伏黒のヒーローアカデミア   作:アーロニーロ

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職業体験、そして実力差

 

 

「あーーッははははははははははははははははははははは!!!!」

 

 胸に1000000の数字が書かれたヒーロースーツを着て赤いマントを羽織ったこれぞthe ヒーローといった風貌で筋肉質の男が事務所のど真ん中で呵呵大笑といった具合で目尻に涙を浮かべながら笑っていた。そんな様子を見たナイトアイは険しい顔をすると。

 

「笑うなミリオ」

 

「これが笑わずにいられますか!?」

 

 少し気まずそうな顔をしてミリオと呼ばれた男に笑うのを辞めるよう支持する。

 

「だ、だって、ングw、職場体験、ブフw、に来た1年にフヒw、つ、通報されたって、コフw、しかも淫行って、クヒw、嗚呼ダメだ、アハハハハハハハハハ!」

 

 途中まで耐えていたのだが限界がきたのか再度床に転げながら笑い始める。

 

 あの後の処理は割と大変だったのかナイトアイは手で頭を押さえる。遡ること10分前、伏黒が何やってるのか理解したサー・ナイトアイは急いで駆け寄ると伏黒のスマホを奪取。すぐにリモートに切り替え机にしまってあったヒーロー許可証や身元を証明する身分証などを見せて自身が本物のナイトアイであることを証明する。何度か疑われたが最終的に信じられてナイトアイの手に手錠(わっぱ)がかけられることはなくなった。

 

 そして帰って来たミリオという男が肩で息をするナイトアイを見て不思議に思い伏黒に何があったか問われたため伏黒が一から十まで説明すると吹き出して爆笑し、今に至る。

 

「あー、面白かった!いやー、初手で上司を淫行で通報するってユーモア全開で良いじゃないですか!」

 

「あれはユーモアとは言わん」

 

「いーや!言いますね!それに俺は気に入りましたよ!」

 

 少しして笑いから立ち直り、ナイトアイにそう言うと顔を体ごと伏黒に向けると伏黒目掛けて歩き始め、手を伏黒に差し出しながら自己紹介をする。

 

「俺は通形ミリオ!一応、雄英校3年だから君の先輩にあたるな!ヒーローネームはルミリオン!」

 

「ヒーロー科の伏黒恵です。ヒーローネームはシャドウシュピール。よろしくお願いします、先輩」

 

 伏黒は差し出された手を取って握手に応じるとミリオ力強く手を振って笑いながら振るう。そこで伏黒はミリオの筋力に驚かされる。さらによく見てみると体幹がしっかりとしていて殆どズレていない。

 

(強い)

 

 ふざけてはいるが思わずそう確信してしまうほど強さを実感させられると。握手をやめてナイトアイに向き直り、伏黒もそれぞれに習った。それを見たナイトアイは指でズレたメガネを治すと一から説明開始した。

 

「それじゃあ改めてサー・ナイトアイだ。座右の銘は『ユーモア無き世に笑いはない』だ。今回君を選んだのは他でもないメリットを感じたからだ」

 

「メリット、ですか?」

 

「復唱するのはとても良いことだ。索敵能力に戦闘、どれをとっても一年の枠を超えている。流石だ」

 

 伏黒は「ありがとうございます」と言いながら座右の銘の割にユーモアさの欠片もないことに困惑。本当にオールマイトのサイドキックだったのかと疑問に思もうが、それ以上に醸し出される風格にはプロヒーローとしての貫禄をありありと感じさせられる。

 

「今我々は警察の協力のもと、様々な事件を追っている。そこで目に止まったのは君だ。今回は戦闘面では私達に任せて君には犯人の捜索を願いたいというわけだ」

 

「……戦闘面では期待してないと言われた気がしましたよ」

 

「事実だ」

 

 そこまで言われると伏黒は流石にキレた。確かに現役バリバリのナイトアイや今伏黒の後ろにいるミリオと比べれば未熟なのかもしれない。しかしそれでも伏黒が乗り越えて来た受難の数や質は決して侮っていいはずはないのだ。それを見透かしていたのかナイトアイはさらに言葉を続ける。

 

「不服といった顔だな。しかし私からすれば今の君にはそれ(索敵)以外の旨みを感じない。社会にどう貢献できるのか、他者に対してどう貢献できるのかを示してみろ」

 

「だったら現場に行かせてください。言葉よりも行動の方がアンタを分からせられそうでしょ」

 

 伏黒の言葉にナイトアイはホウと言うと少しだけ頬を緩めた。その様子にミリオは「おお!」と驚く。少し考えてからナイトアイは伏黒に指示を出した。

 

「シャドウシュピール、だったか?示したければ現場以外に1日1時間、いや20分だけミリオと戦え。それで一発でも入れられたらお前の実力とやらを認めよう」

 

「上等ですよ」

 

「そうか。今日は一時解散だ。詳しいことはミリオから聞くといい」

 

 そういうと先ほど縛られていた女性―――バブルガールの持ってきた書類に目を通し始める。それを見た伏黒は出て行こうとするミリオの後を追って退室する。すると、

 

「いやー!いいね君!」

 

 伏黒の肩を掴みながらミリオは満面の笑みを浮かべ、嬉しそうにそう言った。

 

「いいねって何がですか?」

 

「サーが珍しく機嫌がいいんだ!少しだけど君を認めてる証だよ!」

 

「は?機嫌がいい?あれが?」

 

 思わず上司をアレ呼ばわりする伏黒。思い出すのはナイトアイの表情。無愛想極まりないあの顔を見たら子供は間違いなく泣き出す。それが容易に想像できた。そして何よりアレより(機嫌が悪くなった姿)があるとか逆に見てみたい気持ちがあった。

 

「いーや、機嫌はいいね!何せ僅かにだけど笑ってたろ?それがその証拠なのさ!」

 

「あれ笑ってたのか……」

 

 伏黒がそう呟くと「そうそう!」と言いながらミリオは肩を叩く。ここまでの会話で伏黒はミリオという男か裏表のない究極の善人であることを理解する。底抜けに明るく周りすらも巻き込んで笑わせようとする姿はどこかオールマイトを彷彿とさせた。

 

「それでまだ巡回まで時間はあるしその間にサーの指示通り組み手でもしようか?」

 

「いいんですか?確かに先輩は強そうですが、巡回前に怪我しない保証はないでしょう」

 

「ハハハハ!!ありがとう!だけど心配無用さ!なにせ俺はルミリオン!まだ未熟だからオールとは行かずとも100万の人を笑わせて救う予定の男!後輩の君を可愛がることくらいわけないさ!」

 

 歯を見せ胸に親指を当てながら笑うミリオに嘲りや慢心はないことから本気で伏黒を完封できると思っているのがわかる。不思議とその態度に怒りは覚えず少しだけ気が抜けるような感じはオールマイトに似通った何かを感じさせた。

 

「お手柔らかにお願いします」

 

「おっしゃあ!じゃあ、コスチュームに着替えて地下のフロアに集合ね!」

 

 そう言うとミリオは地下は伏黒は更衣室に向かった。

 

 

「うんうん!イカしてるじゃないか!」

 

「ありがとうございます」

 

 伏黒の胸と首元にある金色のボタンを除いて上下共に黒寄りの紺色のコスチュームを見たミリオは満足気にそう頷きながら褒める。地下に広がる少し広めのフロアでは戦いに備えた準備運動をする伏黒と戦う気満々のミリオが相対していた。

 

「よし、じゃあいつどっから来てもいいよ。胸を貸したがるからね!」

 

「よろしくお願いします」

 

 ミリオは先手を伏黒に譲ると伏黒は様子見ということで攻守走すべてに優れた【玉犬・渾】を呼び出す。相手は雄英の先輩。ナイトアイのセリフから見てもかなりの信頼を置かれていることから強さは間違いなく伏黒より上なのは容易に想像できた。

 

「テレビ越しでも見てたけど迫力もあっていい個性だね」

 

「行け、【玉犬】」

 

 伏黒の言葉が合図となって【玉犬】は爪を剥き出しにしてミリオに殴りかかる。やりすぎかと思うかもしれないがプロから完全に信頼を獲得している以上は気が抜けないため全力で挑むことにした。僅か一歩で数十メートルあった差が一瞬で縮まる。そして【玉犬】の爪が顔に目掛けて迫るが、一向に避ける気配がない。回避も防御も不可能な域に達して伏黒はミリオの顔面が吹き飛ばされる未来を想像した。

 

「は?」

 

 が、【玉犬】の爪はミリオの顔に当たることはなく、まるでそこには誰も存在していなかったかのようにすり抜けた(・・・・・)

 

「おいおい、顔面かよ」

 

 なんて事なさそうに語るところから錯覚ではないことは確定だった。すり抜けてもなお爪を用いて攻撃する【玉犬】を見ながら伏黒はある答えに到達する。

 

「すり抜け、いや【透過】か?」

 

「大当たり!それじゃあ、今度はこっちから行くぞ」

 

 ミリオが腰に当ててた手を解くとまるで地面に溶け込むかのように消え失せる。伏黒は【玉犬】に索敵をさせるも匂いすらも消え失せたのか【玉犬】があたりに目線送って困惑していた。それを見た伏黒はコスチュームに追加されていた手のひらサイズの円錐状のサポートアイテムを取り出して考察する。

 

「(消えるタイプの個性が真正面切って堂々と突っ込んでくるとは思わない。となると現れるとするなら)後ろ!」

 

「またまた大当たり!でも、喋る暇があったら攻撃しよう、ねっ!」

 

 伏黒はそう言いながら振り返ると後ろの地面からびっくり箱よろしくミリオが急に現れる。ミリオは伏黒の後頭部目掛けて拳を放つ。が、

 

「元からそのつもりですよ」

 

 伏黒がそう言うと円錐状のサポートアイテムのスイッチを押す。するとプシュという音共に凄まじい勢いで伸び始める。これこそ伏黒が上鳴や芦戸のような素手で触れてはいけない類の相手がいたことを考えて制作を頼んだサポートアイテム、その名も《如意金箍(にょいきんこ)》。最遊記に登場する斉天大聖をモチーフとしたもので伸縮自在で硬度も中々と使い勝手が良く、他にもとある特殊なギミックがある。が、それは今は割愛。

 

 いきなりのサポートアイテムの登場に驚きを見せるミリオ。ここまでは伏黒の予想通りだった。胸を貸すと言うセリフから相手は間違いなく伏黒を下に見ていた。そんな相手に反応出来ないふりをする事でさら油断を誘ってミリオよりリーチのある《如意金箍》でカウンターを決める。後出しだが、放たれる速度は《如意金箍》のほうが早い。確実に不意をついた一撃。普通であれば喰らって倒れるか倒れずとも間違いなく怯みはする。当たらずとも不意をついた以上、確実に伏黒よりも一手遅れるはずだった。

 

 しかし相手は伏黒は知らないが雄英の頂点に立ち、あの相澤をしてエンデヴァーを差し置きオールマイトに最も近いと言わしめた男。断じて普通の枠組みに入れていい存在ではなかった。

 

「いい反応だ!しかし必殺!ブラインドタッチ目潰し!」

 

「なぁ!?」

 

 伏黒のサポートアイテムに怯みもせず、腕を突っ込むとすり抜けていき伏黒の目玉目掛けて指を入れようとする。怯みもせずに突っ込んでくるミリオに驚かされ、目が指に入ろうとする事態に伏黒は目を閉じて行動が止まってしまう。

 

「ほとんどがそうやってカウンターを画策するよね!ならば当然、そいつを狩る訓練!するさ!」

 

「ぐッ」

 

「お!やるねぇ!」

 

 ミリオの拳が当たる直前。伏黒は目を閉じながらでも咄嗟に腕一本だけでもガードに回す。するとほぼ同時に肘あたりに強い衝撃が走る。そして間をおかずして【玉犬】の拳がミリオの立つ場所に叩き込まれる。

 

「ほらほらどうしたどうした!?足を止めてちゃあサンドバッグになっちゃう、ぞ!」

 

「ギャンッ!」

 

「がぁ!?」

 

 が、これもすり抜けて回避すると逆に【玉犬】の顎にアッパーをかましてその勢いのまま固まる伏黒に足払いをかけた後に再度ボディーブローを叩き込む。今度は防ぐ事ができず、伏黒は【玉犬】共々地面に転がさせる。それを見たミリオは何度か満足そうに頷くと凄く楽しそうな声を出した。

 

「うん、いいね!とってもいい!俺のこと完全に初見なのに反応したのもいいけど、俺の攻撃を一発だけだったが目を瞑った状態で防いでた!咄嗟の判断能力がずば抜けてるぜ!【シャドウシュピール】!」

 

「掠らせもし、なかったくせして、よく言いますよッ」

 

 すぐに立ち直った【玉犬】は伏黒の前に立って唸りながらミリオを警戒し、起き上がった伏黒はどつかれた鳩尾をさすりながら呼吸を整え回復に専念する。HAHAという言葉が背景に聞こえて来そうな声でミリオは笑うと伏黒に問いかける。

 

「僕の個性ってなーんだ?」

 

「さっき大当たりって言ってた【透過】でしょう。……まあ、あのワープみたいな挙動の理由は分かりませんけど」

 

「うーん、正直な子だ!ワープの理屈は俺の体が物体に重なった状態で個性を解除すると、体が物体の外側へと瞬間的に弾かれるんだ。その際の姿勢や体の向きを調整することで弾かれる方向をコントロールして地面を伝ってあらゆる場所へと移動するってすんぽーさ!」

 

 伏黒は呼吸が整ったのを確認しつつそこまで聞くとまるでゲームのバグみたいだと思わされる。攻撃をすれば透かされて、逃げようと距離を開ければ擬似ワープで詰められる。相手側からしたらたまったもんじゃない個性に思わず伏黒は「反則じみてるな」と呟く。するとそれを聞いていたのかミリオは少し首を横にふって否定する。

 

「うーん、反則ってのは少し語弊があるな」

 

「はあ?」

 

「反則な個性だったんじゃなくて反則な個性にしたのさ」

 

 そうして始まる通形ミリオの個性の説明。ミリオの個性には致命的な欠点が存在する。それが透過という部分にある。ミリオの透過は全てを透過する。そう全てだ。個性の発動中は、肉体が無差別に光や音、空気さえもミリオの体をすり抜けてしまう。全身に個性を発動すると、何も見えない。何も聞こえない。呼吸さえもできない一時的に完全な無感覚状態へと陥るのだという。

 

 それだけでも厄介だというのにまだ欠点がある。個性の発動中は地面まで透過してしまうため、足の裏にまで個性を発動すると、地球の中心に向かって「落ちて」しまうのである。 そのため、例え、壁を透過する際にもそれなりの工程がいる。

 

 1、こちら側の足以外全身を透過させる→2、向こう側の足の透過を解除して接地→3、残った方の足を透過させ壁抜け完了

 

 といったように、ごく簡単な動作にもいくつかの工程を踏む必要があるのだとか。そこまで聞いて伏黒は絶句した確かに透かせるという面に関しては強いかもしれないが、工程があまりにも多すぎる。伏黒だったら間違いなく一手どこらか3手も置かれる自信があるほどに。

 

「うんうん。いい反応だ。君の考えている通り案の定俺は遅れた。ビリッケツまで一瞬で落ちたさ。だからこそ必要だったんだ誰よりも早い『予測』と『分析』が。そしてそれを得るための経験が。長ったらしくなったね。―――ようこそサー・ナイトアイのヒーロー事務所へ。短い間だろうが君の姿勢次第で得られる経験は君を間違いなく強くする。俺が保証しよう」

 

 腕を組みながら力強く笑うミリオに伏黒は背筋を興奮で震わせる。口の端に垂れた涎を拭うと立ち上がり《如意禁錮》を握りしめ構える。はじめは来る場所を間違えたと本気で後悔していた。しかし今ではここに来てよかった、そう思えるほどの現実で満ち溢れていた。伏黒の様子を見たミリオは笑い返すと地面に溶けこむ。

 

 そこから残り15分間。伏黒はミリオに一撃も加えられなかった。しかしそれでもこの20分間は伏黒にとってこの職業体験が何にも変え難い黄金の経験になる。そう確信できた。

 

 

「いやー!彼、強いですね。サー!」

 

「そうか」

 

 伏黒が疲れて休憩している間に明るく報告するミリオに対して抑揚を感じさせずに答えるサー・ナイトアイ。互いに対極的な彼らだが。彼らはどこか嬉しそうに話し合う。

 

「サーが選んだのもわかりますよ!確かにあの子は化けたら俺以上に強くなるし、今の段階でも俺に喰いつけてる。十分にやれると思います!」

 

 あの後、15分間確かに伏黒はミリオにかすり傷一つ合わせることができなかった。しかしそれでも指摘されたところを修正して取り込んでいき、打てば面白いように響く伏黒がミリオにとって何よりも伸び代のある存在に思えた。

 

「これならあの一件も協力させてもいいんじゃないですか?」

 

「死穢八斎會か?そちらは調べはじめというのもあるが彼にはまだ分不相応だ。仮に協力するのだとしたらこの一件だな」

 

 サー・ナイトアイはそう言いながら机の中にある一枚の手配書を引き出す。それを見たミリオは頬を引き攣らせながら「この一件も十分にヤバい。ヤバすぎてお先ダークネスですよ」と呟く。

 

「指名手配犯、【クリエイター】。彼にはこの一件の解決に協力してもらうこととする。ミリオ、いやルミリオン。お前はシャドウシュピールに協力して事件の解決に急げ」

 

「了解です!サー!」

 

 ナイトアイの注文にミリオが敬礼のような格好をして休んでいる伏黒の元へと向かう。それを見送ったナイトアイは【クリエイター】が引き起こした事件や形跡に目を光らせ始めた。

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