私の名前は拳藤一佳
今は中学三年生。
私には不本意ながら幼馴染みがいる。
最高に手のかかる幼馴染みがいる。
幼稚園からの腐れ縁ってやつだ。
アイツと出会った時のことは今でも憶えてる。
いっつも1人だったし、1人だけ達観して。何を考えているのかわからなかった。正直な話、声をかける時は本気で勇気が必要だった。で、実際に声をかけた時の反応がこうだった。
「はじめまして。私、拳藤一佳って言うのよろしくな!」
「黙れ、消えろ」
この一言をかけられた私はまだ幼稚園児。言われた瞬間、泣いた。案の定、そんなこと言った伏黒は先生に叱られていた。それでも我関せずの態度を貫いていた。初めての屈辱に幼い頃の私は躍起になって話しまくった。それを数カ月ほど続けてようやく折れた伏黒は私と、拳藤一佳と話をするようになった。初めのうちは慣れなかったが流石に伏黒との付き合いも一年も立つ頃には慣れるようになっていた。
そして、小学校に上がる頃にはアイツが、伏黒がどういう人間なのかがハッキリとわかるようになっていた。寂しがり屋で信じられないくらいのお人好し。後、強がりなツンデレ。それが何年もの月日を得て私が伏黒に対して抱いた印象だった。
「何、ボーっとしてんだ?」
声をかけられる。伏黒の声ではなく、先ほどまで応戦していたやつのリーダー格の奴の声だった。誰の個性か知らないけどどう言う訳か体の自由が効かなかった。
「別に。複数人でよってたかって女ボコるような奴に言う必要ないでしょ?」
「口の減らねぇ奴だなぁ、オイ。まあ、でもこう言う奴が折れた時は良いんだよなぁ」
「ハン!群れなきゃ何もできない奴らがよく言うよ」
「……口には気をつけろよ女。ここは俺たちだけの秘密基地みてぇなもんでな?誰にもバレないし誰にも気づかれない。俺たちはいつでもヤレるんだからな。それにテメェのお友達の伏黒も俺と似たようなもんだろ?」
コイツらと伏黒が同列?その言葉を聞いた私は怒りよりも笑いの方が勝って鼻で笑ってやった。あ、痛っ顔面殴られた。何やらギャーギャーと喚いているのが聞こえるが無視を決め込んだ。
アイツの家族と言える人物は父親だけだった。そんな父親は伏黒が小学生になる頃には別の女と一緒に蒸発したらしい。少しの間だけ伏黒は影で泣いていた。慰められて目を真っ赤に腫らしたアイツは無愛想に告げた。
「ありがとう。なんかあったら俺が助けてやる」
私はそれをよく覚えているしあの時の言葉も忘れることは決してないだろう。……だけど、不覚にも胸が高鳴ったのは内緒だ。そこからはまあ、荒れに荒れた。いじめてる奴とかそう言う奴に片っ端から喧嘩を売りまくっていた。特に中学1、2年生の時は酷くて地元周辺の不良・半グレを全てボコったせいで伝説が出来上がっていた。それをネタに何度か揶揄ったことも何度かあったのを覚えている。
「あー、もういいわ。人質にとって伏黒のボケをボコそうと思ったけど、やめだ」
「……ハッ、勝てないから人質とったの?ダサいねアンタ達」
「おうおう減らず口も叩けるだけ叩け。もう時期そんなことも言えなくなる。ああ、ちなみにヒントは『男と女』な?」
男はそう言うと同時にうちのスカートをずらしはじめた。いきなりの出来事に頭が白くなり顔が引き攣る。それを見た男は満足気な顔をしながら自身のズボンもずらしていく。周りを見ると周りの連中も下卑た笑みを浮かべてこちらを見てくる。
怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。
「良い顔だなぁ。今後も同じことするかぁ?」
助けて。
誰か助けて。
声が出ない。力が入らない。下着をおろした男が私に覆い被さろうとする。ここからされることなんて簡単に予想がつく。いろんな思い出が駆け巡る。そして最後に映ったのは─
『ありがとう。なんかあったら俺が助けてやる』
涙で目を赤く腫らして仏頂面でそう告げる
「助けてよ」
あの時の約束を今果たしてよ。
バチィィィィィ!!!
瞬間、電撃を伴った体当たりが乾いた空気を高く鳴らした。
『ギャアァァァァァァァァァァ!!!!』
私に覆い被さろうとした男はドア諸共吹き飛ばされて、その近くにいた4、5人も電撃の巻き添えを喰らう。いきなりの出来事に誰も反応しきれない。目を閉じた私は目を開けて現状を確認する。するとそこには、
「随分としおらしいな。普段からそうすれば?」
この現状でデリカシーのかけらもないことを仏頂面で告げる幼馴染がそこにはいた。
「遅いよ、バカッ」
遅い、遅すぎるよ。遅すぎて涙が出て来たよ。そんな私を見た
「な、何をしに来やがったんだぁ!」
「何をしに来た?んなもん簡単だろ?あの時、言ったんだから」
伏せていた顔を上げる。あまりの形相に何名か悲鳴を上げていた。
「全員、ぶち殺しに来ました」
◇
そこにいた全員——拳動を除いて——がビビり散らかしていた。未だかつて伏黒はブチギレだことがなかった。半グレや不良に喧嘩を売っていたのも純粋に気に入らないと言う理由だけで実際にキレたから喧嘩をふっかけたことは一度もなかった。そんな伏黒が今日、生まれて初めて自身の感情に振り回せて暴れることを誓った。故に、
「この人数差で勝てるわけ「うるせぇよ」ギャアァァァァバァァァァァ!!」
一切合切全ての攻撃に手心を加えなかった。もちろん、人を殺さないように考慮はしてある。しかし、言ってしまえば殺さない範疇内ギリギリの攻撃を放つことになんの躊躇も今の伏黒には存在していなかった。
「アイツ無個性じゃあねぇのかよ!?しかも、電撃系の個性!?強個性じゃねぇか!?」
「違ぇよ。上を見ろ」
「は?上?」
伏黒の言葉通り不良たちは上を見る。少し高めの天井が不良達の目には広がっておりそこには骸骨の目の部分を模したような仮面をつけた大きな怪鳥が不良達の頭上を自由に舞っていた。それを見た不良達は
「馬鹿正直に教えてくれてありがとさん!撃ち落としてやるよ!」
笑みを浮かべながらそう言うと、何名の手や体から岩、衝撃波など様々な攻撃が怪鳥を撃ち落とすべく放たれる。しかし、
「ギャアァァ!」
「は?ふざけんな!なんだよ!室内だぞ!なんだよその機動力はよ!?」
全て回避され、逆に電撃を浴びた体当たりで蹴散らされて終わった。
「なんだよ、お前の個性はなんなんだよ!?」
「教えてやる義理はねぇよ」
「なら、教えなくて良い!守りながらじゃあ、お前も自由に戦えないだろ!?」
そう言いながら接近して来た不良2人に対して伏黒は一人は踵落としを決めて鎮めた後にもう一人には頸動脈洞を圧迫して絞め落とした。
「お前ら忘れてないか?個性抜きでも俺に勝てなかったんだぞ?それに俺の動きが制限されたからってお前らが強くなったわけじゃないんだよ」
その言葉を聞いて不良達は絶望した。距離を取れば怪鳥に電撃で攻められる。接近戦を持ち込めば伏黒に叩きのめされる。どう足掻いても八方塞がりだった。命乞いでもすれば見逃してくれるかと考えたが目を見て明らかに火に油を注ぐだけだとすぐにわからされた。廃墟とかした室内で絶叫が止むのに5分とかからなかった。
◇
死屍累々。今この場をの現状を表すのにこれほどふさわしい言葉があるだろうか。伏黒と拳動以外の人間は一人残らず意識を失っていた。あるものは電撃であるものは打撲でだ。そして、今最初の一撃を喰らって真っ先に倒れた男に伏黒は問い詰めていた。
「目ぇ覚めたか?」
「やめろぉ!俺が悪かったから、もう勘弁してくれぇ!」
「拳藤さらった奴が誰かと思ったら。朝、最後まで絡んできたお前かよ」
そう拳動をさらった計画を立てて実行に移した主犯格は朝、伏黒が最後に気絶させた硬化系の個性持ちの男だった。自身の不始末がきっかけで起きた事件に伏黒は犯人に対する嫌悪感と怒りよりも拳動に対する罪悪感の方が強く湧いた。
「お、お前が悪いんだろぉ!」
「は?」
「俺に逆らって!俺に意見して!俺に背いた!だから俺は何も悪くない!」
「ああ、もういいよ、お前。本当に黙れ」
伏黒は呆れていた。怒るわけでも殺意が芽生えるわけでもなく。呆れていた。そして、人は怒りを通り越すと呆れてしまうことを伏黒は知った。胸ぐらを掴み無理矢理上半身を上げる。そして、宙を舞う電撃を纏った怪鳥を見舞おうとする。すると、不意に足音が近づくのがわかった。伏黒達以外の人間がいなくなったためか足音は嫌にはっきりと聞こえていた。
「ハハ、ハハハハハハ!お前の負けだ!伏黒ぉ!」
「あ?」
「俺の兄貴はなぁ、ヒーローなんだよ」
「へぇ、で?」
「わかんねぇ奴だなぁ!中坊がプロヒーローに勝てる訳ねぇだろ!万が一の保険のために取っておいたのさ!それに勝てたとしてもテメェはヒーロー活動しているやつをぶちのめしたことでヴィランとして扱われる」
いや、腐りすぎだろ。伏黒は目の前の男の発言に現在のヒーロー社会の腐りっぷりが想像の斜め上をいっていることに驚きを隠さなかった。そして、伏黒以上にヒーローの腐りっぷりに唖然としていた人間が一人いた。
「な、なんだよ、それ!ヒーローがそんなことしていいのかよ!?」
拳動だった。ヒーローを目指している拳動にとって不良の吐いた先程のセリフはショックを受けるには十分すぎた。
「知るかよバ〜カ!これで俺の勝ちだぁ!」
哄笑が廃墟に響き渡る。勝利を確信した男が放つ下卑た笑い声は廃墟内によく響いた。そして、人影が現れた。
「ハァ」
ため息に似た声が廃墟に響いた。