伏黒のヒーローアカデミア   作:アーロニーロ

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因縁、そして血縁

 

 

「僕たち生きてるんだよね?」

 

「死んでたら話せないだろ」

 

 病室の天井を見上げた緑谷はポツリとそう呟くと伏黒がツッコむ。あの後轟、緑谷、飯田、伏黒の4名は怪我の手当てのため病院に運ばれた。伏黒と轟は比較的軽症なこともあって傷を何針か縫った後に包帯を巻けばお終いだった。それに対して緑谷と飯田は手術を行わなければならない事態となった。

 

「あからさまに生かされたって感じだな」

 

「本気で殺しにきてたのは僕に対してだった。あの時、轟君と緑谷君と伏黒君が来てくれたのもそうだが、伏黒君の先輩が駆けつけてくれなかったら今頃…」

 

 緑谷は足を、轟と飯田は腕を見ながら思わず身震いする。あれだけ殺意を向けられて、あれだけ実力差が隔絶していたのに今なお呼吸ができているのはひとえにヒーロー殺しが生かすべき相手を生かそうと手加減していたからだ。病室の空気が暗くなるのとドアが開くのは同時だった。

 

「ん?おお、起きてるな怪我人共!」

 

 このした方に目線を向けるとそこには緑谷を担当していたグラントリノに飯田を担当してたマニュアル、そしてスーツを着こなす綺麗な八頭身に犬の頭を乗っけた男がそこにはいた。皆が一様に誰?と思わされるとグラントリノが紹介をする。

 

「こちら保須警察署所長の面構犬嗣さんだ」

 

「掛けたままで結構だワン」

 

 名は体を表すのレベル99とでも言うべき名前と見た目に思わず呆気に取られる伏黒。しかしそこから出てきた言葉はかなり手厳しいものだった。

 

 曰く、いくらヒーロー殺しを仕留めたとはいえ資格を未修得の輩が個性の使用に踏み切ったのはよくなく。よって規則違反として緑谷、轟、飯田を含めそれを受け持ったヒーローのエンデヴァーやグラントリノ、マニュアルに厳正な処分を降す旨が伝えられた。しかし、それに納得がいかないのが轟だった。

 

「待ってください。飯田がいなければネイティブさんは殺されてた。緑谷と伏黒は…いや待て伏黒にはなんで何も指摘がないんですか?」

 

 文句の一言を言おうとした時にふと伏黒に対して何の言及もないことに気がつく轟。そんな轟に対して面構は深くため息を吐きながら説明する。

 

「伏黒恵に関しては前もってヒーローから個性使用の許可を貰ってた。ハッキリ言ってヒーロー殺しに関わったことには文句を言いたいがしっかりと規則を守ったうえで行動している」

 

「だったらッ!」

 

「俺たちも無罪でいいのでは、と?結果オーライならば無罪放免にはならないんだワン。全くいい教育をしてるものだ雄英とは」

 

 面構の言い分に流石の轟も頭にきたのか「この犬ッ」と言いながらその場で殴り掛からんとする勢いで立ち上がる。憤る轟をグラントリノが片手で制すると面構が話を続ける。長かったこともあり要約すると内容は確かにこのままでは3人とも犯罪者になるがそれは世間に知られたらの場合。だったら今ここで握り潰せば万事解決という案だった。

 

「どっちがいい!?1人の人間としては…前途ある若者の"偉大な過ち"にケチをつけたくないんだワン!?」

 

 親指を突き出して力強くそう提案する面構。その意見に3人が反対する理由もなく。お願いします。と言いながらその場で深々と頭を下げる。それに対して面構えも頭を下げると

 

大人のズル(・・・・・)で君たちへの賞賛の声を奪ってしまうのは心苦しく感じてしまう。だから今ここで私から礼を言わせてくれ。『ありがとう!』」

 

 伏黒君もいいかな?と聞いてくる面構に伏黒は「断る理由がない」と告げる。そんな面構に飯田と緑谷はバツが悪そうに笑い、轟は微妙そうな顔をしながら「初めから言ってくださいよ…」と呟く。伏黒はこの光景を見てこれで全てが万事解決と思った。しかし、

 

「話が変わるが伏黒君。君は『禪院家』とはどういう関係だ?」

 

 先ほどとは打って変わって冷たい声が面構の口から飛び出す。伏黒の目に映った。腰にぶら下がっている手錠がゆらりと揺れる。『禪院家』の単語を聞いた皆が伏黒に驚愕の視線を向ける。それを見た伏黒はこのタイミングで聞くかと思うと、

 

「すみません。外ででいいですか?」

 

「構わないワン」

 

 ここ以外の場所で話さないかと提案する。それを聞いた面構は了承する。面構に案内される形で病室を後にする。少し歩いていくと談話室なる場所に案内される。そこにはもう1人警官がいた。黒髪ショートヘアで7:3分。特徴の薄い顔が逆に特徴的だが、ハイライトがないせいか嫌に無感情に感じさせる。伏黒が警戒した顔で見ているのに気がついたのか面構に文句を言う。

 

「面構さん。まさか、みんながいる前で禪院家のこと聞いたりしてませんよね?」

 

「揺さぶりをかける為だ。仕方ないワン」

 

「だからって。〜〜ッああ、もう!」

 

 面構の言い分に七三分けの男は苛立ったように頭を掻くと伏黒にソファにかけるように促す。そして一度頭を下げて謝罪すると自己紹介を始める。

 

「私の名前は塚内直正。ご覧の通り警察だ。さっきは面構さんがごめんな?いきなり『禪院家と何の関係があるんだー』なんて言われればそんな顔にもなるよね」

 

「……そう思うなら要件だけ言ってください」

 

 苛立つ伏黒に塚内はそりゃそうだというと通信機を取り出す。念のためにと身構えていると通信機らしき機器から声が聞こえてきた。

 

『ん?もう聞こえてんのか?』

 

 その声を聞いた瞬間、伏黒は目を見開く。忘れるはずがない。何せおとといに伏黒はこの声の主に殺されかけたのだから。

 

「組屋、鞣造」

 

『お、もう連絡とれんのか』

 

 組屋鞣造。ヴィラン名はクリエイター。30名以上の人間を家具や武器に加工していたシリアルキラー。30人の内、ヒーローが10名以上も犠牲にしたことから高い戦闘力を保有していた人の皮をかぶる怪物。しかしその悪行も伏黒が顎を砕いて再起不能にすることで

おとといには潰えることになった。

 

「顎砕いたからしばらく話せないと思ってたぞ」

 

『そこはリカバリーガールが治してくれたよ。だけど俺は年寄りが嫌いでなぁ。いくら個性がよくても年寄りは骨がスカスカでいけねぇ。使える用途はせいぜい皮財布くらいだろうよ』

 

 伏黒が嘲るようにそう言うと組屋はリカバリーガールに治してもらったと悍ましい内容を交えて説明する。すると静観していた塚内が伏黒と組屋の会話に割り込む。

 

「悪いが無駄話は無しで頼む。改めて聞くぞ。―――伏黒恵を殺害しようとした理由は禪院家からの依頼だった。これで間違いはないな」

 

 塚内の口から今回の組屋の行動が伏黒を殺すためのものであると同時に禪院家も関わっているのかと問う。

 

『ん?その声は腐敗した魚みてぇな目をした刑事さんか。いやーそこまで目は腐ってるしガタイも中の下なもんだから微塵も創作意欲が湧かなくて逆に覚えてたよ』

 

「質問に答えろと言った筈だ」

 

『怒るなよ、冗談が通じない奴め。まあ、その話は本当だ。前金も良かったし、何より伏黒恵の死体は好きにしていいって言うもんだからな。気前が良かったぜ』

 

 組屋の禪院家絡みの騒動であるという発言に伏黒は大して驚かなかった。事実上、天涯孤独な伏黒に繋がりらしい繋がりはない。となると自ずと降りかかる問題があるとするならば。

 

「親父絡みかよ」

 

『お!名前を知ってんのは意外だ。あいつもしかしてイクメンってやつだったのか?』

 

「知ってんのは名前だけ。あとは知らん。ついでに言うと知ったのも大体10日前だしな」

 

 伏黒がそう言うとやっぱりなと言った組屋がゲラゲラと笑う。伏黒や塚内、面構は組屋が一通り笑い終わるのを待つ。そしてこれ以上聞き出せることはないと判断したのか通話を切ろうとする。すると、

 

『なあ、お前ら。個性黎明期前の人間と今の無個性の人間は同じだと思うか?』

 

 組屋は不思議なことを言い出した。突然の問いに3人は一様に疑問を覚える。そして塚内と面構が無駄な話だと判断したのか誤魔化すのはよせと言って切ろうとすると今回依頼されたことと関わる重要なことだと言って通話を切ろうとすることをやめさせる。3人が顔を見合わせると塚内が答える。

 

「同じだろう。100年以上も前の人間は一様に個性がなかった。つまりは無個性だ。同じな筈だ、違わないわけがない」

 

『聞いてたのは伏黒に何だがな。まあ、答えはノー。昔の人間、いわゆる黎明期前の人間と今の超常社会を生きる人間はまるで異なる存在なのさ』

 

 組屋の言葉を妄言であると面構と塚内は思わされるがこの話が禪院家に繋がる可能性があると判断すると続きを待ち再度話を聞く構えを取る。

 

『知ってるか?無個性の人間は個性持ちの人間と同様に個性因子を保有しているんだ』

 

「待て、それは有り得ない。個性因子があるんだったら皆が個性を保有しているはずだ!だけどそれを持ってないからこそ無個性なんだ!」

 

『その認識が間違ってるんだ。いいか?人を車に例えるとわかりやすいな。要は個性因子がガソリンで個性がエンジンなんだ。エンジンはガソリン無しでは動かねぇだろ?無個性はこれと同じだ。個性はあるんだが、いかんせん体に流れる個性因子がほとんどゼロだ。故にエンジンたる個性が動かせない存在となる。故に個性が認識されることはなく無個性と判断されるんだ』

 

 話を聞く3人は息を呑む。仮にその話が本当だとしたら歴史がひっくり返る。狂人の発言である以上は確証のない話だと断じるのはすごく簡単だ。しかし相手はクリエイターと呼ばれたヴィラン。比喩表現無しに人をこねくり回して死してなお個性を動かすことに成功させることのできた正真正銘の怪物。人の身体を誰よりも知る第一人者でもある。少し震えた声で伏黒は問う。

 

「それと親父と何の関係がある」

 

『そう!ここからが面白い話なんだ!お前の親父、禪院甚爾は個性はおろか個性因子すら完全に持たないこの個性社会から置き去りにされたガラパゴス人間だった!』 

 

「それは有り得ない。エンデヴァーが言っていた。かつて親父がオールマイトと真正面切って殴り合うことができたほどの存在だったと」

 

 今度は伏黒の言葉を聞いて塚内と面構が驚愕した。オールマイトといえば今や神話の領域にいるゴリッゴリのパワーファイター。善戦した相手はいるが真正面で殴り合えた存在などごく最近にいた脳無以外には存在しないとされていたのだから。

 

『ただ消えるなんてのは有り得ねぇ。人間だって元々尻尾があったが今は尾骶骨になってんだろ?指と指の間に水掻きの名残りのようなものがあるだろ?それと同じさ。じゃあ、消えた個性と個性因子はどこに行った?って話になるよなぁ。なんと甚爾は消えた個性と個性因子の全てが身体能力に回ったんだ!ある意味でまじりっ気のない正真正銘の人間(・・・・・・・・)となったんだ!』

 

 その話を聞いた全員が有り得ないと思わされる。個性が身体能力に変わるという話は聞いたことがない。それが事実だとするならば禪院甚爾とは"個性"という超常の獲得という人類の進化とは別種の進化系統を確立した別枠の新人類となるのだから。与太話だと流そうにも組屋の言葉はあまりにも確信を得たように話すのだから流しきれない。そして塚内が理解する。

 

「なるほどな。だから禪院家は伏黒恵を殺そうとしたと」

 

『そう言うこった。何せ『禪院家にあらずんば人に非ず、個性があらずんば人に非ず』なんてセリフを素面で宣う連中だ。個性が無いにも関わらず超人地味た甚爾はさぞや目の上のタンコブだったろうよ。おまけに外で女作って餓鬼をこさえたのであれば尚更な。血に重きを置くアイツらにとってその血筋であらば伏黒恵も同罪なのさ』

 

 そこまで聞くと伏黒は目頭を揉みほくすと禪院家に纏わる噂話がすべて的を得ているのだと知る。そして自身に対する刺客はこれからも送られる可能性が高いのだと確信する。

 

「そろそろ時間だ、通話を切るぞ。あとはせいぜい余生をタルタロスで過ごせ」

 

 そう言って塚内が通話を切ろうとする。するとゲタケダと笑う組屋が「せいぜい頑張れよ伏黒恵」と呟き通話が終了する。この後の対応は迅速だった。まず初めに塚内と面構は今回の一件を伏黒に黙っておくようにと告げる。それに対して伏黒はあの場にいた人間たちに禪院家と自身の関係性の撤回をすることを条件とすると快く了承してくれた。

 

 こうして思わぬ形で行った組屋との会話は酷く重い現実を残して幕を閉じた。

 

 

 あの後、戻ってきた伏黒に緑谷と飯田、轟の3名が心配そうな顔をしながら伏黒を案じて駆け寄ってきた。そしてそんな3人に対して塚内と面構が先ほどの禪院家云々の話がイタズラによる誤解であったと説明。いくつかの説明にも問題なく答える。

 

 初めこそ疑っていたが塚内と面構の伏黒が捕えた組屋蹂造の件を織り交ぜながらの柔軟な対応によって3人の疑問は晴れてイタズラで伏黒を貶めた犯人に怒りの矛先が向いた。

 

「伏黒くんも大変だったんだね…」

 

「まだヒーローの卵なのにやっかみとかあんのか」

 

「むぅ。何か困ったことがあったら言ってくれ俺が相談に乗るぞ」

 

 三者三様に伏黒を励ます。いずれも心の底から伏黒のことを心配していることもあって伏黒は少しだけ心が痛かった。話を逸らすように怪我の件を上げる。轟は軽症で済んだが、やはりというか緑谷と飯田は重症だったらしい。医者曰くどっちも重症だったが、飯田の左手が取り分け重く少しだけ後遺症が残るとのことだった。その後、轟のハンドクラッシャー発言に珍しく伏黒が人前で笑いそのことでも盛り上がる。

 

 院内で笑い声が響く。それ故に気が付かなかった。ヒーロー殺しの一件で伏黒らが成長という形で影響を受けていたように、人知れず裏の人間にもそれは伝播していることに。

 

〜2日後〜

 

「今まで本当にお世話になりました」

 

「また会おうねー!伏黒くーん!」「本当にお疲れ様!」「最後まで君は立派だったよ」「……」

 

 伏黒が手を振って見送るバブルガールとミリオ、満足気に頷くセンチピーダーとあいも変わらず表情筋をピクリとも動かさないナイトアイに対して深々と頭を下げた。あれから2日間は街中であるひったくりや脇見運転などを除けばこれといって事件らしい事件はなくヒーロー事務所で事務処理などのいろはを学んでいた。

 

 2回連続での入院は流石のナイトアイにも堪えたのか退院早々に頭を下げてきたのは伏黒も驚いた。波瀾万丈という言葉がよく似合う1週間ではあったが。何一つとして無駄のない日々を過ごせたと伏黒は少しだけセンチメンタルになりながらそう考える。因みにだがミリオは伏黒と違ってインターン生ということもあって長めらしい。一通り、握手などして別れを告げると伏黒はナイトアイの事務所から去ろうとする。すると、

 

「シャドウシュピール」

 

 ナイトアイに呼び止められる。何の用かと振り返ると初日に見た笑ったか笑ってないかよくわからないような顔ではなく確かにハッキリと笑みを浮かべながら

 

「達者でな」

 

 そう一言だけ告げる。それを見た伏黒も笑い返すと今度こそ事務所を後にする。こうして明日への期待を胸に伏黒恵の職場体験は終わりを告げた。

 

 

「明日なんて来るんじゃなかった」

 

「伏黒恵さん!一言ください!」「伏黒さん組屋蹂造の件で一言!」「おっしゃ出てきたぞ!カメラ回せカメラ!」「おい!映らないだろ!?邪魔だ!」

 

 昨日のナイトアイ事務所での希望や期待は何処へやら伏黒の目玉がどす黒く濁る。その原因は目の前に広がる報道陣にあった。何でこうなったか。伏黒は達観しながら空を仰ぐとそう思わざるを得なかった。

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