伏黒のヒーローアカデミア   作:アーロニーロ

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I・アイランド、そして林間合宿④

 

 

「緑谷、俺に乗れ。速さにおいて今の段階では俺の方が上なんだ」

 

「う、うん!ごめんね伏黒君」

 

「別にいい。だけどガイドは頼むぞ」

 

 伏黒が緑谷を背中に乗せると【嵌合纏】を発動させて手持ちの中でも速度面に特化している【鵺】を纏う。そして緑谷のガイドに従いながら浩汰の秘密基地へと足を運ぶ。

 

「うおぉぉ!速い!」

 

 入り組んだ森の中ではなく最短距離を駆けるために木々の上を跳ねるようにして突き進む。個性を延ばすと同時に怪我人を運ぶことを想定として【嵌合纏】を発動させた状態で崩れやすい土人形を何度も運んだ甲斐もあってか緑谷に対して負荷なく運ぶことが出来ている。

 

「おい、緑谷!本当にこのルートでいいんだな!?ただでさえ煙のせいで【玉犬】の鼻がきかないんだ。マジで頼むぞ!?」

 

「大丈夫!この崖を登れば…浩汰君!?」

 

 そうしてマンダレイと虎からそこそこ離れた距離に伏黒は思わず本当に合っているのかと聞くと緑谷が崖に登るように指示を出す。そしてある事に気がついたのか伏黒の名を叫ぶ。秘密基地の近くまでやってきたのだが、洸汰と思しき小さな子供くらいの人影と共に、もう一つ、あきらかに大きな人影があった。

 

 それを見た伏黒も浩汰のあまりの運の無さ加減に絶句させられるがそれどころではなかった為、直ぐに立ち直ると指示を出す。

 

「緑谷!俺を足場に跳べ!」

 

「わかった!」

 

 緑谷は伏黒の言葉通り背中で《フルカウル》を起動すると伏黒の肩を足場に跳躍する。伏黒は上からの力に下へと落ちていくがすぐさま【虎葬】を呼び出し、足場にすると伏黒も跳躍する。そして緑谷は浩汰を回収して、伏黒は全身をローブで覆ったヴィランの頭に蹴りを入れる。ローブの大男は一瞬怯んだがそれだけで問題なさそうに数歩離れる。

 

「ヴィラン連合だな?」

 

「ん?何だよそっちに随分と口の軽い奴がいたんだなぁ。…って、そこの緑髪とウニ頭は死柄木のリスト(・・・)にあった奴らじゃねぇか!オイオイ!マジでついてんなぁ、俺!」

 

 伏黒は生ゴムの塊を蹴ったような感覚に疑問に思いながらもすぐに敵連合か否かを問う。すると相手は伏黒と緑谷の姿を確認するや否やゲタゲタと笑ってそう言うとローブを取っ払う。中からは筋骨隆々な肉体に、常に攻撃的な笑みを浮かべた片目に深い傷跡を負った義眼の男が現れた。

 

 それと同時に強化された伏黒の聴覚は後ろから引き攣るように息を呑む音と「パパ…!ママッ…」という掠れた声を捉えた。

 

「何の因果だよッ……」

 

 それを聞いた伏黒は思わずそう呟かざるを得なかった。浩汰が孤児なのはなんとなくだがわかっていた。何せ伏黒も似たようなものだったのだから。浩汰の両親がどんな職業をやっていたのかはわからない。しかしこれだけはハッキリと分かる。彼の両親は目の前の人間に殺されたということだ。伏黒が身構えていると緑谷が隣に並び立つ。

 

「伏黒君、スマホある?」

 

「さっき落としたっぽい。そう聞くあたりお前も落としたか、壊したな」

 

「うん。ごめん救援は期待できない。このまま逃げ仰せても確実にこいつは追ってくる。だからやれることはたった一つ。ここで倒すしかない。そして」

 

「「必ず浩汰(くん)を必ず助ける」ぞ」

 

 2人が覚悟を決めると緑谷は言葉と共に《フルカウル》を起動し、伏黒は【嵌合纏】を維持したまま姿勢をさらに深くしていつでも戦闘できるように準備する。それを見た義眼の男はハァと喜悦を含んだ息を吐くと同時に腕から筋繊維と思しきものが溢れ出す。

 

「『必ず助ける』ねぇ…。ハハ、いいセリフだ泣かせるねぇ。どこにでも現れてヒーロー面すんのはヒーローの卵も同じみたいだ。確認しとくが緑髪のほうが緑谷でウニ頭のお前が伏黒でいいんだよな?いやぁー本当にツイテるぜ!!まさか、捕縛対象と殺害リストに載った奴が二人同時に現れるなんてよぉ!!――――じっくりといたぶってやっから血を見せろ!!」

 

 その言葉と共に義眼の男の個性由来の筋繊維と思しきものが荒れ狂う。そして跳躍するとほぼ同時に緑谷目掛けて大ぶりの右ストレートをかまそうとする。しかし、伏黒が間に割り込む。

 

「直線、直球。読みやすいことこの上ない」

 

「うおぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

 伏黒は義眼の男の手を掴むと正面打ちを相手の内側に体を捌き、当て身を入れながら相手の小手を取り小手回しに移る。そして相手の外側に体を捌いてから相手の肘を脇で挟んで絞りながら相手を崩し肘固めに入ると相手の肘を脇で挟んで絞った時に反対の腕で絞り込んでいる自分の手首ごと挟んで肘固めを行う。

 

 オールマイトの一撃に対して一本背負いでカウンターが出来る伏黒にとって直球な義眼の男の動きはひどく単純で読みやすいものだった。

 

「緑谷!やれ!」

 

「ワイオミング…スマッシュ !!」

 

 先ほどの伏黒の一撃が効いてなかったからから緑谷は肘固めに体制を崩した男の首筋目掛けて拳を叩き込む。しかし、

 

「うはははははは!!!やるじゃねぇか!伏黒、緑谷!!」

 

 皮膚を突き破り肩甲拳筋を膨張させた義眼の男は緑谷の一撃を筋肉の鎧で難なく防ぐ。首筋という人類共通の弱点を防がれたからか「なぁっ!?」という驚愕の声と共に固まってしまう緑谷を義眼の男は殴り飛ばして崖の壁に叩きつけるとそのまま伏黒を掴んで腕の全筋肉を膨張させて地面に叩きつけようとする。しかしすんでの所で伏黒は影を液状化させるとそのまま影の中に潜航して緑谷の元に駆け寄る。

 

 すると緑谷の腕がへし折れていた。尋常じゃない一撃の重さに伏黒は戦々恐々としていると再度大きな笑い声が響き渡る。

 

「は、ハハ、ははははははははははは!!!血だ!血だ!!混ざり合う!交じり合う!!いいね!いいとも!!いいぜ!!!これだよ、これ!!全く最高に楽しいぜ!!!……っと、ふぅ、いけねぇいけねぇ。仕事をしなきゃな。おい伏黒だったか?お前は投降してくれ。正直言ってかなり面倒くさいがあんまし傷つけるなって言われてんだ」

 

「シリアルキラーかと思いきや随分と聞き分けがいいんだな。いいのは個性だけかと思ってたよ」

 

「そりゃあ、俺も大人さ。仕事くらいちゃんとこなすさ。それにしてもいい動きじゃねぇか伏黒。危うくやられたかと思ったよ。まぁ、肝心のアタッカーの速度は良くとも攻撃力はお粗末だったがな」

 

 くつくつと笑う義眼の男に伏黒は自身がさらわれる要因に身に覚えがないこともある。しかし、それ以上に緑谷が深刻だと思い出せうと【嵌合纏】で【円鹿】を纏い、治癒を開始する。少しでも治せるように話して時間を稼ごうとする。すると義眼の男は両腕の筋肉を筋肉繊維が溢れ出すほどに膨張させると個性の説明をし始めた。

 

「俺の個性は【筋肉増強】!!皮下に収まんねぇほどの筋線維で底上げされる速さ!!そして、力!!何が言いてぇかって!?自慢だよ!つまり、緑谷!テメェは俺の完全なる劣等型だ!わかるか俺の今の気持ちが!?笑えてしかたねぇよ!!」

 

「解説どーも。緑谷、立てるか?」

 

「うん。ありがとう伏黒君。腕も問題なく動くよ」

 

 義眼の男が気持ち良さそうに個性の説明をしている間に伏黒は緑谷の治癒を完了する。リカバリーガールのとは異なり治癒する相手の体力は使わないこともあって緑谷は吹き飛ばされる前となんら変わらない状態で復活を遂げる。それに驚いたのは義眼の男だった。何せ緑谷の腕を砕いた感覚もあってさっきも息絶え絶えだったこともあって後は遊ぶだけだと確信していたからだ。にも関わらず今は元気に動けそう。そこまで思考を巡らせてようやく伏黒が緑谷を癒したのだと理解すると笑みを深くしてその場で呵呵大笑といった具合で笑みを浮かべるととても嬉しそうに2人を見る。

 

「ハハハハハハハハハ!!なんだそりゃ!!最高じゃなねぇか!!俺がお前(緑谷)を殴って、お前(伏黒)アイツ(緑谷)を治し続けるんだろ!?永久機関の完成じゃねぇかぁ〜!!」

 

「何食って育ったらその思考に行き着くんだよッ!!」

 

「冗談だ、マジになんなよ。しかし…クク、ありがたい。他人を治せるってことは自分(テメェ)のことを治せる可能性が大ってことだろ!?安心したぜ!何せテメェらはヘボいからな!伏黒に関してはうっかり殺しちまった日にはドヤされちまうからな!弱えぇ癖して必ず助ける(・・・・・)なんて宣いやがるんだから世話ねぇぜ!!実現不可能なキレイ事のたまってんじゃねぇぞ!! ――もっと、自分に正直に生きようや!!」

 

 義眼の大男が一方的に喚き散らし、個性をさらに発動させると溢れ出ていた筋繊維がさらに溢れた腕を大きく振りかぶった。もう一編、技をかけてやろうと構え、緑谷も今度は同じ轍を踏まないように立ち回ろうと《フルカウル》を発動させて戦闘準備を整える。しかし、2人と1人がぶつかり合うことはなかった。何故なら義眼の男の側頭部に石が当たったからだ。

 

「最悪だッ」

 

「なんで…なんでいるんだ…浩汰君!」

 

 伏黒も緑谷まさかの事態に思わず浩汰を見て悪態を吐く。この状況はかなりまずい。何せ戦ってよくわかった。動きこそ単純だが、相手のパワーは兎も角、タフネスさはオールマイト並かそれ以上だ。もしも個性を発動でもされようものなら流し切れる保証はどこにもない。当てられた本人がその石に気づかない筈が無く、気勢をそがれたように腕を降ろすとその場で後ろに振り向く。

 

「……ウォーターホース……パパも……ママも……そんな風にいたぶって殺したのか……!」

 

「――――――…!!」

 

 伏黒は文句と共に今すぐこの場から離れるように言おうとしたが目に涙を浮かべて声を震わせた浩汰を前に何も言うことが出来なかった。出てきた理由は単純だった。堪えきれなかったのだ。片目を失ってなお、人を嬲る事に快感を見出し続ける目の前のシリアルキラーに。

 

「……おいおいマジかよ。あのヒーローの子供かよ? 運命的じゃねぇの…。お前両親ってもしかしなくてもウォーターホースだろ?もちろん覚えてるぜ。忘れるわけねぇ。この俺の左目を義眼にした二人だ」

 

 義眼の男は自身の義眼を撫でながら洸汰がいる方へと体を向いた。丁度、緑谷と伏黒がいる方に完全に背を向けた形となって。

 

「おまえのせいで……おまえみたいな奴のせいで!いつもいつもこんなことになるんだ!!」

 

 一通り浩汰の言い分を聞いた義眼の男は呆れたように軽くため息を吐く。

 

「………ガキはそうやってすぐ責任転嫁する。よくないぜ?実際、俺はこの眼のこと恨んじゃいねぇ?俺は"殺す(やりたいこと)"をやって、あの二人はそれを止めたがった。お互いがやりてぇことをやりてぇようにやった結果さ」

 

 義眼の男は言いながら、再び両腕に筋線維を纏い始める。しかも今度は先ほどとは違って大胸筋からも筋繊維が飛び出した。それを見た洸汰がびくりと身体を震わせると同時に数歩後ずさった。それを見た義眼の男は悪辣に笑って距離を詰める。

 

「悪いのは出来もしねぇでやりたいことをしようとした―――テメェのパパとママさ!!」

 

 そして浩汰を殴り飛ばすべく、義眼の男は大きく腕を振りかぶった。鍛えられた緑谷でさえ、一発くらっただけで骨がへし折れた。もしも幼く体が未発達な浩汰に当たれば原形を留める保証はどこにもない。そしてそれを卵とはいえヒーローが見逃す筈もなく緑谷は駆け出し、伏黒は【嵌合纏】を【鵺】に切り替えると技を放つ準備をする。

 

「っと、なったら。そうくるよな!」

 

「悪いのは徹頭徹尾、お前だろ!!」

 

 それを見越していた義眼の男は浩汰から視線を外して振り返ると浩汰目掛けて振り下ろす筈だった拳を飛び出してきた緑谷目掛けて放つ。そしてそれを伏黒が見逃す筈がなかった。攻撃の準備が完了した伏黒から嫌な感じを感じ取った義眼の男は急遽、攻撃から防御に変更する。しかし、それは無駄だった。

 

 バチィィィィィィィィィィィィ!!!!

 

「は?」

 

 防御に回していた両手の筋肉繊維が弾け飛ぶ。頼りにしていた鉄壁の鎧が弾け飛んだ事に困惑する義眼男。

 

 伏黒がやった事は【鵺】の放電の応用。初めに放った打撃と共にプラスの電荷を相手に纏わせ、その状態で自分の保持するマイナスの電荷を地面への放電をキャンセルして対象に向けて放つ。すると稲妻の如き攻撃を放つ事が出来る。それは帰還電撃、またの名をリターンストロークを用いたマッハ3万にまで至る回避不能の"必中攻撃”である。そして露出した筋繊維が千切れ飛び防ぐ手立てがなくなった。今の緑谷にとってそれだけの間があれば十分すぎた。

 

「行け、緑谷」

 

「出来るか出来ないかじゃないんだッ…ヒーローってやつは!!命を賭して!綺麗事を実践するお仕事だ!!」

 

 緑谷は義眼男の左側に回り込むと続けて右手を大きく、大きく振りかぶる。緑色の稲妻を腕にほとばしらせるとリバーブローのように腹部目掛けて叩き込む。直後、まるで爆発でも起こったかのような衝撃波が、辺り一帯を襲った。

 

「へ?う、うわぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

 それに巻き込まれるように浩汰の体が宙を舞う。それを見た伏黒は急いで【鵺】を解除すると浩汰を回収させる。問題なく崖に戻ってきた浩汰は「ありがとう」と震えた声で伏黒に礼を言う。それを見た伏黒は浩汰の手を取ってすぐに緑谷の元へと向かう。案の定というか100%のOFAを使用した弊害から相手を殴りつけた腕が変色するほどバキバキにへし折れていた。他にも暴風に煽られた時に瓦礫を巻き込んだのか体の至る所に切り傷のようなものが見て取れる。それを見た伏黒は【嵌合纏】を発動させて【円鹿】を呼び寄せると再度治癒する。

 

 しかし、それは瓦礫を掻き分ける音共に中断させられた。

 

「ふいー!流石に焦ったぜ」

 

 頭からドバドバと血を流しながら義眼が壊れた義眼男が姿を現す。あり得る筈がない。確かに今の緑谷の一撃がオールマイトと同レベルかと問われれば否であるのだろう。しかし、それでも個性自体はオールマイト由来のもの。電撃で防御を崩されて防ぐ手立てのない人間が意識を保つ事は不可能なのだ。しかし、伏黒がある事に気がつく。

 

「背中か!」

 

「大っ正解!!いやマジで焦ったんだぜ?何せ防御をひっぺがえされたんだからな!しかし崩せたのはあくまでも前面だけ!筋肉がより集中している増幅筋と広背筋、そして脊柱起立筋は無事だったからな、咄嗟に防御には回せたのさ!」

 

 まあ、ご覧の有り様だけどなとケタケタと口の端から血を流して笑うとポケットに手を突っ込む。ボロボロと何かを――替えの義眼と思しきものを落としながら、こちらへと近付いてきた。

 

「く、来るな!」

 

「やだよ。ここまでされたんだ。俄然行くね」

 

 100%を防がれたことに心底動揺しているからなのか緑谷は向かってくる義眼の男に向けて声を上擦りながら叫ぶ。

 

「なっ、な、何がしたいんだよ!」

 

「さぁな、俺は知らねょよそんなこと。というか興味もない。ハネを伸ばして個性を使えればそれでいいのさ!さっきまで遊んでたんだがやめだ!ここまで手傷を負ったのはそれこそそこの餓鬼の親(ウォーターホース)以来だ!!前言撤回するよお前ら全然ヘボくねぇ!!こっからは―――本気の義眼()だ」

 

 ポケットにあった無数の義眼の中からドス黒い瞳孔と血のように赤く染まった白目が特徴的なものを空洞となった眼窩に嵌める。するとその瞬間、確かに目の前の義眼男の雰囲気が変わった。それは緑谷も察知したのかすぐそばにいた浩汰を折れていない方の手で掴むと伏黒と共にその場から大きく飛び退く。

 

 伏黒たちがほんの一瞬前までいたところに奴はもういた。オールマイトほどではないにせよ先ほどとは比べ物にならないほど速度が跳ね上がっていた。少なくとも眼で追うことはほとんど叶わないほどに。そして、その一撃の威力も今までとは段違いで、振り下ろした拳は足場をまるごと崩落させかねないほどに地面をえぐっていた。

 

 「遊びは辞めた」。その言葉に偽りがないことを伏黒も緑谷もまざまざと理解させられた。奴はさっきまで遊び感覚で人を殺そうとしていたのだと。そして当たってないとわかったのかすぐに伏黒と緑谷の方へ視線を向けると再度全身を使ってタックルをするように突っ込んでくる。当たった箇所が簡単に砕けていくところを見せられると豆腐か発泡スチロールにでも変わっているのではないかと錯覚させられる。浩汰を瓦礫から守る伏黒は思わずそんなことを考えてしまうほど馬力では差がありすぎた。

 

「ああ、クソ。勢いあまった」

 

 伏黒と緑谷が咄嗟に起き上がると体が減り込んだのかもがきはしても動かない義眼男。それをチャンスと見た伏黒は作戦を考える。

 

 浮かんだのは施設まで逃げおおせて相澤と合流して【抹消】して貰うこと。先ほどの動きを見れば分かるが、直線の動きは速いがそれだけ。単調で読みやすく避けること自体は緑谷と浩汰の2人を抱えてても余裕だ。しかし、相手はシリアルキラー。しかも粟坂のように弱者を嬲って興奮するタイプではなく、組屋のように喜悦のためなら格上にさえも喧嘩を売る狂犬。下手に人の多い場所に向かえば被害が広がるだけになる可能性が高い。

 

 他にも考えたのだが、いずれも逃げを前提としたもので先ほどの理由と同様の理由で採用できない。かといって二手に分かれて撹乱するにしても今の緑谷では怪我も相まって逃げるよりも前にミンチにされる方が早い。よってたどり着く方法は一つだけ。

 

 緑谷も同じ回答に至ったのかボロボロの体に鞭を打って立ち上がる。伏黒も目立った怪我はないが【嵌合纏】と治癒する相手の体力を使用しない代わりに消耗の激しい【円鹿】の連続使用から限界が来つつある。

 

「浩汰、だったか?10歩くらい下がっとけ」

 

「は、はぁ!?」

 

「ぶつかったら全力で施設に逃げるんだ…」

 

 2人が浩汰の前に立つと伏黒は【嵌合纏】を用いて【鵺】と【虎葬】を足して【雷跳虎臥】を作って呼び出して纏い、緑谷も全身でなく腕にのみOFAを込める。

 

「ぶつかったらって…無理だ逃げよう!?おまえたちの攻撃きかなかったじゃん!それに緑谷はそんな身体で、どうやって――」

 

「――大丈夫」「問題ねぇよ」

 

 そうして浩汰の言葉を振り切ると崖から体を抜け出す事に成功した義眼の男が突っ込んでくるのに対して2人は拳を叩き込むことで迎え撃つ。異常者の一撃と2人のヒーローの卵の一撃は意外な事に拮抗した。

 

「〜〜〜〜〜〜ってぇなぁ!いいなぁ、伏黒ォ!!緑谷ァ!!お前らぁぁ!!最高だぁぁぁぁぁ!!!ハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

 全霊の一撃が拮抗したという事実に義眼の男は歓喜すると同時にさらに圧力をかける。義眼の男―――マスキュラーにとって攻撃と攻撃がぶつかり合って拮抗するという事は絶対にあり得ないことだった。個性は攻防一体の強個性。どんな一撃をもらおうとも10,000を超える筋繊維の装甲は容易く弾き飛ばし、その筋繊維から生まれる一撃はどんなものも吹き飛ばした。彼に取ってぶつかり合いは起こり得るものではない、筈だった。

 

 しかし、今日彼は出会った。己の全霊を真正面切って受け止められる2人の存在を。ただ個性を自由に使えればよかった。だが、彼はどうしようもなく人間だった。今まさに味わっている興奮に比べれば今までの戦いのなんと味気ないことか。気持ちのボルテージが最高潮まで登り詰める。それに合わせるように一撃の重さも増していく。

 

「血ィィィィィィ!!見せろやァァァァァァ!!」

 

「「ゔゔゔゔ……っるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」」

 

 掛け声と共に増していく力。"Puls Ultra"、限界を超えてさらに向こうへと行こうとする精神は何もヒーローだけの話ではない。少し、また少しとマスキュラーの力が増すごとに上から圧する力が増していくごとに伏黒も緑谷も押し潰されそうになる。それに抗うように力を込めるもの2人合わせてもなお力ではマスキュラーに分配が上がった。

 

 《死》。それを強く意識した瞬間、一瞬だけ力が緩んだ。

 

「あ゛あ゛ぁぁ!!??」

 

 最高の気分を害されたかのか怒り狂ったようなマスキュラーの声が辺りに響く。そして間をおかずしてバチャバチャと水が落ちるような音が聞こえてくる。何が起きたのか伏黒も緑谷も必死過ぎてわからない。だけど今この瞬間、隙が生まれたことだけはわかった。

 

「緑谷ぁぁぁ!!一瞬でいい!!カチ上げろォォ!!」

 

「うゔゔうううっがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 伏黒の言葉に合わせて緑谷は少しずつマスキュラーの体を押し上げる。そして少しだけ生まれた隙間を縫うように伏黒はブリッジの状態で足を大の字に広げて踏ん張ると、次に掌を少し広げた状態で両手を前に突き出す。すると手のひらに空気を焦がすほどの電熱が集まり始める。

 

 ここで【鵺】の特性について話そうと思う。【鵺】の能力である電撃は上鳴の個性【帯電】とは似て非なるもの。仮に個性と定義づけるのであれば【充電】というのが正しいのだろう。充電方法は二つに分けられる。一つ目は時間経過。より大きな、それこそマスキュラーに放ったほどの一撃を見舞うにはそれ相応の時間を要する必要がある。そしてもう一つが 外からのエネルギーを用いた充電(・・・・・・・・・・・・・・・)である。従来の発電機のように太陽光や風の力ではなく受けたダメージ(・・・・・・・)を電気に変えられるのだ。

 

 この技は伏黒が林間合宿での個性を延ばす訓練で【鵺】の能力に気がつくのと同時に編み出したもの。あまりの破壊力にワイプシの面々からドン引きされながら人に向かって撃つことの禁止を厳命されていた絶死の一撃。マスキュラーに死ぬ一歩手前まで殴られた結果、伏黒を通して【雷跳虎臥】が限界通り越してオーバーフロー寸前までエネルギーを貯めることになる。そして溜まりに溜まった全エネルギーを変換し、電撃を掌に一点に集中させ、照射されたもの蒸発させる電撃砲へと昇華させる。その名も

 

「【琥珀大砲】」

 

 瞬間、伏黒の手を起点に青白く変化した電撃がマスキュラーの装甲車と見紛うほどに肥大化した筋繊維を焼き焦がす。削がれた筋繊維はマスキュラーから防御力だけでなく力も奪った。そうなれば拮抗は崩れ、火事場の馬鹿力を発揮している緑谷が圧倒するようになるのは当たり前のことだった。

 

「100万%デラウェア・デトロイトスマッシュ!!!!」

 

「嗚呼、クソッ…」

 

 五指を弾いて発生させた衝撃波で硬直状態を解き、続けて右拳で殴り飛ばす。そうしてマスキュラーは薄くなった筋繊維でなんとか防ごうとしたものの防ぐことが出来ないと悟ったのかマスキュラーは何処か悔しそうな顔をする。直後、巨体が強烈な勢いで岩壁に叩きつけられ、土煙が舞う。土煙が晴れた向こうで、マスキュラーはどこか満足そうな顔をして完全に意識を失っていた。

 

「………何も、知らないくせに…!何で!!2人揃って!何でッそこまで…!」

 

 伏黒と緑谷の背後で涙声の浩汰の声が聞こえてくる。何とか振り返ろうとするも身体がおぼつかないまま殴りつけた腕が力と力の衝突によって原型をギリギリ留めている2人はその場で崩れ落ちた。2人はいまだに緊張が解けないでいたが慌てたような足音共に泣き腫らした浩汰の顔を見て気が抜けたのか安堵のため息を漏らして笑った。

 

 




【琥珀大砲】
→【雷跳虎臥】、もしくはそれを纏った状態で放つ電撃砲。イメージは見た目という面では【幻獣琥珀】を使用した鹿紫雲一が宿儺に放ってた電磁波で、放つポーズはベジータのファイナルフラッシュ。威力は引くほどでかいが、その分リスクも滅茶苦茶デカい。全力で使用すればその日最低でも二日間は【虎葬】も【鵺】も使用不可能となる。技名に関してはツッコミどころがあるのであれば感想でお願いします。
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