目隠しをされた伏黒が男の案内に従って歩き続ける。途中、途中で場所を悟られないようにするためか案内役が代わる代わる交代していく。
「すまんな、胴元の指示とはいえかなり面倒臭いことさせたな。外していいぞ」
「…随分と嬉しそうですね」
「ん?まぁな、胴元が熱くなってんの見んの久々なんだ」
男は伏黒の質問にくつくつと笑いながら答える。そして案内された扉を開けて入るように促す。中は思っていた以上に広く、その大半が監視カメラと接続されていると思われる無数のモニターで埋め尽くされていた。伏黒が目線を向けるとそこには細目と口髭の剃り残しが特徴的な老け顔で強面の男が黒い高めなソファーでくつろいでいた。
「ようこそ、【
「…お初にお目にかかるよ。―――秤金次」
伏黒を前に男は盛大に歓迎するように大きく腕を広げる。それを見た伏黒は本当にこの男がミリオの同期、
◇
『胴元があなたに会いたいらしいです。お時間がよろしければ今からでも御足労願えませんか?』
その言葉に伏黒は思わずといった様子で目を見開く。ミルコと拳藤はその様子に不思議そうな顔をすると、あらかじめ決めていた証拠発見、あるいはそれを握っている人物と接触したというハンドサインを送る。それを見た2人から何とか情報を引き出せと指示される。それに対して伏黒は少し悩んだ末にこう答えた。
「だったらテメェんとこのボスを呼ぶなり名前教えるなりでもしろよ。それも出来ねぇんならこの話は無しだ」
ギョッとする2人を他所に伏黒は取り敢えずといった様子で話してみる。これで当てが外れたとしてもあの男から情報を引っ張り出せる可能性が高い以上は時間こそかかるが特に問題ないと判断した。すると携帯越しから通話が続いたまま、待ったかと思うと携帯から『エリーゼのために』が流れはじめる。
『中々のクソ度胸じゃねぇか、猪野琢真』
そしてそれから数十秒後、再度連絡がかかってくる。今度はさっきとは違う男が出る。先ほどまでの敬語から一変しての傲岸不遜な物言い、伏黒は確信する。この男こそが胴元であると。伏黒はミルコに目線を合わせるとミルコが跳躍して個性を用いても音が聞こえなくなるほどの距離まで遠のくとホークスに再度連絡して探知するように指示を出す。その間、出来る限り長引かせるように伏黒は連絡を続けた。
『それで俺を出せなんてなんで言ったんだ?一歩間違えば羽ばたけるチャンスがパァだったんだぜ、無職マン』
「お前がビビりで無いことを予想したからだよ営業マン。このタイミングでビビり散らかすようなやつに今後の展望は見出せねぇ。臆病者は停滞を好むが、慎重な奴は停滞は好まない。その点では違うからな」
伏黒の言葉に少し間が空いたかと思うと次の瞬間にはぷっと吹き出し笑いはじめる。そして少ししてから笑いを止めると「秤金次」と名乗った。そして時間と場所を指定しはじめる。
『マジで気に入った。テメェと会いたくなったよ。部下を案内役にするから着いてこい。歓迎するぜ』
そう言うと電話が切れた。伏黒は上手く行ったことを目線で告げると拳藤とハイタッチをする。そうして2人で喜びを分かち合っているとミルコの指示で2人はあの日解散した会議室へと向かった。
〜全力疾走で30分後〜
「はいっ、てことですね。ミルコさん、伏黒君、拳藤さんの3人の尽力のもとかなり早期の段階で証拠に辿り着く可能性が出てきました」
会議室に皆が集まるとホークスが早速、集めた理由について説明した。その言葉に皆はおおっ!!と一斉に歓声をあげると3人を称え始めた。それを見たホークスは急いだ様子で一旦静かになるように頼むの伏黒にここに至るまでの経緯を説明させる。伏黒としても集合時間のこともあり、少し纏めて説明していく。
「そして現在、胴元と思われる秤金次という人物との接触が可能となりました」
「秤金次?ちょっと、嘘でしょ?」
伏黒がそう締めくくるとミッドナイトは秤金次の名前に反応を見せる。
「何か知ってるんですか?」
「知ってるも何も、その子雄英の生徒よ!」
「「「「「はあぁ!?」」」」」」
ミッドナイトの衝撃発言に皆が驚きを隠せなかった。何で雄英生徒がそんなことなってんのか疑問に思っているとミッドナイトが心当たりがあるようで説明しはじめる。何でも秤金次はミリオや天喰、ねじれの同級生で3年の中でもビッグ3を含めて尚、最高位の実力を有していたらしい。むらっけこそあるがノれば雄英高校の教師を含めても最強なのでは無いかと話題に上がるほどだったとのこと。
そこまで聞いた面々は尚のことそんな人間が何で賭け試合なんてやってんのかと問いただす。するとミッドナイトは複雑そうな顔をしながら公安と揉めた結果、退学届を出して消えたのだと言う。なんでも秤の個性は公安から見たらコンプラ的にも不味かったらしくもしも子供に悪影響を及ぼしたはどうするのだと不評を買った結果らしい。そこまで聞いたホークスは伏黒に指示を言い渡す。
「伏黒君。秤金次と一対一で交渉してください」
「ちょっと、ホークスさん!」
「ごめんね、拳藤ちゃん。でも、もう最速で終わらせるにはこの方法がベストなんだわ。当然こっちも傍観してるだけじゃあ無い。君の後を追って場所を突き止める。先頭になったら俺たちが参加するから安心してくれ」
そこまでホークスかま言うと伏黒は「わかりました」とだけ告げて指定された場所へと足を運んだ。
◇
そうして舞台は胴元である秤金次と接触した時に戻る。
「さて、猪野。お前は『一時間ある事をするだけで月収が100万円に!!』って言われて信じるか?」
「内容によるな」
「即答結構。その内容を知る為には20万円の情報商材を買わなきゃならん」
伏黒の即答に満足そうな顔をした秤はそう言うと伏黒は論外とだけ言う。それに対して秤は今のが知っての通り典型的な詐欺である事を告げる。騙す側は金持ちを装って金持ちの成り方を売って金を手に入れる。こんな単純な詐欺になぜ引っかかるのかを秤は"熱"のせいだと告げる。
「熱?」
「そうだ」
伏黒の反応を肯定すると話を続ける。騙す側も騙される側も持っている『ここで人生を変えてやろう』という熱のことであると言う。"熱"に浮かされるから人は騙される。しかし、"熱"が無ければ恋一つできないのだと。
「だからこそ俺は"熱"を愛してるんだ。よりダイレクトな"熱"のやりとりは何だと思う?」
「…賭けか?」
秤の問いにこれまでのことを踏まえて考えてから答えるとこれまた満足そうに頷いた。生きるということはギャンブルであると秤は嘯く。社会では大きく張らない奴と引き際を見誤った人間が埋没していく。ギャンブルをしない人間はいない。してない奴らが憎んでいるのは敗北も破滅そのものを恐れているのだと。それ故に今はチャンスなのだと。オールマイトの引退をきっかけに今日本は混乱し、ヒーローの界隈が大混乱に陥っている隙に乗じて、自らが運営しているファイトクラブ事業を拡大させて行く行くは「日本の国に眠る熱そのものを支配すること」を夢見ているらしい。
「なぁ、猪野。俺の"熱"に浮かされてみねぇか?」
目を輝かせながらそう言い切ると伏黒は戸惑いながらどう話を展開していくかに頭を悩ませていた。すると、机に置いてあった秤のスマホから着信音が流れはじめる。
「出なくていいのか?」
「……猪野、なんか飲むか?」
伏黒が出なくていいのかと言う質問に対していきなり飲み物を勧めてくる秤。少し疑問を持ちながらも毒を盛られても【虎葬】の能力で対応できると判断し甘んじて受け入れる。
「酒以外で」
「その面で苦手なのか?」
「酔えねぇんでな」
そう言うと逆のパターンかよと笑いながら酒と思しきものをグラスに注ぎはじめる。しかしどうやら匂い的にコーラのようだ。
「知ってるかぁ?禪院の奴らも酒が強ぇらしいぞ」
「禪院?なんだそり「あのなぁ」
突然の質問に意味がわからないといった様子でグラスを持ちながら聞き返すと言葉を遮るようにして秤が口調を荒くして話しはじめる。
「裏にいて禪院家を知らねぇ奴がいるかよ。何で嘘をつく?―――テメェ、どこの回し者だ」
何で嘘をつくのかと問うと同時にグラスに注がれた飲み物を一気飲みしてグラスを勢いよく置くと敵意を剥き出しにした目で伏黒を睨んでいた。選択をミスったと判断した伏黒は咄嗟に敵意がないことを言おうとするも横から現れた電車のドアと思しきものが現れると伏黒を挟もうとする。それを見た伏黒は咄嗟に飛んで避けると目の前に迫ってきた秤の膝蹴りを捌く。
「このスマホからのtell番はな、異常事態の合図なんだよ」
しかし、再度上から迫ってきた電車のドアに体を挟まれると秤の蹴りが迫ってくる。それに対して伏黒は【嵌合纏】を解除して影から【虎葬】を呼び出すと電車のドアを吹き飛ばさせる。それを見た秤は驚きつつもバックステップで回避し、元に戻った伏黒を見る。
「何だよ、今話題の伏黒恵じゃねぇか。だったらテメェ、ヒーロー側からの回し者かよ」
「話を聞いてくれ!俺はアンタのことをミッドナイト先生からよく聞いて「やだね、冷めちまってるからなぁ……!!」
ミッドナイトの名前を出してもなお、伏黒の言葉を遮って交渉の余地がないことを言い切る秤。それを見た伏黒は無駄だと判断すると腰にあるスマホを起動しようとする。しかし、それよりも早く秤は不思議なポーズを取ると個性を発動。瞬間、伏黒の頭の中に秤の個性の情報が流れ込み始めた。
・①斎藤 雨矢:夕輝の幼馴染。地銀で絶賛横領中。
・②天ノ川 小百合:夕輝の上司。昼はプロジェクトマネージャー、夜は……。
・③朝霧 夢:本作のメインヒロイン。これといった特徴がない。
・④加藤 空:夕輝の大学時代の同期。フリーターバンドマン。ギターとベースの見分けがつかない。
・⑤清水 涼香:夕輝の会社の同期。高学歴で高慢。空の〇〇を開発中。
・⑥山口 紗夜花:夕輝の妹。授業中に電子辞書と見せかけてDSをプレイしている。
・⑦山口 夕輝:本作の主人公。これといった特徴がない。
予告演出 ・緑のシャッター<赤のシャッター<金のシャッターの3種類
・緑の保留玉<赤の保留玉<金の保留玉の3種類。
・疑似連×1<疑似連×2<疑似連×3の3パターン
不等号が大きい方向程大チャンスの確率アップ。虹色や4回目が出た場合それだけで大当たりが確定。
予告演出は秤が自由に選択できるが期待度は運次第
大当たり後の規定回数消化 70or30回転
大当たりの確率 1/239
確変突入率 約75%
リーチアクション ・交通系ICカードリーチ :期待度★
・座席争奪通勤リーチ :期待度★★
・うっかり特快便意我慢リーチ:期待度★★
・華金終電リーチ :期待度★★★(期待度大!!)(*8)
チャンスアップ ・夢背景:リーチ発展時にメインヒロイン朝霧夢のスペシャルグラビア発生!??
・天ノ川カットイン:リーチ演出時に天ノ川先輩が助太刀!?
・群予告:電車以外なら大当たり確定???
期待度が低いリーチでもチャンスアップを拾えば大当たりの可能性も…!?
「何だこのゴミみたいな情報は…」
上記のパチンコのルールに関する各種情報が腹の立つ解説や煽り、2.5頭身の秤のイラストも一緒に強制的に脳内に流し込まれ理解“させられる”。聞いてはいたが思っていた以上にひどい内容に思わずといった様子で複数の改札機に囲まれた伏黒は呟く。これこそミッドナイトから伏黒に対して前もって教えられていた秤の個性【パチンコ】。取り敢えずゴミみたいな情報を取っ払えば重要な部分は「大当たりの確率は約1/239」と「確変突入率は約75%」ということはわかった。
すると、口元に笑みを溢す。秤は伏黒目掛けてパチンコ玉を放つと伏黒は軽く弾いて球の色を緑だと確認する。そして次の瞬間には球の色と同様の電車のドアが現れる。
「リーチ!」
リーチアクションが起こるとステージが変化。舞台が先ほどの改札のみの殺風景なものから普段からよく見かける駅のホームへと早替わりをする。そして奥の方から演出の説明であった夕輝が『遅刻遅刻〜!』と言いながら改札を通ろうとする。伏黒は試しに触れてみようとするもホログラムのように透かされる。そしてそのまま夕輝は改札を通ることができないのと同時にデン…という音共に元の改札に囲まれた殺風景なものに戻る。
「残念」
手を広げてそう言う秤を見ながら当たりを引くか伏黒が倒されるかのいずれかの条件でしか、この不可解な結界型の個性からは抜け出さないことを悟る。そして不明瞭なあたりの演出がひどく不安だ。
「あんたマジで賭けが好きなんだな。個性に現れるレベルってどんだけだよ」
「さっきも言ったろ?人生はギャンブルだ賭けをしてない奴はいないってよ」
「取り敢えず、キャラの妨害ができないのはわかった。でも、アンタを仕留めれば話は別なんじゃねぇか?」
その言葉と共に秤の視界から伏黒が消えると伏黒は秤の死角から殴り飛ばそうとする。しかし、
「その割に当たんねぇな」
秤はそれを難なく回避する。それを見て伏黒は先ほどの個性やギャンブル云々の話題から目の前の男がミリオ並みであることを改めて自覚させられる。その思考に移った瞬間、伏黒は迷うことなく攻めはじめる。少しまた少しと秤の体に傷がついていくと今度は金色の電車のドアが現れる。期待度の高い扉に伏黒は思わず焦るが漏れ出る。
「俺さ。甘でもマックスでも30回以上ハマったことねぇんだわ。―――リーチだ!!」
そう言いながら動揺した伏黒の隙をついて突き放すように殴り飛ばす。そして舞台は夜の電車のホームに移る。ここで向かいのホームにいる夢がこの電車に乗って帰らずに姿を現せば大当たり確定の激アツリーチとなる。
「チッ」
戦闘と演出。これら二つの板挟みにあって伏黒は戦闘の方に集中し切れない。それでも現雄英生の中でも上澄にいる伏黒。
「そこだろ?」
「ゴホッ…!」
避けようとした秤の腹に拳を叩き込んで吹き飛ばすとマウントをとって殴り掛かる。
『2番線から電車が発車します』
それと同時に電車の放送が鳴り響く。もはや時間もないと判断した伏黒はすぐさま下にいる秤を殴り始める。が、ピンポイントで打点をずらされてイマイチ決定打に欠ける。しかしそれでも【玉犬】の力を得た伏黒。一撃、また一撃と攻撃を与える過程で秤の骨をへし折っていく。そして向かい側の駅のホームに夢がいないのと秤のブロックが解けて秤の顔面に伏黒の拳が突き刺さるのは同時だった。力無く手が落ちていくのを見た伏黒は殴って凹んだ秤の顔面から手を退けると立ち上がる。
「悪いとは言わねぇよ。治してやるからそれで勘弁してくれ、運に頼りすぎたアンタの負けだ」
そう言うとある事に気がつく。それは未だに秤の個性が解けていない事に。まさか、と思い振り返ると夢が『終電無くなっちゃった…』と言ってこちらのホームに現れる。
瞬間、クラスメイトの蛙吹から聞かされたことのある『あちらをタてれば』が流れ始める。それと同時に秤の体が元に戻り始めた。
「ふぃー…。やるなぁ、伏黒。マジで終わったかと思ったよ」
そう言いながら上着を脱ぎ捨てて好戦的な笑みを浮かべながら体から妙なエネルギーを迸られる秤がそこにはいた。
「マジかよ…」
気を失ってるか確認しなかった自身が悪かったとはいえ、これには伏黒は思わずと言葉を漏らすと結界型の個性が解除される。それと同時に相手が大当たりを引いていたのを思い出すとすぐさま若干トリップしている秤の顎を殴り飛ばすと揺らいだところにダメ押しで膝を叩き込む。口から血を吐いた秤にこれ以上は殺してしまうと判断した伏黒が攻撃の手を止める。
「ポウッ…!!」
そして次の瞬間、秤の拳が伏黒の顔面をとらえた。凄まじい勢いをきっかけに壁を突き破って外に出ると地面と並行しながら飛んでいく伏黒に対して秤はダメ押しと言わんばかりに膝を叩き込む。
「痛えなぁッ!」
「ハッ」
これを伏黒は飛ばされながら防御力に優れた【満象】に切り替えてから防ぐと叩き込まれた足を掴み、それと同時に今度は攻撃力に優れた【虎葬】に切り替えてぶん回すとその遠心力を利用して秤の頰に肘をぶつける。しかしぶつけた肘が振り切れることはなく秤ら押し返して伏黒に拳を叩き込もうとする。けれど伏黒は咄嗟にこの攻撃を回避する。回避と同時に先ほど避けた場所に大きなひび割れが見て取れると同時に伏黒は五体満足でなくてもいいと判断し、【鵺】に切り替えるとチャージが満タンだった電撃を用いて秤の腕を吹き飛ばした。それを見てすぐ様、仕留めようとするもの伏黒を蹴り飛ばして防ぐ。それに対して舌打ちをしながら勢いを流して向き直る。
「は?」
するとそこには吹き飛ばした筈の腕がある秤がいた。後ろを見ても吹き飛んだ筈の腕がある。つまりは目の前の男は腕を生やしたと言うこととなる。まさかの事態に驚きはしたものの生え変わった腕で殴りかかった秤を伏黒は両手で防ぐ。そして、理解する。
「大当たりの演出は一定期間の間の超再生と肉体の超過強化か!」
「ビンゴォ!!」
伏黒の答えにハイテンションとなった秤は両手を銃のような形にして指差すとそう叫ぶ。厄介な能力だがその反面、弱点もある。何せ流れているのが音楽である以上は少なくとも終わりは確実にくる。あの曲がフルであっても五分を超えることははまずないせいぜい4分程度。ここからどう捌くかと思考を巡らせていると、
「なぁ、伏黒。俺たち初対面だよな。何だって俺を頼りにきた」
戦闘体勢を解いた秤が質問をしてきた。