伏黒のヒーローアカデミア   作:アーロニーロ

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林間合宿、そして神野の悪夢

 

「ヒーロー志望の伏黒恵君。早速本題を切り出すようで悪いが単刀直入に聞くよ。―――俺の仲間にならないか?」

 

「……」

 

 そこはとあるバーの室内。死柄木を筆頭にバーの中にいる彼らこそ先日雄英高校ヒーロー科一年の林間合宿を襲った敵連合の面々であった。そんな彼らとは全く関係のない生徒である伏黒恵が両手を拘束される形で対面していた。

 

 こうなった経緯について理解するには18時間ほど前に遡る必要がある。

 

 

「今から浩汰くんを保護して貰うためにも宿泊所へと届けよう」

 

 マスキュラーを緑谷が一撃見舞うことで仕留めた後、伏黒は多少無理をしながら【円鹿】を呼びだした。治癒を用いて応急処置を施していると緑谷からそう提案される。伏黒はこの意見に対してすぐに賛成した。何せこのまま浩汰をこの場に放置、あるいは引き連れていたとしても守り切れる保証はどこにもないからだ。だったらいっそのこと多少手間がかかるが浩汰を相澤なりブラドキングに預けるなりしていたほうが楽だ。

 

 そこまで意見が一致すると伏黒は体力的な問題もあって治癒を解除すると緑谷は浩汰の元へ足を運ぶ。

 

「浩汰君。今から僕たちは君を先生たちがいる場所へ運ぼうと思う」

 

「お前たちはどうすんだよ…」

 

「僕たちはマンダレイにこのことを報告する…。もし今回来たヴィランが全員このレベルだとしたら不味すぎる。狙いは僕ら生徒である可能性がある以上は相澤先生とワイプシの皆さんに伝えなきゃ。……僕が動いてみんなを救けられるなら、動きたいんだ」

 

 緑谷の人を助けるという気迫に浩汰は息を呑む。それに対して緑谷は安心させるように笑いかけるとこう言葉を追加する。

 

「それに今、火災による被害が大きい…。君の水の個性が必要なんだ。僕らを助けてくれないか?さっきみたいに」

 

 その言葉を聞いた浩汰は少しだけ泣きそうな顔をすると頷く。それを見た緑谷が浩汰を背負おうとしたが、怪我人に背負わせるわけにもいかず伏黒が【嵌合纏】を発動させて浩汰を抱えて怪我人の緑谷を背負うこととなった。ちなみにマスキュラーに関してだが、このまま放置ということになった。縛る道具もなく放置はまずいと思うが火事場の馬鹿力を発揮した緑谷の一撃を受けたということもあって起きることは出来ない。仮に起きれてもしばらくは動けないであろうと判断した。

 

 そうして先ほどの力がないこともあって森の中を掻い潜りながら施設へと戻る。すると途中で

 

「――あ、おい、あれ!」

 

 突然、洸汰が伏黒の胸のなかで大きな声を上げると指を指した。伏黒は洸汰が指差した方向に目線を向けるとそこには広場の方へと走っている相澤先生の姿があった。

 

「「相澤先生!!」」

 

 伏黒と緑谷が相澤の姿を認識した途端、名前を呼んで引き留める。その声に反応した相澤が声のした方を見て思わず顔を険しくする。それもその筈で伏黒は鼻や目から血を流し、緑谷は多少マシになったとはいえ怪我が重かった腕はいまだにバッキバキなのだから。

 

「伏黒、緑谷、お前ら」

 

「後でいくらでも叱られますので、今は目を瞑ってください」

 

「僕の方からもお願いします…!マンダレイに早く伝えないといけないことがあって……!」

 

 そう言いながら伏黒は抱えていた浩汰をその場に降ろして相澤の方へ向かうように向かわせる。そして浩汰の個性について伏黒の背から降りていた緑谷が1通り説明すると伏黒と共にその場を去ろうとする。

 

「浩汰君は水の個性持ちです。絶対に守ってください!お願いします!」

 

「待て!緑谷、伏黒!……2人揃いも揃って大怪我負いやがって。取り敢えずは伏黒、お前はこの子(浩汰)と一緒に避難所に迎え。ここからまっすぐ歩けば着く。1kmもないから安心しろ」

 

「何で俺に?」

 

「緑谷にやらせようと思ってたが、辞めだ。緑谷以上に限界近いだろ、お前」

 

 緑谷は驚いていたが、相澤は見逃さなかった。伏黒が今の今まで動きを最小限に抑えて相澤とあった瞬間に【嵌合纏】を解いていることに。今はエンドルフィンが出てハイになってるから何とか誤魔化せているが、既に目の焦点があっておらずいつ限界が来て倒れてもおかしくないことに。

 

「……行くぞ」

 

「う、うん。大丈夫?伏黒の兄ちゃん…」

 

「問題ねぇよ」

 

 伏黒は見抜かれていたこともあっておとなしく浩汰の側に近寄ると浩汰の手を取って相澤に指差された方向へと足を運ぶ。手を取られた浩汰は心配そうに伏黒に声をかけるが問題ないと即答する。

 

「伏黒の兄ちゃん、ごめんッ…。僕が逸れたばっかりに…緑谷の兄ちゃんもッ、あんな怪我させてッ…俺ッ…」

 

「無茶してナンボの職業だ。卵とはいえ守って当然なんだ。どうだ?最高に気色悪いだろ?」

 

「そんなことないッ!伏黒の兄ちゃんも緑谷の兄ちゃんも2人ともあの血狂い相手に一歩も引かなかったッ!あんなボロボロになって僕のこと救けてくれて……まだ、ごめんなさいも、ありがとうも言えてないのに……!」

 

「俺は伝わったよ……。全部終わったら緑谷にも伝えてやってくれ…」

 

 右手に縋りつきながら涙声になっている浩汰の言葉を伏黒は何とか応える。伏黒には最早余力はあまり残されていない。現に視界も足並みもおぼつかず何度も木々に体をぶつけているのが現状だからだ。それでも歩いた。相澤に託されたのもあるが今となっては伏黒にとって浩汰は報われてほしいと思えるような人間だっから。一歩一歩、普段の移動速度に比べれば牛歩の歩みもいいところだ。しかしそれでも伏黒は歩みを止めない。歩いて歩いて歩いた果てに

 

「よぉ」

 

 伏黒は絶望(死柄木弔)に出会った。

 

「に、兄ちゃん…」

 

「………」

 

 まるで旧知の間からのようなテンションで話しかけてくる死柄木に対して浩汰は怯えたように伏黒の服の裾にしがみつく。当たり前だ。目の前にいるのは病的な痩身と無造作な白髪、更には自身の顔面に人の手をくっつけた得体の知れない不気味な雰囲気を持つ男なのだから。伏黒としては何故ここにと聞きたいが今となってはその余力すらも惜しい。それにその余力の使い所は既に決まっていた。

 

「【玉…犬…】」

 

 震えた声と共に手で犬の形に模ると影が揺らめく。しかし現れたのは液状の影で無理矢理犬を作り上げたような不安定かつ不細工な姿だった。でも、それでも十分だった。

 

「へ?」

 

 子供(浩汰)1人を運ぶに十分な力を有しているのだから。服の裾を【玉犬】に咥えられて宙ぶらりんの状態になって困惑する浩汰を余所に【玉犬】は伏黒の指示に従ってその場から退避した。離れていく【玉犬】と共に浩汰の叫び声が響き渡る。伏黒はそれを無視して構える。

 

「まだやれるぞ…」

 

 ふらつきながら死柄木を逃がさないように睨みつける。今の伏黒にとっての勝利条件は死柄木、もしくはその関係者と思しき人物から浩汰を完全に守り切ること。だからこそ壊れやすくしたのと引き換えに【玉犬】の性能はそのままにしたのだ。闘うならいざ知らず、逃げの一手ならばこの山道も相まって確実に逃げ切ることができる。あとは指定された避難場所に浩汰を運び切ったことを同期している【玉犬】から伝えられれば伏黒の勝ちとなる。

 

「本っ当にカッコいいぜ。伏黒恵」

 

 そう言いながら死柄木は構える。

 

 伏黒は死柄木が何のために来たのかは何となくだが察している。おそらく自身をさらいに来たのだろう。あのマスキュラーが言っていた。傷つけるなと。恐らくだが、殺されることはないのだろう。きっとこの行為も浩汰に興味のない死柄木にとっては意味のないことかも知れない。だが、万が一、億が一の可能性がある。

 

 そうして伏黒と死柄木の戦いは始まった。伏黒の予想通り殺すつもりはないのか【崩壊】を使う様子は見られない。しかしそれでも相手は個性にかまけず痩躯であっても相澤の攻撃をも見切った手練れ。伏黒の急所を的確に狙ったコンビネーションも難なく躱され逆に殴り飛ばされる。それが何度か続くと上体に意識がいっていた死柄木に足払いをかける。死に体ということもあって侮っていたのかまんまと引っかかると大きくバランスを崩す死柄木。そんな死柄木の横っ面目掛けて全力で掌底を叩き込む。

 

 攻撃を食らってふらつく死柄木と【玉犬】から無事避難所に浩汰を運んだのが伝わるのはほぼ同時だった。問題なく運ぶことが出来た事実から緊張の糸が完全に千切れた伏黒はそれを最後に意識を失った。

 

 

 そして現在に至る。目が覚めた伏黒は両手を拘束された状態で椅子に座らせれていた。いまだに手を加えられていないのさマスキュラーの言っていた攫い、そして懐柔することだったからだろう。伏黒は敵連合のリーダーである死柄木の問いかけに対し、

 

「自己紹介でもしろよ」

 

 とだけ告げる。全員がそのことに呆気に取られていると伏黒は構わずに続ける。

 

「誰かもわからん奴に仲間になれって言われて、『はい、なりましょう』なんて言う奴いないだろ?本名じゃなくていいぞ」

 

「……それもそうだな」

 

 何故か伏黒の言い分に同意した死柄木にヴィラン連合の一同が「え」みたいな目線を向ける。

 

 それを死柄木は無視すると「死柄木弔だ」と簡単に自己紹介をする。それに釣られる形で黒霧も自己紹介する。それに続いて大男が「マグネよ♪」と明るく名乗り、渋々といった様子でつぎはぎの男が「……荼毘」と名乗ると困惑気味の蜥蜴男が「スピーナーだ」と名乗る。そして全身をピチピチのコスチュームのようなものを着た男が「誰が言うかよ!トゥワイスだ!よろしくね!」と矛盾したように言い、マジシャンのような男が「あー、Mr.コンプレックス」と困惑したように名乗る。そして最後に2つのお団子の髪型特徴的な制服を着た女子高生が「渡我です。一応、一個上です」と名乗ることでヴィラン連合の面々の自己紹介が終わる。

 

 そこまで聞いていた死柄木は何を思ったのか伏黒についてた枷を【崩壊】させるとバーにあった少しだけ古びたテレビをつける。そこには今回の林間合宿で責任者を務めてた教師陣による記者会見が映し出されていた。案の定というか今回の事件について記者人から鋭い質問攻めを受ける相澤達。それを見ながら死柄木は伏黒に語りかける。

 

「不思議なもんだよなぁ。なぜヒーローが責められてる?奴らは少ーし対応がずれてただけだ。守るのが仕事だから?誰にだってミスの一つや二つはある。『お前らは完璧でいろ』って?現代ヒーローは堅っ苦しいなぁ」

 

「そういうもんだろ。お前は買ったハンバーガーに虫混じってるの見て最善を尽くして「た」「っ」からまぁ、いっか。ってなんのか?」

 

「例えが嫌に秀逸ね……」

 

「前置きはいいから本題に入れよ」

 

 そうして始まる死柄木の演説。人の命を金や自己顕示に変換する異様とそれをルールでギチギチと守る社会。敗北者を励ますどころか責め立てる国民。つまりは死柄木が戦い続ける本質は"問い"。ヒーローとは、正義とは何か。この社会が本当に正しいのか一人一人に考えてもらうために暴れているのだと。そこまで聞いた伏黒は少しだけ考え込むと問いかける。

 

「それはつまり…今を壊すって認識でいいのか?」

 

「ああ、そうだ」

 

「だったら断る」

 

 問いに肯定した死柄木に伏黒は差し出された手を跳ね除ける。

 

「……何でだ」

 

「お前が壊そうとしている今の世には俺が報われていて欲しいと願った人間が笑っていられる世界なんだよ」

 

 確かに今の世の中は平等とは言い難い。何なら勝手に枠組みされた普通とやらを強制する施設があるくらいだ。しかし、そんな歪な世の中でも伏黒にとっては笑っていてほしいと思えるような人間が享受する世界でもあるのだ。死柄木の言い分は大いに納得できる。それでもこれだけは譲れない。少しでも多くの善人が平等を享受できるように人を救い続けるという原点(オリジン)だけは。

 

「…ここにいる者は事情は違えど人やるルールに縛られ苦しんでる」

 

「不幸なら何しても許されると?じゃあ何か?逆に恵まれた人間が後ろ指差されりゃお前らは納得するとでも?」

 

 思い出す。かつて拳藤が攫われていた時のことを。そして同時に自分のことも思い出す。親から見捨てられた『普通ではない』自身を嘲笑う周りの人間を。それにイラついて暴れ回り、善人を嫌って悪人を嫌って白でも黒でもないあやふやな自分を。でも今は違う。周りに恵まれ、そしてヒーロー殺しに出会ってその願いを確立できた。故に伏黒は周りの評価とかそういうのに流されるつもりなど毛頭ない。ここからはもう自分の足で歩めるのだ。

 

「それに君の父親は【異能殺し】。歴とした人殺しだ。それを世間が認めるとでも?」

 

「それこそお前らの嫌う枠組みじゃねぇか。俺は今のヒーローを目指す俺を気に入ってる。誰が何と言おうと俺は『伏黒恵』なんだ。【異能殺し】の息子がどうとか今更気にするほど繊細でもねぇんだよ」

 

「…そうか。君とはわかり合えると思っていたが…仕方ない。悠長に説得してられない。出来れば使いたくなかったのに残念だよ伏黒恵。コンプレックス、黒霧、こいつを眠らせてしまっておけ」

 

 ため息を吐きながらコンプレックスと黒霧が前に出る。伏黒は確信している。マスキュラー並のヴィランはもう居ないのだと。しかしそれでも相手は死柄木が選んだプロを相手どれる人間たち。死柄木と黒霧の個性は把握しているが、コンプレックスは死柄木の閉まっておけという発言から拘束系、荼毘は体が爛れているから炎系、スピナーは異形系、マグネは引き寄せる系の個性ではないかと予想しか出来ない。その上、残りのトガとトゥワイスに至っては皆目見当もつかない。

 

 すると後ろからノックと共に「どーもォ、ピザーラ神野店ですー」という間の抜けた声が聞こえた。思わずバーにいる全員が扉の方に目線がいく。その直後、

 

「SMASSHッ!!!!」

 

 オールマイトの叫び声と共にバーの壁が吹き飛ばされた。

 

「なんだァ!?」「チッ!黒霧!ゲート!」

 

「させぬわ!先制必縛!ウルシ鎖牢!」

 

 黒霧が個性を発動する前にシンリンカムイが個性によってバーに存在するヴィラン連合全員の身柄を拘束する。拘束された荼毘はすぐさま燃やそうとするが緑谷の職場体験先のヒーローであったグラントリノに気絶させられる。

 

「流石は若手実力派だシンリンカムイ!そして目にもとまらぬ古豪グラントリノ!もう逃げられんぞヴィラン連合…なぜって?我々が来た!!!」

 

 オールマイトは鋭い眼光で睨み付けながら敵連合に力強く言い放つ。

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