伏黒のヒーローアカデミア   作:アーロニーロ

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必殺技、そして仮免試験②

 

 伏黒が試験通過者用控室にたどり着くとそこにはまだ誰もいなかった。

 

「まぁ、そんなもんか…」

 

 伏黒としても自身より前にアナウンスを聞いていなかった為、自身が一着であることはわかっていた。伏黒は近くにあった席に腰を下ろすと自身の試験で行った行動に対する反省会に移った。伏黒がエクトプラズムとオールマイト監修のもとで行った訓練で新たに【嵌合纏】を用いた近接戦や移動能力に尽力を注いでいた。

 

 必殺技だったからというのもあった。しかしそれ以上に伏黒にとって近接戦は『得意』であって『十八番』ではなかった。意外性で出し抜けはしても慣れられてしまうとどう足掻いても近接主体とした連中に負けてしまうからだ。それでエクトプラズムの個性を用いた複数戦闘や増強系の極みのような個性を持っていたオールマイトにアドバイスを貰いつつ、今回はお披露目しなかったが他の式神も併用しながらのコンビネーションも上手く出来るようになっていった。

 

 そして【満象】。此れの調伏にはかなり苦労がいった。何せタフネスな上に水まで放ってくるのだから対応にかなり困らされた。しかし調伏した甲斐もあったもので【満象】を用いた必殺技がいくつかできた。他にも新しく取り入れたサポートアイテムという手札もあるためこの調子だったら合格はいけると判断する。伏黒が思考の海に耽っていると

 

『うおっ!?脱落者120名!!1人で120名脱落させて通過しました!!』

 

「は?」

 

 思わず飛び起きてしまうような衝撃的な内容がアナウンスを行っている目良の口から発表される。その事実に伏黒は思考を中断させて飛び起きる。クリア条件が自分以外の人間のターゲットを2人分発光させることな為、つまりは今クリアした人間はたった一度の攻撃で120人もの受験生を仕留めたということになる。確かに伏黒は多対一でも秒殺していたが、個性を食らってみた感じでは他学校の受験生のレベルは決して低くはなかった。

 

 それをたったの一撃となるとまずA組のクラスメイト内にいる人物ではないのは明らか。強さ云々というよりも個性的に不可能だからだ。麗日ならば可能なだろうがそこまでの技量はなかった筈と思っていると試験通過者用控室の戸が開かれる。

 

「おっ!やっぱり俺より先にいたのは伏黒さんッスか!!!」

 

「お前は…」

 

 そこにいたのは各所に噴射口が装備されたコート。上空での戦闘を意識してか防寒性の高い造りとなっており、特に左腕部分が大きく作られたところが特徴的なヒーローコスチュームを着こなした、仮免試験が始まる前に話題となった人物である夜嵐イナサが元気いっぱいに話しかけてきた。

 

 

 受験生120人切りを果たしたのはまさかの夜嵐イナサ。そんな相手に勢いよく話しかけられた伏黒に今できたことは戸惑うことだった。これに関しては無理もないことで、夜嵐自体が苦手なタイプというのもある。しかし同時に小学、中学時代から自業自得とはいえ友達が拳藤を除いて皆無だった伏黒にとっていきなり話しかけられてもどう返せばいいのかわからないという、若干コミュ症のきらいがあるのだ。

 

 すると、押し黙る伏黒を見て何を思ったかハッ!とすると同時にその場で頭が地面にぶつかるのを気にせずに自己紹介を始めた。

 

「自分は士傑高校1年の夜嵐イナサっていうッス!!!」

 

「お、おう、ご丁寧にどうも。俺は雄英高校1年の伏黒恵だ」

 

「知ってるッス!!!自分、雄英体育祭での活躍とクリエイターを見てアツい伏黒さんのことを好きになったッスから!!!!」

 

「は?アツい?」

 

 戸惑いながら伏黒も自己紹介仕返すと自身とは普段からされている真逆の評価思わず戸惑う。自身でも自覚しているが無愛想な表情をであまり初対面の人から好印象を得られることはない。おまけにA組を除いた周りからの評価も基本的に冷静かつ生真面目なタイプで、他人には素っ気なく見える態度を示す事が多いと思われることが多々あるくらいだ。夜嵐は流石の評価に戸惑う伏黒を見てなんでアツいのかを説明し始める。

 

 なんでも伏黒のことを知ったのは体育祭だったらしく、その時の第二種目の騎馬戦での逆転劇や最終種目の一対一の試合での戦いで酷く胸を熱くされたらしい。そしてその直後に職場体験でのクリエイターの捕縛もあって一気に好きになったのだとか。伏黒にとってもここまでべた褒めされたことないため流石に照れる。故に話題を逸らすべく個性に視点を置く。

 

「お前そういえば120人同時に倒したっぽいよな」

 

「そうッスね!!みなさんアツい戦いを繰り広げててメッチャ当てられたッス!!!」

 

「お前の個性ってもしかして【風】か?」

 

「スゲェ!!?なんでわかったんッスか!!??」

 

 伏黒の質問に夜嵐の顔から笑みではなく驚愕が浮かぶ。そんな夜嵐を見ながら伏黒はその答えに行き着いたわけを説明する。ターゲットをほぼ同時に120人分撃ち抜いたのだとするならば相手のボールを巻き上げる必要がある。その為には緑谷やや伏黒のような点での攻撃に特化したタイプはまず不可能。かと言って爆豪や轟のように面で攻撃できるタイプであっても吹き飛ばしたり固めたりするだけではボールは飛ばせない。となると、ボール自体を何かしらの方法で操ったのではないかと考えた。そうして行き着いたのが風を操作するタイプの個性か、浮かせるタイプの個性だと考えられる。

 

 こうして伏黒の考えを説明するとみるみるうちに夜嵐の表情が明るくなっていく。

 

「スゲェッス!!現場も見てないのに一発で俺の答えを言い当てるなんて流石ッス!!ただ、強ぇだけじゃないんですね!!」

 

「そいつはありがとさん」

 

 これ以上べた褒めされては敵わないと伏黒は夜嵐から目線を逸らす。すると、タイミングよく控室の扉が開くと数人の受験者たちが現れた。どうやら伏黒や夜嵐以外にも第三、第四の一次試験通過者が出てきたようだ。

 

「みなさん続々とやってきたっスね! すいません伏黒さん!自分、みなさんに挨拶してくるっス!!」

 

「ん、じゃあな」

 

 伏黒がそれに応答すると、夜嵐は宣言通り他の受験者の元へとずんずん歩いていっていた。名前と性格が一致していると思わせるほど嵐のような男を見送ると伏黒は次の試験に向けて体を休めるべくそのまま眠ることにした。

 

 

「伏黒ちゃん、伏黒ちゃん。そろそろ起きた方がいいわよ」

 

「フガッ……。ん?梅雨ちゃん?」

 

「ええ、そうよ。こんな所で眠れるなんて割と図太いわね」

 

 伏黒は肩を揺さぶられながら自身の名を呼ぶ聞き慣れた声に反応すると少し眠たげなまま起きる。すると目の前に大きな真ん丸の目にひの字口のまま伏黒と似てポーカーフェイスな蛙吹梅雨がいた。口の端に涎が垂れてることを指摘されると伏黒はそれを拭って体を伸ばして完全に目を覚ます。するとすでに結構な人数が試験通過者用控室に集まっていた。

 

「今何人目だ?」

 

「ケロ。さっきのアナウンスで80人くらいだったかしら…。《さて、立て続けに3名通過。現在82名となり残席はあと18名ー!!》今のアナウンスで3人埋まるわね」

 

 蛙吹の言葉とアナウンスを聞いた伏黒はあまり悠長なことも言ってられない時間帯になってきたことを知る。残り2割を切った段階で5人が埋まったのを知り、誰なのかと気になっていると緑谷、麗日、瀬呂のペアと一拍おいて爆豪、切島、上鳴のペアが通過し、控え室で伏黒達と合流する。伏黒達の姿を見た切島と上鳴がこちら目掛けて走ってくる。

 

「おっまえ、伏黒ぉ!!」

 

「何、開始1分足らずでクリアしてんだぁ!?早すぎんだろ!!」

 

「お前らは珍しく遅かったな。もう少し早く来ると思ってたよ」

 

 切島と上鳴の言葉に伏黒が適当に流しているとすぐにアナウンスが鳴り響くとMs.ジョークが受け持っている傑物高校の生徒、8名が試験通過者用控室に入ってくる。残席が9人となった段階でもう全員通過は無理なのではないかという空気が漂い始める。しかし、そうはならなかったようで8名が通過してから少しして100名通過を言い渡すアナウンスが流れる。クラスメイトの内何名かが全員通過を祈っているとその願いが届いたのか試験通過者用控室に入ってきた残り9名全員が雄英生であった。

 

「おォオオ……――っしゃあああああああ!!!」

 

「スゲェ! スゲェよこんなん!!」

 

「雄英全員、一次試験通っちゃったぁ!!!」

 

 瀬呂と上鳴、麗日による大きな声が部屋中に響き渡る。伏黒としてももはや一人でも欠けることくらいは完全に覚悟していたこともあって正直かなり驚いていた。そんなこんなで皆が一次試験を合格できたことに喜びを分かち合っていると、アナウンスが鳴り響く。

 

《えー、一次試験を通過した100人の皆さんこちらをご覧ください》

 

 それと同時に先ほどまで一次試験を行なっていた会場がモニターに映し出される。控え室にいた100人全員が何事かと思いながらいくつかのモニターに注視していると―――はビル街や住宅街、岩山、森林、工場地帯に関わらずありとあらゆる会場が爆破された。控え室にいた全員が呆気に取られる中、説明が始まる。

 

《次の試験でラストになります!皆さんにはこれからこの試験場(ひさいげんば)でバイスタンダーとして救助演習を行なってもらいます》

 

 この試験で終わりもあってか目良の声のトーンが跳ね上がる。そしてそんな目良の発言にあった単語に上鳴と峰田のすっとぼけた声で「バイスタンダー?」と復唱する。バイスタンダーは言ってしまえば現場に居合わせた人、或いは一般市民を指す意味でも使われたりもする。

 

《ここでは一般市民ではなく仮免を取得した者と仮定して…どれだけ適切な判断で救助を行えるのか試させていただきます》

 

「救助?」

 

 バイスタンダーといい、救助といい。建物を爆破で倒壊させただけでどうやって行うのだろうか。もしかして予め怪我人を模した人形でも置いてあったのかと疑問に思っていると崩落した街並みの中にいくつもの人影があることに気が付く。これには流石に受験生全員が驚いた。何せ、揺籠から墓場に片足突っ込んでそうな老人と様々な人間が爆炎と崩落した瓦礫の中で徘徊しているのだ。どう考えても異様な光景だ。そんな受験生達に目良から彼らが何者なのかが説明される。

 

 曰く、彼らはHELP・US・COMPANY。略してHUC(フック)と呼ばれている人々らしく。今回のような災害救助訓練では引っ張りだこな要救助者《役》のプロフェッショナルであるらしい。伏黒はここ一世紀以内で新しく湧いた職業などヒーローくらいだと思っていたが、このような職業も存在するのだと少し驚いていた。

 

 伏黒の関心を他所に二次試験のルール説明は続く。アナウンスの内容を大雑把に言って仕舞えば、救助演習では傷病者に扮して各所に散らばった彼らを救助することが大きな目的となるらしい。採点は公安が救助活動の様子を採点し、最終的な合否を決定するとのこと。いかんせん、採点内容が救助活動を見るとしか言われなかった為、少しだけ不透明なことに不安を覚える。

 

 そうしてHUCの皆さんが配置につくまでの間、士傑の女子生徒との間で何かあったのか峰田と上鳴が緑谷のことを殴ってたり、それを見た麗日が複雑そうな顔をしたり、轟が話しかけられた夜嵐が珍しく喧嘩腰だったりと少しばかりのイベントがあった。そうして待機時間が10分ほど経過すると突如としてアラームがけたたましく鳴り響く。

 

《敵により大規模破壊(テロ)が発生!規模は○○市全域!建物倒壊により傷病者数多数!》

 

 それと同時に今回の演習の想定内容(シナリオ)が発表される。その発表とともに控室内の空気が一気に引き締まる。

 

《道路の損壊が激しく救急先着隊の到着に著しい遅れ!到着するまでの救助活動はその場にいるヒーローたちが取りおこなう!》

 

 そしてその言葉と同時に一次試験の時と同様に控え室が展開し始める。

 

《ヒーロー諸君のオーダーはたった一つ!それはひとつでも多くの命を救い出すこと!試験、START!!!』

 

 控室が完全に展開し切るのと、試験開始の合図は同時だった。

 

「【脱兎】」

 

 それと同時に伏黒は自身の影から【脱兎】を呼び出す。1000体を超える【脱兎】が受験生達の足を潜り抜けて被災場所へと駆けていく。それと同時に伏黒は腰に穿いてあった小型マイクを取り出すと発言する。

 

『そのウサギは怪我人を探知します!そのウサギがいるところに怪我人がいると思ってください!一羽だったら軽症、2羽だったら軽傷だが頭部に怪我が確認できます!3羽だったら重症で、4羽いたら意識が確認ものとなってます!今回は演技というのもあって少し正確さに欠けますが、現場に応じて柔軟な対応をお願いします!怪我が本当にやばくて運ぶのに苦労がいる場合は担架代りに使ってください!』

 

 呼び出した【脱兎】の用途を全員に伝える。すると内容を把握したのか全員が「よくわかった、一年坊!」や「目印として使わせてもらうわ!」などと口々に言いながら前方に広がる凄惨な被災現場へと急行していく。皆が駆けていく中で伏黒はその場で動かずにいるととある式神を呼び出す。

 

「【円鹿】」

 

 片方の手で頭部を作り、もう片方の手で角を見立てることで【円鹿】を呼び出し、待機場所として使われていた場所をいつでも避難場所として使えるように掃除しながら待機をしておく。すると、早々に他校の生徒と思しき人物が怪我人を背負ってやってきた。

 

「ちょっと!?あんた強いんだから救助に行きなさいよォォ!!突っ立ってるだけなら誰でも出来る、減点すんぞ!?」

 

 先ほどまで本当に泣いていたんじゃないかと疑いたくなるほど迫真の演技をしていた少女が受験生に背負われながら伏黒に何故待機しているのかを指摘する。それに対して伏黒は周りに指示を出した後に説明する。

 

「この鹿を中心に怪我が酷い方を並べてってください!」

 

「わ、わかった!」

 

「あと待機してた理由はこういうことです!【円鹿】!やれ!」

 

 伏黒の命令と同時に【円鹿】の身体から不透明なオーラが滲み出る。そのオーラを浴びた人間達は1人残らず伏黒と【円鹿】を見やる。

 

「……そいつの能力は?」

 

「【円鹿】は自身の範囲に第三者を回復させる力場のようなものを張り巡らせる能力を持ってます。範囲は半径5メートル。回復速度は【円鹿】に近ければ近いほど速くなります。回復面はリカバリーガール同様に例え骨が折れた状態で骨を固定せずに治しても元の形に戻ります」

 

「オッケー!新しいヤツだな!!周りにも通達しておく!!…ひっ、うわぁぁぁんん!痛い、痛いよぉ!!」

 

 伏黒の【円鹿】の説明に先ほど指摘していたHUCの1人は手元にあった機器で伏黒の個性の追加情報を送信すると再度、迫真の演技で泣き始める。切り替えの早さに戸惑いながらも手を握ったり、声をかけ続けることで慰める。そうしている間にもどんどんと人が増えていき、途中でネタ切れし始めたのと笑顔が微妙だったのも相まって少し減点された。すると、回収されていくHUCのメンバーが減って【脱兎】が伏黒の影に戻っていく感覚と治癒されて怪我が安全域に差し掛かった人間が順調に増え続けた。その時、

 

ボオオォォォォォォォォォォォォォン!!!

 

 フィールドの複数の場所で同時に爆発が起きる。そしてそれと同時に避難者達が集まる場所のすぐ隣で一際でかい爆破が起こる。受験者のほとんどは困惑した表情を浮かべていると目良のアナウンスがフィールドに響き渡った。

 

《敵により大規模テロが発生。敵が姿を現し追撃を開始。現場のヒーロー候補生は敵を制圧しつつ、救助を続行して下さい》

 

「このタイミングでかッ!?」

 

 思わずと言った様子で【円鹿】を長いこと使用し続けていることもあり消耗した伏黒が唸ると一際大きな爆破があった場所から複数の足音が聞こえてくる。

 

「対敵。全てを並行処理…果たして出来るかな?」

 

 土煙を巻き上げて出てきたのはまさかまさかの神野区で伏黒の脳無の制圧に挙げられるほどの実力を持ったNo.10ヒーロー《ギャングオルカ》と片手に銃型のサポートアイテムと思しき物を装着させたギャングオルカのサイドキック達が現れた。

 

 ヴィランと戦いつつ、救助を行わないといけないというプロでも高難易度に属するほどの事態と共に試験は佳境を迎えた。

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