「……なにやってんだ。拳藤」

 

 アパートの前でビニール袋片手に座り込む拳藤がそこにはいた。伏黒の声に反応したのか伏せていた顔を上げると。顔を明るくする。

 

「おかえり、伏黒」

 

「おかえり、じゃねぇよ。え、ちょっと待てずっとここにいたのか?」

 

 今は午後の6時。いくら夏場とは言えうっすらと暗くなってくる時間帯。終わったのが3時頃であったため、あれからこのクソ暑い中3時間も玄関前で待っていたのかと戦慄する伏黒。

 

「え、ちょっ、ちょっと待て!違う!違うからな!?今さっき来たばっかだから!?十分くらい前に来てそろそろ帰るかってなったタイミングでお前が来ただけだからな!?」

 

「そ、そうか」

 

 伏黒が軽くと言うかドン引きしているのに気づいたのか慌てながら手を振って否定する拳藤。その様子を見た伏黒は慌てように疑ったが少なくとも嘘の気配は見られなかったため信じることにした。

 

「まあいい。取り敢えず上がれよクソ暑いだろ?」

 

 ポケットから鍵を出してドアを開けると先に拳藤が入るように促す伏黒。お言葉に甘えてと拳藤が入ると扉を閉めて鍵を掛ける。

 

「久々に来たけどミニマリストというか相変わらず味気ない部屋だな」

 

「ほっとけ。で、何のようだ」

 

「ん、ああ。それはな」

 

 そう言うと拳藤は部屋の中央にある丸机にビニール袋を下ろして中にあった箱を開ける。中には2つのケーキが入っていた。

 

「……何でケーキ?」

 

「いや。お前今日優勝したろ?そのお祝いだよ」

 

「いや、何考えてんのお前?今日お前も出場してたろ」

 

「それでもお前を祝わない理由にはならないよ」

 

 そこまで言う拳藤に伏黒は軽く絶句しながらも少ししてプッと吹き出して笑い始める。そんな伏黒に怪訝そうな顔をする拳藤。

 

「ククク、いや何でもねぇよ拳藤。ありがとうな」

 

「お、おう。じ、じゃあ、食べようか!?」

 

 伏黒は笑いながら礼を言うと拳藤は少しキョドりながら食べるように促す。伏黒は「ああ」とだけ言うとケーキを口に運ぶ。

 

 不思議と今日食べたケーキは普段食べるよりも美味く感じた。

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