伏黒のヒーローアカデミア   作:アーロニーロ

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接敵、そして因縁①

 

 疲れが体を支配する中で伏黒は何とかミリオかナイトアイに合流しようとその場から脱出しようと思考を巡らせる。すると、

 

 ガタッ

 

 近くで物音が鳴る。それを聞いた伏黒は体に力を入れ直し、立ち上がると【玉犬】を展開する。連続使用や怪我のこともあり、伏黒の頭の奥がズキズキと痛む。しかしそれを無視して進むと豆腐型の小部屋が存在していた。

 

工房(アトリエ)……」

 

 ふと、伏黒の頭に組屋の言っていた工房の存在が過ぎる。まさかと思いながら扉を開ける。中からは強烈なまでの死臭と血生臭い匂いが解き放たれる。思わずえづきそうになるのを必死に堪えながら見渡す。中にある人の体で作られた様々な作品の数々。人の脊髄で出来たハンガーラック、人の皮膚をつぎはぎに繋ぎ合わせて作った布団、人の顔を集めたようなフェイスマスクなど趣味の悪い品々に伏黒は顔を顰める。

 

 するとこのキツイ匂いが入り乱れる中もあり少しだけ時間が掛かったが【玉犬】が音の主を見つけたのか大きく吠える。吠えた方向に伏黒が《如意金箍》を展開しつつ進むとそこには頭の上には輪っかがあり、背中には羽を生やした全身真っ白な少女がいた。一瞬、組屋の共犯を疑ったが服や肌、髪の荒れ具合から組屋に攫われてから何日も時間が経っていることがわかるとそれはないと判断した。

 

 伏黒が一歩詰めるとビクッと体を震わせる。それを見た伏黒はあの組屋といたという事実を思い出し、怯えさせない為にも一度歩くのをやめた。伏黒はどうしたものかと頭を掻く。

 

 「怪我はないか?」いや明らかに憔悴しきった人間が答え切れるとは思えない。子供ならば尚更。「他に敵はいないか?」いやこれはない。【玉犬】には周囲を警戒させてるし、なにより怯えた子供に対して言うセリフではない。

 

 あーでもないこーでもない、と考えているとふとある台詞が浮かぶ。伏黒は自分がこんな台詞を吐く日が来るのかと少しだけ自嘲すると出来る限り安心できるように微笑み、

 

「もう大丈夫、悪い敵はいない。何故って?俺が来た」

 

 某平和の象徴と同じ言葉を言って目線を合わせるためにも屈んで手を差し伸べる。目を大きく広げた少女は初めこそ警戒していたがヨロヨロと立ち上がり、おぼつかない足で伏黒の元へ歩く。少しして手と手が触れる距離まで近づく。そしておずおずと手を伸ばして伏黒の手を掴む。それが限界だったのか少女の目からボロボロと涙が溢れ始める。そんな少女を伏黒は引き寄せて抱きしめると安心しせるように背中を軽く叩く。

 

 

「本ッッッ当にごめん!!」

 

 病院に入院して見舞いに来たミリオの第一声がこれだった。

 

 あの後、泣き止んだ少女と共に伏黒は少しの間だけ休憩すると展開していた【玉犬】を用いて外に出るルートを探していた。幸いにも組屋は基本的に徒歩で外に出ていたこともあって組屋の匂いを辿っていれば外に出るのは容易だった。怪我もあって抱えるのが酷く苦労がいったが、距離はそこまでなかったこともあり凡そ10分程度で脱出できた。

 

 その後、伏黒はミリオ、もしくはナイトアイと合流すべく。ミリオの匂いを辿っているとそれよりも先にバブルガールと出会う。手を繋がれた少女と頭から血を流す伏黒を見て絶叫すると手慣れた様子で救急車を呼び出し、そしてその後すぐにミリオとナイトアイに連絡を入れる。

 

 すると救急車が来るよりも早く普段から浮かべていた笑みの消えたミリオが「伏黒くん!」と焦燥に塗れた声で伏黒に駆け寄る。そしてバブルガールと共に伏黒の怪我の処置と伏黒が保護をした少女のメンタルケアを行った。それから5分程度で救急車が来ると伏黒は近くの病院へと搬送され、今に至る。

 

「別にいいですよ。生きてるんですし」

 

「完全に俺の落ち度だ。ハッキリ言ってヒーロー免許を取り上げられても何の文句も言えない」

 

「本当に大丈夫ですよ。こういう職業だっていうのは俺も十分に理解してますから」

 

 伏黒の言葉にミリオは再度申し訳なさそうな顔をすると「すまないッ」と言いながら再度頭を下げる。今の伏黒に怪我は一つも見当たらない。別に組屋の攻撃が大したことなかったというわけではない。組屋の手斧を用いた連続の攻撃は腕に負荷を与えて捻挫させていたし、回し蹴りをモロに食らった胸部は骨が折れていた。頭を強く打ったこともあって危ないのでは?という声も上がったほどだ。

 

 今完治している理由は単純。運良く緊急搬送先に出張中のリカバリーガールがいたから。ただそれだけである。ミリオに頼み込まれてきてみると伏黒が頭に包帯を巻きながらベッドで横になっていたのだ。それを見たリカバリーガールが個性【治癒】を発動させて伏黒の怪我を完治させる。怪我の度合いも普段からバカスカと腕を壊滅的なまでに壊している緑谷と比べれば低く、今日にでもすぐに退院できるとのことだ。

 

「サーももうすぐ来る。今は体を休めなよ。ああ、そうだ。聞きたいことがあるなら今答えるから聞いてみな」

 

「そうですね…。ああ、そう言えばあの子は大丈夫ですか?」

 

「あの天使っ子?」

 

 伏黒が気になることといえば伏黒自身が保護したあの少女のことだった。組屋が世話していたのかこれといって栄養失調の気配は見られることはなかった。

 

 しかしそれでもヒーローの卵でもある伏黒が心の底から嫌悪できた異常者と一緒にいた事実がある以上は精神的に何かしら病んでいてもおかしくはなかった。伏黒の心配を察したのかミリオは安心させるように話す。

 

「体の方は大丈夫。だけど心の方は大丈夫とは言い難いかもね。明るい子だったらしいけど少し怯えてポツポツとしか話せてないからね。でも今は誇れ、シャドウシュピール!君のおかげで1人の少女の命が救われたのだから!」

 

 肩を叩きながらそうにこやかに話すミリオ。それを受けた伏黒は「はい」とだけ言って頷くとミリオは満足そうにその場から離れる。そしてそれと入れ替わるようにナイトアイが病室に入る。

 

「…怪我は大丈夫そうだな」

 

 伏黒の体を見渡すと少し間を置いてナイトアイがそう呟く。そんなナイトアイに対して伏黒はその場で頭を下げた。

 

「…なんの真似だ」

 

「すみません。ミリオ先輩の許可があったとはいえ指示を破って個性の使用に踏み切ってしまいました」

 

「状況が状況だ。謝ることじゃあない。それに倒せたのだ今は誇れ」

 

「運が良かっただけですよ」

 

 ナイトアイは誇れと言うが伏黒は運が良かったと自嘲する。伏黒の言葉は事実だった。組屋蹂造は強い。現場で叩き上げられてきたプロのヒーローを10名以上も殺しているのだから。間違っても強化されていたとはいえ怪我を負った伏黒が勝てる相手ではなかった。

 

 勝てた要因はひとえに組屋が伏黒を侮ってたこと、その侮りをついた一撃で顎を砕いたことで動きに制限をかけたこと、そして伏黒のいきなりの強化されたことで混乱したこと。これら三つの要因が揃っていたからこそ伏黒は組屋に勝てたのだ。もし初手で握ってたのが手斧ではなく『竜骨』だったら何もできないまま膾切りにされていた。

 

 万が一、この三つの要因のうち一つでも欠けていたら伏黒は間違いなく屍を晒していた、そう確信できるほど切迫していたのだ。

 

「あの時は2人が来るまでの間逃げに徹していれば良かったのかもしれません」

 

 伏黒がそう締めくくるとナイトアイは眼鏡から下の顔を片手で覆うとフーッと息を吐きながらゆっくりとおろしていく。そして少し俯いたかと思うと。

 

「貴様は阿呆か?」

 

 迷うことなく呆れたように伏黒に対してそう告げた。

 

「は?」

 

 思わぬ言葉に呆気に取られる伏黒。それなりに叱責を受ける覚悟はしていた。結果的に少女は助かったがそれはあくまで結果的に(・・・・) 、だ。最悪の場合、2人仲良く死んでいたことだって十分にあり得たのだから。

 

「ここまで堅物とは思ってもみなかった。そこそこ下に見てたからな、普通は『見返してやったぞ、参ったか』くらいは言われると思ってた」

 

「自覚はしてたんですね」

 

「まぁな」

 

 伏黒はナイトアイが思ってる以上にいい性格をしているなと思わされる。今の今までの伏黒を甘く見ていたような言葉が意図的に言っていたのだから。

 

「意外と必要なのだぞ?それに私はヒーローだ。道行人々もそうだが君のようなヒーローの卵を守ることを仕事としている。故に今回は無茶な真似は避けてもらって知ってもらう必要があったのだ。ヒーローとは何なのかを。だがしかし私が言うまでもなくヒーローが何なのかを君は知っていたらしい。すまない伏黒恵。私の目は未来を見通せても節穴だったようだ。―――君は既に立派なヒーローだよ」

 

 以前は気がする程度だった笑みも今回は伏黒がハッキリとわかるほど綺麗に笑うナイトアイ。それを聞いた伏黒は今までの行動は無駄ではなかったと知り胸の奥が少しだけ熱く感じた。そしてミリオの以前言っていた『過程』の意味を少しだけ理解できた。

 

「さて。これからお前には二つの選択肢がある。一つ目はこのまま病院でゆっくり休むこと。私はこれをお勧めする。体力の消耗が少なく怪我も完治したとはいえ怪我した事実には変わりないからな。二つ目はこのまま活動を続行し今回緊急で入った仕事の手伝いをする。後者は流石にアシストを頼むが、あまりお勧めはしない。案件が案件だからな」

 

 ナイトアイは指折りで数えて今後の方針について話を始める。伏黒はそれを聞きながら少し考えるとなんて事はなさそうに答える。

 

「後者の方で」

 

「…何故だ。経験ならば今回の一件で十分過ぎるほど得たはずだ」

 

「それでもなんて言いますか。生まれて初めてヒーローっていうのを実感できた。それを忘れないうちに体に覚えさせたいんです」

 

 伏黒の言葉にナイトアイは「ハー…」とだけ息を吐くと立ち上がって今後の展開を話し始める。

 

「お前の気持ちはよくわかった。今日はもう休め。事務処理などな私たちで終わらせる。そして明日、私たちは保須市へと向かう」

 

「保須市……。ッ、それってまさか」

 

「ああ、ヒーロー殺しについてだ」

 

 その言葉を聞いた伏黒は錆びつき刃こぼれが酷い刀とサバイバルナイフを持って立つステインの姿を思い出す。自身がヒーローを志すきっかけとなった因縁の相手を思い出して、背筋に緊張が走る。それを見たナイトアイはこれ以上励ましとかの言葉はいらないと判断してその場を後にすべくドアに手をかける。そしてふと思い出したかのように振り返る。

 

「忘れていた。お前宛に伝言だ」

 

「伝言?」

 

「ああ、あの少女からだ」

 

 思い出すのは憔悴しきって言葉も辿々しくしか話せない少女の姿。痛ましい姿で話すのにはもう少し時間がかかるのは明白なはずだった。それなのに話せたことに伏黒は疑問を抱き、その伏黒にナイトアイは告げる。

 

「『助けてくれてありがとう、ヒーロー』だそうだ」

 

 なんて事はない言葉の筈だった。助けられたからそれに相手は答えたただそれだけなのに。

 

「その気持ちを忘れるなよ。シャドウシュピール」

 

 そう言うとナイトアイは今度こそその場から去って行った。伏黒は自分が『生き甲斐』というものとは最も縁遠い人間だと思っていた。だけど何故だか頭にありがとうの言葉が過ぎると酷く胸が高鳴る。伏黒はそんな思いを胸に秘めながらしばらくすると疲れもあり眠りについた。

 

 

 あれから1日が経過して職場体験3日目に突入。リカバリーガールから「あんまり無茶すんじゃないよ」と言われた伏黒も体の倦怠感も取れて万全の状態に戻った。それを見たナイトアイも問題ないと判断したのか保須市へ行くことを許可した。

 

 電車に揺られながらナイトアイとバブルガールとミリオと伏黒、そして死穢八斎會の件で一時的にナイトアイの事務所から離れていたムカデの個性を持つセンチピーダーたち5名で保須に向かっていた。道中で過去にヒーロー殺しと接敵したことのある伏黒が注意しなければならない事や戦闘スタイルについての説明をしている間に保須市に到着した。

 

「おっしゃあ!到着したぞ〜、保須市ー!」

 

「ルミリオン先輩。落ち着いてください。みんな見てます」

 

 到着早々、世界の果てまで行ってきそうな番組なやるようなテンションではしゃぐミリオを伏黒は諌める。

 

「シャドウシュピール。お前は今回は私と回るぞ」

 

「わかりました」

 

「それじゃあ、その前に手を出せ」

 

 ナイトアイが今回は伏黒と共に行動するようにと命令し伏黒がそれを承諾すると手を出すように命じる。不思議に思った伏黒は首を傾げるも悪いようにはされないと思い迷う事なく差し出す。すると伏黒に触れたナイトアイの瞳が黄色からまるで精密機械を思わせる紫色の複雑な機構のように変わる。

 

 それを見た伏黒はナイトアイの個性の発動条件が触れる事だと理解する。そして触れたナイトアイは驚愕したように目を見開くとフーッと言いながら眉間を揉みほぐす。

 

「? どうしたんですか?」

 

 まだ会って数日とはいえ普段は見ないような顔をするナイトアイに困惑する伏黒。そんな伏黒にナイトアイは呆れたようにため息を吐きながら一言。

 

「なんだお前は。厄日ならぬ厄週か?」

 

「はぁ?」

 

 そう呟くナイトアイにどういうことかと聞こうとした瞬間、急にスーツ型のコスチュームの懐に腕を突っ込み何やら指程度の大きさの何かを何もない場所に投擲した。この意味もない行動の結果は、

 

「ぽきゃぁ!?」

 

 空から降ってきた何かに直撃することとなった。伏黒が声のした方に目を向けるとそこには脳をむき出し、灰色の肌をした怪物がそこにはいた。そして伏黒の頭をよぎるのは学友の情報。聞いていた姿と多少誤差はあるものの間違えようがない。

 

「脳無!」

 

 あの日、雄英のUSJを襲撃しオールマイトをも追い詰めてみせた個体と瓜二つな存在がそこにはいた。

 

 ドゴォォォォォン!!!

 

 伏黒の戦慄とした声とほぼ同時に爆音が鳴り響く。5人が音のした方角を見ると、建物の間から放たれる炎の赤い輝きとそれに伴う煙が立ち昇り、そのすぐ近くで羽を生やした脳無やUSJのタイプと同様に黒い肌の脳無と数体の脳無が暴れているのが確認された。

 

「サー!」

 

 それを見たミリオは駆け寄るのではなくナイトアイに指示をよこすように名前を呼ぶ。それを聞いたナイトアイは各自の行動に指示を出す。

 

「わかっている。予定変更だ!私はここにいる脳無の相手をする!バブルガール、お前は怪我した人間の搬送及び私のアシストを個性を使って撹乱しろ」

 

「わかりました!」

 

 バブルガールには自身の援護を。

 

「センチピーダー、お前は民衆に避難勧告を。それが済んだら他のヒーローと連携して戦え」

 

「わかりました」

 

 センチピーダーには避難勧告兼、他の場所での戦闘を。

 

「そしてルミリオン、お前は前回同様伏黒と共に行動しろ。かなりの苦難が待ち受けているが前回みたいにしくじるなよ」

 

「了解!」

 

「シャドウシュピール、聞いての通りルミリオンと行動しろ」

 

「わかりました」

 

 ミリオと伏黒には前回同様に共に行動するよう指示を出す。

 

「いい返事だ。では、行け!」

 

「「「「了解!」」」」って、そうだナイトアイ!脳無は!」

 

 ナイトアイがそう締めくくるとその場で行動しようと解散していく4人。その直前に伏黒は足を止めて脳無の詳細について説明しようとする。が、

 

「必要ない」

 

 そう言いながらナイトアイは突っ込んできた脳無に対して堂々と構える。あわや直撃すると思われた瞬間、跳躍し突き出された腕に手を添えて飛び乗ると再度跳躍。そして相手の剥き出しの脳目掛けて印鑑のようなサポートアイテムを投擲する。それを喰らった脳無は凄まじい勢いで地面に叩きつけられる。

 

 それを見た伏黒は目を見開く。そんな伏黒にナイトアイは顎をクイッとだけして行くように再度指示する。伏黒はその指示に従うと少し前で待ってたミリオの元へと向かう。

 

「なんですか?アレ…」

 

 脳無と互角以上に戦うナイトアイ。それを見た伏黒は驚愕を禁じ得ない。ミリオの師匠な以上は強いとは間違いなく思っていた。しかし、ああも洗練された動きを見せられるほどの高い戦闘能力があるとは思わなかった。

 

「ん?【予知】だよ?って、アレ?知らなかった?」

 

「いや、知ってはいますけど。アレの発動条件って多分触れることですよね?一発目は明らかに未来視の個性を発動させていなかったのにああも綺麗に避けられるもんなんですか?」

 

「そりゃあ、サーだぜ?俺の師匠なんだ。やれて当然だとも」

 

 伏黒の疑問に目を閉じながらどこか誇らしげにそう語るミリオ。そんな言葉に伏黒はどこか納得するとミリオと共に走ってこの戦闘に巻き込まれた人々を助けに向かう。

 

「怪我はなさそうですが、痛むところはありませんか?」

 

「な、ないですぅぅ」

 

「でしたら、向こうで人を先導してるスーツ着たムカデの人の指示に従ってください」

 

「わ、わかりましたぁぁ」

 

 いきなり巻き込まれて興奮してるのかどこか涙声になっている妙齢の女性にヒーローの指示を仰ぐように指示を出す。それを聞いた女性は立ち上がると念の為にと伏黒が出しておいた【玉犬】と共にセンチピーダーの元へと向かった。

 

 伏黒は他にも怪我した人間、もしくは巻き込まれそうな人間がいないかを見渡す。すると意外なことに逃げ惑う人は多くても巻き込まれた人はあまりいない。上空から【鵺】に確認させるが怪我人などが確認できないのがその証拠だ。他のヒーローも集まり始め脳無との戦闘が激化する。そんな中で【鵺】に援護させている間にどうしたものかと考えていると、

 

「伏黒くん!?」

 

 聞き慣れた声が伏黒を呼び止めた。声のした方を見ると見慣れないコスチュームを着こなす緑谷がそこにはいた。

 

「緑谷!?なんでここに!」

 

「なんでも何も新幹線に脳無が突っ込んできてグラントリノに置き去りにされたからついてきたんだ!」

 

 まさかの学友との再会に伏黒は驚いていると他のヒーローから警察の避難勧告に従えと命令される。一先ずは指示に従いつつ、出来うる限りの行動を取ろうと考えていると。

 

「飯田くん、なんでこのタイミングでいなくなっちゃうんだ!」

 

 消火栓から溢れ出す膨大な量の水を操るヒーローが聞き覚えのある名前を半ば絶叫に近い声で叫ぶのが聞こえた。それを聞いた伏黒の頭を巡る『ヒーロー殺し』、『保須市』の単語。考え得る限り最悪の答えが伏黒の頭に浮かぶ。伏黒の隣からブツブツと何か呟く声が聞こえてくる。

 

「緑谷!」

 

「うん!わかってる!」

 

 伏黒が緑谷の名を呼ぶと緑谷も同じ考えに至ったのかより自然にフルカウルを起動するとすぐさまスマホを同期させて伏黒に自分の居場所を知らせるようする。一連の行動を行なって緑谷はそのまま飯田がいる確率の高い場所目掛けて走る。

 

「ルミリオン先輩!」

 

「なんだい、シャドウシュピール!」

 

「今から友人の飯田を緑谷と共に助けに行きます」

 

「そうか!…って、ハイィィィ!?」

 

 伏黒の言葉に思わず先頭の手を緩めて振り返るミリオ。昨日あったことも考えるとそれを許すわけにはいかないと伏黒に物申すべく注意しようとする。しかし、伏黒と目が合い文句を言ったところで聞かないと確信したのか大きくため息を吐く。

 

「安全第一!それが絶対の条件だ!」

 

「ありがとうございます」

 

「ああ、もう!本当に気をつけろよ!?今ここにルミリオンの名において伏黒恵!君の個性の使用を許可する!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、少し前に最後の被害者の避難を完了させた【玉犬】を解除すると【嵌合纏(かんごうまとい)】を起動させ、スマホを見ながら緑谷のスマホのGPSを頼りに追うためにその場を離れる。4、500メートル先にいる緑谷の元に秒で駆けつける。

 

「ふ、伏黒君!?何その姿、っていうか速っ!」

 

「今言うことかそれ?というか何してんだお前」

 

「え、ああ、うん!ヒーロー殺しの被害者の六割は人気のない街の死角で行われてるんだ。だから今、騒ぎの中心からノーマルヒーローの事務所辺りの路地裏を虱潰しに調べてるんだ!」

 

 緑谷の言葉に驚愕する伏黒。確かに伏黒もアレからヒーロー殺しについて調べ続けていたからヒーロー殺しが高頻度で路地裏を殺傷する場所に使うことは知っていた。それはひとえに伏黒にとってヒーロー殺しが因縁とも言える相手だったからだ。しかし、緑谷は違う。友人の兄の仇という縁遠い存在にも関わらずここまで詳細にヒーロー殺しのことを知っていたのだ。

 

「大丈夫だ。ヒーロー殺しと思しき奴は見つけた」

 

「え、どうやって!?」

 

「今の俺は【玉犬】のスペックをそのまま引き継いでる。【玉犬】の鼻と耳はいいからな。血の匂いも鉄がぶつかり合う音もしっかり聞こえてくる」

 

 緑谷の情報通に戦慄しながらも伏黒は発見したことを告げると今度は緑谷が驚く番となった。それを見た伏黒は「先に行く」とだけ告げると音と匂いの発生源へと駆ける。そして路地裏に差し掛かると。

 

「じゃあな、正しき社会の供物」

 

 そう言いながらインゲニウムによく似たコスチュームを着た男にトドメを刺そうとするヒーロー殺しが目に映る。それを見た伏黒は半ば反射のようにヒーロー殺し目掛けて跳躍し、殴り飛ばす。

 

 拳に感じる肉の感触と共にヒーロー殺しは吹き飛ぶ。それを飯田が呆然と見つめる中、伏黒は

 

「月並みな言葉だが、飯田。助けに来たぞ」

 

 そう告げると上がる土煙の中で立ち上がるヒーロー殺しを警戒し続けた。

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