16年以上共に過ごしてきたアパートからこして入寮となった翌日。早速、寮で問題を引き起こしたバカが1人いた。
「ヤオモモ…いくら何でも夜這いは良くないよ…」
「無防備な伏黒さんを見て堪えられませんでしたわ。反省はしていますが、後悔はしていませんわ」
目の前で『私は伏黒に夜這いを仕掛けました』と書かれたプラカードを首にぶら下げた状態で正座をする八百万に芦戸が諌めるように言い聞かせる。しかし、八百万はキリッとした様子でそう返すと折檻する人員が増えている。何とこの女。寮生活が始まってすぐに伏黒の部屋に侵入して夜這いをかけたのだ。これに一番驚いたのは伏黒本人だった。確かに以前から伏黒は八百万の好意に気付いていたのだが、ここまでど直球に攻められたのは初めてだった。寝起きにブラ姿の八百万を見た伏黒は寝起きにも関わらず思わず絶叫してしまったくらいだ。そうして伏黒の声を聞き届けた面々(女性陣)が介入したことで事なきを得た。伏黒はこの時ほど早起きな自分に感謝した日はなかったとのこと。
皆は初め鍵をかけていなかったのかと伏黒に聞いたのだが、ピッキング商品を大量に保有している峰田が伏黒の部屋を探ってみると何とビックリ、ピッキングされていたのだ。これにはあの爆豪を含めた男性陣が伏黒の頭を撫でて慰める結果となった。寮生活が始まって初日。八百万の反省文と奉仕活動が確定した瞬間だった。
◇
「昨日話したと思うが、ヒーロー科一年A組は仮免取得を当面の目標にする」
「「「ハイ!」」」
朝のHRで相澤が教壇に立ち、生徒達に改めて仮免の話をする。ヒーロー免許自体、人命に直接関わる責任重大な資格。当然取得のための試験はとても厳しい。事実、ヒーロー免許の取得と弁護士の資格の獲得難易度はヒーロー免許の取得が勝るほどだ。肉体や個性を鍛える手間も含めると世界一入手難易度が高いと言っても過言ではない。例え難易度がワンランク下がる仮免といえど、その合格率は例年五割を切るらしい。
「仮免でそんなにキツイのかよ…」
「そこで今日から君たちには最低でも二つ……」
「「「必殺技を作ってもらう!!」」」
峰田の思わずといった呟く。それに反応するように相澤が言うと同時に教室のドアが開き、セメントス、エクトプラズム、ミッドナイトが入室しながら叫ぶ。その言葉に先ほどまでの不安は何処へやら一斉に盛り上がる1年A組のクラスメイト達。
『必殺技』。それは今時のヒーローであれば誰もが持ち得ているもの。書いて字の如く必勝の型、技のこと。身につけた技は他の追随を許さない『軸』となり、戦闘において大いに貢献する。必殺技を持たないヒーローなど今日日いない、そう言い切れるほど必要なもの。技はヒーロー名と共に象徴となって他者に知られていく。有名どころだと元No.1ヒーローであるオールマイトの【SMASH】No.2ヒーローであるエンデヴァーの【プロミネンスバーン】、新規精鋭であるシンリンカムイの【ウルシ鎖牢】やMt.レディの【キャニオンカノン】など、他にも色々とあるが有名どころとなるとこのようなものが挙げられる。
「詳しい話に関しては実践を交えて合理的に行いたい。コスチュームに着替えて体育館γに移動だ」
教師達に突如として挙げられた課題に誰もが胸を躍らせつつ、指示に従いコスチュームに着替えて体育館γへと足を運んだ。そうして訪れた必殺技作成訓練場所である雄英高校敷地内にある体育館γ。またの名をトレーニングの台所ランド、略称はTDLである。某夢の国に似た略称を聞いてUSJしかり毎度各方面に喧嘩でも吹っ掛けてるのかという略称に色々と思うことがあるが、伏黒としては緑谷との特訓で使用したこともあって訪れるのは2度目である。
特徴的なのは体育館γ全域がコンクリートで出来ているところにある。全面コンクリート製な訳は教師の1人であるセメントスにある。一回一回、生徒に合わせてシステムを組むのはあまりにも金が掛かるが、コンクリートを自由自在に操れる個性を持つ彼の存在もあって、必要に応じた地形や物を用意することが可能なことを目の前で実演しながら説明する。
「な~る」
「質問をお許しください!なぜ仮免取得に必殺技が必要なのか!意図をお聞かせ願います!」
「順を追って話すから落ち着け」
クラスメイト一同が台所と呼ばれている所以を知り、納得していると綺麗な背筋で手を挙げた飯田が何故、必殺技を作成する必要があるのかを質問する。その質問にその場にいた教師達は答える。曰くヒーローとは事件、事故、天災、人災、あらゆるトラブルから人々を救い出すのが仕事を指す。仮免試験ではどうやらそれらの適性を見られることとなるのだとか。情報力、判断力、機動力、戦闘力、他にもコミュニケーション能力や魅力、統率力など別の適性は毎年違う試験内容で試されるらしい。とりわけ戦闘力は個性ありきのヴィランを相手取るにあたって酷く重要視されている。備えあれば憂いなし。その言葉通り、対応可能な技の有無は合否にすら響くのだとか。
「必殺技=攻撃デアル必要ハナイ。例エバ…飯田クンノ"レシプロバースト"ヤ、伏黒クンノ【鵺】ヲ用イタ"迅雷"。コレラハ攻撃面ダケデナク、一時的ナ超加速ニヨル移動モ脅威ナタメ必殺技ノカテゴリーニ挙ゲラレル」
そう言ってエクトプラズムが要は攻撃だけでなく移動面や防御面に対するアプローチをあげることで「これさえあれば有利に立ち回れる。或いは勝てる」という技を作っていこうという話だとまとめる。今回のこの授業は本来であれば中断されてしまった合宿の個性伸ばしの際にやる予定だったと相澤から説明される。
「つまりこれから後期始業まで…十日余りの夏休みで個性を伸ばしつつ必殺技を考える圧縮訓練となる!なお、個性の伸びや技の性質に合わせてコスチュームの変更も可能だ。―――プルスウルトラの精神で乗り越えろ。準備はいいか?」
「「「「「「「「はいッ!!」」」」」」」
相澤のいつものように不敵な笑みを浮かべながらの問いにA組の皆もまた笑って答えると同時に林間合宿で止まっていた訓練が始まった。
◇
そして現在。セメントスが地形を動かし、A組21人分の練習場としての足場を作る。そしてエクトプラズムが生徒一人につき一体、もしくは数体の分身を出すことでつきっきりで指導するという形となった。
「よろしくお願いします。エクトプラズム先生」
「デハ、早速始メヨウ。案ハアルノカ?」
「今の俺には技が【嵌合纏】、【迅雷】、【琥珀大砲】の3つなんです。人に撃てない【琥珀大砲】もそうなんですが、いかんせん【鵺】に頼った技が多いため他の技を考えたいですね…。あと考えられるとしたら持ち前の手数を活かした技、とかですかね?」
伏黒は自身の言葉通り、少し【鵺】と【玉犬】の2体に依存していることを自覚している。【鵺】に関してはいかんせん電撃があまりにも便利すぎる。捕縛によし、攻撃によし、防御に回すもよしと欠点よりも利点の方が遥かに多いからだ。【玉犬】に関しては器用貧乏にならないほどバランスが良く、それ故に【嵌合纏】発動の際は必ずと言っていいほど初めのうちは【玉犬】を使う。故に伏黒としては必殺技を考えるのであれば、先の二つ以外の【虎葬】や【脱兎】、【円鹿】、【蝦蟇】などを使った技を考えるのと欲を言えば新たに【満象】か【貫牛】のいずれかの式神を調伏したいと考えている。そのことを一通り説明していくとエクトプラズムは頷いた。
「相ワカッタ。ダガ、ソレラニ頼ルノハ何モ悪クナイ。得意ヲ伸バシツツ、他ノ式神ニモ視野ヲ入レテ行コウ。伏黒クンノ個性ノ事モアル。モウ何体カ渡シテオコウカ」
エクトプラズムの宣言通り伏黒の前に前もっていた人数を合わせて5体分のエクトプラズムの分裂体が現れる。その様子を見た伏黒は動きながら技を考えていこうと【嵌合纏】を使って【玉犬】を纏う。すると違和感を感じて思わず自身の手を見つめる。
「ドウシタ?何カ不備デモアッタカ?」
「少しいいですか?」
エクトプラズムの疑問に少し待つように言うと、伏黒はその場で何度かシャドーボクシングのように拳を空中に放つ。そしてその場で気持ち全力の半分程度のつもりで跳躍する。すると、セメントスの作り上げたコンクリートの山を軽く超えるほどの大ジャンプをして見せた。驚きつつもなんとかバランスをとってエクトプラズムの元に戻り、確信する。個性の基礎能力が高まっていると。試しに【嵌合纏】を解除して【玉犬・渾】を呼び出してみる。
「デカッ…」
すると現れた【玉犬・渾】の姿を見た伏黒の口から思わず言葉が漏れる。何故なら明らかに以前よりも1.5倍ほど大きくなっていたからだ。それにただ体躯が大きくなっただけでなく、牙や爪も以前よりも凶悪なまでに鋭くなっていた。伏黒の困惑にエクトプラズムは察したのか質問してくる。
「心当タリハ?」
「多過ぎて逆に…」
エクトプラズムは伏黒の『無い』ではなく『有るが故に』と言う言葉に対して「ムゥ」と唸りながら少し困ったような態度を取る。何せ林間合宿でやったことと言えば、個性を伸ばす訓練からマスキュラーとの死闘を繰り広げ、ヴィラン連合のボス直々にに攫われ、【魔虚羅】を呼び出して殺されかけたなど、イベントが多い上にむせ返りそうなほど濃すぎたのだ。「どれに心当たりがありますか?」と聞かれても伏黒としては「全部」です、と言いたくなる。
「……シバラクハ性能ノ把握ト慣レニ対シテノ訓練ニナリソウダナ」
「完璧に趣旨がかわりますけど、それしかないですね。本当に迷惑かけます……」
「ジャア、必殺技ノ考案デハ無ク基礎能力ヲ高メテ行コウカ。ソウダナ……。―――キミハ式神2体ト【嵌合纏】ノ同時発動ヲスルト些カ荒クナル点トカラナ。後ハ、手印ノラグノ改善シヨウカ」
「よろしくお願いします」
エクトプラズムも【魔虚羅】の件こそ知らない事もあって強化の原因は伏黒が死にかけたことでは無いかと当たりをつける。伏黒としても下手なことを言って【魔虚羅】に辿り着かれても面倒だった為、取り敢えずはそれが理由だということにした。そしてその後、伏黒はエクトプラズムと話し合った結果。技はすでに幾つか作られてることもあってしばらくは能力が向上した式神達の能力把握とその慣れを中心に訓練を行なっていくこととなった。伏黒が謝ってくることに対してそれもまた訓練だと流しながらシレッと課題を言い渡すエクトプラズム。そんなエクトプラズムに伏黒は感謝してから【嵌合纏】を使った後に2体の分身を呼び出していつの間にか二桁人に増えていたエクトプラズムの分身をコンビネーションを使って片っ端から消していった。
それからと言うもの伏黒はエクトプラズムとの戦闘をしていた。そんな時に常闇から【嵌合纏】のことを聞かれてアドバイスをしてから少しすると『
「そこまでだA組!!!」
B組の担任で有るブラドの声で戦闘は中断させられる。何事かと思って意識をそちらにやると、なんでももう交換のタイミングらしい。伏黒が思ったより早いなと思っているとどうやら伏黒の思ってたことは正しかったらしく相澤の方からまだ10分は残っていると苦言を漏らしていた。相澤とブラドが時間のことで揉めていると
「ねえ知ってる!?仮免試験て半数が落ちるんだって! A組全員落ちてよ!!」
ブラドの脇からすり抜けるように現れた物間がもはや隠す様子などなくド直球に感情と嫌味をぶつけてくる。
「なぁ、拳藤。あれが
そんな時、伏黒は今更ながら物間のコスチュームを初めて見たこともあってすでに押し寄せていたB組の中で隣にいた拳藤に尋ねる。黒いジャケットを羽織ったタキシードを連想させるデザインを見て自身を攫ったヴィラン連合に似たような奴がいたな、と伏黒は思わされる。
「ん?ああ、物間のね?『コピーだから変に奇をてらう必要はないのさ』って言ってたぞ」
「奇を狙ってないつもりか」
なんだったら自身や相澤よかよっぽど奇をてらっていると思う反面、物間の言い分にも思わされるところはあった。何せ仮免が試験で有る以上、潰しあうのはほぼ確定なのだから。どうやら常闇も伏黒と同じ考えだったらしくそのことを指摘すると相澤からA組とB組は別会場で行われることを伝えられる。なんでも同じ学校の生徒同士での潰し合いを避けるための措置らしい。そんなブラドの言葉に一拍置いてからホッと息を吐いた物間の「直接手を下せなくて残念だ!!」と言う言葉に最早名のある精神疾患なのではと疑いながらその日の訓練は終了した。
そんなこんなであっさりと10日間が過ぎ去っていき、伏黒は長きにわたる訓練の中で向上した式神達の能力把握と操作をものにしたのと、サポートアイテムの追加、
◇
訓練の日々は流れ、ヒーロー仮免許取得試験の日はあっという間にやってきた。元々、林間合宿の延長ということもあってか時間がなかったというのはあるが、それ以上に慣れない寮生活と毎日の圧縮訓練が時計の針を一層早く進めたのは間違いないと思っている。因みにB組はブラドの宣言通り別会場となっている。ヒーロー仮免試験は毎年六月と九月に全国三か所で同日に実施されているのだが、今回伏黒達が試験を受ける会場は〝国立多古場競技場〟という大きなスタジアムとなっている。少し前ならデカッの一言くらいは出てきたと言うのに雄英に入った影響からか体育祭の会場程度だな、くらいの反応しか出ないあたり伏黒もかなり毒されつつあった。
皆が緊張する中で相澤からの最後にアドバイスというか励ましのようなものをされる。この試験に合格し仮免許を取得できれば、A組のクラスメイト達は卵から晴れてヒヨッ子に、つまりセミプロへ孵化できるのだと。最後に頑張ってこいと言って締めくくると相澤からの珍しい激励に皆の緊張が少しだけほぐれていく。
「っしゃあ!なってやろうぜヒヨッ子によォ!」
「それじゃあ、いつもの一発決めて行こーぜ!せーの、Puls…」
「「「「「Ultra!!!!!」」」」」
「「「「……え、誰?」」」」
切島のかけ声に合わせて見知らぬ丸刈りで四白眼の身長はかなり大きく、ガタイもいい男が割って入ってきた。いきなりの割り込みに全員が誰?と言いながら目線を向ける。
「勝手に他所様の円陣へ加わるのは良くないよ、イナサ」
すると今度は丸刈り男と同じ制服を着た髪は紫色で細目で左目が髪で隠れている同学校の生徒らしき人物が注意する。
「あっ!しまった!どうも、大変、失礼いたしましたぁぁぁぁぁぁ!!」
イナサと呼ばれる大男が唐突ににこやかな笑みを浮かべたまま地面に頭をこすりつけながら謝罪し始める。その対応に雄英一同は思わずドン引き。飯田と切島を足して2で割らなかった結果生まれたような男に伏黒は苦手なタイプということもあって思わず下がる。
「…ん?その制服って」
イナサの制服を見て何かに気がつく耳郎。すると、他の何人か生徒達も察し始めると伏黒も気づく。今目の前にいる生徒は士傑高校の生徒だと言うことに。士傑高校は全国に数あるヒーロー科の中でも、雄英高校と並び称されるほどの名門校。雄英が関東方面、士傑が関西方面に置かれた学校であることから、『東の雄英、西の士傑』と評されているほど有名。そのことに伏黒が驚いていると頭を地面に擦り付けていたイナサが頭をガバッと上げると依然変わらぬ調子のまま、一人で元気よく喋っていた。
「一度言ってみたかったッス!!プルスウルトラ!!自分、雄英高校大好きッス!!!雄英の皆さんと競えるなんて光栄の極みッス、よろしくお願いします!!」
「おい、血ぃ出てんぞ」
「気にしないでくださいッス!!血は大好きなんで!!!」
「いいのかそれで」
伏黒の指摘にこれまたハイテンションで応えるイナサに伏黒は最早何も言うまいと引き下がると全身を覆う薄黄色い体毛が特徴的な毛深い男が他の生徒と共にイナサを連れていく。
「……夜嵐イナサ」
去っていく士傑の、というよりイナサという男の背中を見ながら相澤がボソッと呟いた。
「先生、知ってる人ですか?」
「ありゃあ、強いぞ」
「「「!?」」」
相澤が一個人を褒めることはまず無い。良くも悪くもフラットで平等に見てくれる教師、それが相澤だ。そんな相澤が珍しく生徒の実力、それも他校の生徒をそこまで認めていることに驚くA組生徒達。生徒達の視線を集める中、相澤は言葉を続ける。
「夜嵐。昨年度…つまりお前らの年の推薦入試、トップの成績で合格したにもかかわらずなぜか入学を辞退した男だ」
「えっ!?じゃあ、一年!?」
まさかのヴィランの襲撃があった雄英とは違って特に何もなかった士傑から仮免試験を行いにきた唯一の一年坊に驚くA組の面々。しかしそれ以上に推薦入試をトップで通過したということに皆は驚く。推薦入試のトップ、単純な話だが、それはつまり過去の段階ではA組の最上位に位置付けられる轟よりも強いということになるのだから。思わぬ前情報に驚愕しながら相澤の指示により会場へと移動し始めた。途中で相澤にMs.ジョークというヒーローが告白するというイベントがあったのだが、そこは割愛させてもらう。