魔虚羅の戦闘は次回です。
アオォォォォォォォォ アオォォォォォォォォ アオォォォォォォォォ アオォォォォォォォォ アオォォォォォォォォ
アオォォォォォォォォ
複数体の【玉犬】と【蝦蟇】が祝福するかのように天高く吠える。まるで現れた王に対する畏敬を込めるかのように何度も何度も夜の帷に響かせる。神野区の廃工場があったとされる場所にいる誰もが
「してやられたよ」
「伏黒少年…君って奴は……」
この状況で真っ先に立ち直ったのは2人の最強であった。両者が立ち直れたのは一重に今までの経験と実力があったからこそだった。それでも2人には目の前の魔虚羅に対しての警戒とそれを引き出し見せた伏黒に対して片や忌々しそうに、片や自身の生徒の底知れなさに感嘆する。そして、伏黒は呼び終えて立ち上がるとオールマイトに向き直る。
「オールマイト」
「伏黒少年?」
向き直られたオールマイトは伏黒の浮かばせる顔に疑問を抱いているとそれよりも早く伏黒が言葉を紡ぐ。
「先に逝きます。どうかうまく使ってください」
ゴキャッ
そう言った直後、魔虚羅の腕が霞んだ。歴戦にして最強で最凶な2人の怪物からしてもそう形容せざるを得ないほどの速度で魔虚羅は腕を振るった。伏黒恵の側頭部目掛けて。体に負った複数の怪我、回復しきっていないMPによる体力不足。これらの要因もあって今の伏黒に魔虚羅の一撃を避けられるはずもなく。着弾と同時に生々しい音を頭から奏でたかと思うと凄まじい勢いと共に吹き飛んでいく。
「伏黒少年!?」
「行かせないよオールマイト。―――やはりノーリスクではなかったかい」
このままではビルに叩きつけられると判断したオールマイトが伏黒を助けるべく跳ぼうとするもオール・フォー・ワンは指先を稲妻の如く赤い線の入った黒い触手のような物に変化させるとオールマイトを引っ掛けて投げ飛ばす。オールマイトが「NOOOOOOO!!」と叫びながら伏黒に向けて手を伸ばすも助けることは間に合わない。ビルにぶつかり伏黒の頭が柘榴のようになる。それはヴィラン連合もオールマイトもオール・フォー・ワンも確信していたことだ。
しかし、その確信は突如として現れた拳藤、緑谷、爆豪、飯田、切島の5名によって覆された。
「伏黒ぉぉ!!」
壁に叩きつけられる寸前、拳藤が【大拳】の個性を用いて掌を大きくすると左手で伏黒の服を掴み、右手で伏黒の体を優しく覆った。それでも勢いを殺すことは出来ずにぶつかるところを壁と拳藤、伏黒の間に爆豪と背負われた切島が入り込む。爆豪が最大火力の爆破を放って減速させ、硬化した切島がクッション代わりになる。そして残りの緑谷と飯田が4人を掴むと壁を登り、そのまま戦場から伏黒を連れて逃げおおせた。
「何?」「―――は?」
想像していた光景とは真反対の結果に驚愕する。そして、ヴィラン達は5人が現れたであろう場所に目線を向ける。するとそこには壁に4、5人の人間が通れそうなほど大きな穴と何かを打ち上げるように傾斜を作り上げた氷結が出来上がっていた。
「隙だらけだぜオール・フォー・ワン!」
そしてその余所見は最強のヒーローにとって隙以外の何物でもなかった。伏黒が死なずに済んだという事実に安心したオールマイトが裏拳でオール・フォー・ワンを吹き飛ばす。
「まったく…皆んなしてここに来るなんて後で叱ってやらないとな!」
言葉とは裏腹にどこか嬉しそうに語るオールマイトは今なお意識を保ちながら土煙に紛れたオール・フォー・ワンを睨みつけた。そして一方で飛んで逃げていったことに驚愕していた全員が意識を取り戻すと伏黒の捕縛に移る。ヴィラン連合の面々は伏黒たちが逃げ出すのを良しとしなかった。
「逃がすな!遠距離ある奴は!?」
「荼毘に黒霧!両方ダウン!」
「あんたら!くっつきなさい!!」
マグネがMr.コンプレスとスピナーに"個性"を使う。マグネの"個性"は『磁力』、自身から半径4.5メートル以内の人物に磁力を付加させることが出来る。全身または一部など力の調整も可能。男がS極、女がN極となる。なお、マグネ自身には付加出来ない。
「行くわよ!【反発破局、夜逃げ砲】!!」
S極同士で反発する力を使って、緑谷たちに向かって飛んでいこうとしたMr.コンプレス。しかしそれは突如現れた巨大化したMt.レディの必殺技・タイタンクリフにより、Mt.レディの顔面にMr.コンプレスがぶつかる形で防がれた。そのことにマグネは歯噛みをしたがすぐにトゥワイスを飛ばそうとするも、三人は一瞬で足裏からのジェットによる高速移動と的確に顎先をグラントリノによって打ち抜かれた。
こうして今この瞬間、オールマイト、グラントリノ、魔虚羅、オール・フォー・ワンが相対する形となった。
◇
「伏黒!おい!伏黒!しっかりしろ!」
「う……るせぇ、な…揺す、んな、よ」
涙目になりながら頭から派手に出血する伏黒の意識を確かめる拳藤に対して薄っすらとだが、目を開けて喋る伏黒。それを確認した拳藤が力が抜けたようにその場で崩れ落ちる。伏黒が無事だったのはひとえに【嵌合纏】を解除していなかったからである。魔虚羅が伏黒の側頭部を捉える直前、主人の危機を察知した【脱兎】が影の中に一体残して残りを直撃箇所に体を挟み込んで自身ができる最高速度で分裂することで防ごうとした。しかしそれでも止め切ることはできず、直撃はしてしまったが、伏黒の命を繋ぐことは出来た。
「皆んな!伏黒くんの意識があるぞ!」「影野郎の怪我が思ってたより浅ぇな」「体の怪我は!?ヴィラン連合にやられたのか!?」「それは林間合宿で負った怪我だよ切島君!」
オール・フォー・ワンとオールマイトという最強vs最凶の戦闘現場から1km近く離れたビルの上で伏黒が無事であったことに盛り上がるヒーロー科の面々。今ここにいるメンバーは伏黒を助けるためだけに集結した人間達だった。本来であればもう少しタイミングを見計らってやるはずだったのだが、伏黒が呼び出した式神に伏黒が吹っ飛ばされたということもあって壁にぶつかる前に救出しようとしたのだとか。
「みんな!今すぐここから逃げよう!オールマイト達が戦ってる場所からまだそんなに離れてない!このままじゃ巻き込まれる!」
「ダメ、だ…」
緑谷のこのまま逃げようという言葉に待ったをかけたのは伏黒だった。その言葉に全員の目線が伏黒に集中する。それに真っ先に反応したのは爆豪だった。
「頭打って馬鹿になったんか影野郎!!あのガスマスク野郎の攻撃範囲はテメェが近くで見てただろうが!!今この場所でもあの野郎の射程圏内だってありえる!!微塵も安心出来ねぇんだよ!!」
あの超越者の放つオーラがひしめく場所を近くから見ていたからか爆豪は汗を流しながら至極真っ当なことを言う。しかしそれでも伏黒は首を横に振った。意固地なその態度に誰もが『らしくない』といった顔をしたが拳藤だけは察することができた。
「それほどの奴なんだね?あの魔虚羅って奴は」
それに対して伏黒は首を縦に振るう。それを見た拳藤は1度目を瞑って考え込むとすぐに目を開いてこの場に残ることを提案する。それに対して飯田や切島から文句が出る。しかし、拳藤の案に賛成してのは爆豪と緑谷だった。
「なんでだ、2人とも!!」
「あの影野郎が無駄なことするとは思えねぇ」
「それにあれ程の相手だとオールマイトも確実とは言えない。だから伏黒君は命を賭してあの式神を呼んだんだと思う」
2人の言葉に切島と飯田は考え込むように唸る。すると間をおかずして凄まじい暴風が吹き荒れる。オールマイトの仕業かに思われたが、伏黒から自身の呼び出した【魔虚羅】によるものだという事実に驚愕を混ぜた視線を向ける一同。そして舞台はオールマイトとオール・フォー・ワンとの戦闘に戻る。
◇
「やられたな僅か数手でこのザマだ」
伏黒達が逃げ仰たあの後、それを見て僅か数手でオール・フォー・ワンは形勢逆転どころかこっちの圧倒的な劣勢を悟ると指先を稲妻の如く赤い線の入った黒い触手のような物に変化させ、マグネに突き刺すと個性を強制発動させて絶叫して自身を引き止めようとする死柄木を逃した。
「やれやれ。僕としては弔を逃がせればそれでいいんだけどねぇ。戦うというなら受けて立つよ」
凄まじい気迫を携えながら向かってくるオールマイトに向けて個性を発動させる。【転送】を用いてグラントリノを呼び寄せる。そして【衝撃反転】をオールマイトに覆わせて呼び寄せたグラントリノをオールマイトに殴り飛ばさせると同時に【衝撃反転】の個性によってオールマイトの腕を傷つける。
「すみません!」
「何せ僕は君が憎い。かつてその拳で僕の仲間を潰して回っておまえは平和の象徴と謳われた。僕らの犠牲の上に立つその景色―――さぞや良い眺めだろう?」
グラントリノを殴り飛ばしたことに謝るオールマイトに対して左腕を膨張させるとあの時、オールマイトを吹き飛ばした空気砲を放とうとする。あえてグラントリノを巻き添えにするような位置にすることで逃がさないようにするおまけ付きで。
「DETROIT SMASHッ!!!!」
そして放たれる膨大なまでの空気。オールマイトはグラントリノの手を引っ張ると。オール・フォー・ワンの攻撃に合わせるように拳を放つ。すると次の瞬間には凄まじい暴風が瓦礫を巻き上げるとオールマイトの口から血が漏れ出す。
「心置きなく戦わせないよ?ヒーローは多いよなぁ、守るものが」
「黙れ」
嘲るようなオール・フォー・ワンの言葉に完全に笑みを消していたオールマイトはそう言いながらオール・フォー・ワンの手を握りしめてへし折る。
「貴様はそうやってヒトを弄ぶ!壊し!奪い!つけ入り!支配する!日々を過ごす人々を!理不尽が嘲り笑う!私はそれが許せない!!」
手に持っていたグラントリノを投げるとオール・フォー・ワンが個性を発動させるよりも早く顔面を殴り飛ばす。腕を掴まれ逃げることも個性を発動するのも遅れたオール・フォー・ワンは厳ついガスマスクのようなものを砕かれる。それと同時にオールマイトにも活動限界が来たのか体から煙を出し、顔の右半分が落ち窪んでいた。
「嫌に感情的じゃないかオールマイト。似たようなことを前にも聞いたよ。先代ワンフォーオール継承者、志村菜奈から!」
その言葉を聞いた瞬間、オールマイトは身を震わせながら歯を砕かんばかりに噛み締める。
「貴様の穢れた口で…お師匠の名を出すなッ…!!」
オールマイトの反応にマスクの下が露わになったオール・フォー・ワンは無いはずの表情を嗤いで歪ませる。そして志村菜奈のことを理想ばかりが先行して実力の伴わない愚か者と断じるとオールマイトが「Enough!!」と叫びながら追撃をしようとする。しかし、激情によって隙だらけとなったオールマイトにオール・フォー・ワンは空気砲を当てると空中目掛けて飛ばす。すると、
「おやおや、漸く君の出番かな?伏黒恵の
今の今まで動向を見守っていたかのように動かなかった魔虚羅がオール・フォー・ワン目掛けて歩み始めた。