伏黒のヒーローアカデミア   作:アーロニーロ

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林間合宿、そして神野の悪夢③

 

 

 【魔虚羅】は悩んでいた。どうしたら調伏の儀を手早く終わらせられるのかを。

 

 調伏の儀に呼び出されたのはよかった。初めに呼び出した本人である伏黒に一撃を叩き込むことが出来たところまでは良かった。だが、仕留めたと確信していたはずが第三者の手によって救われたことから目論見が外れてしまう。故に視線はもう1人の調伏の儀の参加者であるオール・フォー・ワンへと向けられた。

 

 オール・フォー・ワンを見た【魔虚羅】は悟る。強い、それも術者である伏黒よりも遥かに。だが、そんな強いオール・フォー・ワンに対しても敵対者がいたらしくその人間もまたオール・フォー・ワンに拮抗するほど強かったため、そちらに任せて【魔虚羅】は調伏の儀を手早く終わらせるため、瀕死である伏黒を仕留めようと足を運ぼうとした。しかし、事態は少しずつ変化していく。オール・フォー・ワンに敵対しているオールマイトから感じる力が薄くなっていっているのだ。それも戦えば戦うほど加速度的に早く。そしてオールマイトが空中に吹き飛ばされるのを見て決意する。瀕死の伏黒はいつでも殺せると確信すると同時に伏黒が自身を読んだ意図も理解していたため、後回しにした。そして調伏の儀を手早く終わらせるために今なお戦うことのできるオールマイトと共に自身の天敵のような能力を持つオール・フォー・ワンを倒そうとする。

 

「悪いが得体の知れない奴と殴り合う趣味はなくてね」

 

 そんな内心を知る由もないオール・フォー・ワンは向かってくる【魔虚羅】に対してオールマイトにも有効打を与えられた【空気を押し出す】+【筋骨バネ化】、【瞬発力】×4、【膂力増強】×3を複合させることで生まれた空気砲を放つべく右手を膨張させて向ける。

 

 そして次の瞬間、手を振り上げて叩きつけようとする【魔虚羅】が目の前にいた。

 

「何!?」

 

 この日初めて動揺を見せるオール・フォー・ワン。無理もない話だ。何せ目を離さなかったにも関わらず、気づけばそばにいた。空間を切り取って貼り付けたと錯覚するほどの速度で詰めてきたことに驚愕しつつも刃を携えた【魔虚羅】の一撃を【防刃膜】、【硬化】、【膂力増強】などの個性を発動させて防ごうとする。瞬間、

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!??」

 

 【魔虚羅】の一撃に対して防御したオール・フォー・ワンが膝をつく。そして同時に近くにあった瓦礫をも揺るがすほどの暴風が巻き起こった。オール・フォー・ワンは悟る。目の前にいるこのバケモノのフィジカルはオールマイトと何ら変わらないものであると。間髪入れずに【魔虚羅】の手に括り付けられて刃が光るのと同時にオール・フォー・ワンの【防刃膜】が切り裂かれ始める。

 

「舐めるなよ」

 

 そう言うとオール・フォー・ワンは【魔虚羅】の一撃を【衝撃反転】を用いて弾き飛ばすと【エアウォーク】で流れるように空中を移動する。そして【膂力増強】を5枚に重ね掛けした体で【魔虚羅】の側頭部に一発、顎に2発殴りつける。【魔虚羅】が大きく仰け反ると腕を膨張させて空気砲を放とうとする。さっきと違うところはその個性の組み合わせに【チョーク】を混ぜることで発射口を狭くすることで攻撃範囲を狭めるのと引き換えに貫通力を高めていた。そしてこの一撃はオール・フォー・ワンの目論見通り【魔虚羅】の頭を容易く貫通し、今度は【魔虚羅】が膝をついた。

 

「悪いがまだあの筋肉達磨が生きてるのでね。膂力には目を見張るものがあっても君の動きはひどく単調だ。仕留めるのは容易い。それに、伏黒恵のパシリごときにかずらってる暇はないんだよ」

 

 そう言って【魔虚羅】から背を向けるとグラントリノと共に話し合うオールマイトへと足を運ぶ。すると後ろからギキギギッという錆びついた何かを無理矢理動かすような音が聞こえる。そして、

 

ガコンッ

 

 どこか歯車がはまって少しだけ回った時と似たような音があたりに響く。訝しんだオール・フォー・ワンが音の出所に目線を向ける。

 

「……どういうことだい?」

 

 そこには頭をぶち抜いたにも関わらず立ち上がり、今まで与えたはずのダメージは何処にも見当たらず完全復活を遂げていた【魔虚羅】がいた。再生型の個性が頭に浮かんだが、再生型は頭を潰せば回復できないことを知っていたためその可能性を除外する。先ほどの何かが少し回ったような音との関連性を考慮しつつも倒し方を知っていることもあって【エアウォーク】を用いて【魔虚羅】の射程圏外に行くと再度、口径を絞った空気砲を放つ。が、

 

「弾いた、だと?」

 

 先程とは打って変わって放たれた本来であれば見ることも叶わない空気の弾丸を通り越して斬撃と化した不可視の一撃は【魔虚羅】の刃が括り付けられた右手によって弾かれる。そして驚愕するオール・フォー・ワンを他所に再度間合いを詰めると不可視の攻撃を弾いた右手でオール・フォー・ワンを弾き飛ばす。その攻撃に対して咄嗟に防いだものの勢いまでは殺すことが出来なかった。結果、オールマイト以上の膂力によって延長線上にあったビルやアパート、ショッピングモールなどの建物を6棟貫通する。そして最後にオフィスビルの壁に直撃することで漸く止まった。オール・フォー・ワンは吹き飛ばされた際に砕け散った呼吸器を【鋲突】を全身から吹き出して欠片を一つ一つ丁寧に拾って無理矢理繋ぎ直すと悪態を吐く。

 

「まったく、やってくれる…」

 

「私を忘れてないか!オール・フォー・ワン!!」

 

「チィッ!!」

 

 ここまで吹き飛ばした【魔虚羅】に苛立ちを露わにしているといつの間にか回り込んでいたオールマイトによって再度殴り飛ばされ、元いた場所に戻らされる。そして【エアウォーク】で地面に叩きつけられるのをピッタリと止まることで回避しようとするが、着地狩りの要領で出待ちしていた【魔虚羅】の一撃によって地面深くに減り込むオール・フォー・ワン。そして【魔虚羅】は追い打ちをかけるように減り込んだオール・フォー・ワン目掛けて嵐と見紛うほどのラッシュを決める。途中、オール・フォー・ワンが腕を膨張させて空気砲を放とうとすると空気穴に剣を突っ込んで暴発寸前まで追い込むことで防ぐと再度ラッシュを続ける。そうして張られる【防刃膜】も硬化系の個性を張ろうが気にせずに相手が絶命するまで殴り続ける。が、オール・フォー・ワンは【転送】を用いて脳無を呼び出すと、【魔虚羅】に嗾ける。そして脳無を倒すという僅かな隙をついていつの間にか体に張り巡らせてた【槍骨】を操り魔虚羅を突き飛ばす。

 

「足止めサンキューだ、魔虚羅くん!!」

 

「いやはやここまで強いとは厄介だなぁ。でも、こんだけバカスカと攻撃喰らわされたり、弾かれたりすればなんとなくだがその式神の能力もわかってくるというものだ。―――適応だろ?」

 

 複合させた個性を用いて地面を吹き飛ばすと、減り込んだ自身の体を地面の外から出す。すると服についた土を払ってマスクに流れ込んだ自身の血を排出すると魔虚羅の能力にあたりをつける。正解であることは誰も答えられない。しかし、それでもオール・フォー・ワンの答えは正しかった。オール・フォー・ワンの言い当てた内容こそが【魔虚羅】が最強たる所以である能力。あらゆる事象への適応。 攻撃を受けると背中の車輪のような法陣が回り、回った瞬間ダメージが全回復。更に受けた攻撃の特性に対し耐性を獲得する。 まさに最強の後出しジャンケン。しかもただ攻撃に対して耐性を得るだけではない。攻撃を放なたせない為に自身も強化することもできるのだ。

 

「まったく、よくもまぁ面倒なものを残してくれたものだよ、伏黒恵。オールマイト単騎であればまだ楽だったんだけどなぁ」

 

「若い芽を侮りすぎだオール・フォー・ワン!!それに私が1人であったとしても心は依然として平和の象徴だ!!貴様如きに一欠片とて奪えるものじゃあない!!」

 

 オール・フォー・ワンの言葉にオールマイトは目の前で力強く拳を握りしめるとこれまた同じく力強くそう宣言する。その様子にオール・フォー・ワンは少し呆れたようにため息を溢す。そして自身の負ったダメージのことも考えてとっておきの情報を明かすことを決意する。

 

「そいつは結構。あいも変わらず聞かん坊なのところに少しだけ安心したよ。本当だったらトゥルーフォームを晒した時に教えようと思ってたんだが、今話すとしよう。…あのね、オールマイト

 

―――死柄木弔は、志村菜奈の孫だよ」

 

「―――は?」

 

 少し早めだが、と前置きをした後にとびっきりのサプライズと言わんばかりに楽し気に告げるオール・フォー・ワン。その言葉は、オールマイトの決意をほんの僅かだが揺らがせたかのように、顔がこわばると呆気に取られたような声を出す。

 

「君が嫌がることをずぅっと考えてた。君と弔が会う機会をつくった。君は弔を下したね。何も知らず、勝ち誇った笑顔で」

 

「ウソを……」

 

「事実さ!わかってるだろ!?何年の付き合いだと思ってる!?僕のやりそうな事なんて君が一番理解しているだろうに!」

 

 他人事のように言い切ったオール・フォー・ワン。その言葉を聞くごとにオールマイトは握りしめていた手が解け、力が緩み始める。そしてそれに合わせるように体から白い煙を放ち始める。それを見たオール・フォー・ワンは至極楽しそうな声を出しながらようやく気付いたと言わんばかりに両手の親指で自身の頬を押し上げてみせる。

 

「おいおい、メッキが剥がれかけてるぜ?オールマイト。それにどうしたんだその顔は。忘れてるぜ?―――笑顔を」

 

 少しまた少しと力強く逞しい体が元に戻っていき、子供の落書きのような骨ばった姿になっていくと世間にその姿が晒される。普段であれば限界を超えてでも隠し通してきた姿が晒されていくのをオールマイトは気にすることができない。『師匠の孫を傷つけた』。その事実は今のオールマイトを形成した全てを否定されたような感覚にさせる。オール・フォー・ワンに対し、オールマイトは歯を食いしばって睨みつけるが口から漏れる声は酷く頼りなく今にも泣きそうになるのを堪えたようなものだった。

 

「き……さ、ま……!」

 

「やはり……楽しいなぁ!一欠片でも、って、おいおい、また君かい?魔虚羅。少しはこの気持ちに浸らせてくれよ」

 

 そんなオールマイトの様子にひどく気分が良さそうな声をあげているとこれ以上はオールマイトが役に立たないと判断したのかこの状況を無視して【魔虚羅】が殴り掛かる。それをオール・フォー・ワンは【エアウォーク】を用いて回避すると【魔虚羅】はそんなオール・フォー・ワン目掛けて光っている刃を振るって斬撃を飛ばした。

 

「驚いたなぁ!そんなことも出来るのか!でも悪いね君の攻略法はとっくに出来てるんだ」

 

 まさかの飛び道具にオール・フォー・ワンは驚愕しつつもすぐに右手を前に突き出す。すると先ほどのように膨張するのではなく、機械的なものが体から現れたかと思うとどす黒く光始める。次の瞬間には黒い波動がオール・フォー・ワンから放たれた。モロに向けた【魔虚羅】は首から上を残して消し飛ぶ。しかし、そこは伏黒の持つ式神の中で最強の式神。方陣が1/8回転すると何事もなかったかのように復活する。そして追い縋る波動を受けて逸らすと、バックステップでオールマイトの所まで戻ると回収してその場から退避する。オールマイトが先ほどいた箇所まで黒い波動がたどり着くとそこで停止する。そしてそこから半歩ほど離れた場所に【魔虚羅】は着地する。

 

「あの状態からでも再生できるとは驚いた!でもね?君の攻略法は酷く単純なのさ。『魔虚羅に一撃で消し飛ばせるだけの大技を持つこと』か『多少耐性を持たれても問題ないほどの数多の技を持っていること』だろ?ご生憎様、僕はどちらとも条件を満たしているからねぇ。受け身な能力しか持たない君如き、問題なく倒せるのさ。まあ、でも耐性をつけられても面倒だ。そこの茫然自失になった木偶の坊は後回しにしてまずは君を屠ることから始めようか。次は首だけ残すなんて真似はしない。確実に全身余すことなく粉微塵にしてあげるよ」

 

 そうして片手の指先から数多の個性を発動させてもう片方の手から先ほどとは異なる色合いの波動を放とうとする。それに迎撃すべく身構える【魔虚羅】。すると、

 

「負け、ないで……。オールマイトォ…お願い……救けてっ…!」

 

 避難しきれていなかったのか瓦礫の中から女性の声がした。縋るような声と同時に遠くからもうっすらと聞こえるほどのオールマイトを支持する声が響き渡る。それを聞いた瞬間、オールマイトの腕に金色の光が迸る。そして片腕だけがマッスルフォームを取り戻す。

 

「お嬢さんもちろんさ…。ああ……多いよ…!お前の言う通りさ…!ヒーローは……!守るものが多いんだよ!オール・フォー・ワン!!―――だから、負けないんだよ!」

 

 いつものように大胆不敵に笑うオールマイトだが、事態は思っている以上に深刻だった。今現在のオールマイトの状態を言い表すならば『満身創痍』、その一言に尽きる。その言葉に見合ってしまうほど体の至る所から血を流しているオールマイト。当然だ。途中から魔虚羅の助力があったとはいえ、No.10のギャングオルカとNo.4のベストジーニスト、そして武闘派の虎と新規精鋭のMt.レディ。これら4人をベストジーニストが他3名に直撃しないように足掻いてなお、たったの一撃で戦闘不能にしてみせるほどの大規模攻撃を真正面切って何度も相殺し続けたのだ。とうの昔に限界は訪れていた。歪な片腕だけのマッスルフォームがその証拠だった。

 

「渾身。それが最後の一振りだね、オールマイト。手負いのヒーローが最も恐ろしい。はらわたを撒き散らしながら迫ってくる君の顔、今でも夢に見る。悪いが真正面切って戦うつもりは毛頭ない。魔虚羅諸共消え失せてくれ」

 

 オール・フォー・ワンはそう言うと右手を大きく膨張させると同時に先ほどとは異なる色合いの光が漏れ始める。従っている訳ではないが、調伏の儀の都合上からかオールマイトの盾としての機能を果たしている【魔虚羅】に適応させない為にも一撃で仕留めようとする。しかし、それは

 

「プロミネンス・バーンッッッ!!!」

 

 エンデヴァーにより放たれた極太の熱線を防ぐ為に使わさせれた。極太の熱線と極光は拮抗し、そして相殺された。

 

「これはこれはエンデヴァーじゃあないか。今の一撃は実に見事だった 。それに中位(ミドルレンジ)とはいえ……あの数の脳無達を制したか。流石、No.2に上り詰めた男なだけはある」

 

貴様(オールマイト)……」

 

 淡々とだが、手放しに褒めるオール・フォー・ワンの言葉など今のエンデヴァーには微塵も届いていなかった。それ以上に目の前に立つ一瞬、見間違えるほどに変わり果てた姿のオールマイトに目線がいくとエンデヴァーは激情に身を焦がしていた。そしてフラッシュバックのように足掻いても足掻いてもオールマイトに追いつけぬ自分と追いつく為に作った子供(焦凍)と自身が追い込んでしまった()の姿が頭をよぎった。

 

「なんだ!そのっ、情けない背中はぁぁぁぁぁ!!」

 

 歯を噛み砕きかけるほど食いしばっていたエンデヴァーは耐えられなかった。叫ばずにはいられなかった。足掻けば足掻くほどに浮き彫りになっていくほど差をつけていた自身の怨敵とも言える相手があんな姿になっているなど、認める訳にはいかなかった。

 

「応援に来ただけなら大人しく観客でも気取っててくれよ」

 

「抜かせ、破壊者」

 

 オールマイトを見て叫ぶエンデヴァーを見たオール・フォー・ワンは呆れながら右手を再度膨張させてオールマイトの一撃に匹敵するほどの空気砲を放とうとする。しかしそれを細長くなりながら凄まじい速度で飛翔してきたエッジショットによって妨げられる。避けられると今度はオール・フォー・ワンの死角から再度攻撃するがそれも避けられる。そして攻撃の際の移動でオールマイトの元へと駆けつける。

 

「ご無事ですか、オールマイト。……ところでそちらの異形は?」

 

「魔虚羅くんだ。一応、伏黒少年の個性由来の存在だ。敵ではない」

 

「伏黒―――。そうか体育祭の…納得しました。魔虚羅とやら、防御よりも今は攻撃に回ってくれ(オールマイト)の一撃の為にも今はそれが必要なんだ」

 

 エッジショットは言葉が通じることを前提で話しているが、【魔虚羅】は主人か術者である人間以外からの言葉は解さない。しかし今この瞬間、調伏の儀の対象であるオール・フォー・ワンを追い詰めていることから少なくとも自身の邪魔をする者ではないと判断。時間から方陣が1/8回転すると【魔虚羅】はオール・フォー・ワン目掛けて跳躍すると刃を振るいながら襲いかかる。それに対してオール・フォー・ワンは防御系の個性を展開することで【魔虚羅】の攻撃を防いだ。

 

「流石にうざったいね。というか今、方陣が回ったね?適応は攻撃を食らうことが条件じゃないのかい?」

 

「――――――」

 

「言葉を解さない相手に質問は虚しいだけだったね」

 

 そう言いながらオール・フォー・ワンは左手から空気砲をオールマイトを巻き込む形で放つ。それを【魔虚羅】が殴りつけて相殺すると戦闘に参加していた人物たちが顔を覆うほどの暴風が巻き起こる。そして一撃を放った【魔虚羅】は僅か脇を開けるとそこを縫うように細くなったエッジショットがオール・フォー・ワン目掛けて飛び込んできた。

 

「おまけに連携も出来るようになってきたのか…。それより君がここに立つのは役者不足だろうに、エッジショット」

 

「俺が戦いに来たとでも?浅はかだな。助けに来たんだよ、俺たちは」

 

 エッジショットの言葉は事実だった。確かにエンデヴァーやエッジショットはオール・フォー・ワンに挑んでいる。しかし、それは倒すと言うよりも逸らす、という表現があっていた。そしてその表現が事実なのは周りを見れば明らかだった。気づけばシンリンカムイがベストジーニストとMt.レディ、ギャングオルカを助け、虎がラグドールを抱えながらオールマイトに助けを求めていた女性を瓦礫から救い出していた。

 

「我々…には、これくらいしか出来ぬ……。

あなたの背負うものを、少しでもッ……」

 

「虎…!」

 

「あの邪悪な輩を……止めてくれオールマイト……!皆、あなたの勝利を願っている……!!例えどんな姿でも、あなたは皆にとってのNo.1ヒーローなのだ!」

 

 虎からの言葉にオールマイトの目からさらなる光が宿る。この場で戦うヒーローは行動を持って、ここにはいないギャラリーたちは声援を持ってオールマイトに激励を送る。そしてこの状況を唯一快く思わない人間がいた。言わずもがなオール・フォー・ワンである。エンデヴァーとエッジショットの連撃もそうだが、それ以上にこの場で苛立たせられる存在はオールマイトと【魔虚羅】だ。

 

 オールマイトには先ほどまで絶望していたというのに絵本のヒーローよろしく声援を受けた瞬間に息を吹き返し、部分的にとはいえマッスルフォームを取り戻したと言う事実に、【魔虚羅】にはもっとオールマイトに痛手を負わせるはずが、盾役となってこちらの攻撃をひたすらに防ぎ続けただけでなく幾度も今この瞬間もこちらに痛手を与え続けていることに対して苛立ちを覚える。それを感知した【魔虚羅】はすぐさま側を飛び回っていたエッジショットを掴んで投げると空を蹴ってオール・フォー・ワンから退避する。その直後、

 

 

 

「煩わしい」

 

 

 

 その一言と共に、オール・フォー・ワンは衝撃波を周囲に放つ。その衝撃は近づかずに炎を放って牽制していたエンデヴァーを【魔虚羅】によって攻撃範囲内から逃れたはずのエッジショットを救助を終えて抗戦していたシンリンカムイを吹き飛ばした。オールマイトと地面に着地した【魔虚羅】も吹き飛ばされそうになるが土煙から視界を守る為に手を顔にかざすと同時に踏ん張ることで堪える。

 

「精神の話はよして、現実の話をしよう」

 

 その言葉と共にグチュ、グチャ、という異音がオール・フォー・ワンの体から響き渡る。少しまた少しと人の体がつくり変わっていくという異様な光景は歴戦のヒーロー達を半歩ほど下がらせるほどのものだった。

 

「【空気を押し出す】+【筋骨バネ化】、【瞬発力】×4、【膂力増強】×3、【増殖】、【肥大化】、【鋲】、【剛拳】、【槍骨】、【エアウォーク】、【闘気】、【噴出口】。今までのような衝撃波では決め手にかけるからねぇ、しかも魔虚羅もいると来た!故に僕の掛け合わせられる最高かつ最適の個性達で―――君たちを殴る」

 

 そうして個性の組み合わせの説明が終わると同時に出来上がったのは異形の右腕だった。肩甲骨からは噴出口が見え隠れし、着ていたスーツを裂き、身体に見合わぬ歪な大きさへと増殖肥大し、皮膚の表面には発動した"個性"の影響で槍のように尖った骨や結晶のような金属がいくつも飛び出した上にどこか白っぽい透明なオーラを纏っていた。それを見た【魔虚羅】は逃げなかった。悟っていたから。今後ろにいる軽く押せば倒れてしまいそうなほど風前の灯となった男の一撃こそが調伏の儀の幕を下ろすきっかけを作ることを。頭上の方陣がもう1/8回転する。そして腰を割って両腕を外側前方に流す形を取ることで迎え撃つ。

 

 オール・フォー・ワンは異形と化した腕でオールマイトを殴るべく背中にある【噴出口】から空気を押し出すと、ジェット機もかくやと言う速度で空中から地上へと一気に駆ける。そして同時に思案する。それはもうオールマイトにワン・フォー・オールが存在していないことを。今使っているのが渡した際にギリギリ残った残火に対して縋っているだけに過ぎないのだと。

 

「緑谷出久。譲渡先は彼だろう?資格も無しに来てしまって……まるで制御出来てないじゃないか!存分に悔いて死ぬがいいオールマイト。先生としても、君の負けだ!」

 

 その言葉と共にオール・フォー・ワンの異形の拳と【魔虚羅】の他の生物を超越した肉体がぶつかり合う。オール・フォー・ワンは知っていた。【魔虚羅】ではこの一撃を防げないということに。先に述べた【空気を押し出す】+【筋骨バネ化】、【瞬発力】×4、【膂力増強】×3以外は【魔虚羅】に放つのは初めて。適応などまにあうことなく血霞に変え、オールマイトにたどり着くのは容易であると。

 

 しかし、オール・フォー・ワンは失念していた。【魔虚羅】の能力を全て把握していたと、勘違いをしていたのだ。

 

「は?」

 

 オール・フォー・ワンの想像とは裏腹に自身の異形の拳と【魔虚羅】の体の耐久度は拮抗していた。確かにオール・フォー・ワンの予想通り【魔虚羅】の能力は適応である。しかし、条件の方では誤りがあった。【魔虚羅】の適応は一度受けた攻撃に対して時間経過で適応が完成するが、その間に更に攻撃を喰らえば適応にかかる時間が加速するというもの。さらにこの適応が完成した後も常に解析をしており、完結することはなく更なる適応を続けるため、時間が経てば経つほどその攻撃が通りにくくなるばかりか、相手にとって特攻となる【魔虚羅】に変貌を遂げるのだ。

 

 オール・フォー・ワン が放った攻撃で首だけにされた時に【魔虚羅】は考えていた。目の前の相手は言うまでもなく天敵だ。初めは放たれる攻撃にのみ適応していたのだが、いかんせん相手の手数は数えるのも億劫になるほどだった。そして【魔虚羅】は思いつく。放たれる個性に適応するのではない。大量の個性を持つオール・フォー・ワンの本当の個性【オール・フォー・ワン】自体に対応して仕舞えばいいのだと。そして3回目4回目の方陣の2度の1/8回転にて複雑であるが故に、ぎこちないが対オール・フォー・ワン用の身体が出来上がった。そして今5度目の方陣の回転と同時に肉体は修復し、オール・フォー・ワンの拳を完全に止めることに成功した。

 

「何の関係もない無作法者風情がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「オーーーール・フォーーー・ワンンンンンンンッッッッッ!!!!!」

 

 完全に動きを封じられたオール・フォー・ワン目掛けて右手だけをマッスルフォームにさせたオールマイトが殴り掛かる。しかし相手はオールマイトが台頭するまでの間、一世紀以上にも渡って裏も表も支配し続けた闇の帝王。【魔虚羅】に呪詛を吐きながらも左手を未だかつてないほどに膨張させてオールマイトの拳に合わせるように空気砲を放つ。ぶつかり合うと同時に火山の噴火のように空気が巻き上がる。力と力が衝突した結果、右手から輝きを失っていたオールマイトがいた。

 

「魔虚羅を盾にしたくせしてこれとはねぇ!平和の象徴とやらは随分と脆くなったもんだなぁ!!」

 

 その様にオール・フォー・ワンが嘲笑うと再度、同じ規模の空気砲を放つべく左腕を"個性"で膨らませる。それに対してオールマイトは一歩も引くことなく言葉を返す。

 

「そりゃア…腰が入ってなかったからなぁ!!!」

 

 するとまるで力が右手から左手に伝播するように左手が筋肉で膨れ上がる。そしてこの一撃はオール・フォー・ワンが空気砲を放つよりも早くオール・フォー・ワンの右頬を確かに捉えると全霊の力と共に声を振り絞って技を放つ。

 

「UNITED STATES OF SMAAAAAASH!!!!」

 

 オール・フォー・ワンを地面に叩きつけるように拳を振り切ると巨大なハリケーンと見紛うほどの旋風があたり一面の瓦礫を消し飛ばしながら巻き起こる。

 

 ヘリコプターで中継していた現場リポーターも、中継を見ていた人々も、現場にいたヒーローたちも、誰も彼もがオールマイトの勝利を願いながら注視する。砂煙が晴れると、瓦礫すらもなくなった街の中でオール・フォー・ワンは力無く地に伏していた。それに跨ってあるオールマイトは少しずつ殴り飛ばした左手を掲げていく。そして、左手が力強いマッスルフォームを模るとあたりから空気を揺るがすほどの喝采が湧き出る。誰もが目尻に涙を浮かべ、喜びを分かち合い、勝利をもたらしたオールマイトの名を讃える。

 

 そしてそんな民衆を他所に【魔虚羅】はオール・フォー・ワンの生命維持能力が低下していくのを確認する。そして危険域まで行くのを確かめると今度こそ伏黒にトドメを刺すべく歩みを進めようとした。その時、【魔虚羅】の体が影に戻り始める。この現象を見た【魔虚羅】は術者が自身を顕現できる効果範囲から逃げ出したのだと悟る。そして調伏の儀は強制的に終了し、【魔虚羅】はただの影に戻る。

 

 こうしてオールマイトと【魔虚羅】という2人の最強は神野区という街に最強の戦績を刻んだ。

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