伏黒のヒーローアカデミア   作:アーロニーロ

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必殺技、そして仮免試験①

 

 

 A組のクラスメイト全員がコスチュームに着替えると指定された場所に足を運ぶ。すると古今東西ありとあらゆる学校のヒーロー候補生達が集まったこともあって大量のコスチュームを着た男女が思わずそう呟きなくなるほどひしめき合っていた。そんな中、目の下に濃いクマを作った今回の試験の責任者らしき人物が壇上に上がる。

 

「えー……ではアレ、仮免のヤツを……やります。あー……僕、ヒーロー公安委員会の目良です。好きな睡眠はノンレム睡眠。よろしく」

 

 よっぽど人手不足なのか言葉の節々から滲み出てる苦労と眠気を隠さないまま自己紹介をする。そして間をおかずに「この場にいる1540名一斉に、勝ち抜け演習を行ってもらいます」と宣言をしたことで、眠たげな目良の登場で少し緩んでいた一気に空気が張り詰める。そうして目良はステインの話題を上げながら説明する。なんでも今現在はヒーロー飽和社会と呼ばれており、ステインの逮捕以降ヒーローの在り方に疑問を持つ者も少なく無いのだとか。それに影響されてか、対価にせよ義勇にせよ多くのヒーローが切磋琢磨するようになったらしい。その結果、最近では事件発生から解決までに至る時間が信じられないほど短くなっているらしい。そんな現在でその速度についていけない輩が仮免を取得したところで意味がない。故に、

 

「――よって、試されるはスピード! 条件達成者先着100名(・・・・・・)を一次試験通過とします」

 

 その言葉に一気に騒めくと同時に一部の学生からはクレームが飛んでくる。目良は、社会でいろいろあったから運がアレだったと思ってアレしてください、などとは言うがクレームが来るのも無理もない話。今現在、この会場にいる仮免取得のために訪れた人数は1540名。その中から100名となると合格率5割どころの話ではない、合格率1割を下回る約6.5%と前代未聞の確率である。一通り納得はしてはいないもののクレームが収まると今試験におけるルール説明が始まる。これは一言で言ってしまえば〝ボール当てゲーム〟だった。

 

 受験者にはだいたい野球のボール程度の大きさのボール6つと、身体に張り付けることができるターゲット3つがそれぞれ配られる。ターゲットの大きさはちょうどボールと同じくらいで、これはボールが当てられた場合にのみ発光するようになっている。ターゲットを全身の任意の位置、ただし常時さらされている場所に張り付けて、3つすべてが発光してしまった場合には即時脱落となるそうだ。

 

「個性で覆うのはありですか?」

 

「あ、そういうのはありです。ですが、それが出来るのはスタートしてからですので悪しからず」

 

 伏黒が手を挙げて目良に質問すると有りという答えが返ってくる。そこまで聞くと当てにくくすること自体は反則ではないと伏黒は納得する。そして伏黒の問いに答えた目良は今度はクリア条件について引き続き説明する。仮免試験のクリア条件は、自分以外の受験者2人を脱落させること。3つ目のターゲットを発光させた人が脱落させることと言いながら目の前でターゲットにボールを当てると発光させて見せる。そこまで聞いた面々は一様にこの試験の入試以上の厄介さを理解する。対ロボットとは異なり今試験では対人戦であるため対処の幅が広いこともさることながら、ボールの所持数が合格ラインぴったりで3つ目のターゲットを掠め取ることも視野に入れることが出来るのだ。

 

「えー…じゃあ展開後(・・・)、ターゲットとボール配るんで全員に行き渡ってから一分後にスタートとします」

 

「ん?展開後?」

 

 一瞬、言ってる意味がわからなかったが、その答えはすぐに現れた。地響きのような音がして、説明会場が突然、比喩表現無しに展開していった。会場内にいた受験生全員が収まっていた長方形の箱が、展開図よろしくすっかり平面になってしまったのだ。無駄に大掛かりだと思いながらも辺りを見回すと高層ビル群や工業地帯、岩場など多様なステージが用意されていた。

 

「各々苦手な地形、好きな地形あると思います。自分の個性を活かして頑張ってください」

 

 そう宣言すると同時に公安の事務員と思しき人物達からターゲットとボールが配られていく。ボールを何度か空に放ったのだが思ったよりも軽く、ターゲットもメカメカしいがボール同様に軽い。伏黒はターゲットを右半身の鎖骨、胸の中央、手の甲につけると思いのほか早く配り終わったのか、配置につくまでの1分のカウントが始まる。

 

「皆んな!離れずに一塊になって動こう!」

 

 何かを察したのか緑谷が周りにそう提案する。それを聞いた大半のメンバーは同意したのだが、断った人間がいた。爆豪、轟、伏黒の3名である。

 

「フザけろ。遠足じゃねぇんだよ」

 

 爆豪はいつも通りの唯我独尊であるが故に1人市街地が見える方向へと向かい、

 

「俺も大所帯じゃあ却って本領を発揮できねぇ」

 

 轟は個性の都合上ということもあって工場地帯を模したエリアへと向かい、

 

「緑谷の言いたいことはわかるが、今回はパスだ。今の俺的には式神のコンビネーションで手一杯だからな」

 

 伏黒はこれ以上、味方が増えると逆に混乱するということもあって理解はしつつも断り、木々の生い茂る森林エリアへと向かった。後ろから緑谷の引き止める声が聞こえてくるが直ぐに時間がないことを察したのか聞こえなくなる。伏黒は目指していた場所に到着すると同時にアナウンスが流れる、

 

『――えー、スタートまでまもなく残り10秒、カウントダウンします……10、9、8、7』

 

 伏黒が到着してから少ししてまわりに人が集まり始める。どの学校も3人から5人のペアで動いている。伏黒は緑谷が危惧をしていたのが何なのかはなんとなくだが理解している。

 

『6、5、4、3 、2、1 ―――』

 

 仮に雄英高校と士傑高校の人間がこの仮免試験で並べばどちらが狙われるかと言えば圧倒的に雄英である。理由は単純、雄英体育祭にある。雄英生徒達の個性は既に他校の生徒にバレており、そのハンディキャップを背負った状態で試験に臨まなければいけないのだ。これらのことを踏まえると見えてくることが一つ。雄英の手の内を知っている皆は楽にクリアすべく自ずととある手を打とうとする。それが、

 

『START!!』

 

 《雄英潰し》である。スタートの合図と共に伏黒の周りにいた受験生が一斉に振り返ると伏黒目掛けてボール投擲する。投擲されたボールは様々で普通に投げるものや、炎を纏ったもの、不可思議な動きをしつつも伏黒のターゲットを狙い澄ましたもの、不思議なオーラを纏ったものと多種多様だ。そんな中でも伏黒は特に慌てる様子もなく【嵌合纏】を発動させて動体視力を強化すると、強化された五体を用いてボールの合間を縫うようにして回避していく。時折、ホーミング系の個性と思しきものもあったが、それは片手で弾いていく。

 

 そして、先頭にいた人間にたどり着くと腰につけていたボール3つを展開。伏黒が前に迫っていることに気づいた受験生が避けようとするも強化された動体視力の前では無意味に終わる。一瞬で展開した各種ボールを叩きつけることで1人目の脱落が決定した。

 

「は?」

 

 突然の出来事に意識が追いつかなかったのか呆然とする脱落者1名。それを見ながら伏黒は語る。

 

「確かに俺たち雄英生は皆さんに手札を晒してる。出た杭を打ちたくなる気持ちはわからんでもないですよ。でもね、―――弾幕張っときゃ勝てるみたいな投擲でどうにかなるって思われるほど弱くはないんですよ」

 

 伏黒は知っている。自身のクラスメイトにお調子者はいても楽観主義者なんて1人もいなかったことを。誰1人としてその場で足踏みすることなく歩き続けていることを。そもそも理不尽(ピンチ)を覆していくことを常に強要されている伏黒達がいつまでも同じなわけがないのだ。伏黒の様子に周りからは「誰だよ、近接は強くても増強系には劣るって言った奴!」や「どういう理屈であそこまで動けてるのよ!」という声が聞こえてくる。それを見た伏黒は森の木に飛び乗ると次の瞬間には受験生全員の目から消えたのではないかと錯覚させるほどの速度で移動し始める。

 

「おい!壁を張れ!!」

 

 最早、動きでは追いつけないと悟ったのか全身ラバースーツのようなコスチュームで身を包んだ生徒が叫ぶ。その瞬間、地面が隆起しドーム状に違う学校同士で組んだ混成チームを覆い尽くす。籠城を決め込もうとする受験生達を見て下策と思いながら伏黒は先ほどいたところに着地すると全力で突っ込んでいく。すると、ドームに穴が開き始め伏黒に目掛けてサポートアイテムか個性由来の砲弾が飛んでくる。それを咄嗟に爪で両断していくと何が出てくるのかわからないこともあってその場から退避する。だが、逃げる伏黒に対して追い縋るように砲弾が迫ってくる。それを見たホーミング系の個性であるとあたりをつけると同時に捕まえられないなら動けなくなってから仕留めることに方針を変えたのだと察する。

 

 何度か砲弾や炎、水などを避けているうちに埒が開かないと思った伏黒は片手の中指と人差し指を少し曲げて鼻、小指と人差し指を立てて牙、片手を重ねて頭、親指を口として見立てると圧縮訓練で新たに調伏した式神を展開する。

 

「【満象】」

 

 すると伏黒の影がかつてないほど大きく揺らめき、トラックほどのサイズの色合いがピンクな象が現れる。それを見て驚いたのか攻撃が伏黒から象に向く。しかし、【満象】は伏黒の手持ちの式神の中でも最高の耐久値を誇る。何発喰らっても倒れることはなく、次第に鼻が大きく膨れ上がり始める。そして少ししてから【満象】の鼻から鉄砲水と見紛うほどの大量の水が土で出来たドームに直撃する。水分を含んでぐずぐずになったドーム目掛けて伏黒は【満象】に突っ込むように指示を出すと【満象】は指示に従い、攻撃など意に介さず突っ込んでドームを完全に破壊する。

 

 それを見た伏黒は【嵌合纏】を変化した後に【満象】が開けた大穴に入り込む。入った直後に待ってましたと言わんばかりに投擲の準備をしていた他学校の生徒達が伏黒目掛けてボールを投擲する。咄嗟に防ぐものの数には勝てず、こじ開けられると伏黒の3つのターゲットに直撃する。「やったぁ!」と言いながら思わずガッツポーズを決める女子生徒に対して周りの人間はいつまで経っても伏黒のターゲットの色が変わらないことに気がつく。すると、バシャっという音と共に伏黒が液状化して消え失せる。それがダミーだったと気づいた時にはもう遅く。

 

「これで2人目です」

 

 伏黒は影の中から現れてそばにいた他学校の生徒の3つのターゲットにボールを当てる。その直後、伏黒のターゲットからピコピコピコと音を立てながら青く点灯すると機械音声が流れる。

 

《通過者は控え室へ移動してください。はよ》

 

 その機械音に従いながら伏黒は半壊になったドームから出ていくと控え室へ向かった。

 

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