合宿二日目。時刻は午前5時半。A組生徒達は朝早くから体操着姿で外に集合していた。昨日の疲れもあってか1人残らず寝ぼけ眼のままで一部の者は口から欠伸が出るのを堪えることも出来ないまま相澤の前に集まる。
「おはよう諸君。本日から本格的に強化合宿を始める。今合宿の目的は全員の強化及びそれによる仮免の取得。具体的になりつつある敵意に立ち向かう為の準備だ。心して臨むように。というわけで、爆豪。そいつを投げてみろ」
相澤がそう言いながら爆豪に渡したのは、見覚えのある球体。1年A組が入学初日にやらされた個性把握テストの、ボール投げで使ったハンドボールだ。どうやら前期でどの程度成長しているのかを確かめてみろとのことだ。前回の爆豪の記録は『705.2m』とクラスの中でも上位に位置づけられるものだった。かなり濃い3カ月を過ごしていたこともあって何人かは1kmを超えるのではないかと期待されたまま、爆豪は『くたばれ!!!』の掛け声と共に爆風を乗せた一投を放つ。
しかし記録は予想を裏切っての『709.6m』。
たったの4.4mしか変化が見られなかった。これにはその記録に見ていた伏黒達も大なり小なり驚いていた。渾身の一投だったのか自信満々といった表情であった爆豪もまた記録を聞いた瞬間、驚愕からか目を見開き固まっていた。しかし相澤だけは特に驚く様子はなく、まるで分かり切っていたかのようにさも当然といった具合で話し始める。
相澤曰く、入学からおよそ三ヶ月間、正直他の学生の枠を超えた様々な経験を経て確かにクラスメイト全員は成長している。それは《USJ》、《職場体験》、《I・アイランド》と悉くヴィランと接敵し続けた伏黒とかがいい例だった。だがそれはあくまでも精神面や技術面、あとついでに多少の体力的な成長がメインであって
だからこそ今日からこの林間合宿を通して短期集中的な〝個性伸ばし〟を行うというのである。
そう言い切るといやらしくイレイザーは笑いながら指を立てる。
「死ぬほどキツイがくれぐれも…死なないように――――」
こうしてB組よりも一足早くA組の林間合宿における最大のイベントが始まった。
◇
そうして始まった林間合宿2日目の各自の個性を伸ばす訓練。そこで広がっている光景を一言で言い表すとするならば『地獄絵図』である。
「だあァァァァァァァァァ!!!オラァ!!いっ!…アアァ!クソがァァ!!!」
放てる一撃の規模を大きくするために爆豪は熱湯に両手を突っ込んで汗腺の拡大させては最大規模の爆破を上空目掛けて放つを何度も繰り返す。初めて間もないが痛みからかお湯の湯気からか爆豪の顔に汗が流れ始めるのが見える。
「ハァ…ハァ……チッ!」
凍結に体を慣れさせると同時に炎の温度調節を試みるため轟はドラム缶風呂に浸かりながら炎→氷の順番で交互に出して寒くなり過ぎず、暑くなり過ぎずを調節していた。因みにワイプシのメンバーの1人である『ラグドール』曰く、頑張れば両方を同時に使うことができるかもしれないとのことだ。今は熱により過ぎているのか少し暑そうにしている。
「あああああぁぁぁぉぁぁぁあぉあぁぁ!?」
容量の拡大とテープ強度と射出速度を強化することを目標とした瀬呂は延々と自身の肘にあるテープを出し続けている。よくテープで無くなる寸前によく聞くギャリギャリという音共に瀬呂の口から鶏を絞めたような声が漏れ出始める。
「くっ…!?おっしゃあ!来いやぁ!!」「ハァ…ハァ、くっ!はァ!!」
個性強度を高めると同時に筋力を高めることで相乗効果を狙った特訓を言い渡された切島、尾白の2人の共同での訓練となった。内容は単純で硬化した切島を尾白が尻尾でただひたすらぶん殴り続けるといったもの。尾白の一撃が思いのほか重かったからか時折切島の硬化が解けることはあるが、問題なくすぐに掛け直す。尾白も切島の効果の際に体が鋭くなる影響を受けたからか尻尾の一部に切り傷のようなものが見て取れた。
「ギィィィィヤァァァァァァァァァァ、あばばばばビバビバビバはばらばびび!!!」「ううぅぅぅぅぅぅぅんんんん!!??」
許容上限を高めるように言い渡された上鳴、青山の2人は上鳴は大容量バッテリーに自身を繋いで通電し、青山はただひたすら空目掛けてレーザーを放ち続ける。上鳴は時折アホ面を晒すこともあったが、許容上限が上がるだけでなく電気に対しての耐久力をあげるための特訓でもある。青山は一秒間放つを連続で行うだけでなく長時間放つ事で1秒以上レーザーを長く放つことができるようになるための特訓でもある。
「はぁ~~〜〜〜!!!わぁ〜〜〜〜〜!!??」
話す個性ということもあって生き物を操る声が遠くまで届くように声帯を鍛えるように言い渡された口田は特訓場の中でも一際高い場所でただひたすら叫び続ける。ついでに内気な性格も治すことも兼ねているのだが、羞恥心からか少しだけ顔が赤くなっていた。
「うガあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!ダークシャドウォォォォォォォォ!!!!」
暗闇で暴走するダークシャドウを制御することを言い渡された常闇は洞窟に引き篭もっていた。時折聞こえてくる殴打のような音にどこか不安を駆り立てられる。
「ん~~~~~!!!」
三半規管の鍛錬と酔いの軽減、また限界重量を増やすことを言い渡された麗日はゾーブと呼ばれている半透明のボールの中でひたすら坂の上を転がり続けている。ついでに無重力にすることで回転力を上げているのだが、そろそろ限界が近いのか間違っても乙女から流れ出てはいけないものが溢れかけている。
「
全身の筋肉と長い舌を鍛える事を言い渡された蛙吹は崖を登り続ける。その際に頂上付近まで自身の舌を伸ばすとその場所で固定して自身を引き上げるようにして登り続けている。かなりキツイのか無表情の彼女から表情が現れ始めている。
「んっモグ…むっモグモグ…!」「はぐっ…ほぐっ…!モグモグ」
筋トレしパワーアップを図るように言い渡された砂藤と創造物の拡大、また創造時間の短縮を目指すように言い渡された八百万は個性を発動させながらただひたすら甘いものを食べ続けていた。砂藤は個性使用期間の増幅を八百万は食べながら創造することで何かしながらでもよりクオリティが高いものを作れるように尽力している。
「ふんふんふんふんふんふんふんふんふん!!!」
脚力と持久力の向上を課題として言い渡された飯田のやる事は単純明快。ただひたすらに走り込む事。元々走ることには慣れているからか持久力もそこそこあって未だに余裕が見て取れる。
「おりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!??」「うぐぅぅぅぅぅぅぅゔぅぅぅ!!?」
ピンジャックを鍛えることで音質を高めるよう言い渡された耳郎と断続的に酸を出し続けて皮膚の耐久度を上げるよう言い渡された芦戸はただひたすらに崖目掛けて各々の個性を用いて攻撃をし続ける。2人とも未だに目立った怪我が見てとることは出来ないが、かなりキツイのか既に2人から悲鳴が上がり始めている。
「ううぅ…いでぇ、い゛でぇぇよぉぉぉぉぉ…」
頭皮を鍛えてもぎりの個性を使っても血が出難くするように言い渡された峰田は座り込んでただひたすらに頭部のブドウにも似たもぎりの頭からちぎり続ける。許容限界を突破しつつあるからか出血が見て取れる。
「……」「……」
気配を消せるようにと言い渡された葉隠と複製腕を素早く同時に変化させるようにと言い渡された障子は合同で訓練を行っていた。内容はいわゆるかくれんぼで逃げる役を透明人間の葉隠が務めて鬼役を気配探知に長けた障子が行う。絵面こそ地味だが、2人の間には独特の緊張感が漂っていた。
「ひーーーー!!!」「さァ今だ!撃ってこい!」「はっ!…5%デトロイトスマッシュ!!」「キレッキレだな!まだまだ余裕ありありじゃあないか!筋繊維が千切れてない証拠だ、よッ!!」「イエッサー!!」
単純な増強系であるが故に身体能力の向上を言い渡された緑谷はワイプシの1人である『虎』の監修の元ブートキャンプに参加を言い渡された。古臭くともガタイがよく筋肉質な『虎』が組んだメニューなこともあって全身余すことなく鍛えることが出来る。途中で自身に攻撃するようにと言ってくると緑谷はすぐさま《フルカウル》を起動して殴り掛かるも、個性【軟体】を使って難なく回避して逆に緑谷を殴り飛ばすと再度ブートキャンプを続けるように言い渡す。
何も知らない人が見たら思わず見なかったことにしてきた道に戻ろうとする光景がそこには広がっていた。現につい先ほど訪れたB組の面々は目の前にあるもはやかわいがりの領域に突っ込んだ地獄絵図にドン引きしている。
そして伏黒恵はというとラグドールから自身の個性の詳細について細かく聞くとピクシーボブに頼んで作り上げてもらった土砂ドームの中に引き篭もっていた。すると、
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!
ピクシーボブが伏黒の特訓場所として作り上げた土砂ドームの中で炸裂音が響き渡る。その音に思わずA組の面々は反応してしまう。USJの一件で知っているからだ。この音が破壊音ではなく戦闘音であることを。先ほどから聞こえてきたこともあって心配していたがトドメのような一撃を聞いて流石に焦ったのか咄嗟に何名かがその場所に駆け寄ろうとする。しかし、ドーム生成に尽力したピクシーボブが個性訓練によるものだと言って引き止める。
すると中からスタスタとボロボロになった伏黒が現れる。それを見たピクシーボブは個性を解除して伏黒に近づく。
「終わった?」
「終わってなきゃ出てきませんよ」
「そりゃあ、そうだ!」
伏黒の安否を確認しつつ終了したか否かを問うと何当たり前のこと言ってんだと言わんばかりに伏黒がそう返すとその通りだ!と言いながらケラケラと笑う。そして続行するかしないかを聞くと伏黒はひとまず体を鍛える旨を伝えて緑谷と共に『虎』主催のブートキャンプに参加した。
◇
そうして個性を引き延ばす訓練が終わって気づけば大体午後4時頃。目の前に広がる食材の山々を前にピクシーボブとラグドールの両名が施しは昨日までで後は自分達で料理を作るようにと言い渡す。B組もA組も関係なしに疲れ果てたように「イエッサ……」と力なく返す。特に昨日の今日での疲れもあってかA組はいっそう元気がない。
しかしそこはA組の委員長、飯田天哉。生真面目さにおいては他の追随を許さず何かをハッと察したかのような顔をしたかと思うと「災害時の炊き出しも救助活動の一環、流石雄英無駄がない!」とかなんとか言い出してとりあえずみんなを動かした。この時、伏黒は相澤の「こいつホント便利だな」という顔を忘れない。
そうしてB組と共同での飯作りともあってそれぞれが役割分担をすべく分かれる。料理に手慣れている爆豪、伏黒、拳藤、飯田、麗日が料理当番を。火を起こすことが出来る轟、八百万、上鳴が火の番を。緑谷、鉄哲、切島、黙示録、障子など力仕事が得意な人間は準備と薪運びを。そして残りの面々が配膳やらの準備をしていた。
「おい、伏黒。玉ねぎ切り終わったか?」「終わってる。人参はどうだ?」「こっちも終わってる。爆豪、肉は焼き終わったか?」
「とっくに終わっとるわ!後は別の鍋で野菜をぶち込んで炒めとけ!!」「いやー手が多いと量が多くても作るの楽やわー」
料理担当は爆豪が多少はキレていたが思いのほか上手く協調性もあったことから量が量だけあって心配はあったがかなり手早く下処理が完了した。その後はなんやかんやとB組の方のヘルプもしたりして、結局全員が夕飯にありつけたのは六時ごろだった。小、中学校の頃によく見た給食の寸胴をさらに大きくしたようなもので全員分一気に煮込むんだこともあって割と時間がかかった。
「うめぇ!店とかで出したら微妙かもしんねぇけどこの状況も相まってスゲーうめぇー!!」「言うな言うなヤボだな!」「お!ヤオモモがっつくねぇ!」「ええ。私の個性は脂質を変換しているものですから。蓄えれば蓄えるほど沢山出せるのです」「うんこみてぇ」
若干
「そう言えばブートキャンプをする前まで伏黒はなにしてたんだ?」
伏黒の隣にいた拳藤は口に含んだものを飲み込んでそう問いかける。思い返すのは個性を延ばす訓練を初めてその言葉に反応したのはA組の面々だけでなく一部のB組の人間もだった。
「そう言えばそうだな」「ラグドールと何か相談していたが…」「ねぇ、ねぇ、教えて伏黒ー!」
そこまで言われると流石に断ることが出来ず、伏黒は一度ため息を吐くと思い出すように話し始めた。
◇
「自分の個性がわからない〜〜?」
今から10時間ほど前、個性を延ばす訓練が始まろうとした時の事だった。伏黒がラグドールに近づいて質問したときに返ってきた第一声がこれだった。
「いや、でも伏黒キティは使いこなしてんじゃん。現に雄英の体育祭でも一位取ってたし…」
「より具体的に言うと
伏黒にとって自身の最大の弱点は自身の個性の不透明さにあった。そして昔話を交えて自身の個性について知ってる事を話し始める。
あれは今から何年か前のこと自身が初めて個性を使ってからそこそこ時間が経ったころの話だった。あの日は個性を試そうとして【玉犬】以外にも呼び出せそうな気がすると思い呼び出したのだ。そして思惑通り呼び出すことには成功した。
呼び出した【鵺】が自身を殺しにかかってきたこと以外は。
出会い頭、姿を見るや否やいきなり電撃を放って攻撃してきたのだ。咄嗟に【玉犬】の白と黒を呼び出して迎撃して影に戻したのだがいきなりのことで驚き、しばらくは個性を使う気が湧かなかったほどだ。何故なら伏黒にも軽くない痛手を負ったのだから。
それからしばらくして意を結した伏黒は再度【鵺】を呼び出す覚悟を決める。その際に今度は同じ轍を踏まぬようにあらかじめ【玉犬・白】と【玉犬・黒】を構えた上でだ。そして【鵺】が現れたのと同時に【玉犬】をけしかけようとしたのだが、一向に【玉犬】達は動かなかった。
しくじったと思い、咄嗟に身構えたのだが、【鵺】はまるで以前の敵意が嘘のように消えて無くなってこちらに擦り寄ってきたのだ。戸惑いこそしたが伏黒は【鵺】を恐る恐ると言った様子で撫でると【鵺】もそれに応えた。そうして【大蛇】や【蝦蟇】も従えていくうちに自身の個性は呼び出すだけでは従わず、戦って初めて従えられるポケモンじみた物であると知った。
「うーん。ある程度は把握してるのね。因みにわかんないことは?」
「今後出せるであろう式神の数。そしてなんで呼び出す時に自然と名前が頭に浮かぶのか、です」
そこまで聞いたラグドールは少し考え込むような様子を見せると伏黒目掛けて個性を発動させる。少しふむふむと言いながら四白眼が特徴的な目を伏黒に向ける。
「うん!あちき貴方の個性わかっちゃったわ!」
「そりゃあ、個性【サーチ】ですからね」
「うーん、辛辣!貴方の個性は全部で10種類式神を扱えるわね!従わなかったのは調伏出来てなかったからね!」
「調伏?」
「あちきが一から説明するわ!」
そうしてラグドールはハイテンションになりながら宣言通り伏黒の個性を一から説明し始める。
まず初めに個性自体は今の認識通りの影を媒介に十種類の式神を召喚するもので顕現の際は動物を模した手影絵を作ることで、その動物に応じた姿の式神が召喚されるものである。式神が完全に破壊されると同じ式神は二度と顕現させることはできず、破壊されずとも術師が重症を負うと術式が解け顕現が解除される欠点も持つ。ただし破壊された式神の持つ術式と呪力を他の式神に引き継ぐ『渾』を行うことで、残された式神を強化することが可能。『渾』にはルールがあり、特定の組み合わせでなければ行えない。
そしてこの個性における最大の特異性は『調伏』にあった。ルールは以下の通りで
①調伏は術者本人のみで行わなければならない。複数人で挑んだ場合、式神を倒したとしても調伏は無効となる。
②「調伏するため」であるなら全ての式神を召喚可能。
③調伏中に式神に殺されると発動した個性保持者は死亡する。
そして①の複数人で挑んだ場合③が適応されるには術師が死亡すると儀式が中断されるため、術師は全員の死亡が確定するまで仮死状態となる。儀式をキャンセルするためには参加者以外の第三者が式神を倒し儀式を白紙に戻すか無理矢理、術者が式神を顕現できる効果範囲から逃げ出す必要がある。 といった具合だった。
「なんで言うか自爆も込みなあたり結構アレな個性ね!」
「つまり俺は後、4種類の式神が使えると?」
「そうだよ。種類は【
「名前は分かっています。出来れば能力を教えていただけるとありがたいです」
「勿論、出来てるよ!この紙を参考に選んでみてね!」
伏黒はいつのまにか書かれていた式神の名前とその能力が記されていた紙を渡される。どうしてか三種類だけであと一種類は書かれていない事が気になって聞いてみる。
すると、少しだけ不思議そうな顔をしながら「サーチしようとしたら『ガコンッ』ていう音共に弾かれた」と言いながら把握出来なかったことを謝るラグドール。流石にここまでしてもらってこれ以上求めるつもりはなかった伏黒は礼を言う。そしてピクシーボブに頼んでドーム状に囲ってもらうと式神を呼び出して『調伏』を行った。
◇
「というわけだ」
「はー、なるほどなぁ」
「なにを調伏…だっけ?したの?」
「そいつは秘密だ」
伏黒が手の内を秘密にした事に一部からブーイングが湧くが伏黒はそれをスルーする。そうして食事を終えて食器を洗うと解散して就寝すると林間合宿3日目が終了した。