伏黒のヒーローアカデミア   作:アーロニーロ

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今回は前回とは違ってせいぜい六千文字と少なめです。


ヒーローネーム、そして職場体験

 

 

「なあ、伏黒。お前はどこを受けようと思ってんだ」

 

 一時限目をフルで使ったヒーロー名の考案後はいつものようにヒーローに課せられる法律や通常の高校でも執り行われるような授業が行われ、今は昼休憩の時間となった。そして伏黒は現在、食堂で出会した拳藤と共に昼飯を食っていた。

 

「まだ検討中だ4000件もあるからな」

 

「4000!?はぁー、さっすが体育祭優勝者。私の4倍かよ」

 

 拳藤は驚いていたが、伏黒も拳藤に申し込まれた事務所の数に驚いた。確かに伏黒の4000件は脅威だ。それでも今大会のスリートップを除けば伏黒の知る限り最高値だし何だったら3桁超えて4桁に突入しているのは普通じゃない。

 

「お前はどうなんだ拳藤」

 

「んー、私はミルコにしようかなって思ってる」

 

「ミルコってあの?」

 

「うん、まあね」

 

 それを聞いて伏黒は再度驚愕する。ラビットヒーロー《ミルコ》。ヒーローの前にあるラビットの言う通り個性が《兎》。そこだけ聞くと弱そうに聞こえるが侮るなかれ実力は個性《ドラゴン》というインパクトも強さも凄まじいリューキューを差し置いて日本に存在する女ヒーローNo.1。ヒーロー全体で見ても必ずトップ10入りを果たすほどの超が付く有名ヒーロー。

 

 特筆すべき点は美しい見た目もそうだがその実力。メディアを意識せずただひたすら愚直なまでに自身の強さを魅せるだけでランキング入りを果たしているのだ。そして何よりも特徴的なのが

 

「事務所を構えずにサイドキックも連れない独自の活動体系を取り入れてるんだったか?後進には完全に興味ないと思ってたぞ」

 

 そう弛むべき仲間がいない。たった1人の腕っぷしでヒーロー界を駆け巡る姿は女ヒーローやヒーローを目指す女性にとって憧れの的となっている。

 

「いやぁ、私も初めは何かの間違いだと思ったよ?でも本当だってわかったら断る理由なんてどこにもない。私の欠点を克服するために今最も必要な人だと思うから」

 

「機動力か?」

 

「うん」

 

 そう言いながら拳藤は自身の拳を見つめる。確かに拳藤は強い一発の重さだけ見たら間違いなく一年の中でも緑谷に並んで最高峰に位置づけられるほどに。体育祭で必殺技を撃ち合う前に爆豪の全力爆発を喰らってなければ押し勝ってたのは間違いなく拳藤だと断言できるほどに。しかしその実、弱点がある。それこそが機動力。

 

 あの四方数十メートルに囲まれ限定された空間だったからこそ拳藤は爆豪相手にそこそこ優位にとれた。しかしこれが範囲の広い場所であったらそうはいかなかったかもしれない。現に伏黒も拳藤との組み手では広く使って撹乱する戦法で必ず挑むほどだ。

 

「それさえ克服すれば私は必ず今以上に強くなれる。そん時はお前もぶち抜いて一位の座に着いてやるよ」

 

「やれるもんならやってみろ」

 

 猛々しく笑う拳藤に伏黒はフッと笑うとその挑戦を受け取る。その後はお互いに笑いながら話に花を咲かせていると、拳藤が思い出したかのようにある話題を上げる。

 

「そう言えばお前のヒーローネームは何なんだ」

 

「あ?あー……《シャドウシュピール》」

 

「なんて?」

 

「《シャドウシュピール》。影の演劇って意味だ」

 

 伏黒の言葉に以外だったのかポカンと呆気に取られる拳藤。しばらくすると軽く吹き出してくつくつと笑い始める。

 

「…なんだよ」

 

「クク、いやだって、あの伏黒がちゃんとヒーローネーム考えるとは思ってもなくて」

 

「そう言うお前は何なんだ」

 

 拳藤が笑う姿に伏黒は少しムッとしながらさぞやいい名前なんだろうなとでも言いたげに問いかける。

 

「私?私は《バトルフィスト》。イカしてるだろ?」

 

「お前らしいよ」

 

 胸を張ってそう答える拳藤に伏黒はため息を吐きながらそう答えると昼飯のカレーを一掬いして口に放り込む。そうしていると雄英の食堂に取り付けられているテレビからヒーロー殺しのニュースが流れてくる。

 

「ステインか…」

 

「懐かしいな。あれから大体、一年くらいか?」

 

 伏黒にとってヒーローを目指すきっかけとなったヴィラン、【ヒーロー殺し】ステイン。伏黒はあれから色々と調べてみたのだが、わかったこととというのが各地でランダムにプロヒーローを襲撃してきた凶悪犯でこれまでに17人を殺害・23人を再起不能に追い込んでいることとクラスメイトの兄を再起不能にした存在であるということくらいだ。

 

「懐かしいって…伏黒君。ヒーロー殺しと会ったことあるの?」

 

「誰だ?」

 

 伏黒は懐かしさと忌々しさがブレンドした何とも言えない感覚に浸っていると後ろから声をかけられる。誰かと思い振り返ると食べ終わったのか空のプレートを持った緑谷と麗日、そして飯田がそこにはいた。

 

「盗み聞きって…お前、趣味が悪いぞ」

 

「ご、ごめん。でも聞こえてきちゃって」

 

「ま、気にすんなって。伏黒はこう言ってるけどこんな場所で話してた私たちが悪いから気にしなくていいよ」

 

 伏黒が一言文句を言うと申し訳なさそうにする緑谷。そんな緑谷に対してこちらも悪かったとフォローをする拳藤。すると今度は少し食い気味に飯田がこちらに詰め寄ってくる。

 

「すまない。どんなヴィランだったんだ?」

 

 朝から騒がしいことに対して委員長らしい小言を一言も言わなかったことから違和感があった。そしてその違和感は飯田の目を見て確信する。濁っていたのだ。普段は恐ろしいほど真っ直ぐな目である筈なのに。そんな飯田を見て伏黒は溜め息を吐くと

 

「言わねぇよ」

 

「ッ。何故だ」

 

「知りたきゃ鏡でも見ろ」

 

 飯田の質問には答えないと素っ気なく応える。飯田がヒーロー殺しに興味を持ってこんなドス黒い目をする理由はわかっていた。兄であるヒーロー【インゲニウム】がヒーロー殺しによって再起不能にさせられたことだろう。故に何をしようとしているのかもわかっている。飯田は伏黒がテコでも話さないと悟ったのか険しい顔をしながらその場から離れていく。

 

「ちょっ!伏黒くん!そんな言い方はあらへんやろ!」

 

「何でだ。いつになるかわからないが、クラスメイトが斬殺されたってニュースを見る可能性を減らしたんだ。これ以上ない配慮だろ」

 

「そんなに強いの?ヒーロー殺しって」

 

「一年くらい前にヒーローが個人で汚職を行ってたって事件あったろ?その現場に居合わせててな。まあ、ヒーローが汚職を行う前に首だけになってたけどな。その首だけにした犯人がステインだった。その関係者逃すために戦ったんだが……結果は惨敗だった」

 

 しかもあからさまに手を抜かれたし、と伏黒が言うと麗日と緑谷は信じられないといった顔で伏黒を見つめていた。一年A組のクラスメイトの中でも伏黒は格別に強い。遠中近、全ての間合いをほぼ完璧にカバーできる強個性やそれに驕らず鍛えられた肉体と体術も合わさってほとんど隙がない。

 

 現に雄英体育祭では怪我らしい怪我を負うことなく馬鹿げた攻撃範囲を持つ轟や機動力、攻撃力共に優秀な爆豪を抑えての優勝を果たしているほどだった。

 

「う、嘘やろ?」

 

「本当だよ。緑谷は以前、相澤先生が一芸だけじゃあヒーローは務まらないって言ってたろ?」

 

「う、うん」

 

「ステインはその逆。用いる技術全て、ヒーローを狩るってことに一芸特化させた人間だ。それ故に弱個性だけどアホみたいに強い」

 

「あの事件、ステインも関わっていたのか……。そうかだからその日のニュースでステインの個性の詳細が明かされたのか!」

 

 目を見開く2人を尻目に伏黒は飯田のことを思い出す。恐らくだが飯田はヒーロー殺しが現れた保須市に行く。何せヒーロー殺しは癖か何だかは知らないが現場に現れては必ず4人以上のヒーローに危害を加える。今、伝えられているだけでも【インゲニウム】で2人目。ということは後、もう2人を狩るまで保須を離れることはあの信念を貫くために全てを捧げたあの男に限ってまず有り得ない。

 

 もしもそれを飯田が気づいていた上で行動しているのだとしたら。

 

「そん時は飯田の命日だな」

 

「そんな恐ろしいこと言わんといてや!」

 

「だったら説得しとけ。言っとくが話した感じステインは私怨で動くタイプは女子供関係なしに殺ると思うぞ」

 

 伏黒の言葉に声を荒げる麗日は頭を抱えると緑谷と共に飯田を追ってその場を離れる。

 

「お前も手加減しないなぁ」

 

「ああでも言わないとマジで手遅れになるのが関の山だろ。って、そうだ拳藤。お前に頼みたいことがあって職業体験先を選ぶの手伝ってくれないか。ヒーローには疎いんだ」

 

「ん、わかった。どれどれ…って多過ぎだろ!!」

 

 拳藤が伏黒が懐から出したリストを見るや否や、大きく声を上げる。

 

「うっわ、凄いなこれ!エンデヴァーにギャングオルカやベストジーニスト、それにホークスまで…!有名どころのバーゲンセールかよ!マジでとんでもないな」

 

 伏黒に寄せられたリストを見ながら何やら楽しそうに騒いでいる。一通り目を通した拳藤は伏黒に尋ねる。

 

「今のところここだって思える場所はないのか?」

 

「無い。ハッキリ言って名前は知ってても何してる連中なのかはあんまり知らないしな」

 

「お前…。いや、ヒーローに興味持ったの最近だったよな。えー、じゃあお前の性格的に戦闘系の職業先の方がいいよな。となるとエンデヴァーとかギャングオルカ、エッジショット、後は……」

 

 何件か声に出して候補を上げていく。すると拳藤はある名前に目が行く。

 

「サー・ナイトアイ?」

 

「誰だそれ?」

 

「オールマイトの元サイドキック。かなり有名だぞ?」

 

 それを聞いた伏黒はかなり驚く。あの1番強い状態を発揮できるのが1人で戦う時ですと言われても疑わないほどに強いオールマイトがサイドキックをもっていたという事実に。

 

「そんな奴いたのか」

 

「うん。確か何年か前に少しの間だけサイドキックを勤めてたんだよ」

 

「そうか……。よしこれにするわ」

 

「え、いいのか?もうちょっと考えなよ」

 

「正確にはこのヒーローを第一候補にして他のヒーローのことも調べながら決めてくだけだ。まだ確定じゃねぇよ」

 

 伏黒の言葉にもう少し慎重に選べと焦る拳藤。流石に今速攻では決めないと告げると拳藤は安心したようにホッと息を吐く。そして時計を見ると昼休憩が終わりかけていることを知る。

 

「お!じゃあ今日はここまでだな。またな【シャドウシュピール】」

 

「じゃあな【バトルフィスト】」

 

 何故かヒーロー名で伏黒を読んでくる拳藤に伏黒も同じくヒーロー名を呼んで別れを告げる。振り返ると快活に笑う拳藤が手を振っていたため伏黒も手を振りかえしその場を後にした。

 

 3日後、伏黒は数ある選択肢の中からヒーローを選び出して相澤な提出。そして時は流れ、いよいよ職場体験当日となった。

 

 

「全員コスチューム持ったな?本来なら公共の場じゃ着用禁止の身だ。落としたりするなよ」

 

「は~い!!」

 

「伸ばすな。はい、だ。芦戸」

 

「はい…」

 

 職場体験当日。A組の生徒達はそれぞれの選択した職場体験先へと向かうべく、駅に集合していた。相澤は芦戸の返事に対して軽く注意した後に生徒達を送り出す言葉をかける。

 

「わかってるとは思うがくれぐれも体験先のヒーローに失礼の無いように。行ってこい」

 

「「「はい!!!」」」

 

 元気よく返事をした生徒達はそれぞれの職場体験先へと向かう準備をする。伏黒は与えられた嫌にハイテクなアタッシュケースにも似たバッグを持って駅へと向かう。

 

「伏黒ちゃんはどこに向かうの?」

 

「梅雨ちゃんか。俺は都内だ。それもそう遠くはない」

 

「そう。私は海辺の方だから少しだけ遠いの」

 

「俺は九州の方だからな。飛行機で移動だ。それでは蛙水、伏黒。互いに健闘を祈る」

 

「おう」

 

「ケロ、常闇ちゃんもね」

 

 話しかけてきた蛙水と常闇が互いに話しかけそれぞれが頑張るようエールを送るとその場で解散する。そして伏黒が電車に乗る為に改札を通ろうとすると、ふと緑谷が飯田に話しかけているのが目に入る。

 

「飯田君!本当にどうしようもなくなったら言ってね?友達だろ?」

 

 その横で麗日も心配そうに飯田を見つめていた。それに対して飯田は明るくもどこか不安を抱かせるような笑みを浮かべ、

 

 「ああ」

 

 一言返事をすると飯田はそのまま行ってしまった。それを見た伏黒はこれは望み薄か?と飯田の行く末に一抹の不安を覚えつつも自己責任だなと思い直し、自身が望んだ職業体験場所へ向かうべく改札を通った。

 

 

「此処か…」

 

 電車に乗って約1時間。普段であれば長いと思える距離も他のクラスメイトが飛行機や新幹線を用いて移動していることを考えるとかなり近いなと、伏黒は考え直す。目の前に広がる長方形の潔癖な建物はいかにもな空気を漂わせ否が応でも伏黒の身を引き締めさせる。自動ドアを通り、目の前にあるドアをノックする。

 

「失礼します。雄英高校1年の伏黒恵です。職業体験の件で来ました」

 

 しかし応答がなく疑問に思うと薄ら部屋から何やら機械の駆動音と女性の大きな声が聞こえてくる。流石に妙だと思い多少不躾だとは思いながらも伏黒は扉を開ける。するとそこには

 

「アッヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!」

 

「何だ大きな声が出るじゃないか」

 

 リーマン風の男が下乳出したコスチュームを着こなす女性をTICKLE HELLと書かれた機械につないでこしゃばしてる光景が目の前に広がっていた。

 

「」

 

 伏黒。目の前に広がるあまりの光景にオールマイト時以来のフリーズ。すると扉を開けた音に反応したのかリーマン風の男が振り返る。ギロリという効果音がつきそうなほど目つきの悪さにメガネをかけた姿は格好も相まってインテリヤクザという言葉がしっくりきた。

 

「おや?ああ、職場体験生…もう着たのか。だがノックも無しに入り込むのは礼儀がなってないな」

 

「」

 

「おまけに無視か……。礼儀知らずだが、まあいい。ここに来たからには自己紹介はいらんだろうが礼儀としてやらせてもらおう。―――私はサー・ナイトアイ。一時的とは言え今日から君の上司に当たる人間だ。次は君の番だ。できればユーモア溢れたものを頼む。大きな声でな」

 

 そう言いながらナイトアイは先に着くとなかなかの無茶振りじみたことを言いながら伏黒に自己紹介を促す。あまりの出来事にフリーズしていた伏黒だったが自意識を取り戻すと懐を探りスマホを取り出すと、

 

『ハイ、110番です。事件ですか事故ですか』

 

「事件です。サー・ナイトアイを語るリーマンがヒーローと思しき女性を機械で拘束してこちょばしてます」

 

 迷うことなく警察に通報した。

 

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