伏黒のヒーローアカデミア   作:アーロニーロ

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コメント100件越えありがとうございます。これにてステイン編終了です。


接敵、そして因縁③

 

 

「ごめん、シャドウシュピール」

 

「…無理でしたか」

 

「うん。今ので仕留めたかったって言うのもあるけど、やられた(・・・・)

 

 そう言いながらミリオは伏黒に手の甲を見せるするとそこには薄らと傷がついていた。それを見た伏黒は察すると顔を険しくさせる。信じられないことにあの乱撃の中で体がろくに動かないヒーロー殺しは自分が殴られると同時にミリオの拳に爪を立てて傷をつけたのだ。それを悟るのとほぼ同時にミリオは崩れ落ちた。

 

「ハァ…ハァ…」

 

 肩で荒く息をし、明らかに消耗しているヒーロー殺し。正直な話、痺れて化勁も使えなくなってた体でミリオの攻撃を何十発も喰らっているのに倒れないのは有り得ない。ならば何故無事なのか。答えは単純、殴られる度に僅かに立ち位置をずらすことで打点を殴られる度にズラしていたのだ。怪我こそ負うがそれでも被害は減らせる。故に立てるのだ。

 

 そして何とか立て直したかのように見えるヒーロー殺しは怪我など知ったことかと言わんばかりにこちらに突っ込んできた。しかし、

 

(遅くなってる)

 

 そう確信するほどヒーロー殺しの動きは精細さを欠いていた。無理もない。いくらズラしてたとはいえ、【鵺】の電撃に増強系では無いとはいえ中々重いミリオの打撃を何発も喰らったのだから。確かにミリオがいなくなったのは痛手だが、それ以上の結果を出してくれたミリオに心から感謝すると伏黒はヒーロー殺しの攻撃を防ぎ轟は個性を発動させてヒーロー殺しを攻撃しつつ小器用にミリオを氷塊で回収する。

 

「こいつらはやらせねぇぞ。ヒーロー殺し」

 

「気をつけろ轟。精細さを欠いてるけど十二分に強いぞ」

 

 片手から炎を出して牽制しつつ、足元からいつでも氷を放てる準備をする轟に伏黒は念のため忠告しておく。すると、轟目掛けてナイフが飛んでくる。

 

「危ねぇ!」

 

「お前もな!」

 

 咄嗟に伏黒が弾くと次の瞬間には目の前に迫っていたヒーロー殺しが右手に持ったサバイバルナイフで伏黒を切りつけようとしてくる。それは轟が展開した氷が防ぐと今度は口に含んでいた何かを飛ばしてくる。

 

 伏黒は轟に放たれた攻撃を防ぐことができず、氷の展開では遅いと判断した轟は顔をガードする。しかし防ぎきれず頬が僅かに裂けて血が垂れると胸ぐらを掴んで轟を引き寄せると血を舐めようとする。しかしこれは轟の展開する氷のほうが早く、舐められずに済んだ。

 

「一つ一つの動きが二択三択の迫ってくんのか。…強えな」

 

「あれでもかなり力を削いだんだ。我慢しろよ。それと轟、こいつの前で勝敗に焦って極力氷塊ブッパは止めろ。俺はこいつより速いけど早さ(・・)ではこいつに劣る。見失って背後からブスリとか嫌だろ」

 

 伏黒の言葉に轟は信じられないといった様子でヒーロー殺しを見る。事実ここまで消耗しておきながらヒーロー殺しは今なおそれが出来るほどの実力がある。

 

「何故…何故なんだ…やめてくれよ…。兄さんの名前を継いだんだ…。僕がやらなきゃ、そいつは僕が…!」

 

 飯田の言葉を聞いた轟は伏黒に迫る凶刃を氷壁を展開することで退けると同時に諭すように喋る。

 

「継いだのか、おかしいな…。俺の知るインゲニウムはそんな顔じゃなかったけどな」

 

「氷壁を展開すんなって言ったろうが!」

 

「ああでもしなけりゃお前がやられてた!と言うか伏黒、どうした?動きが荒いぞ!」

 

 次の瞬間にはいくつもの銀閃が走ると同時に伏黒の胴体の倍以上はある氷塊がバラバラに小分けにされていく。それを見た轟が左側の炎を展開するも氷壁に紛れて放たれたメスのようなナイフが3本突き刺さる。

 

「ツッ!」

 

「轟!」

 

「MP切れか?動きが荒いぞ、伏黒!」

 

 投擲したポーズで嘲笑いながらそう言うヒーロー殺し。それを見た伏黒は素早い動きで駆け寄ると

 

 パパパパン!

 

 軽快な音を鳴らしながら側頭部、肩、脇腹、腰をほぼ同時に感じるほど速く蹴りを入れる。しかし、

 

「速い、が軽いぞ!お前もいいがあの紅白小僧も、良い!」

 

 少しよろめいただけですぐに立て直すと伏黒の首に目掛けて刀を返すと峰打ちで伏黒の意識を断ち切ろうとする。これを伏黒は避ける余力が無くこのまま意識を絶たれる。

 

「ごめんやっと動けるようになった!」

 

 そうなる直前に再起動した緑谷がヒーロー殺しの体にタックルをすることで伏黒に当たる筈だった刀から無理矢理距離を取らせるとそのまま壁に押し付けるように引き摺る。

 

 ウザったく感じたのかヒーロー殺しは一度舌打ちをして肘撃を叩き込む。緑谷が腹部に走る痛みからか手放すのを見た轟が咄嗟に氷を放ってヒーロー殺しに緑谷との距離を取らせる。

 

「とけたのが最後に喰らったお前ってことは摂取量じゃなくて血液型っぽいな」

 

「ハァ…なるほど。個性の詳細までは明らかになっていなかったか」

 

 息を荒くして顔や体から脂汗を滲ませるヒーロー殺しは自身の個性の詳細は考察はされても結論にまでは至っていなかったのだと知る。

 

「まあ、もっとも。わかったところでって感じだけどな」

 

「ああ、あいつの個性は大したことない。問題は【鵺】の電撃喰らった直後にあんだけしこたま殴られておきながらあそこまで動けるあいつの動きだ。逃げようにも逃しちゃくれねぇ」

 

「となると僕たちでプロが来るまでの間、粘るしかない。動きが落ちた以上、ルミリオン?がいなくてもある程度は対処できるはずだ。伏黒君と僕が一緒に出血量の多い轟をカバーする。轟君は援護を頼む」

 

「危ねぇ橋だが、守るぞ3人で」

 

「この消耗具合で 3対1、か。ハァ…甘くはないな」

 

 3人で陣形の話し合いが済むのと同時にヒーロー殺しの放つ気配がさらに冷たくなるのを感じる。伏黒が右から緑谷が左から駆けるとその間を縫うように轟が炎を放つ。それ左側に避けて回避すると先ほどの勢いを取り戻したかのように早く刀を振るい緑谷の足を切り付ける。

 

「ぎゃ!!」

 

 鬼気迫るヒーロー殺しの表情から別に体力が戻ったわけでも立て直しきれたわけでも無い。ただ余裕がなくなり本気で伏黒や緑谷、轟達を仕留めにかかっているのだ。それに気づいた伏黒が電撃を帯びた猛禽類のような爪と軽い体から放たれる機動力で翻弄しながら攻撃を叩き込む。電撃がヒーロー殺しに伝わったが歯を食いしばって耐えながら伏黒を蹴飛ばして壁に打ち付けると刀についた緑谷の血を舐めながら轟目掛けて走る。

 

「ごめん!」

 

 緑谷はそう言いながら崩れ落ちるとすぐにポツリポツリと呟くような涙声が飯田の口から漏れ出す。

 

「やめてくれ……もう……僕は……」

 

「〜〜ッ!やめて欲しけりゃ立て!!!なりたいもんちゃんと見ろ!!」

 

 飯田の泣き言に轟は氷壁を展開しながらそう叫ぶ。氷壁がヒーロー殺しに切り刻まれるとそれを見越していたのか左側から炎を放つ準備をする。

 

「俺を忘れんなよッ!」

 

 それよりも早く立て直した伏黒がヒーロー殺しのマフラーを掴んで勢いよく地面に叩きつけると息を吐き出し固まるヒーロー殺しの鳩尾目掛けて拳を叩き込む。しかし拳が叩き込んだ瞬間、アスファルトが異様なまでにひび割れる。流されたと察した伏黒は咄嗟にその場から飛び退こうとするがそれよりも早くヒーロー殺しが刀で切りつける。そして伏黒から流れ出て落ちていく血を空中で舐めとり、動けなくなった伏黒を置いて再度轟の元へと向かう。

 

 それに対して轟は氷を繰り出して目の前のヒーロー殺しに攻撃する。だが、ヒーロー殺しは建物の壁や轟の氷を足場にし、縦横無尽に動き回ることで轟の攻撃を全て躱していた。

 

「右から!!」

 

 地に伏している内の一人である緑谷が轟に向かって叫ぶ。それを聞いた轟はすぐさま自身の右斜め前に炎を噴射するもこれを躱され、炎と轟の間に刀を挟み込む。

 

(ッ…んで、これを避けられンだよッ!)

 

「氷に炎。ハァ…確かに強力だが、個性にかまけすぎだ。言われたことないか?挙動が大雑把すぎると」

 

「バケモンが…」

 

 避けられたことに悪態を吐く轟の弱点を指摘しながら挟み込んだ刀を振り切ろうとするヒーロー殺し。氷を展開しようにも炎を出しながらではベタ踏みしか出来ない轟にとって周りを巻き込む戦い方は出来ず防ぐ手立てはない。しかし、ここにはまだいた。

 

「レシプロ」

 

 雄英高校一年A組委員長の飯田天哉(インゲニウムの名を継ぐ者)が。

 

「バースト!!」

 

 ガキィィィンッ!!

 

「チィッ」

 

 【凝血】の個性から立ち直った飯田が速攻でレシプロバーストを発動させるとヒーロー殺しの刀目掛けてムーンサルトを叩き込む。それに耐えかねた刀は半ばからへし折れる。そして一回転した飯田は元の体勢に立て直すとヒーロー殺しの側頭部目掛けて蹴りを放つ。しかしこれはすんでの所でヒーロー殺しが防ぐと蹴りの勢いを利用して跳びながら後ろに下がる。

 

「飯田!解けたか。意外と大したことない個性だな」

 

「轟君も緑谷君も伏黒君にも関係ないことで、申し訳ない…だからもう…二人にこれ以上血を流させる訳にはいかない!」

 

「吹っ切れたようで何よりだ。でもどうするつもりだ。無闇矢鱈に突っ込んでも膾になるだけだぞ」

 

「元より、ハァ…そのつもりだ」

 

 立ち直り伏黒と轟に並ぶ飯田を見てヒーロー殺しは憎々しげに見つめながら隠れた顔から窺えるほどの憤怒と共に言葉が漏れ出す。

 

「感化され取り繕おうとも無駄だ。人間の本質はそう易々とは変わらない。力もないどころか助けようとせずに殺意を優先させた精神的にも脆く弱いお前は所詮偽物にしかならない!英雄(ヒーロー)を歪ませる社会の癌そのものだ。誰かが正さねばならないんだ!」

 

「ブレねぇなぁ、オイ。少しは前途ある若者だって割り切って見逃そうって気にはならないのか」

 

「言ったはずだ。人間の本質はそう易々とは変わらない、と」

 

 あいも変わらず全く同じ主義主張を展開するヒーロー殺しに流石の伏黒も嫌気がさしたように殺意を収められないのかと茶々を入れるもそれは断じてないと言われて返される。

 

「時代錯誤の原理主義だ。飯田、人殺しの理屈に耳貸すな」

 

「いや、奴の言うとおりさ。僕にヒーローを名乗る資格は無い。それでも…折れるわけにはいかない。俺が折れればインゲニウムは死んでしまう!」

 

 涙を浮かべながらも静かな闘志と決意を胸に宿し、堂々と言い放つ飯田にヒーロー殺しはより深い殺意をたぎらせて目を細めると「論外ッ!」とだけ言って構える。そんなヒーロー殺しに対して轟が炎を放つことで迎撃しようとするも容易く避けられる。

 

 今の状況は可もなく不可もなくといった具合だ。今のヒーロー殺しは万全の状態とは程遠く、その甲斐もあって伏黒も轟も緑谷も飯田も多少斬りつけられて流血はしているがなんとか無事だ。だがその無事もいつまで続くかわからない。個性の都合上、ヒーロー殺しは多対一が苦手なのは考えるまでもなくわかってる筈。

 

 このまま戦っても消耗してプロが来る時間を稼がれてゲームセットとなるだろう。そしてそれはヒーロー殺しも承知の上だ。故に速攻で飯田を仕留めるべく本気を出したのだ。呆れ果てたまでのイかれた執着心。互いに決め手に欠けているため千日手に陥っているととある存在が伏黒の目に映る。まさかと思い電撃で半壊のインカムを使って小声で話しかける。轟の戦闘音もあってかヒーロー殺しに声が聞こえることはなく、インカムを所有している男、ミリオのみが伏黒の声を聞き取りグッと寝そべりながら親指を突き出す。それを見た伏黒はある作戦を考え付く。

 

「轟、俺が合図したらで良い!ヒーロー殺しを間に挟み込むように氷壁を展開できるか?」

 

「出来るが何をする気だ」

 

 轟の疑問に伏黒はミリオに向けて指を刺す。それを見た轟は納得したのかいつでも氷を展開できるように準備をする。

 

「飯田!お前はレシプロ起動して突っ込め!安心しろ怪我はさせない!」

 

「すまない、今のでエンストを起こした!轟君!君の氷で僕の足を凍らせてくれ!排気筒は塞がずにな!」

 

「邪魔だ、故に止まっておけ」

 

 伏黒が作戦を立案している間にメスにも似た小ぶりのナイフが轟目掛けて飛んでくる。それを伏黒が展開した《如意金箍》で弾くも、飯田のほうに飛んできた手持ちのサバイバルナイフは防ぐことが出来ず、飯田が縫い止められる。それを見た伏黒は舌打ちをすると轟の前に出る。

 

「俺が前衛を務めておく!その間に飯田の足を凍らせておけ!」

 

「わかった!」

 

 伏黒が刀を下に向けながら落下してくるヒーロー殺しを《如意金箍》で弾くと《如意金箍》の先端をヒーロー殺しに向けて溜めてあった電撃を放つ。突然の電撃を避けられるはずもなく、くらい痺れているヒーロー殺しの顔面目掛けて《如意金箍》を振るうと直撃したヒーロー殺しは大袈裟に転がって避けると壁に刺したナイフを使って大きく跳ぶ。それを見た伏黒は笑うと

 

「今だ!」

 

 轟に合図を送る。それと同じタイミングで飯田の足を凍結させ終わっていた轟は迷うことなく挟み込むように氷壁を展開させる。挟まれる形となったヒーロー殺しは氷壁にナイフを刺して足場を作る。するとヒーロー殺し目掛けて復活していた緑谷が右から拳を振りかぶり、左から飯田がレシプロを再起動させて飛翔し足を振りかぶる。そんな2人を冷めた目で見ながら折れた刀を用いたカウンターで飯田の首を刎ねるべく構えていると、後ろから気配を感じ取ったヒーロー殺しが振り返る。

 

 そこにいたのは拳を振りかぶるミリオの姿があった。

 

 目を見開くヒーロー殺しはミリオと飯田の血液型が一緒であったことを悟る。伏黒がミリオに伝えた作戦は氷壁を展開するから展開したら個性を発動させて奇襲をかけて欲しいと言ったものだ。そうこの氷壁は足場でも檻でもなく。ただ、ミリオが通るだけの道だったのだ。

 

「ファントム…」「デトロイト…」「レシプロ…」

 

 3点同時攻撃。万全のヒーロー殺しであっても持て余す攻撃を怪我を負い弱体化した状態で防げる道理はない。

 

「「行け」」

 

「メナス!!」「スマッシュ!!」「バースト!!」

 

 背中と左頬に拳が右の脇腹に蹴りが突き刺さる。それと同時に轟は氷壁を解き、地面に落下する3人を火で炙り滑りやすくなった氷で優しく滑るように受け止める。

 

「疲れてるとこ悪いけど警戒を解くな!」

 

 すぐ様立ち上がったミリオが警戒を解かないように注意すると4人全員がヒーロー殺しの動向を伺う。しかし、ピクリとも動かないヒーロー殺し。動かないのかと疑問に思うが念のためいつでも攻撃を透かせるミリオが近づいて目を開けさせて確認する。

 

「意識無しッ!気絶してる!」

 

 その言葉を聞いた4人は一斉に緊張が解けてその場で座り込んだ。

 

 

 ヒーロー殺しが所持していた武器を全て地面に置いて、轟と飯田とミリオは気絶したステインを縄で縛り上げる。初めは伏黒のサポートアイテムのワイヤーを使おうという話になったのだが、【鵺】の電撃でオシャカになっていたこともあって路地裏に都合よくあったロープを使うことに。縛り上げたステインを引きずりながら路地裏から出て先に出ていた伏黒や緑谷と合流する。怪我が酷い緑谷は比較的軽症な伏黒に背負われていた。

 

 するとそこに、

 

「む!?なっ!?…なぜお前がここに!!」

 

 新たな声がする。そこには黄色を主体としたスーツを着る小柄老人が足から空気を噴出しながら飛んでいた。

 

「あ!グラントリノ!」

 

 その声に反応する緑谷。グラントリノという単語にそういえば緑谷を受け持ってくれたヒーローも同じ名前だったなと伏黒が思っているとグラントリノは跳躍し、緑谷の顔面に叱りつけながら蹴りを入れる。

 

「座ってろっつったろ!!」

 

「すみません!」

 

 伏黒には当たらないように蹴りを入れるところを見るとひどく器用なことも窺える。

 

「誰?」

 

「僕の職場体験の担当ヒーロー、グラントリノ」

 

 伏黒の背中でぐったりしながら轟の質問に加減されてたとはいえ少し痛かったのか鼻をさすりながら答える緑谷。申し訳なさそうな緑谷を見て何を思ったのかグラントリノはため息を吐くと

 

「まァ…よぅ分からんがとりあえず無事なら良かった」

 

「ごめんなさい…」

 

 取り敢えずは無事であったことを安心するとこれ以上の小言を漏らすことはなかった。するとグラントリノに少し遅れて数人の大人がこちらに駆けつけてくるのに皆が気付く。

 

「エンデヴァーさんから応援要請承ったんだが…」「子供?」「ひどい怪我じゃないか!?今すぐ救急車呼ぶから!」「ん?って、おい、こいつ…」「えっ!?まさかヒーロー殺し!?」

 

 駆けつけたプロヒーロー達が縄で縛られているステインに気付く。その後すぐに病院と警察に連絡するプロ達。その間に緑谷と轟、飯田、伏黒は怪我の具合を聞かれていた。取り敢えず一番重症だと思われる緑谷をプロヒーローに差し出そうとする。

 

「ヴィラン!?」

 

 突如としてプロヒーローの声が響く。皆が一斉に声を上げたヒーローの目線を追う。するとそこには空から羽の生えた脳無がこちらに急降下しているのが見えた。

 

「全員、伏せろ!!」

 

 グラントリノが切羽詰まったように叫びながら伏せるようにと命令すると全員が一斉にその場で伏せる。しかしその中で伏黒に背負われていた緑谷が脳無の足に捕まり飛び去っていく。

 

「うわー!?」

 

「緑谷君!」

 

「血が…!やられて逃げて来たのか!?」

 

「クソッ!【鵺】!…ああ、もう!」

 

 連れ去られていく緑谷を助けるべく伏黒はすぐ様【鵺】を呼び出す。しかし現れた【鵺】は力なくその場でへたり込む。ヒーロー殺しの個性を押し付けていたことを思い出しながら伏黒は無力に苛まれる。その時だった。

 

 誰もが動けない中でバッッ!!っと黒い影が伏黒の横を駆け抜ける。すると突然、空中の脳無が羽ばたくのをやめて力なく落下していく。

 

「偽物が蔓延るこの社会も力を徒に振り撒く犯罪者も。粛清対象だ、ハァ…ハァ…」

 

 そう言いながら黒い影の正体であるヒーロー殺しが脳無の脳みそにナイフを突き立てて掻き回すと動けぬように脳無を地面に組み伏せる。

 

「全ては正しき、社会の為に」

 

 膨大な唾を口から垂れ流しながらそう呟くと脳に突き立てたナイフを大きく振るうことでトドメを刺す。

 

「少年を助けた!?」「バカ!人質とったんだ!」「躊躇無く人殺しやがったぜ!」「いいから戦闘態勢取れとりあえず!」

 

 全員が突然のヒーロー殺しの行動にフリーズしていると立ち直ったプロヒーロー達がヒーロー殺しに対して戦闘態勢をとる。

 

「なぜ一塊で突っ立っている!!?」

 

 すると十字路からNo.2であるエンデヴァーが一塊になっている者たちに注意しながら現れる。何故ここに?と伏黒が疑問に思ったが考えてみれば轟が職場体験の場所をエンデヴァー事務所にしている以上、いるのは当たり前だと納得する。

 

「こっちに敵が逃げてきたはずだが…」

 

「あちらは、もう…?」

 

「まあ、多少手荒になってしまったがな。後始末はナイトアイ達に任せてここまで来たのだが…して、あの男はまさかの…」

 

 エンデヴァーが一通り説明するのと同時に目線をヒーロー殺しへと向ける踠く緑谷を片手で抑えていると声に反応したのか「エンデヴァー…」と呟く。それを見たエンデヴァーは好戦的に笑う。

 

「ヒーロー殺し!!!」

 

「待て轟!!!」

 

 そして体から放つ炎の勢い強くするとヒーロー殺し目掛けて放とうとする。それを突如として全身から汗を流すグラントリノが引き止める。ヒーロー殺しがスッと体をエンデヴァーの方に向ける。そして、

 

贋作(にせもの)ォ…」

 

 目を覆う布が解け底冷えするほどの声が口から漏れ出した。その瞬間、エンデヴァーもグラントリノもミリオも皆が一斉に凍りついた。血を舐められたわけでもないのに誰もがそれ(ステイン)に釘付けになった。

 

「正さねば…誰かが…血に染まらねば…!」

 

 ヒーロー殺しが一歩歩く。それと同時に皆がろくに動かない足を引き摺るように後ろに下げる。

 

英雄(ヒーロー)を取り戻さねば!!」

 

 ヒーロー殺しが一歩を踏み締めるごとに放たれる圧が強くなる。それは百戦錬磨のグラントリノやエンデヴァーでさえ、思わず気圧されている。誰もが呼吸すらも止めてそれを食い入るように見る。1人の人間の放つ妄執と狂気の果てを。

 

「来い 来てみろ贋作ども」

 

 声は微塵も大きくない。肩を突き飛ばせば簡単に倒れてしまうと確信できるほど衰弱し切った半死人であることは誰の目にも明らかだった。なのにどうしてか加速度的に大きくなっていく圧力は皆が手を出せないほどに強くなる。

 

「俺を殺していいのは本物の英雄(オールマイト)だけだァァァァァァァ!!」

 

 その一言ともにこの日最大の狂気がヒーロー殺しから吹き出す。それは形となり巨大な影を生むと伏黒と同程度の大きさだったはずのヒーロー殺しを見上げるほどの巨人と錯覚させる。あまりの圧力に1人のプロヒーローが尻餅をつく。そして、伏黒は悟る。誰も動けないこの状況でヒーロー殺しが動くということは最悪全滅を意味しているということを。

 

布瑠部由良由良(ふるべゆらゆら)

 

 故に伏黒は迷うことなく決意する。自身の命と引き換えにしてでもこのヴィランを倒さねばならないと。両手を前に突き出してそう唱えるとあの日(ヒーロー殺しと初めて接敵した時)に使わなかった自身の個性における秘奥を開こうとする。そうして伏黒から放たれる暴威があたりを包み込み始める。ヒーロー殺しと伏黒があわやぶつかり合うまで秒読みとなる。しかしそれは

 

 カーンッ

 

 何か硬いものが地面を跳ねる音が響き渡ることで中断させられる。突然音が鳴り響き何名かが肩をビクッと跳ねさせる。そして先ほどとの違いに気がついたのはエンデヴァーだった。

 

「気を…失ってる…」

 

 そう呆然としながらエンデヴァーは言葉を発する。いつからかはわからない。しかしステインは立ったまま気を失っていたのだ。それが分かった途端、どっと息を吐き出すヒーローや緑谷達や構えを解除して呆然とする伏黒、そして中には座り込んでしまう者もいた。

 

 その後、改めてヒーロー殺しの拘束が完了すると警察へ引き渡されていく。特殊な拘束具に包まれ、ポール状の檻に入れられる光景を伏黒は見続ける。こうして伏黒にとって一年前から続く長い因縁は勝ったにも関わらずどこか敗北したような気持ちのまま終わりを迎えた。

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