データが消えると本気で人って頭が真っ白になるんですね。というわけで出したいと願ってた人の登場です。
あれから来ていたヒーロー科の面々と色々なところを見て周り、I・アイランドにあるアトラクション、設備の全てを堪能した。そして全員がエキスポ参加の時間が近いと言うことでその場で解散となった。
「どうだ!似合ってるだろー」
そう言いながら宿泊先から支給された正装を自慢げに伏黒に見せつける拳藤。拳藤の今の格好は胸から上の肩や背中が見えるベアトップだが同色のオーガンジーを首元まで重ねて、胸元と背中が透けているアメリカンスリーブと呼ばれるノースリーブの一種になっている。上半身はぴったりと体のラインを出しつつ、ミモレ丈のスカート部分はオーガンジーを重ねてふんわりと可愛らしい。
普段見慣れない幼馴染の姿に伏黒は戸惑いつつも顔を背けて「似合ってる」とだけ告げる。それに対して拳藤は嬉しそうな顔をしながら頬を掻くと伏黒の服装も褒める。そう言われて伏黒も自身の格好を見る。今の伏黒が着ている格好は白を主体とした黒紋付羽織袴という言葉がよくあった服装だった。家紋なしの無地の黒い羽織に、下に着ているのは夏ということもあってタンクトップのように袖なしの白い長着、そして袴も長着と同様に白い無地のものでそれを黒い帯で締めているという格好だった。普段から着慣れていないと言うこともあって戸惑いこそしたが、褒められるとそう悪い気はしなかった。
「で、爆豪は?」
「パスだそうだ」
爆豪なのだが、エキスポ自体には興味がないのか単純に緑谷と行動するのが嫌なのかは知らないが、参加しないことを伏黒達に告げた。それでも念のためとホテルから支給されている正装だけは部屋に置いてきた。
「待ち合わせは18時半にセントラルタワーの……何番ロビーだっけ?」
「7番ロビーだな」
そう言うと伏黒は拳藤に手を差し出す。それに対して拳藤は不思議そうに首を傾げる。
「ん?どうした?」
「いや、こういう時ってエスコートするもんだろ?」
なんてことなさそうに言う突然の伏黒の発言に拳藤は一瞬呆気に取られるが、すぐに笑って「おう!そうだな!」と言うと伏黒の手を取った。そうして正装に着替えた伏黒は拳藤をエスコートしながらセントラルタワーのロビーへとたどり着く。10分前には到着したのだが、今のところ集まっているのは飯田、轟、上鳴、峰田の4人だけだ。
アルバイトで来ていた上鳴と峰田がいることに疑問を持って伏黒が聞く。その質問には飯田が答えた。なんでも本来レセプションパーティには参加できないが、メリッサの好意でチケットをおすそ分けしてもらっており、こうしてパーティに参加できることになったらしい。拳藤の正装に興奮している峰田と上鳴の姿を見て納得していると、
「――ごめん! 遅くなっちゃって!」
指定された時間よりも少し遅れて深紅色のストライプのスーツにクリームカラーのシャツと黒に近い紺色の蝶ネクタイとばっちり正装を決めた緑谷が登場した。それに対して飯田が遅れたことに苦言を溢していると女性陣が遅いことに気がつく。普段は抜けてはいるが真面目さだったら飯田に負けず劣らずの八百万が珍しいと思わされる。それに対しては拳藤はそこそこ人数も多く、何より全員女子だから格好には手間取りたいんでしょ、という言葉に皆が納得する。そして納得と同時に再びロビーのドアが開いた。
「ごめん、遅刻してもうたぁ」
「すみません、耳郎さんが……」
申し訳なさそうにしている麗日と八百万、八百万の後ろに隠れるようにしてロビーに入ってきた耳郎。
麗日は撫子色の可愛らしいオフショルダーのワンピースドレス。八百万はオパールグリーンのエレガントなプランジング・ネックのロングドレスとそれぞれの良さを引き立てており、よく似合っている。そんな女子たちの登場に再度騒いだのは上鳴と峰田だった。拳藤同様に麗日も八百万もスタイルが良いからだろう。
「うう、ウチ、こういうカッコは……その、なんとゆーか……」
八百万の後ろから恥ずかしそうに出てきた耳郎はアザレアピンクのシックなワンピースドレスに黒のボレロ。可愛らし過ぎないドレスとシンプルなボレロは耳郎のパンクロック好きなボーイッシュさの良さを活かしている。
ソワソワと落ち着きのない耳郎に、上鳴がサムズアップした。
「馬子にも衣装ってヤツだな!」
「女の殺し屋みてー」
「褒めてねぇだろ。気にすんな普通に似合ってるぞ。そのパンクっぽさとかお前らしさが出てる」
伏黒の言葉に顔を赤くして俯くと「あ、ありがとう」と戸惑ったように礼を言う。耳郎が耳と同化したイヤホンジャックを峰田と上鳴に突き刺して心音を流しながら。そして遅れてメガネを外して青いドレス姿の美しくドレスアップしたメリッサがやって来た。それを見た峰田と上鳴はここ1番の盛り上がりを見せた。全員集まったということもあっていざエキスポに向かおうとした瞬間、
『I・アイランド管理システムよりお知らせします。警備システムにより、I・エキスポエリアに爆発物が仕掛けられたという情報を入手しました。I・アイランドは現時刻をもって、厳重警戒モードに移行します。島内に住んでいる方は自宅または宿泊施設に。遠方からお越しの方は近くの指定避難施設に入り、待機してください。また、主な主要施設は警備システムによって、強制的に封鎖します』
という機会音声と共にロビーの窓の防火シャッターが音を立てながら次々と閉じられていき、入り口が塞がれていく。突然のことに戸惑いながら伏黒は咄嗟に外部と連絡が取れるかを確認するため、スマホを起動する。すると普段Wi-Fiを接続の確認をできる部分に圏外と示されているのを見て軽く舌打ちをする。
「携帯が圏外だ。情報関係は全部アウトっぽいな……。拳藤!エレベーターは!」
「エレベーターも反応なーし。他のも確かめてるけどこりゃダメだ」
携帯が圏外なことを告げるとすぐに拳藤にエレベーターなどの電子機器の使用は可能なのか問う。しかし無情にも反応がないとだけ告げる。その言葉に峰田は顔を青ざめて冷や汗をかく。それもその筈、エレベーターでロビーから出ることも、外に救けを呼ぶことも出来ないのであれば当然である。
「爆発物が設置されただけで、警備システムが厳戒モードになるなんて……」
訝しげにしているメリッサ。どういうことかと聞くと確かに爆発物の設置は警備ロボとかが動くことはあっても厳戒モードが作動するほどの事態とは思えないかららしい。その言葉に伏黒は同時にタルタロスと同等のセキュリティを誇るI・アイランドで爆発物がそう簡単に設置出来るものなのかと疑問に思う。仮にそれができる人間なのだとしたらかなりの手練ということになる。すると混乱する場を落ち着かせるためか緑谷の口からある情報が飛び出す。
「会場にはオールマイトがいるんだ」
「オールマイトが!?」
驚く飯田と「ならば問題はなさそうですわね」や「確かにあとは待ってれば問題なしだな」という安堵の声があたりから聞こえてくる。しかし伏黒としてはタルタロス並みの警備を潜り抜けられる人間がたとえオールマイトと言えどそう易々と捕まるものなのかと疑問に思う。緑谷も嫌な予感でも感じたのかメリッサにパーティ会場への行き方を聞くと非常階段の方を指定される。そして壁越しからでも情報を得ることのできる耳郎を連れて会場まで足を運ぶ緑谷。
そして10分ほど経過して帰ってきた緑谷から与えられた情報は控えに言っても最悪なものだった。情報は緑谷の指示のもと会場の上階から非常階段の踊り場に戻った三人が待機していた面々に情報共有をすることとなった。青い顔して帰ってきた段階でここにいる面々は嫌な予感がしていた。緑谷と耳郎から状況を聞かされた面々は事態がそこまで大きなものだったとは思っていなかったのか言葉を失っている。
そんなみんなを前に、飯田が口火を切った。
「オールマイトからのメッセージは受け取った。俺は、雄英校教師であるオールマイトの言葉に従い、ここから脱出することを提案する」
「飯田さんの意見に賛同しますわ。私たちはまだ学生、ヒーロー免許も無いのに、敵と戦うわけには……」
至極真っ当な言葉が飯田と八百万の口から溢れでる。飯田に関してはヒーロー殺しの一件もあってかその言葉に対して嫌に強い重みを感じた。それに対して同じくヒーロー殺しとの案件に関わってしまった伏黒は待ったをかける。
「俺は反対だ」
「ッ、何故だ!免許もなしそんなことをすれば!」
「まあ、ヴィランと変わらないわな。だけど、脱出するって言ってもどうやってだ?メリッサさんの言葉が事実ならタルタロス級なんだろ?この建物の警備力」
「じゃ、じゃあ……救けが来るまで、大人しく待つしか……」
その言葉に反論していた飯田は押し黙る。タルタロスと言えば死刑すら生ぬるいとされたヴィランの行きつく成れの果て。囚人の居房がいくつかに区分されて個性の危険性、事件の重大性によって振り分けられ、危険性の高い者ほど地下深くに収監、脳波やバイタルサイン等から収監者による個性発動が感知され次第、部屋に取り付けてある機関銃にて処分するという鬼畜仕様。そんなヤバいところから脱出する方が無理なのでは、という伏黒の言葉に上鳴は助けが来るのを待つしかないのでは?という言葉と共に皆が押し黙る。すると、
「うーん、私は助けたいかな?」
少しだけ考えていた拳藤が何を思ったのか救出を提案する。
「本気か?」
「おいおいおい、敵と戦う気か!?相手はタルタロス級の警備を潜り抜ける奴なんだぞぉ!?」
「んー、そこなんだけどさ。本当に潜り抜けたの?」
峰田の言葉に対して拳藤は至極不思議そうに問い返す。その言葉に皆が一様に疑問を抱く。だってそうだ。ここにいるということは侵入することが出来たということなのだから。しかし、10年以上の付き合いである伏黒は察することができた。拳藤の言いたいことを。
「内通者がいる、と?」
「寧ろそっちのほうが可能性高いだろ」
「あり得ない!!」
その言葉に全員が目を見開き驚くと同時にその可能性が頭から抜けていたことに気がつく。唯一、ここで3年間もの間過ごしてきたメリッサだけは声高々に否定していたが、同時にここの警備力の凄まじさを知っているからか少しだけあり得るかもしれないという顔をする。
「それに私たちはヒーローの卵だ。最近だとヴィランを倒すところに目が行きがちだけどヒーローの本質は人助けだろ?」
「つまり無理に戦わずにオールマイトたちプロヒーローを救け出そうってか!?不意打ちと人質ありきとはいえオールマイトの動きを封じる奴らだぞ!?」
「じゃあ、ここでダンマリ決め込んで待ち続ける?待ってる間に人死が出ないなんて誰が保証出来るの?」
拳藤の言葉に伏黒を除いた全員が俯いて黙り込む。伏黒としては全然救出に賛成だった。というよりもやれることがそれ以外に存在しない。肝心のヒーローは人質を取られて動けず、逃げようにもタルタロス級の警備力の前では不可能。しかも緑谷と伏黒以外は知らないがオールマイトの活動は制限時間がある。緑谷と会った時にオールマイトもこのI・アイランドにいることは確信していた。親友であるとされるデヴィット・シールドにはトゥルーフォームを明かしている可能性は高くともその他には確実に明かしていない。ここでトゥルーフォームがバレるということは本当に平和の象徴という時代の柱がへし折れることと同義だ。故に伏黒は救出に専念すべきであると考えている。
すると緑谷と轟、耳郎のほうから声が上がる。
「拳藤さんの言う通りだ。助けよう!」
「俺も同感だ。たとえ違法だとしても、止めるために動きたい」
「うちも同じ意見かな。このまま何もせずに引きこもって終わったら世間は納得しても、ヒーロー目指してるうちは納得できない」
「緑谷くん!」「轟さん!?」「耳郎、お前まで!?」
3人の決意に、八百万と上鳴が驚きの声を上げる。二人とて、助けたくない訳ではない。しかし違法行為をするという事に対して、二人は即座には決断しきれなかったのだ。
そんな中で、麗日が声をあげた。
「ウチも、出来ることがあるならしたい!人として、ヒーローになるならない以前の問題やもん!デクくんも、そういうつもりやろ?」
「麗日さん……」
「意志は固いんだな。……わかった。無理だけはしない。それが約束出来るなら!俺も協力しよう!」
ヒーロー殺しと接敵した3人が助けにいくと言い切った姿を見て保須市での出来事を思い出したのか一度目を瞑って深く息を吐くと飯田も条件付きで救出案に賛同した。その他の面々も腹を括ったのか八百万、上鳴と続いて救出に賛同した。そして最後に峰田が泣き喚きながら賛同した。
「行こう、みんなを救けに!」
「「「おう!」」」「「「「うん!」」」」
こうしてヒーロー科によるヒーロー救出作戦が実行された。
◇
10階、20階、30階、40階と目まぐるしく階層が変わるのを見ながらヒーロー科の面々はエレベーターもエスカレーターも使えないこともあって非常階段を登り続けていた。普段から下手な軍人以上に鍛えられていることもあってか未だに泣き言を言うものはいても脱落者はいなかった。メリッサがついていくとなった時は緑谷を中心に反対の声も上がったが、セキュリティを解除できる人間はメリッサしかいないということで同行を許可した。身体能力に関してはヒーロー科の人間達についていけるのかと言う声も上がったが、
「ごめんなさい伏黒くん。【玉犬】ちゃんを借りちゃって」
「あなたにはここの司令塔であるセキュリティを取り戻すって言う重要な役割があるんです。疲れてそれが出来ないんじゃあ、今やってること自体が御破算になる。ですので気にしなくて大丈夫ですよ」
そこに関しては伏黒が【玉犬・渾】を呼び出して背負わせることでその問題は解決した。一部から消耗しすぎないかと言う声も上がったが、戦闘ならいざ知らずメリッサほど軽い人間を持ち運んだだけでバテるほど柔ではないと告げると皆が納得してくれた。そうして60階に差し掛かったところでいよいよバテてきたのか緑谷や拳藤、轟に飯田、伏黒と戦闘に特化した面々はいまだに余裕があったが、拘束型の個性持ちの人間などは少しだけペースダウンし始めていた。
「め、メリッサさんっ…ゼェ、あと、何階…ハァ、ですか?」
「最上階まで200階だから、あと140階ね!」
「嘘だろ、オイ!?」
息も絶え絶えといった様子でメリッサに後何階かを聞いた上鳴は帰ってきた返事に思わず絶叫する。そんな様子に張り詰めていた緊張が少しだけほぐれる。そして80階に差し掛かったところで問題が生じた。
「この先シャッターが閉まってる!」
「そんな…」「マジかよ!」「ここまで来たのに!」
あんまりな事実に皆が一様に叫ぶとメリッサはどうにか出来るのか【玉犬】から降りてシャッターに近づく。するとフラフラで足元もおぼつかない峰田が近くにあった緊急階段を出る扉に手をかける。
「う、上に行けないんだったら、横から行けばいいだろぉ〜」
その言葉にメリッサは操作をやめて声のした方に目線を向けると「ダメッ!!」と叫ぶ。しかしその叫びが届くよりも前に峰田は扉に手をかけ開けてしまう。それを見たメリッサは【玉犬】に飛び乗るとすぐに走るように指示する。それに疑問を抱きながらも指示に従って一斉に走り出す。そしてその疑問の答えはすぐにやってきた。
「シェルターが!」
目の前の奥から順番にシェルターが降りてくる。それを見た全員が急いで走り出すも間に合わないと悟る。それを見た伏黒は【嵌合纏】を発動させ【虎葬】を纏うと閉まりかかっているシェルターに向けて全力で拳を叩き込む。そしてシェルターが吹き飛ぶと目の前にあった一つの扉に向けてもう一度拳を放つ。
「ここに逃げ込むぞ!」
伏黒がそう言うと一斉にすぐそばにあった部屋に入ったところ、そこは一室丸々フロアを使っている大きな部屋が広がっていた。天井はとても高く、3階分の吹き抜け構造のようで多くの植物が植えられている。
「メリッサさん。このエリアは?」
「植物プラントよ。個性の影響を調べてるの」
「なぁ、吹き抜けになっているし、轟の氷で上の階に出ちまえば……」
「待って!あの中央にあるエレベーター!」
時折り床に耳のイヤホンジャックを刺して索敵をしていた耳郎の声で、全員が部屋の中央にある黒い柱のようなエレベーターを見た。その電光板の数字が徐々に上がってきている。
「誰か来る……!?」
「なぁ、あのエレベーターを使えば最上階まで行けるんじゃ……」
「無理よ。エレベーターは認証を受けている人しか操作出来ないし、シェルター並みに頑丈に出来てるから破壊も出来ないわ」
それを見た全員が近くの茂みに隠れると、上鳴がアイデアを出す。伏黒もいいと思ったのだが、思っていた以上にセキュリティは厳しいらしくメリッサにその案は不可能であると否定される。電光板の表示が79から80へ変わり、音を立ててエレベーターが開いて中から男が二人出てきた。片方は細長い男でもう片方は逆に丸く太い男だった。男たちはキョロキョロと周囲を見回しながらエレベーターを降りて歩いていると、荒々しい声を出した。
「見つけたぞ、クソガキども!」
見つかってしまったと緑谷たちが茂みの中で身体を強張らせていると、聞きなれた声が聞こえた。
「ああ?今なんつったテメー!」
その声に思わず全員が反応する。茂みの向こうを見ると、正装を着込んだ爆豪がヴィラン相手にメンチを切っていた。
「なんであそこに爆豪がいんだよ!?」
「俺だって知るか!」
上鳴が思わずといった様子で小声ながらも伏黒に問い詰めると伏黒もなんでいるのか、寝てるんじゃなかったのかと内心思いつつも知らないと主張する。あの後聞いたのだが、どうやら爆豪はエキスポに興味はないがこのまま寝ているのも退屈だと思ってたらしい。だが行かないと言った手前、ついていくのもなんだと思って1人で行動することにしたらしい。そんなこんなでいろいろと探索していたら80階にたどり着いたらしい。
あまりの間の悪さにヒーロー科全員とメリッサが思わず頭を抱える。
「なんでお前ここにいる?」
「そんなもんテメェらには関係ねぇだろうが、アアァン!?」
一瞬どっちがヴィランだかわからなくなったが、今この瞬間で爆豪の通常運行の対応は不味すぎた。それに苛立ったのかノッポの方のヴィランは目を細めると何も言わずに右手が手袋を破いて2倍ほどの大きさに変わる。敵の右手からはまるでガラスのような波動が数メートル先に居る爆豪目掛けて放たれた。しかしそこはA組の中でも最高峰の反応速度を持つ男、攻撃に気づくことはできた。しかし出来たのは気づくことだけ、個性の出だしはどうしようもなくヴィランよりも遅れてしまった。
あわや直撃するといったところで轟から放たれた巨大な氷壁をヴィラン目掛けて巻き込むようにすることで防がれた。
「この個性は……舐めプ野郎か!!」
「轟、拳藤!お前らは残ってあとは先に行け!轟!緑谷達を上に連れてけ!」
「了解した!」
伏黒の指示に対して轟はすぐに応答すると人が何人も乗れるほどの氷塊を作り上げてエレベーターのように緑谷達を上に連れていく。
「伏黒くん!」
「君は!?」
「良いから行け!ここを片付けたらすぐに追いかける」
伏黒の迷いのない言葉に、全員が心配する気持ちをこらえて先を目指す事に意識を切り替える。それを見届けた伏黒は轟と拳藤と並び立つ。するとほぼ同時にスプーンでくり抜かれたような跡と共に2人組のヴィランが無傷で現れる。
「拳藤、お前は爆豪と組め。」
「了解!」「俺に命令すんなや、影野郎!!」
「じゃあ、お前は俺とか?」
「そう言うことだ、よろしく頼むぞ轟」
小さく丸い方の相手が紫色の肌になると同時に伏黒達が見上げるほどの大きさに変貌すると大きく吠える。そして氷をくり抜くようにして抜けてきた男も構えるとヒーローの卵vs ヴィランの戦闘が始まった。
◇
「思いの外、呆気なかったな」
無傷の轟は2人の関節を固定するように氷結させるとそう言う。あの後、伏黒の指示通りに分かれ戦闘が発生した。確かになんでヴィランになったのかと聞きたくなるような相手だった。
しかしヴィラン達が相手したのは一年ヒーロー科の中でも最上位に位置付けられる面々だった。紫色の肌をしたヴィランは体躯に見合った力をしていたのだが、その力の面で拳藤の方が圧倒している上に個性の影響からか思考も鈍く攻撃パターンが凄く単純だった。拳藤が攻撃を弾き、爆豪が爆破するを繰り返すと最終的に拳藤が手に乗っけた爆豪を投げ飛ばし、その勢いと回転を利用した最高火力の爆破でヴィランの1人を仕留めた。
次に伏黒と轟ペアなのだが、初めこそ火力が明らかに今まであってきたヴィランの中でも最高値ということもあって攻めあぐねていた。しかし、伏黒が轟の展開した氷を用いて影から影へと移動しては殴るを繰り返した結果、大きな隙が生まれるとトドメに火力の高い轟が炎を放って終了した。
拳藤のハイタッチに応えた伏黒はスピーディーにヴィランの討伐を済ませたことに安心していると
「なんじゃあ?最近の若いのは餓鬼の子守りも出来んのか?」
後ろの方から声が響いた。それに轟、拳藤、爆豪、伏黒は全員が個性を起動して構える。そこには低身長で筋肉質、達磨の様な太い眉に丸顔の初老の男がいた。個性の影響からか禿頭にアイスラッガーのような髪のみを残すといった印象に残りやすい出で立ちをしている。服装もギッチギチのTシャツに短パン、そして腹巻という半世紀ぐらい前の服装をしており、お世辞にも綺麗とは言い難い。 あまり強そうではない出立ちに皆が警戒を緩めていた。
しかし、伏黒は違った。知っているのだこの気配を。退廃的で濁り切ったその目は組屋蹂造のそれと瓜二つだったのだ。それを理解した瞬間、影から【虎葬】を呼び出すと突撃させて吹き飛ばす。
「おい!テメェ影野郎!何先走ってんだぁ!?」
「爆豪、拳藤、轟。お前らは先に行け」
「なんでだ?俺たち全員でかかった方が確実だろ?」
「今優先すべきはヴィランの討伐じゃなくてタワーの奪還だろうが。手早く倒せたなら緑谷のほうに行ってやってくれ」
その言葉を聞いた轟は少し考え込むと爆豪の手を取ってその場から離れる。それを見送った伏黒はいまだに隣に立つ拳藤にも行くように告げる。しかし、
「嫌だね。それにお前がいきなり攻撃したってことはそれほどの相手なんだろ?だったら2人のほうがいい」
という理由で残った。反論しようにも確かにそうだと伏黒は納得すると土煙の中からスタスタと足音が聞こえる。それと同時に土煙をかき分けて達磨のような男が姿を現す。
「まったく、若いモンは年寄りを労わらんかい」
「時間はかけらんねぇぞ」
「かからないだろ」
個性が不明な古狸を相手に拳藤と伏黒による初めての共同戦線が始まる。